午後4時47分
「…………」
一瞬の沈黙、そして。
「「おおおおおおおー!」」
僕らは軽く感動を覚えた。
あのあと、元々空きが少なかったため、部屋は一つになってしまったが、その代わり大きな二人用の部屋を貸してくれるという。
そして入ってみたら驚きである。高級ホテルのスイートルームのようである。綺麗な照明器具、大理石の床、窓の外はラミリエの街を一望できる。
そして一番感動を覚えたのは、ベッドだ。ちゃんと二つあって、横並びではあるがお互いが離れているので、まぁ……許容範囲。
そう、それはともかく、アリアさんのお屋敷のだって、王族が使うものだ。相当ふわふわで心地よかった。だがしかし、これはすごい。手でさわってから、あまりの心地よさに僕らは寝るのを躊躇っていた。
「……これ、横になったら秒ですよ」
「あぁ。それでそのまま目を覚まさなそうだ」
「意義なし」
アイリーンさんがあんな感じだからだろうか。とっっっても気持ちいい! 寝れる! 今すぐ!
「……まぁ、寝ないけどね」
「すぐに移動するのも大変だ。何日かここにいようか。どうする? このあと」
「うーん……依頼でも受けにいきますか? ランクがあがっても困ることなんてありませんし。
それに、ギルドにならディランさんや僕の力について知ってる人もいそうですし。そのときにキルナンスについても少し言っておきますか?」
「そうだな。……じゃあ、街を散策しながらギルドに向かうか。たしか、街の東側だった気がする」
「じゃあ、向かいますか!」
「ぷる!」
◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈
「……それにしても、なんだったんだろうな」
「なにがですか?」
ギルドを探しながら歩いていると、不意にアリアさんがそう呟いた。
「ほら、あれだよ。この時計売ってきたやつ、その前に何か言っていただろう?」
「あー……」
僕は左の手首を見る。そこには、売りつけられた腕時計がある。持ってるから使っとこう精神だ。
「たしか……えっと、午後4時……」
「47分……だったか?」
「多分そうです」
意味がわからなくて聞こうとしたら時計を売り付けられ、肝心なところは聞けずじまいだ。参ったなぁ。
「なにか特別なことでもあるんでしょうか、午後4時47分」
「分からないな。少なくとも、この国の習慣的にはないな。しかも、東とか言ってなかったか?」
「言ってた気がする……」
一体なんだったんだあの人。本当に謎だ。……いや、道端で反復横跳びしてる時点でなんなんだこの人ってイメージだったけど。
そんなことを話している間に、ギルドらしき建物を見つけた。中に入り、掲示板に貼り付けられた依頼を見る。
ギルドでは、こういう風に掲示板に貼られている依頼から好きなものを選んでカウンターに持っていき、依頼引き受けの手続きをする。僕らはD級だから、受けられる依頼はそれ以下のものと、一部のC級のものだ。
「うーん、なかなかいいのがないなぁ」
たまたまなのか、あまりD級の依頼がない。さらに、残された依頼はすべて、パーティー向けのものであった。
「そうだな。……もう一人いればパーティーが組めるのにな」
パーティーは、三人以上の人が集まってチームとなり、依頼に協力して挑むというものだった。経験値や報酬なども全て分配され、一人あたりの取り分が減るというデメリットはあるが、依頼は格段にやりやすくなる。
しかしまぁ、僕らは二人しかいないのだ。
「明日になれば新しい依頼も入ってくるだろう。今日は情報を集めて宿に戻るか」
「そうですね……うん、そうしましょうか」
そうして、ギルド内にいる人に話を聞こうと思った、その瞬間だった。
「た、大変ですっ!」
ギルドの受付嬢の一人が声をあげた。
「今、町長から連絡があって、東の門からキルナンスとみられる人々がこの街に押し入ったそうです!」
「…………なに?」
キルナンス、という言葉を聞いて、僕はドキッとした。それから、まさかと思って腕時計を見る。
――午後4時47分だ。
「どうやら、この街にアリア様がいらっしゃってるらしくて……女性と子供、アリア様を狙っている可能性が高いです。
今ここにいるみなさん! どうか、街の人たちを守っていただけませんか!?」
「おう、任せろ!」
「キルナンスなんざ、俺らがぶっ潰してやるぜ!」
「っし、いくぞ!」
「行くぞ! ウタ!」
「ちょぉぉぉーーーっと待ったぁーーー!」
思わず大声で叫んでしまっが、他も騒がしいので僕を気にした人は少ない。
僕はアリアさんの腕をつかんでヒソヒソと話す。
「アリアさん聞いてました!? 狙いはアリアさんなんですよ!? それなのに出ていったら『どうぞ捕まえて下さい』って言ってるようなもんじゃないですか!」
「でも、ここでじっとしてるわけにもいかないだろ! 女子供が狙われているんだぞ!?」
「あなたは女ですよ!?
……と、とにかく、東に向かうのは止めておきましょう。ここにいて…………」
「……どうした?」
僕は今、とてつもないことに気がついてしまった気がする。
キルナンスが色んな人から情報を得れば、いずれアリアさんが泊まる場所が分かるだろう。
だとすれば、彼らはどこにいくか。
「……アイリーンさんって、また寝てるんじゃ」
「だからなんだって…………。
……まさか、あいつら」
「僕が彼らなら、そうしますよ」
「…………行くぞ、ウタ!」
「はいっ!」
向かうは、ホテル・チョコレート。




