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40 それは、不思議な感触でした。

 海の神の気まぐれをしばらく眺めて、移動を再開する。

 飛んでいると下の方に陸地が見え始め、魔王がその一角を指さした。


「あそこがバーゼーナだ」

「羊の居るところね!今日はそこに泊るの?」

「いや、今日はその隣国に行こう。ガルクという国だ」


 どんな国なのかと尋ねれば、面白いところだ、と楽し気な返事が返ってきた。

 僅かだが海に面した土地も持ち、そこから細く大陸に続く陸地を行くと徐々に文化や風土が変わっていくのだと。


 どうせなら海辺に降りて、他の旅人と同じ道順で大陸内部を目指してみようという話になった。

 私は、今まで魔王に抱えられて旅をしていたので他の移動手段をあまり知らないのだ。

 他に知っているものと言えばアイディンで乗った円盤くらいだが、あれも特殊なものらしい。


「このあたりに降りるか」

「……ベルディ、あれは何?」

「ああ、あれは獣除けの道具だな」

「獣除け」

「このあたりは、バーゼーナと折り合いの悪い地区でな」


 そう言われて、少し考えてから獣除けの意味を理解した。

 国同士の争いや、種族間の争いは島に留まっている間にベルさんが教えてくれた。

 知っていて損になることではないが、少し苛烈な歴史でもあると。


 それでも知っていた方がいいのだろうと答えると、魔王が横から現れて一冊の本をくれたのだ。

 歴史書だと言っていて、話を聞くだけより理解しやすいだろうからと。

 それを抱えてベルさんの「座学」というらしいお話を聞いていたので、前より少しこの世界に詳しくなった。


「旅は楽しい方がよかろうと思って避けていたが、気になるならこれからは歴史もなぞるか」

「ええ。前より、いろんな言葉の意味も分かるようになったのよ!」

「知っている」


 だから色々聞かせて、というと、魔王は笑って私の頭を撫でた。

 ベルさん曰く、庇護対象。リリアさん曰く、親鳥のよう。

 魔王はどういう目線で私を見ているのだろうか。


 神様なのだから、きっと私には分からない何かがあるのだろう。

 と、一人納得して魔王の横を歩く。

 一応私の魔杖を抱えてはいるが、魔王が居るのだから使う機会は早々ないだろう。


「……ねえ、ベルディ」

「なんだ?」

「あそこに、何かある?」

「ああ、よく気付いたな。魔法で上手く隠されているものだが。あれは魔法使いの隠れ家だろう」

「まほうつかいの……ベルディの島のようなもの?」

「簡単に言えば、な」


 つまり、もっと細かい括りがあるのだろう。

 まあ、魔王の島は規模が大きいのだと分かったのであれと同じにしてはいけないのだろうと何となく分かりはするのだが。


 今細かく聞いてもきっと覚えられないので、ひとまず移動に専念する。

 歩いている間に海と町が見えてきた。


「今日はあの町に泊る。まずは」

「宿、ね」


 被せるように声を出すと、魔王がこちらを見た。

 顔を上げて目を合わせると魔王はふっと笑う。

 それにつられて笑うと、楽しそうに頭を撫でられた。


「ん、ルディア。あれが見えるか?」

「どれ?……あの、白い物?」

「そうだ。無毒な海月だな」

「くらげ」

「触ってみるか?」

「触っても大丈夫なのね」

「これは毒がないからな。後で手を洗えばいい」


 海辺を歩いていたら、魔王が指さした先に何かが打ちあがっていた。

 海月、というらしいそれの前にしゃがんで、控えめに指先でつつく。

 ……これは、なんというか、何だろうか。


 買ってもらってからずっと持ち歩いている羊の人形は手放せなくなる感触だったが、これはなぜかずっとつついていたくなるような。


「ふに……いや、ふにゅ……って感じね」

「ふにゅ、か」

「ええ。ふにゅふにゅ」


 笑いを堪え切れていない声が上から降ってくる。

 もう一度ふにゅ、と声を出すとぐぅ……という音と共に口を押えているのだろう布のすれる音がした。


 魔王は、笑いを堪えるのがへたくそだ。

 そもそも笑うようなことが少なかったから堪え方が分からないのだ、と言っていたが、私の行動で笑うことが増えたような気がする。


 面白がられているのだろうか。

 馬鹿にされているわけではなさそうなので別にいいが。


「ふっははは……」

「いつまで笑っているの」

「いや、すまん……」


 手を洗うように促されて、魔王が浮かべた水の球の中に手を入れる。

 そのままパシャパシャと動かして引き抜き、布を出して水気を取る。

 笑いながら歩き出した魔王について行き、町に入って宿を選んでいるらしい魔王の横顔を見上げる。


 夜、時々だが、魔王の目が光ることがある。

 人の目は暗いところ光ったりはしないらしいので、魔王のそれは特殊なのだろうか。

 獣の目は光って見える、とリリアさんが言っていたが。


「よし、行こう」

「分かったわ」


 逸れない様に、と手を引かれて素直に歩き出す。

 ここには大きな船なんかはないようだが、それでも十分賑わっているように見えた。

 周りを見ながら手を引く魔王にくっついて人にぶつかる事はないように歩く。


 こうしていると、逸れないし周りを見れるしで楽しいのだ。

 ずっとやっているので魔王も私も慣れたものである。

 私が前を見ていないことは魔王も知っているので、止まる前に軽く手を握られる。


 それに反応して前を向き、止まった魔王の見ている先に目を向ける。

 目線の先の建物が、今日の宿らしい。

魔王さんはルディアに対して「愛おしい」という感情を会得した辺りで笑いのツボが浅くなっているのだと思います。きっと。

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