48 それは、とても大きいものでした。
宝石の加工は、私が寝ている間にしてしまったらしい。
文句を言ったけれど笑って流されてしまったし、宝石は既に金具に納まっているので彫られている魔法陣を見ることは出来ない。
もう言っても仕方ないので諦めるけれど、次にやる事があったら今度こそ見せてほしいものだ。
そんなことを言っても、魔王は笑うばかりで返事はくれない。
次、というのがないのかもしれないけれど、そうなると余計に見れなかったのが悔しくなってくる。
「さて、今日は朝食を済ませたらベリルアに向かおう」
「分かったわ」
「……丁度乗れそうな時間にベリルア行の船があるが、乗っていくか?」
「乗れるの?」
「ああ」
「乗ってみたいわ!」
陸路の移動が駄目になってしまったし、また飛んでいくのだろうと思っていたけれど海を船で渡っていくことは出来るようだ。
そもそも海を見張ることは難しいし、その程度なら問題はないだろうと。
船に乗るのは初めてだ。必要な物なんかはいつも通り魔王が用意してくれるらしいので、私はただ着いていくだけでいいらしい。
船の乗船券を買ったらその時間になるまでに朝食を済ませて船着場に行くのだと。
出発時間まではまだ余裕があるようなので、大通りに出て朝食を食べるために店を探す。
魔王が何となく選んでいるのを眺めていたら、何か食べたい物はないかと聞かれる。
何かあるだろうかと考えて、一つ思いついたものがあった。
「温泉卵、もう一回食べたいわ」
「ならこのあたりより向こうの料理屋だな」
あれはこの国ならではの物だと聞いていたので、立ち去る前にもう一度食べたかったのだ。
すぐに移動を始めた魔王に手を引かれ、元居た場所から移動する。
向かう先はそれほど遠くないらしく、少し進んだところで魔王が止まった。
着いたのだろうか。目の前の扉を見て止まってしまった魔王を見上げると、頭の上に手が置かれる。
もしかして、今日は休みだったりするのだろうか。
「ルディア」
「なあに?」
「開店までもう少し時間があるようだ。開くまで少し市場を見に行こう」
「分かったわ」
時計を確認した魔王がそう言って、手を引いて海の方に向かって行く。
まだお昼前なので、空いていない店もそれなりにあるのだろう。
こういうことは初めてではないし、市場をウロウロして時間を潰すのも楽しいので別に構わない。
何も買うものはないけれど、見ているだけでも十分楽しい。
初めて見るものも多いし、聞けば魔王が何に使うものなのかを教えてもくれる。
元の目的も忘れて市場を楽しんで、気付けば先ほどの店はもう開いている時間だった。
「食べたら船着き場に移動しよう」
「ええ」
店の中に入って定食を頼んで、出されたお茶に口を付ける。
この国は、温泉卵だけじゃなく食文化が特殊らしい。
ここ以外で食べられないものは多いらしく、私はここの料理を随分と気に入ってしまった。
「またそのうち来よう」
「ええ!」
私があんまりにも気に入ったからか、魔王は笑いながらそんなことを言った。
魔王なら来ようと思えばすぐに来られるらしいので、何もすることが無くなった時なんかは連れて来てくれるだろうか。
そんなことを考えながら食事を済ませて、食後にお茶も飲んでから席を立つ。
そろそろ船が出る時間になるらしいので店を出てそのまま船着き場に向かう。
魔王に手を引かれて向かった先には大きな船が止まっていた。
「あれに乗るの?」
「ああ。ベリルアまでは大体一日半ほどかかる」
「そんなにかかるのね」
「小さい船ならもっとかかるぞ」
「そうなの?」
「ああ」
私は魔王に抱えられて移動することがほとんどなので、普通の移動速度、というものがよく分からないのだ。
魔王は空をそれなりの速度で飛んでいるから、陸や海を行くよりずっと早いらしい。
空を進むことが出来る人間は少ないらしい。飛ぶことは、人にとってとても難しいことであり、魔王みたいに自由に飛び回ったりは出来ないのだと。
なんというか、それはちょっともったいない。空から見る景色はあんなに綺麗なのに、見ることが出来ないなんて。
「ルディア?」
「なんでもないわ」
「そうか」
私も元々は何も知らなかったわけだけれど、魔王に連れ出されて空からの景色ならたくさん見た。
これからもっと色々見られるのだろうか。
飛竜が群れを成して飛ぶ時期がそろそろだから、時期になったら見に行こう、と魔王が言っていたしベリルアの次はそこに行くのかもしれない。
「さあ、船が来たぞ」
「わあ……大きいのね……」
「中で寝れるようにもなっている。部屋に荷物を置いたら船内を散策してみよう」
「ええ!そうしましょう!」
魔王が買った乗船券は、宿泊券でもあるらしい。
この船の中の宿泊施設にも違いがあるらしく、魔王が買ったのは下から三番目くらいの部屋だそうだ。そのくらいなら、寝心地もまあ悪すぎることはないだろうと。
私としては寝心地よりも船内の探索が楽しいなので、荷物を置いたら早く船の中を歩き回ってみたくて仕方がない。
乗船券の確認が始まった船に近付きながら、船を見上げて歓声を上げてしまった。




