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47 それは、不思議で綺麗な模様でした。

 宝石を買って店を出て、別の店によって何かを買っていた魔王はそのまま私の手を引いて宿に戻ってきた。

 このまま買った宝石に何かをするらしい。準備、と言っていたけれど、何をするのだろうか。


 寄った店で何を買ったのかもわからないので、何をするのかは本当に分からない。

 見てていいということは危ないことは何もないのだろうけど。

 分からないのでとても気になって、じっと魔王を見上げていたら頭に手を乗せられた。


「心配しなくとも、始めれば分かる」

「そうなの?」

「ああ」


 手を引かれて宿の中に入り、机に物を並べ始めた魔王を眺めながら渡されたお茶を飲む。

 私の外套に着けていたオーロベルディも外して机の上に並べられる。

 買ってきた紅い宝石と並べてみると、本当に同じくらいの大きさで同じような形をしていた。


 私はよく分からなかったのだけれど、魔王は形や大きさまでしっかり覚えているのだろうか。

 なんて考えているうちに魔王は道具を揃え終えたらしく、机に置いた紙に何かを書き始めた。

 見てもいいものだろうか、と少しためらっていると笑顔で手招きされたので、椅子を持ってそっと横に移動する。


 書かれていたのは、とても綺麗な丸。なんの道具も使っていなかったと思うのだけれど、こんなに綺麗に書けるものなのだろうか。

 驚いて魔王を見上げても、魔王は何も言わないままだ。


「……何を書くの?」

「この宝石に刻む魔法だ」

「それは……書くものなの?」

「魔法陣と言ってな、条件を満たしたときに発動するように術を込めることが出来る。魔法印紙と仕組みは同じだ」


 そう言われて、宿に着いた時に外した魔法印紙の入れ物を取りに行く。

 蓋を開けて中の紙を一枚だけ取り出して椅子に戻ると、魔王は既にペンを持って何かを書き足していた。


 サラサラと描かれていく模様は、とても綺麗で、でも何が書かれているのかは全く分からなかった。

 同じようなものを何枚か書いているようで、少しづつ模様は違うようなのだけれど何が何だか分からない。


 今日は分からないことだらけだ。

 首を傾げていたら、魔王は笑って模様を指さした。


「これが魔法の発動条件、これが魔力の引き出し先だな」

「なんで何枚も書いているの?」

「あまり大きく複雑なものは書ききれないからな。出来る限り簡略化する」

「……何に書くの?」

「これだ」


 渡されたのは、二つの宝石。

 この宝石に今書いている魔法陣?を書き込むということだろうか。

 ……私の手のひらより小さいけれど、これにあの複雑な陣を書いたり出来るものなのか。


「どうやって書くの?」

「書く、というより掘る」

「掘るの?」

「ああ。ほれ、これを使う」


 見せられたのは、細い刃物のようなもの。

 前に一度、見せてもらったことがある気がする。

 あの時は確か、リリアさんが木を彫っていたのだ。


 その時に使っていたものがこれによく似たものだった気がする。

 同じ、ではなかったと思うけれど、もしかしたら同じものなのだろうか。


「……失敗とか、出来ないのね」

「そうだな。まあ、早々しくじりはせんさ」

「そうなの?」

「ああ。昔からよくやっているからな」


 魔王の言う昔から、は魔王になる前からのことがある。

 そもそも魔の神なのだから、魔法陣と名のついているものはなじみが深いのだろう。


「これは、別の模様なのよね?」

「ああ。そうなるな」

「……同じに見えるわ」

「なるべく似ているように作ったほうが質が高まる」


 よく分からなかったけれど、魔王が言うならそうなのだろう。

 何を作っているのか知らないのでそう言われても分かるわけはないのだけれど。

 その後もじっと魔王の手元を眺めていたら、段々と違いが分かるようになってきた。


 それによって何が変わるのかまでは分からないが、どこが変わったのかくらいは分かるようになったのだ。

 ……どちらの宝石に刻むのかも分からないままだけど。


「んー……?」

「……ふっはは。こちらがオーロベルディに刻むものだ」

「じゃあ、これがスピネル用?」

「ああ。これで決まりでいいだろう」


 首を傾げていたら、魔王が書きあがった魔法陣を見せてくれた。

 それの少し前に書いていたものを指さすと合っていたのか髪を撫でられた。


「さて、支度はこれくらいにして何か食べに行くか」

「もうそんな時間?」

「外を見てみろ」


 言われて外を見ると、いつの間にか日が落ちていた。

 そんなに時間が経っていたなんて、全然気が付かなかった。

 改めて時間を認識したら、なんだか一気にお腹が空いてきたような気がする。


 クルル、と音を鳴らした腹の音を魔王に聞かれて笑われてしまったが、自分では抑えることも出来ないので仕方ない。

 誤魔化しがてらに何を食べに行くのかと聞いたら、うどんでも食べようと言われた。


「……うどん?」

「まあ、行けば分かる」


 魔王が連れて行ってくれるということは美味しいものなのだろうけど、想像が出来ない。

 その後分からないままついて行った店でうどんを啜っておかわりを頼んだりしたので、やはり魔王が教えてくれるのは大体全部美味しいものなのだ。

気付けば総合ポイントが百に届いていました。わーい。

亀のごときのんびりとした歩みで進んでいく話ですが、楽しんでいただけているなら嬉しいです。今後ともぜひごひいきに……

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