明け方
スライムにスラちゃんという名前をつけたあと、アリアさんと僕はお風呂に入って――お風呂は三つある。断じて、一緒に入ったりしていない――そのままそれぞれの部屋で眠った。
そして、次の日の朝早く。ドアの向こうで足音がして目が覚めた。ぼんやりとした意識をどうにかそちらに向ける。
まだ寝ぼけてるから、転ばないように足下に気をつけてドアを開ける。キョロキョロと廊下を見渡すと、アリアさんが、あの鎧に着替えて立っていた。
「アリアさん?」
「ん? ……あぁ、ウタか。おはよう」
「おはようございます。どうしたんですか? まだ薄暗いですよ? どこか行くんですか?」
「いや、まぁな」
少し言葉を濁したアリアさんだったが、それから切り替えたように笑った。
「ちょっと、魔物の討伐にな」
「今からですか!?」
「あぁ。もう一時間もすれば積み荷が他国に向け送られる。それまでに、ある程度潰しておこうと思ってな」
「潰すって……え? もしかして、毎日これを?」
「そうだ。大体昼過ぎくらいまでな。
あぁそうだ。飯は街中でどうにかしてくれ。金貨を何枚か貸してくれないか? 両替したほうがいいだろう」
アリアさんがいうには、この世界には鉄貨、銅貨、銀貨、金貨、とあるらしく、鉄貨が大体百円、銅貨は千円、銀貨は一万円、金貨は十万円だそうだ。
一枚で十万円……結構な大金くれたんだなーと思うと同時に、確かに両替した方がいいと思い、金貨5枚を銀貨30枚、銅貨200枚にしてもらうことにした。
「そんなにいっぱい小銭あるんですか?」
「まぁ、多少面倒だが用意できなくはない……あっ! そうだ! ウタ、すぐに支度できるか? 服は適当なものを貸そう」
「え? まぁ、出来ますけど」
「よし、三分で支度してこい」
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「うっわー! すっごい大きな建物ですね!」
「ぷるるっ!」
「そうだろ、この王都の中でも一二を争うほどの大きさだからな。それだけ人気の職業ってことだ、冒険者は」
準備をしている間に、僕の隣ですやすやと眠っていたスラちゃんも目を覚まし、三人で外へ出た。
僕のお金を両替するため、アリアさんが向かったのは『冒険者ギルド』である。冒険者が登録をして、依頼を受けたり、それに対する報酬をもらったりするやつだ。とはいえ、まだ明け方なので、中に入っても、人はぽつりぽつりいる程度だ。奥にはカウンターがあるが、そこにいる人もまだ少ない。
アリアさんはまたあの帽子で顔を隠す。……どうやら、マルティネス・アリアだとしれるとめんどくさくなるらしい。やっぱり王族ってなると、色々あるのかなぁ?
「……あら、アリアじゃない。久しぶりね」
ふと、桃色の髪の女性が声をかけてきた。胸のあたりまであるウェーブがかった髪を揺らして僕らに少し近づく。
「久しぶりだな、エマ。悪いが、金貨の両替を頼んでもいいか?」
「もちろんいいけれど……その子は? スライムを使役してるなんて珍しいー」
エマさんが僕に視線を向ける。ドキッとしてしまうほど妖艶な紫色の瞳に、僕は思わず見入ってしまう。恥ずかしくて目を逸らしたいのに、なぜか目を背けられず、頭がぼんやりとしてくる。
「あ……えっと……」
「ぷ、ぷる……」
「こーら! エマ、やめろ」
アリアさんが、僕からエマさんをぐいっと引き離す。と、ぼんやりしていた思考が戻ってきた。……なんか僕、またスキル使われたんじゃ?
「こいつは転生者だ。ろくに耐性も持っていない」
「あらそうなの? まぁ、アリアが面倒見てるくらいだから訳ありだろうとは思ってたけど」
「……わかってたな、お前」
「さぁねー?」
「ったく……。早く! 金貨五枚! 両替!」
「はいはい。銀貨が30、銅貨が200でいい?」
「あぁ。……ほら、さっさと行け!」
アリアさんが押し付けるようにして渡した金貨を受け取り、カウンターの奥に歩いていった。
「全く……あいつの前だと、何もかも読まれている気がしてならない」
「えっと……?」
「あいつはエマ・キャンベル。私の古い馴染みだ。根は悪いやつじゃないんだが、いつもあんな感じでな……」
「あの、僕、自分のことなにも言ってないんですけど、大丈夫ですかね? あと、さっきの」
「さっきのはエマの悪ふざけだ。あと、お前のことも、もう大体分かってるだろう。戻ってきたら聞いてみろ」
「はぁ……?」
そうこうしているうちに、エマさんがたくさんの銀貨、銅貨をお盆のようなものに乗せて戻ってきた。
「銀貨30枚、銅貨200枚。確かめる?」
「いや、大丈夫だ。仕事だけは正確なのは知っている」
「だけってなによー。お金はウタ君に渡せばいいのね」
「あぁ。……私はこれから外にいく。こいつを頼んだぞ」
「はーい!」
アリアさんは僕をその場に残して、ギルドから出ていった。多分、森の方へ向かったのだろう。
「はい。アイテムボックスの使い方は分かってる?」
「は、はい! ……あのー」
お金をアイテムボックスにしまい、『銀貨30・銅貨200』と表示されたのを確認すると、僕はエマさんに声をかけた。
「なーに?」
「その、ステータス、見せてくれませんか?」
直接口から聞くのがめんどくさいと思った訳じゃない。ただ、その方が効率がいいと思ったのだ。
僕のことを分かっていることや、アリアさんが悪ふざけと言っていたこと。ステータスを覗けば、多分分かる。
「いいわよ。水晶版は、必要ないわね。鑑定スキル、持ってるんでしょ?」
「あ、はい」
水晶版がなにかなのは知らないが、会話の流れ的に、多分、ステータスを見れるようなものだろう。
「じゃ、どーぞ」
少しドキドキしながら、僕は鑑定を発動させた。




