柏樹 13
「なくなっているって……大事なものなのか?」
「大事、といいますか、はあ、まあ、他人のものですので」
男性は振り返って、柏樹と荒木の顔を交互に見た。「利塚のいっているブレスレットってやつを、ご存知ありません?」
「いえ――」答えて柏樹は荒木へ目を向けた。
両手のひらを開いてみせ、荒木はブレスレットをもっていないことをアピールする。「ポケットの中も見せましょうか」
「いやいやいや、まさか、そんな。盗んだとか、そういう話をしてるんじゃありませんよ。おい、利塚。ちゃんと探したのか?」
「探すもなにもさっきテーブルの上に置いたばかりですし、たしかにあったんですよ。バッグの中から取りだして、テーブルの上に置いたんです。そうだ、あなた、さっき手にもって眺めていましたよね? 銀色のブレスレット、手にもっていましたよね?」
追求されたのは、荒木である。
すかさず男性が言葉を挟む。
「おいおい、利塚。お前、そういう、人を疑うようなことをいうなって」
「いえ、でも、たしかに、たしかにもっていたところを見ましたので」
「おれの身体、調べてもらっても構いませんよ」と、荒木。「調べれば、すぐにわかると思いますけど」いって荒木は利塚の正面へ進みでた。
「おい、利塚。どこかその辺に……下に落ちてたりするんじゃねえのか。まさか柏樹さんの連れのかたが盗ったなんてこと――」
「お気になさらず」
荒木が両手をあげる。
あげるなり利塚は歩み寄って、荒木の身体を触りはじめる。
「すみません、失礼します。あれ……おかしいな。いえ、あの、そんなつもりじゃないんですけど」
「やっぱりねぇんじゃねぇか、おい、利塚ッ。退がれ。いいから退がれ。すみませんねぇこいつがおかしなこといいだして。本当にすみません。柏樹さんにも、嫌な思いさせてしまって」
「いいえ。それより、僕のほうも調べてくださって構いませんよ」柏樹もまた、両手をあげてみせる。
「いやいや、いいんですよ、柏樹さん。どうせ利塚の勘違いなんだろうから」
「しかし、大事なもののようですし、あとから詮索されるのも嫌ですからね。利塚さん、僕のほうも調べてください」
「では、あの、失礼して……えぇっと……あれ」
「ったく。利塚!」
「すみません。すみませんでした、ない、みたいです。さっきは、あの、たしかに見たような……いえ、すみませんでした。もしかしたら気のせいだったのかも知れない……とは、思わないんですけど、いや、でも……あの」
「――利塚よォ」冷気を含んだ上着を気怠そうに脱ぎ、扉の横に取りつけられたフックへかけながら男性は嫌味たっぷりの口調で責める。「お客さんを疑った挙げ句、なんだよ、その態度は。本当に見たのか? お前の勘違いじゃねえのか? よく似たなにかをブレスレットと勘違いしたんじゃねえのかァ?」
「す、すみませんでした」テーブルの上に広がった品々を集めつつ、利塚は申しわけなさそうに頭をさげる。「すみません、柏樹さん、荒木さん」
「いえ、構いません」
「所持品の件はあとにして、食堂のほうに行きましょうか」場の空気を変えるべく、三枝が明るい声で声をかけた。
「そうですね。食事、楽しみです」柏樹は微笑んで返す。
返す一方で、苛立たしげに爪を弾き、柏樹は横目で荒木を見た。




