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04 それは、とても綺麗な見た目をしていました。

 食事を終え、魔王は何か考えながら食後のお茶を啜っていた。

 私は同じものをもう一度おかわりして、今度はちまちま飲んでいる。


「うむ、決めた」

「何を?」

「次の行き先だ。お主の武器を買いに行こう」

「武器?」


 そんなもの、扱ったことがない。

 私が扱える武器など存在しているとは思えないのだが、魔王は自信満々だ。

 店を出て、逸れないようにと手を差し出される。

 その手を握ると、魔王は大通りに入っていく。


 人混みの中を器用に進んでいく魔王の背中にくっついて進むと、徐々に人は少なくなっていく。

 魔王は通りから外れた店も良く知っているらしい。

 何かの店の前で止まり、ここだ、と指さした。


「何のお店?」

「魔法印紙、と呼ばれるものだな」

「まほういんし」


 見た方が早いと言われて、店内に入る。

 店内にはガラス張りの棚に、たくさんの紙が飾られている。

 その全てに違う文字や図柄が描かれていて、細やかに描かれたそれらはとても美しい。


「これの中には魔法が込められている。武器といっても、非常用だ。基本は使わなくていいように動くつもりであるから、まあ気楽に見るといい」


 説明しながら店に入っていく魔王の背中を追いかける。

 店の中、カウンターで仕切られた向こう側に、若い女の人が座っていた。


「いらっしゃいませ。何をお探しですか?」

「この者が使う印紙を。扱うのは初めてでな。扱いやすいものを頼む」

「なるほど、であれば、こちらに来ていただいても?」


 女性に手招きされて、そこに近付く。

 スッと手を握られた。驚いて手を引きそうになるが、全く動かない。

 力など入っていないかのような持ち方なのに、実際は振り解けないくらいの力で握られているらしい。


「なるほどなるほど、驚かせてしまったようで、申し訳ありません。お嬢さんは炎の気が強いかと。扱うのは、初級の火炎がいいでしょう」

「炎……」

「何か不都合がございますか?」

「いいえ、大丈夫。……あの一瞬で、分かることなの?」

「はい!私は印紙を描いて長いですから、そのくらい分からねば仕事になりません!」

「そうなの……」


 得意げに笑うその顔は、幼さが見られて愛らしい。

 炎ならあのあたり、と手で示された棚に近付くと、魔王が横に立った。


「ついでだ、この後にこれを入れるものを買っていこう」

「分かったわ。……これは、どのくらいするの?」

「そうだな……安いもので銅貨1枚、高いもので銀貨1枚、といったところだ」


 あれは高い、と魔王が指さした物は、他よりずっと手が込んでいる。

 扱うのは難しい、と魔王は言った。扱えないのかと聞けば首を横に振ったので、魔王は扱えるが使わないだけらしい。


 魔王と選んだものを女性に告げると、女性は頷いてカウンターの後ろの棚から同じ図柄の描かれた物を取り出した。

 それのほかに魔王が何か買っていたようだが、それがどれなのかは見えなかった。


「何枚ご購入なさいますか?」

「火炎は10枚、それは1枚でいい」

「かしこまりました」


 女性は笑顔で頷いて代金を受け取り、紙袋を渡してくる。

 魔王に声を掛けられてその背中を追いかける。

 後ろからは女性の元気な声が聞こえてきた。


「よし、市場を巡るか」

「装備は、市場に売っているの?」

「市場以外にも売っているが、印紙を入れる程度の小さなものなら市場が早いな」

「そうなの」


 紙袋はいつの間にか仕舞われて魔王の手から消えており、先ほどと同じように私は魔王の手を握って背中に張り付く。


「よく、この人混みを歩けるわね……」

「慣れだな」


 進むうちに隣は出店になり、見えるものがすべて珍しくて目移りしながら進む。

 しばらく進んで、魔王が止まった。

 目の前には革細工の店がある。


「いらっしゃい」

「印紙を入れるものを探していてな。いいものがあるか?」

「どこに着けるんだい?腰ならこれ、足ならこっちだ」

「ふむ、ルディア、どれがいい?」

「え、任せるわ」


 急に聞かれても、戸惑うばかりだ。

 店主の持っている革細工は綺麗に染色されていて、縁に刺繍が施された物もある。

 魔王は私の返事に何か考えていたが、魔王の考えが纏まるより店主が別の物を差し出すのが早かった。


「嬢ちゃんが使うなら、これなんてどうだい?」


 差し出されたのは、白く染色されて紅い刺繍の入った物。

 ベルトは短いので、足に着ける用なのだろう。


「綺麗、ね」

「だろう?刺繍は女房がやってんだ」


 ニッと笑って差し出され、思わず受け取ってしまう。

 手触りもいい。思ったより重くない。

 考えていると魔王の手が頭に乗った。何かと思って上を見ると、優しく微笑まれる。


「それが良さそうだな」


 魔王はそう言って店主に代金を払った。

 袋はいるかと聞かれたので首を振り、魔王に手を引かれて人通りの少ない路地に入る。


「着け方は?」

「分からないわ」

「なら、見ていろ」


 片膝をついた魔王の、立てた足の上に座らされ、先ほど買ったものを太ももに着ける。

 覚えたか聞かれて、曖昧に返事をする。

 分かるとは思うが、一度で覚えられた自身はない。


「まあ、分からなければ聞くといい。……これも渡しておくか」


 そう言って印紙を渡され、太ももに着いたポーチの中に入れる。

 魔王はそれを見て、満足気に頷いた。


「……うむ。屋台を巡るぞ」

「まだ、買うものがあるの?」

「そうではないが、美味いものが売っている屋台があるのだ」

ルディアに色々買い与えるのが楽しくなってきた魔王さんは本当に魔王に見えないです。

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