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【第0話】私はやってない。

「俺の大切な人を奪うなよ、ミカエラ」

私の婚約者、ラフェド様が青い眼を、より深い色にする。私は理解に苦しむ。何故なら、「乙女ゲーム」の正規ルートなら、皇子が選ばれて私は悪役にはならないことを知っているから。


「仰っている意味がわかりません!」

私は、こうならないように今まで努力してきた。前世で当たり前だと思っていた常識はなく、「乙女ゲーム」の世界の常識。勉学は前世でたんまりとこなしてきたので問題なし! 寧ろ使わない言葉があるくらい。


「私は、ラフェド様にとっての大切な方など、奪っておりません!」

本当に、知らない。だから、私はそれを口にする。前世で習った、知らないことを知らないとすることは、その時だけの恥である、と。それにしても、滅相もないことを……。

私はラフェド様の親族方に手を挙げた覚えもないですし……。寧ろ仲良くさせていただいているといいますか……。


「そんなわけないだろう」

怒りをあらわにするラフェド様。口調こそ落ち着いているものの、内心そんなわけないことは明らか。本当に心当たりがございません!


「ミカエラは俺の可愛い愛里あいりに手を出したじゃないか!」

そっちだったかー。最近仕事が忙しすぎてすっかり忘れていた富士川ふじがわ様は、ラフェド様の手をスイカみたいな胸にくっつける。私の婚約者なのに。

そして、その胸は盛り乳である。前にスポンジを仕込んでいる所を見たから。


「つまり、私は富士川様に何かしてしまった……ということでしょうか」

「あぁ、そうだ」

理解に苦しむ。正気なのか……? 実は私の前世は、毒舌で無口な騎士様に憧れていた。


明らかにスポンジだろうというようなヘコみ方をする富士川様の胸に腕を押し当てられて、満更でもなさそうに婚約者ではない女性に言われたことを鵜呑みにし、婚約者にありもしないことを言及する。それが私の憧れな訳はない。


「証拠など、ございましょうか?」

「……証拠?」

彼は眉を潜め、富士川様に証拠の提示を求める。すると、富士川様はしくしく泣き、ラフェド様をぎゅっと抱きしめる。周りから愛くるしいだろうが、私から見れば人の婚約者に何てことをしているんだ、という気持ちでいっぱいだ。


「……ミカエラ様は私に意地悪をしてきます。教科書を盗まれたり、トイレに閉じこめられたりしました。もう、辛いのです……!」

しくしくとまた泣きだす富士川様に「もういいよ」と優しい瞳で声をかけるラフェド様。私にはそんな顔しなかったくせに、というのが半分と、何かの違和感が半分。


「私はそのようなこと、しておりません!」

私がしたことといえば、富士川様と誰かがお戯れされたと思われしきピンク色の使用済みゴムを私の部屋の寝室で見つけ、処理した程度だ。そのまさかが私の婚約者だったのか、怒りを通り越し、呆れてしまう。


「とにかく……」

咳払いをした後、彼の告げた言葉には、もう、落胆した。

「ミカエラ・ミシェルドとの婚約を破棄する!」




□□□□□




今思えば、ヒロイン対策はバッチリだった。ヒロインがいつ現れても大丈夫なように、しっかりと雑務を毎日こなし、勉学に励んだ。前世の記憶が戻ったのは、だいたい5年くらい前。今が15歳だから、単純計算で10歳の時だと思う。


私が前世、やっていた乙女ゲームとこのゲームが同じような内容であることを、その時に思い出した。また、この超美人顔で生まれたのにもかかわらず、悪役令嬢であることも思い出した。


一部の記憶が抜けていて、頭がキーンと痛くなったが、そこ以外は思い出せた。


元々私は、高校生ながらもバイトを掛け持ちして家計を支えていたこと。家族には嫌われたけれど、妹に愛されていたこと。学校ではキラキラ生活は出来ないものの、生徒会の副会長として頑張ってきたこと。肝心な死に方は覚えていない。


それを知って、今までよりも力を入れるように勉学に励み、社交場に慣れた。ラフェドとも仲良くなるためには今から弱々しく演じるのは流石にバレるので、騎士道を学び、剣を体に教え込んだ。初めて握ったときよりも、格段に腕は上がっていると思う。


どこを間違えたのだろう。やっぱり、弱々しい女の子が一番いいのか、だが、ミカエラは弱々しいとは正反対な立ち位置で、いじめられ気質であったため、弱々しくはないけれども、女性との争いごとなどでは一番最初の標的になるような。勿論辛かったが、人前で泣かぬがミシェルド家の鉄則。絶対に、泣かない。泣いてもひとりで、誰にも見られずに泣いた。


最近ラフェド様が富士川様と遊んでいると聞いた噂に、まさか! 対策しているしね……と放棄していた罰が回ってきたのだろうか。そして、今までの努力を帳消しにするヒロインって凄いと感心させられる。




□□□□□




「……本当に良いのだな? ラフェド」

何処から湧いてきたのかは知らないが、この国、レイク王国のレイク第一皇子も来る。


「はい、このような者と婚約など、吐き気を催します」

いくらなんでもそれはないだろうと、さすがにツッコミをレイク皇子もするだろうと思った私が間違いだったのだろうか。彼は面白そうにケタケタ笑い、

「よかろう、私がこの婚約破棄を保証しよう」

と、一言言った。


「それはないのではないかしら!」

と、この物語の皇子ルートの悪役令嬢、たった一人の仲のいい令嬢であるミーラ様が加担してくれたが、逆効果となり、ミーラ様はレイク皇子の批判を買った。


と、いうのも、ミーラ様はレイク皇子の雑務をレイク皇子の代わりに行っていた。それがレイク皇子には面白くないからだと私は思う。

けれど、私と彼女は雑務を婚約者の代わりにこなすという些細な共通点から仲良くなった。話は面白いし、心の底から仲良くしたいと思っている。「私、ミカエラ様と喋ることが大好きなんですの!」と、楽しそうに私と喋ってくれる。彼女も私も今、富士川様の言動や行動について悩んでいて、それを話したりするのが楽しかった。


そんなこんなの結果、先生が「なにをしている!」と注意して中断、という形になった。

私はそのとき見逃さなかった。

富士川様の涙なんて一つも浮かんでいない、私を蔑むような目を。舌打ちした口を。

そして、チラッとレイク皇子を見たときに見えてしまった、富士川様に対して微笑む顔を。

はじめまして、河合おくらです。

第1話から本題がスタートしていきます。素人作品なので、温かい目で見て下さると幸いに思います。不定期ですがはやめに更新させて頂きたく思います。

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