46 それは、鮮やかな赤でした。
キラキラと光り輝くその空間で、呆けたように目を見開いていたら横から魔王の笑い声が聞こえてきた。
目を向けると、軽く頭を撫でられる。
「なあに、ベルディ」
「いやなに、随分気に入ったようだな?」
「だって、綺麗なんだもの。前はこんなにキラキラしてなかったわ」
「ああ、魔力が見えているのか。なるほどな」
一人で頷いて何か言っている魔王に首を傾げ、服の裾を引く。
どういう意味なのかと尋ねると、魔王は置いてある宝石を指さした。
「他とは違って輝いて見えるというなら、この石が持った魔力が見えているのだろう。ここの宝石は魔法への適性も高いようだからな」
「これが、魔力?」
「ああ。魔法を扱い始めて見えやすくなったのだろう」
そう言って、魔王は私の首元に付いている宝石に手を伸ばす。
オーロベルディ。この宝石は、初めて見た時からずっと輝いているような気がする。これと他の宝石の輝きは、似ているようで少し違う。
「魔力は、もっと別の見え方だったと思うのだけれど」
「それは魔力だけを見ているからだな。輝いて見えるのは、見ようと思っていない魔力が見えているからだ」
「……いろいろ、違うのね?」
「ああ。慣れれば見たくない時に見えない様にも出来る」
「見えない方がいい時も、あるの?」
「見えていると眩しすぎる場所があったりするな。そのうちやり方を教えよう」
「分かったわ」
確かに、今はキラキラとしていて綺麗なだけでもこれがもっと多くなってくると目が痛くなりそうではある。そういう時は、見えない方がいいのだろう。
太陽の光も直接見てはいけないと言われているし、眩しいものを見すぎるのはよくないのだろうか。
考えながら、目を細めて並んでいる宝石たちを見る。
私の目の色、と言っていたけれど、自分ではよく分からない。
何度か見たことはあるけど、よく覚えていないのだ。
魔王が赤い宝石を見ている横で、他のものを眺めたりしながらのんびり時間を使う。
よく分からないので、何か言われるまで周りの観察でもしていようと思うのだ。
魔王が見比べている宝石も、違いがよく分からないし。
手を出すことも出来ないし勝手に動き回るのもどうかと思うので、とりあえずはここで大人しく周りを眺めるしかないだろう。
そう思っていたのだけれど、すぐに魔王に肩を叩かれた。
「なあに?」
「少しこちらを見ていろ」
「分かったわ」
指で示された、少し上のあたりをじっと見ていると魔王は満足げに息を吐いた。
時間にしたらそう長くはなかったけれど、何をしていたのだろうか。
「やはり、こちらだな」
「何が?」
「目の色だ。ほれ」
見せられたのは、鮮やかな赤い宝石。
これが、私の目の色だということなのだろうか。
「……なんて宝石?」
「スピネルだ。ちょうどそれと大きさも同じくらいだろうから、これにしよう」
そう言って魔王が指さしたのは、私の付けているオーロベルディ。
確かに、大きさも形も似ているかもしれない。
これと合わせて何か加工をする、なんて言っていたような気もするので、なるべく似ていた方がいいのだろう。
「綺麗ね」
「そうだな」
店の人と何やらやり取りをしている魔王を後ろから眺めつつ呟き、そのやり取りが終わるまで店の中をもう一度ぐるりと見渡した。
様々な色の宝石があるが、赤い物が一番多いようだ。
色味も大きさも違う赤色がこんなに揃っているのは中々見ていて面白いものである。
この中から一つだけを選んだはずだが、それほど時間がかからなかったのは魔王が慣れているからなのか。
考えていたら、宝石の買取が終わったらしい。小さな紙袋を持った魔王に手を引かれて店を出て、別の店に用事が出来たからと言われて移動する。
なんでも、今買った宝石も身に付けられるように加工するらしい。
そのあたりをやっているのは見たことがないが、どうやっているのだろうか。
それを魔王が出来る理由は聞いてみたらいつも通り「魔王が故」と言われてしまった。
「何を買うの?」
「金具と、飾り紐だな」
「かざりひも」
「ああ。これは首からかけられるように作る故」
赤い方の宝石は、魔王が持っていることになるらしい。
私の持っている黄色の宝石は外套の留め具にしてあるが、魔王の外套にはすでに別の留め具が付いているのでそれでだろうか。
「それと、二つ合わせてちょっとした仕掛けを作る。今日は宿に戻ったらその準備をしよう」
「見ていてもいい?」
「ああ」
見せてくれるということは、危険なことではないのだろう。
ちょっとした仕掛け、という物の内容は教えて貰えなかったけれど。
教えてしまうと、効果が薄れてしまうのだとか。
よく分からなかったので、まあそういうものなのだろうと頷いておいた。
それよりも、今は魔王が向かっている先に興味があるのだ。
飾り紐、というのは私の髪を弄るのに魔王が使っているものと同じなのだろうか。
同じだとしたら、かなりの種類があるはずである。
魔王が使っているものは適当に手元にあったもの、らしいけれど、それでもあれだけの数があるのだからきっと見るのは楽しいだろう。
宝石云々を書くのにちょっと話を読み返して来たら、最初のほう魔王のテンションが高くてびっくりしました。こいつこんな元気だったのか。




