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【第1話】婚約破棄、致しましょう?

私は今、悩んでいる。いきなり告げられた婚約破棄。まだ破棄していないが、すぐにでも決まってしまいそうだから……。


「ここに、いました、のね、ミカ、エラ、様。お隣っ宜し、いかしら?」

と、ミーラ様がやってくる。息が切れているところから、恐らく走ってきた後なのだろう。制服姿で駆けていく美少女……。絵になると思う。


ミーラ様は呼吸を整えると、

「ミカエラ様、こちらの書類に目を通してくださらない?」

「何の書類でしょうか?」

「ふふふっ、読んだらわかるわよ」


題名は、「婚約破棄後の二人の長期休暇」と書いてある。私はともかく、二人ということは、もう一人は誰だとミーラ様に尋ねる。


「あの、ふたり……とは、私と誰のことでしょうか?」

「え、決まってるじゃない、私よ」

え、でもレイク皇子との婚約破棄なんて国で結ばれた婚約のようなものだし、解消は難しいだろう、と持ちかける。


「あのクソ皇子との婚約破棄なんてお父様に言えば帳消しして貰えるわ」

鼻で笑うミーラ様。未来の国母がレイク皇子をクソと呼んでいるくらいなのだから、相当なクソなのだろう。まぁ、確かに普段の話を聞くと、クソなことは明確なわけだし……。


「ミカエラ様には、私と皇子の婚約までの足取り教えて差し上げますわ」

口元がニコッと笑うミーラ様の目は全くと言って笑っていないし、光がない。何となく察した。


「何故、あのクソ皇子と婚約何てする羽目になったのか。それは、クソ皇子の方の国の支援のためですわ。ですから、私のお父様は最後まで渋りました。国でもある程度の人気を誇っていたらしい私は、べつに破棄されても痛くも痒くもございませんの。寧ろ、辛くなるのはクソ皇子達でしょうね、父からの支援が消えるのですから。それに付け加えて、雑務などでは私達の国がもっと優位にするようなことをちまちま積み重ねてますしね、ふふふっ」


一国の王女がニコニコペラペラ話していい内容ではないが、まぁ、それはレイク皇子の自業自得だろう。それに、とミーラ様は話を付け加える。


「フジガワ様……でしたっけ? あのお方に相当肩を持たれているようで、側室に彼女を迎え入れても良いかと聞かれた時には流石に吹き出してしまいました」

レイク皇子、それは確かにクソを通り越すクソだ。そろそろ謝ったほうがいい。普通、婚約者にそれを聞くのはタブーなのに。


「あぁ、あと、ミカエラ様の弟のルース様が言っていたのですが、恐らく彼女は聖女なので、側室ではなく正妻になれると思いますよ」

思いついたようにサラッと富士川様が聖女なのではと言うミーラ様。私は前世の記憶持ちで知っているが、何故ルース様が知っているのだろうか……。

乙女ゲームではルースに興味がなくて、ルースルートをプレイすらしなかったわけなのだけれど……。


「何故ルース様はそれを知っているのですか?」

「ここだけの秘密ね、ルース様、彼女にそう言われたんだって」

乙女ゲームの世界なら、まずこの時点では聖女だということを知らないはず……。なのに、何故彼女が知っているのか。

私の導いた結論は、「彼女も転生者である」ということ。それなら納得がいく。そして、新たな事実。ルースルートにも手を伸ばしている富士川様!


富士川様は雑食だなぁ、そして騎士様を奪ったんだなぁと呆れていると、肩をポンと叩き、安心して、私も仲間だよと言わんばかりの顔をするミーラ様。


「ミカエラ様。急かすつもりは有りませんが、内容も読んでみて下さると有り難いです」

「わかりました、ミーラ様」


ざっくり書類の内容を言うと、ミーラ様のお父様の治める国、リーグル帝国の民を助けるのを一緒にしないか、ということ。

ついでに次の婚約者も探してくれるとかなんとか。


「ミーラ様、私などでよろしいのですか?」

「勿論! 寧ろ歓迎するわ! ミカエラ様はラフェド様のお手伝いをしていましたし……私のお友達ですから!」


そう言われると、私の頬にツーっと熱いものが通る。


「ミ、ミカエラ様!? 私の頼み事、そんなに嫌でしたか!?」

「いいえ、違います。ミーラ様。私は嬉しいのです……!」


単純に嬉しかった。確かに、富士川様がラフェド様を攻略している可能性があることを知りながらも、元の体がラフェド様を愛していて、私は抑制できず、そのまま気づかないふりをして放置していた。

