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チート能力解放するにはヘタレを卒業しなきゃいけない  作者: 植木鉢たかはし
駆け出し転生者ウタ
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死んだよ

 柳原(やなぎはら)羽汰(うた)、17歳。高校二年の夏。いまだに「女みたいー」と名前をいじられる今日この頃。

 僕のことを簡単に言えばヘタレである。強いやつには言い返せない。冬場は静電気が怖くてドアを開けるのにいちいちびくびく。挙げ句のはてには息絶えた白い目が怖くて、焼き魚が食べられない、なんてヘタレだ。


 そう、そんな僕が、人生で初めてと言っても過言ではないくらいの勇気を出した。ほぼ反射的にだった。目の前を転がっていくボール。それを追いかける男の子。気づかずに突っ込むトラック……。全てがスローモーションのように見えた。

 普段足が固まって動かない僕が、どうしてこのときばかりそうしたのか、よく分からない。でも僕は、道路に飛び出て、男の子を突き飛ばし、その直後、自分の赤い血を見て気絶した。そして、そのまま死んだ。


 ……さすがに、もうちょっと生きたかったなぁ、と思い目を開ける。


 …………ん? 目を開ける?



「パンパカパーン! 死んでしまうとはー、情けない!」


「……へ?」



 目の前には、白いふわふわのドレスに身を包んだ7歳くらいの女の子。金色の髪は肩のあたりで切り揃えられ、可愛らしく微笑んでいた。



「本当だったらこのままさよならだったけど、私優しい神様だから転生させてあげちゃう!」


「……え?」


「はぁー! 若くして死んだ憐れな少年! 君にめちゃつよ能力を与えよう!」


「あの」


「不便しないようにお金もあげるし家もあげちゃう! 私ってふとっぱらぁ!」


「あの」


「転生先は異世界ばんざい! んじゃ、楽しんでね!」


「あのーーー!!!」



 嵐が過ぎ去ったようだった。なんだこれは。ラノベでお馴染みの『異世界転生』ってやつなのか? 僕が!?

 次に目を開くと、知らない天井が目に飛び込んでくる。視界がぼやっとしてるのは、眼鏡を外しているからのようだ。



「えっと……眼鏡、眼鏡……」



 僕の寝ていた頭の隣くらいに眼鏡は置いてあった。それをかけると、色々状況が見えてくる。

 ここはどうやら小さな家で、森の中にあるらしい。窓の外には豊かな自然が見える。枕元には数百枚(かなり重い)の金貨が入った麻袋。僕が寝ていたのは小さなベッドだった。



「いやお金もらったって、どうすりゃいいのさ……」



 とりあえず、街にでも向かえばいいのだろうか? それにしたって、街がどこにあるのか分からないじゃないか! 全く……。これ、どうすりゃいいの? 本当に。ていうか、異世界なんだよね、ここ。だったらラノベあるあるで魔物とかいるのかな? うっわ無理。本当に無理。助けてお母さん。僕もう無理だよ……。

 そこまでは冷静に考えていた僕だったが(これでもかなり冷静な方なのだ)、ふと、違和感のある臭いが鼻をついた。



「なんか……焦げ臭い……?」



 ドキッとして外に出る。いやまさか。だって、ついさっき転生したばっかりだよ? ほら、これから強くなるならなっていくわけだし、そういう展開早すぎるんじゃないかなぁ? ……早すぎる、よね?

 一応、麻袋だけは抱えてきた。なんか、すごく嫌な予感がしたから。すると……。



「……いや、マジか」



 家の二階部分から火の手が上がっていた。そしてその上に舞い降りる、一匹のドラゴン。真っ赤な美しいとすら思うそのドラゴンは僕を睨み付けた。



 ……え?



「グォォォォォォ!!!」


「僕はなんにもしてませぇぇぇぇん!!!」



 その場からとにかく逃げなければ! そうじゃなきゃまた死ぬ! やだやだやだやだやだ……!

 ってかねぇ! 普通こういうのってゴブリンとかスライムとか、そういうのから始まるんじゃないの!? ドラゴンってボス級だよ!?


 知りもしない森の中をひたすらに走る。実のところ、ドラゴンは追いかけてきてなかったのだが、それでもヘタレな僕は走り続ける。怖くて後ろなんて振り向けない。走って走って走って……何かにぶつかった。



「あっ! ごごごご、ごめんなさい! お願いだからかつあげしないで!」


「ヴヴヴ……」



 僕の言葉に答えたのかなんなのか知らないけど、それはそううめいた。よかったー、かつあげはされなさそうだ!

 ……いや絶対人じゃないよね? 絶対人じゃないよね?! お金は取られなさそうだけど命とられそう!

 怯えながらも……そっと、顔をあげる。



「ヴガァァァァァ!!」


「わぁぁぁぁぁぁ!!」



 逃げた先にいたのは別の魔物でしたとか洒落になってないよ! まずいて……まずいってぇ……。なにこのライオンみたいなやつ……ジリジリ近づいてくるしぃ……。

 うん、もう無理だね。無理ですねはい。あぁ、パトラッシュ……疲れたろう? 僕も疲れたよ、なんだか、とっても眠いんだ……パトラッシュ…………。



「おいっ……!」



 目の前が赤で覆われる。それを見て、僕は気絶した。

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