表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/55

36 それは、月夜の対談でした。

 今、魔王は部屋にはいない。

 普段は私が寝ている間も部屋で何かしていることが多いのだが、今日は外にいるようだ。

 暗い部屋の中で、窓から入る月明りに目を細める。


 あまりにも静かな夜だった。

 なんだか、懐かしいような気分になる。

 懐かしんでみても、戻りたくはないのでため息を漏らしてみた。


 そして、ゆっくりと息を吸う。

 出した声はとても小さく、静かな部屋の中で消えていった、気がした。


「お呼びですか?」

「あ、えっと、ベルさん」

「はい」


 音もなく現れたベルさんに、呼んでおきながら驚いてしまった。

 本当に来てくれるとは思っていなかったのだ。


「聞きたいことがあって」

「はい」

「……ベルディが、魔王になった時のこと」

「……お茶を淹れて参ります。少々お待ちを」

「分かったわ」


 どうぞ、と窓辺に置かれたテーブルセットの椅子を引かれて、素直にそこに腰を掛ける。

 月明かりが窓を照らしていて、その先には海が広がっている。

 ……塔から見ていた景色を少しだけ思い出したけれど、こちらの方がずっと綺麗だ。


 磨かれていない窓からぼんやりと入ってくる月明りとは比べ物にならないほどきれいな月の光は、戻ってきたベルさんに気付かないほど綺麗なのだ。


「ルディア様」

「わ、あ。ベルさん」

「お茶と茶菓子をお持ちしました。何からお話ししましょうか」

「そう、ね。じゃあ……」


 お茶を差し出されて、そっと持ち上げる。

 冷ましながら口に入れると、爽やかな甘さが鼻を抜けていった。

 気付けばベルさんは正面に座っていて、普段はあまり見ることの出来ない正面からの姿に驚いてしまう。


「……ベルさんは、前の魔王にも仕えていたの?」

「はい。私だけでなく、リリアもです」

「前の魔王って、どんな人だったの?」

「そうですね……魔王らしい魔王だったと思います。人間界への侵攻、魔獣の強化と使役……魔界は常に実力主義ですから、暴君であっても強ければ絶対です」


 淡々と話す姿はいつも通りだが、いつもと違ってその声はどこか優しい響きをしている。

 ……何か、気を使われるようなことをしただろうか。

 魔王ではなくベルさんに聞いている時点でおかしいと思われていても不思議ではないが。


「前の魔王は強かったの?」

「どう、でしょうね……今の魔王様よりは、絶対的な強さではなかったかと思います。リリアはよく面白半分に反抗していましたし」

「ベルさんも、従おうと思わなかった?」

「いえ、私は少し、魔人としては特殊でして。一度主を決めたら、その者の最後まで従者で在ろうと思うのです」


 それは、特殊なのだろうか。

 魔界は実力主義だと言っていたし、そうでない人は少数派なのだろう。

 魔王も、ベルさんのことはすごく信用しているようだった。


「リリアは、魔人としての性質と、本人の奔放さと夢魔の特徴が妙な噛み合い方をしていまして……」

「魔人の性質は、強い人に従うこと?」

「はい。奔放なのはそのままですね。奴は束縛を嫌い、自由を好んでいます」

「でも、この島にずっといるのよね?」

「それが、夢魔の特徴です。夢魔は眠り心地のいい場所を見つけると、そこに定住して魔力の収集をするのです。リリアにとってここは寝床としては最適らしいので」


 つまり、強いものに従うけれど自由でありたく、ここは寝心地がいいから管理のために定住するのは苦ではない、と。

 妙な噛み合い方かは分からないが、現状と完璧に一致していることは分かった。


「リリアさんはベルディのことを強い人だって思ってるのよね?」

「ええ。魔王様がその座に就いた時、熱に浮かされたように楽し気にしていましたから。先代との関わり方に比べると、随分従者らしくなったように思います」


 それでも、魔王が怒るようなことをする。

 強い人に従うこととそれは、別のことなのだろうか。


「……リリア個人の話ですが、あれは魔法を扱う人間を好みます」

「それは、ベルディも言ってたわ」

「そしてあれは、人に魔法を教えるというそれを楽しんでいる節があるのです」

「……魔人に魔法を教えることがあるの?」

「いいえ。人間に、です。自分が魔法使いとして育てた者が自分と敵対して、その後その者と戦う。そうして相手を倒して、楽し気にそれを語る姿をよく見ていました」


 ……それは、なんというか。

 私には分からない感覚というか……なんというか。


「……すみません、困らせてしまいましたね……」

「あ、いいえ……その……うん……」


 困ってしまったので、とりあえずお茶を啜る。

 美味しい。すごく、美味しい。茶請けにと出されたクッキーも美味しい。

 ベルさんが作ったのだろうか、今度作り方を教えて貰いたいくらいだ。


「……えっと、それで……うーん?あ、リリアさんは、ベルディに従うつもりがないわけでは、ないのよね?」

「はい。リリアは魔王様に従う意思はあります。それでも、ルディア様への保護欲がありすぎて魔法の特訓が牛歩になりがちな魔王様への文句もあるようで」


 ……それで、私を夢の中に引き込んで魔王を怒らせたのだろうか。

 私を夢に引き込むことに何か繋がりがあるのかは分からないが、それも聞いてみたら答えてくれるかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