そんな思いとは裏腹に、ラフェド様に言い渡された婚約破棄。対策をしたといえど、結局は失敗で終わった。そんな時に大好きなミーラ様に「お友達」と言われたら、嬉しいに決まっている。


「ミカエラ様! とにかく、婚約破棄をしに行きましょう!」

「わかりました。もう、ラフェド様に思い残す事はないです」

ミーラ様と私は絶対に婚約破棄する決意をする。破棄、ではなく解消の方が合ってるだろうが、ラフェド様はどうせ「破棄」と押し切るだろうし、ツッコまないことにした。




□□□□□




「ラフェド様、探しました」

私は、コツコツコツと歩いていく。ラフェド様と、富士川様の元へ。

「こちらも探したよ、婚約破棄……」

「婚約破棄しましょう? 私も気が変わりました」


「愛里をいじめたこと……認めるの?」

うるうると目を潤す富士川様は、ラフェド様にとてとてと近づく。もう、婚約破棄するんだから勝手にしていろと思う。

「ふふふ、そんなことよりも破棄しましょう? 書類はどちらですか?」


婚約破棄の書類にサインすると、クソ騎士は勝ち誇ったようにこちらを見る。一発鍛え上げた拳で殴ってやりたいが、我慢我慢。


「成立ですね、それでは私は向かうところがあるので、失礼いたします」

驚いたような顔のクソ騎士を後回しにしようとすると、

「本当に、良いのか? 私ほどの優良物件を手放して」


誰が優良物件だ? 寧ろ無料物件にしても買取先がいないだろう……あ、富士川様がいました。買い取られてどうぞどうぞ。


「えぇ、(無料にしても買い取りたくない物件を)手放しても構いません。それではお暇いたします」

ニコニコと微笑んで、今頃婚約破棄しているだろうミーラ様の元へ走っていく。




□□□□□




「ミーラ様っ!やりまし……」

お取り込み中のミーラ様。多分、今破棄の話の真っ最中だ。


「婚約破棄、致しましょう?」

「婚約破棄……? どういうことだ?」

ニコッと微笑むミーラ様と、目を細めるレイク皇子。ピリピリとした空気。


「だって、レイク様は富士川様がお好きでしょう?」

「何故それを……!」

「ふふふ、見ればわかりますわ。それに……」

「それに……?」

「富士川様が妊娠しているかもしれないじゃないですか。ね?」

「え……」


ニコニコしながら手に握っているピンク色のアレを見せるミーラ様。ミーラ様も処理したのか、アレ。


「わかりますか? コレ。覚えてますよね?」

「何故貴様が持っている……!」

「簡単ですよ、レイク様。レイク様のお部屋に幾つかあったものを拝借いたしたまででございます」

目を血走らせるレイク様は余裕そうなミーラ様の目をギラッと睨む。


「ふふふ、破棄はお父様にお話ししてあります。」

「まさか、その事を言ったのか?」

「いいえ、お伝えしておりません。ですので、お父様は知りませんよ?」

クスッと笑うミーラ様を見て、確かにミーラ様は悪役令嬢の絵になるな、と静かに一人で納得してしまう。


「それでは、私は行くべき場所がありますので」

と、私に近づいてくる。この緊張感の中私に気づいていたのか、ミーラ様。


「それでは行きましょう、ミカエラ様っ!」

私の腕を取るミーラ様。凄く嬉しそうなのは聞かないほうがよさそう。

「はいっ!ミーラ様!」

婚約破棄後とは思えぬ明るさで、ミーラ様と私は、「長期休暇届け」を学校の受付に提出し、ミーラ様の手配した馬車へ全力で駆けていく。気分は駆け落ちする姫と姫。


「ミカエラ様っ!私達の長旅、民を救いながらも良き旅にいたしましょう」

「はいっ!」


私も、ミーラ様も何かに吹っ切れた。もう雑務に追われることはない、富士川様を虐めたなどという空論で悪者扱いをされない。その上、民を救うという良い事をしながら、旅が出来る。最高。


「ミーラ様、こちらです」

礼儀正しくお辞儀をするタキシードのカッコ良い男の人。声は凛としていて、低音がカッコ良い。

「有難う、リーン」

「有難うございます、リーン様」


あははっとリーン様は笑う。絵になるな、リーン様。

「お話は聞いていますよ、ミカエラ様。とても良い方だと伺っております」

「それは光栄です」

「そんなこと良いわ、ミカエラ様と旅をしたいの! 早くに馬車を出して」

「はいはい、お嬢様」


馬の鳴き声と共に、ガタガタと馬車が揺れる。多分、最初に向かうのはミーラ様のお父様の所だ。今更後戻りはできない、今はこの状況を思いっきり楽しもう。

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