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39 それは、久しぶりの感覚でした。

 朝日を浴びてぐっと身体を伸ばす。

 窓辺では魔王がいつも通りお茶を飲んでいた。

 私が起きたことに気が付くと、微笑んでそっと手招きをしてくる。


 寄っていくと、流れるように椅子に座らされて髪を梳かされる。

 今日は後ろで一つに纏めるようだ。

 移動するのに邪魔にならない様に、なのだろう。


 服も長距離を移動するときに来ている物が出ている。

 私の魔法の特訓が一昨日ひと段落し、昨日はのんびり休んで今日から旅を再開することになったのだ。

 行き先は魔王に任せているが、ひとまずはベリルアを目指すと言っていた。


 距離があるので、別の場所を経由していくと。

 今まで行った場所とは全く違う文化があるらしく、話を聞くだけでなんだか楽しくなってくる。


「はい、魔王様。こちら移動中に食べることになるのであろうルディア様の昼食です。こっちはルディア様が気に入っていたお茶です。おやつも用意しました」

「わあ……ありがとうリリアさん」

「いえいえ。いつでも戻ってきてくださいませね」


 あれもこれもと魔王に荷物を押しつけているリリアさんにその勢いのまま抱き着かれ、なんなら行くのをやめないかと言われて苦笑いを漏らす。

 リリアさんは、なぜか私をとても気に入っているらしいのだ。


 なのでこうして行かなくてもいいのでは、まだもう少しいてもいいのでは、と一昨日からずっと言い続けている。

 でも、私は旅もしたいのでそれは全て断ってしまった。


 この場所も好きなのでまた戻っては来ると思うが、リリアさんとしてはそういうことではないらしい。

 あまり長く言い募っていると魔王とベルさんが現れて剥がされてしまうからか、悲しそうな顔をしながらそっと離れていった。


「あ、そうだルディア様。こちらをお持ちください」

「これは?」

「魔王様に頼まれて作っていたのをうっかり渡し損ねていまして。精神に干渉する魔法の妨害を行う道具です。ま、護身用ですねぇ。あとは夢に強制干渉した私へ反省を促すための物だろうと思うので、とりあえずつけておいていただければ」


 ニコニコと笑ってそんなことを言われ、渡された飾りを眺めていると魔王がやってきて手首にそれを付けられる。

 キラキラと光を反射するそれは、見る角度によって色が変わる不思議なつくりをしていた。


 綺麗なそれを眺めて歓声を上げている間に出発の準備は終わったらしい。

 朝食を食べてから行く、と聞いていた通り、リリアさんが朝食を準備していて食べたらすぐにでも出られるらしい。


 ベルさんは先に道中を確認してくる、と言って昨日から姿を見ていない。

 魔法を教わっている中で、見えないとしても近くに居るならベルさんが居ることを感じ取れるようになったのだ。


 まあ、それでもベルさんがその気になれば気配も消せるらしいが現状はやる意味もないから、と私が分かる程度の魔力と気配を漂わせてくれている。

 必要なら近くに居なくても呼んでいいと言われているので、何かあったら呼んでみようと機会を窺っていたりする。


 いつぞやの夜以来、ベルさんは思っていたよりも優しくて感情のある人なのだと分かったのでお話したい時があるのだ。

 そのためだけに呼ぶのはなんだか気が引けるが、どうしても話したくなったら呼んでみよう。


「ねえ、ベルディ」

「なんだ?」

「これ、作りが変わった?」


 話しながら少し前に買い与えられた宝石の飾りを指さす。

 ただの飾りだったそれは今、外套の留め具として使われている。


「ああ、少しだけな。ちょっとした魔法も込めておいた」

「そうなの。……そういえば、赤い宝石は探さなかったわね」

「そうだな……有名どころに行ってみるか」


 そんなことを話しながら食事を終え、荷物の再確認をしてから家を出た。

 魔王に抱え上げられて宙に浮き、悲し気に見送ってくれるリリアさんに手を振っている間にどんどん島が小さくなっていく。


 こうして海の上を移動するもの久しぶりだ。

 泳いでいる魚群や大きな魚に歓声を上げ、気になるものを見つけては指をさす。

 あれこれ指さしてその全てに応えて教えてくれるベルディに思わず口元が緩んだ。


 初めのころはずっとこうだったのに、久々だといつもより楽しく感じるものであるらしい。

 そんなことを思って笑っていたら不思議そうな顔をされた。


「ん、ルディア、見てみろ」

「どこ?……わあ、あれは何?」

「海の神の気まぐれだ。そうそう見れる物ではないな」


 魔王が示した先では、海の中から光が溢れてきて辺りを照らしていた。

 海の神の気まぐれ、と言っていたが、それが本当なら神というのは思っていたよりずっと無邪気であるらしい。


 光の中には何かが複数個転がっていて、そこにあるのは宝石やただの石や、たまに塩の塊なんかも転がっているらしい。

 それらは海に落ちたものであり、海の神には人の付けた価値など通用しないので全て対等に手の上で転がすのだと。


「……ベルディも、気まぐれに何かするの?」

「ルディアを連れ出したのも気まぐれからだ」


 そういえば魔王も神だった、と思い出してそんなことを聞くと、当然のようにそんな返事が返ってきた。

 この世界の神とは皆気まぐれなものであるらしい。

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