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45/55

45 それは、とても色鮮やかでした。

 宿を出て町の中を歩く。

 まだ日は高く、何もなければ夕時まで町を探索すると言われた。

 見て回る時間はあるからと、目移りしながらも魔王についていく。


「……ねえ、ベルディ。あそこで何か茹でているの?」

「ん?ああ、あの場所には温泉が湧いているのだろうな」

「おんせん」


 あとで行ってみよう、と言われて頷き、まずはここに寄った一番の理由である紅い宝石を見に行くことになった。

 宝石、というのは希少で値の張るものだと聞いたが、魔王が値段を気にしている様子はない。


 ……人の使う通貨を持っているだけでは邪魔なだけだ、と言っていたけれど、それはどこから持ってきているのだろうか。

 世界中を旅していたという話は聞いたが、どこかでお金を稼いだりもしたのかもしれない。


「宝石、はそれを売っているお店があるのよね?」

「ああ。このあたりだと、もう少し進んだところに店の連なる通りがある」

「どこの国でもお店は纏まっているのね」

「まあ、その方が色々と楽ではあるからな」


 よく分からないが、そういうものであるらしい。

 ……魔王はやけに詳しそうだ。魔界にも、お店なんかはあるのだろうか。

 そもそも魔界がどこにあるのかすら私は知らないのだ。……聞いたら教えて貰えるかな、とは思っているけれど、聞くタイミングが無くて聞けずじまいになっている。


 町の中は階段や坂が多く、よそ見をしていると転んでしまいそうだ。

 実際何度か転びそうになり、魔王に大丈夫かと聞かれてしまった。

 しばらく、慣れるまではあまりよそ見をせずに歩いた方がいいかもしれない。


 とは思うけれど、どうしても気になるものを見つけては目で追ってしまうのだ。

 結局は魔王に手を引かれて歩くことになり、転ぶ前に庇われるようになったのだが、やはり自分でもう少し気を付けるべきだろう。


「……ねえベルディ、あれは何?」

「あれは……ああ、温泉卵だな」

「おんせんたまご……」

「食べるか?」

「食べ物なの?」


 どういった物なのか分からなくて魔王を見上げると、先ほど何か作業をしていた人が向かって行く先を指さされた。

 ……あそこで売っているのだろうか。


 そちらに歩いて行きながら、道の所々で上がっている湯気に手を伸ばす。

 特におかしなことはない、ただの湯気だと思うのだが。

 ……いや、少しだけ。嗅いだことのない匂いがしている気がする。


「ベルディ、この匂いはなに?」

「硫黄の匂いだな」

「いおう」


 おうむ返しに呟いて、結局はよく分からず首を傾げた。

 温泉の中に溶け込んでいる成分の一つ、と言われたがそれもよく分からない。

 そんなことを話している間に先ほど見ていた屋台のような場所に到着した。


 魔王が何かしている間に、示された椅子に腰を下ろして周りを眺める。

 このすぐそばにも湯気の上がる小川があり、先ほどと同じ硫黄の匂いが漂っていた。


「ルディア」


 声をかけられてそちらを向くと、器を持った魔王が立っている。

 私の横に腰を下ろしつつ渡してきた器の中には、白くて丸いものが入っていた。


「これが、おんせんたまご」

「ああ。多くの場合こうして一つだけで出されるものではなく、何かの上に乗っていることの方が多いな」

「何かの上って?」

「丼の肉の上であったり、麺料理の上であったり」


 このあたりなら食べられるところも多いだろう、という説明を聞きながら渡された温泉卵を掬って口に入れた。


「美味しい」

「そうか」

「何か、味をつけてあるのよね?」

「それには出汁をかけてあると言っていたな」


 これだけでも十分に美味しいのに、これは普通メインではないらしい。

 きっとここに留まっている間に別の形でもう一度くらい食べることが出来るだろうから、その時を楽しみにしていよう。


 そんなことを考えながら器に入っていた分を食べきり、器を返して元々進んでいた道に戻る。

 忘れそうになっていたが、今日の目的は卵ではなく宝石なのだ。

 魔王に手を引かれて歩きながら、これから向かうのであろう場所に目を向ける。


 緩やかな坂になっている場所に沿うように作られた建物の塊。

 この島は段差が多いが、あの辺りは比較的緩やかな坂の続く場所であるらしい。


「……ん、開いているな」

「お店?」

「ああ」


 魔王は人よりも目がいいらしく、私にはまったく見えない物をよく見ている。

 今も、向かう予定だったお店がやっているかどうか確認していたらしい。

 ベルさんも目がいいと言っていたから、魔族はそもそも人間より目が良いのかもしれない。


 遠くのものも見えるというのは、少し羨ましい。

 魔王が言うには、私は目がいい方らしいけれど、それでも魔王の見ているものは見えないのだから他の人がどうだろうとあまり関係ないのだ。


「ルディア?」

「何でもないわ」

「そうか」


 手を引かれて店へ向かい、扉を潜った瞬間に目を見開いた。

 光を受けてキラキラと光るそれらが、余りにも美しかったから。

 今私がつけている宝石を買った店でひと際輝いて見えたのはこれだけだったが、この店のものは全てがキラキラと光っている。


 鮮やかな色彩が散りばめられているのに、全く騒がしく見えない。

 邪魔になるものは何もなく光り輝く空間に目を見開いていたら、横で魔王が笑う声が聞こえた。

気付いたら前回の投稿から一か月も経っていました。びっくりです。

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