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33/55

33 それは、急な申し出でした。

 魔法を扱い始めて少し経ち、炎の魔力だけを集めることは出来るようになってきた。

 今度はこれに指示を与えて、目的の魔法を発動させるらしい。

 今は、端的に炎の塊を出して飛ばすことを練習している。


「んー……」

「はは、惜しいな」


 今立っている位置から、魔王が指定した場所まで炎を飛ばすのだが、これが中々難しい。

 自分から離れれば離れるほど難しくなっていくのだ。

 自分の周りの一定距離をクルクルと回して飛ばすのは出来るのに、遠くに飛ばすのはまだ出来ていない。


「はあ……難しい……」

「いや、習得は早い。そう急くな」


 魔王はそういって私の頭を撫でる。

 休憩がてら足を海水に浸けていたら、日よけの帽子を被せられた。


「ねえベルディ」

「なんだ?」

「太陽の光には、炎が混ざっているのね?」

「集めると炎になるからな。この光は色々な魔力の集合体だ」

「そうなの?」


 太陽の光を絡めとるように指を揺らす魔王を、太陽を見ないように向きを変えてから見上げる。

 直接見てはいけないと前に教えられたのだ。


「うむ……どれ、試してみるか」

「何をするの?」

「太陽の光で、火を起こしてみよう」


 手招きされて海から上がると、魔王はどこから取り出したのか手にガラスのようなものを持っていた。

 円形の外側と中心で厚みが違う板のようだ。


「これは?」

「ただのガラス板だ。手は出すなよ」

「はあい」


 言われて、しゃがんでいる魔王の横にしゃがんで膝を抱える。

 魔王はガラス板の位置を上下させて何かを確認しているようだ。


「光が一点に集まっているだろう」

「ええ」

「ここに火が起こる」


 言われても信じがたく、じいっと見つめていると本当にそこに煙が上がり始めて小さく日がともった。

 ……魔王の方を見上げると、魔王は楽しそうに笑っている。


「……ベルディ、魔法とか使ってないの?」

「使っておらんよ」

「本当?」

「本当だ。気になるならこれはルディアにやろう。日の当たるところに置くと勝手に火が起こることがある故、窓辺には置くな」

「分かったわ。……ガラスなら、丁寧に扱わないと駄目?」

「保護の魔法はかけてある、余り気にしなくてもいい」

「そうなの」


 保護の魔法がかかったガラス板は、一旦避けておいて炎を飛ばす練習を再開する。

 杖を握り直して魔力を集めていると魔王は少し離れたところに移動して、落ちていた小石を浮かせた。

 魔王が浮かせている小石に炎を当てるのが目標なのでそこを狙って炎を放つのだが、どうしても途中で消えてしまう。


 飛ぶ距離は伸びているようなので、前進はしている……はずだ。

 杖の先にともった小さい炎をそっと押し出して小石に向かわせる。

 ゆっくりとしか進まない炎をもっと早くと押したくなるが、そうすると炎が消えてしまうのだ。


「……ねえベルディ」

「なんだ?」

「このままよろよろ飛ばすのと、一旦炎の威力を上げるのだったらどっちがいいかしら」

「それはもう!威力を上げましょう!ルディア様ならすぐ出来るようになりますとも!」

「わあ!リリアさん!?」


 今回も途中で力尽きた炎の残骸を見送りつつ後ろにいるであろう魔王に助言を求めたら、どこからか現れたリリアさんに抱えあげられてしまった。

 驚いて振り返るとリリアさんは心底楽しそうに私を回しながら、宙に浮かんだ。


「リリア!」

「はあい魔王様。でも、だって見守るだけじゃルディア様のためにならないじゃないですか」

「……ベル」

「申し訳ございません」


 リリアさんのふわふわとした髪に気を取られている間に、申し訳なさそうに家の影から出てきたベルさんが目の前に来ていた。

 いつもどこからか現れてはすぐに消えてしまうので明るいところでしっかり顔を見るのは初めてだ。


「リリア、お前のそれもルディア様のためにはならない」

「落としたりはしないわ。ちょっとお話したいだけだもの」

「地上で座って話せばいいでしょう」

「だって、ねえ。魔王様は過保護すぎると思って」


 言うが早いか、リリアさんは急に上に上がっていく。

 私はしっかり抱えて貰っているから大丈夫だったけれど、急に高度を上げられてベルさんは見えなくなってしまった。


「さあ、ルディア様。少しお話ししましょう?」

「何を?」

「ルディア様の魔法についてです。手短に、伝えたいことだけ伝えさせていただきますね」


 いつも通りニコニコと笑っているリリアさんの声が、急に遠くなったような気がした。

 視界が安定しない。空の上にいるような、海の中にいるような不思議な感覚だ。


「ルディア様は炎を恐れていらっしゃいますね。それが原因で、発する魔法の威力が抑えられてしまっているのです。魔王様は分かっていて何も言いませんから、よろしければルディア様、私が魔法をお教えしましょう?もちろん危険なことなどさせませんので」


 ふわふわとした頭の中に、遠くなっていたはずのリリアさんの声がはっきりと響いた。

 それが、なんだかものすごくいい提案のような気がするのだ。

 今のままより、リリアさんの言う通りにした方がいいのではないかと、そんなことを思う。


 思っている間にまた視界が歪んだ。

 今度は、森の中にでも入ったような気分だった。

リリアさんは楽しいことが大好きです。

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