32 それは、不思議な感覚でした。
島についた次の日、私は杖を抱えて家の外に出ていた。
魔王も杖を構えている。これから、魔法をの扱いを教わるのだ。
「さて、まずは目に魔力を集めるか」
「魔力を見る、のよね?」
「ああ。印紙と違い、魔法は扱いたい魔力だけを集めなくてはいけないからな」
魔力には属性があり、どれを集めるかで使える魔法が変わるらしい。
魔力を見るために集める魔力は、どの属性のものでもいいと言われたので印紙を扱うのと同じ感覚で目に魔力をためていく。
これも、始めは出来なかったのだがどうにか出来るようになったのだ。
魔力には、それぞれ色がある。
私が扱いやすいのは、赤。炎の力だ。
……印紙の時もそうだったが、私は炎が一番扱いやすいらしい。
あまりいい思い出がないので苦手なものだと思っていたが、これからはそういうわけにもいかなくなる。
避けすぎてもいけないとは思っていたので、いい機会かもしれない。
「……気後れするようなら別の属性でも出来るが」
「大丈夫よ」
「そうか」
目に魔力をためて、見える世界が変わる。
魔力を見ると、世界は急に単調な色で作られるようになるのだ。
ここは海に浮かぶ小島なので、見える魔力は水のものが多い。
魔力は、周りの環境によって量が変わるらしい。
森に居たら森の魔力が、海に居たら海の魔力が多く漂っている。
だから本当は、自分の扱いやすい属性の魔力が多い場所で練習を始めるといいらしいのだ。
でも、私が扱いやすいのは炎で、炎の魔力が多く漂っているところは焼け沼か火山らしい。
そんなところでやるのは危ないので、こうして海の真ん中の安全なところで練習を始めた。
「炎の魔力を、選んで引き寄せるのだ。他の色は寄ってきても弾く」
「……む、難しいのね……」
「やっているうちに慣れる。大丈夫、動き始めているぞ」
苦戦しながらどうにか赤色の魔力だけを引き寄せる。
どうしても他の色が寄ってきてしまうのを押し返そうとすると、今度はせっかく集めた赤色まで離れて行ってしまうのだ。
「……ベルディ」
「なんだ?」
「ベルディがやると、どうなるの?」
疲れてきたので休憩がてらに聞いてみると、魔王はそっと人差し指を立てた。
そこに、一気に赤い魔力が集まってきて大きな塊になる。
他のものは全く混ざっていない純粋な赤色だ。
じっと見ていると、その魔力が炎に変化して魔王の指先で揺らめき始めた。
……こうしてみている分には、簡単そうなのだ。
「……っふ。そう不貞腐れるな。ルディアも出来るようになる」
「ふてくされてないわ。疲れただけ」
「なら、一旦休もう。休憩も大切だ」
促されて浜辺に腰かけて、赤く染まっている海を眺める。
気付かないうちに随分と時間が経っていたらしい。
そんな気はしていなかったが、それほど集中出来ていたということだろうか。
「……ねえ、ベルディ」
「なんだ?」
「ベルディの扱いやすい魔力は、何?」
「我か?……魔の神、故な。得意不得意は特にない」
「そうなの?」
「ああ」
魔の神だから不得意がない、のなら、他の神は不得意もあるのだろうか。
……もしかしたら、ベルディの苦手なことは全く別のことなのかもしれない。
何かは想像できないが、そのうち知れる機会があるだろうか。
「リリアさんやベルさんは?」
「リリアは夢を操る。そういった種族だからな。苦手なものは光だな」
「夢も、魔力なの?」
「ああ。操る者でなければ見ることの出来ない魔力だ」
「そうなの……」
「ベルは闇だな。あやつは水を扱うのが不得手だったか」
もしかしたら、私が思っているよりも魔力の種類というのは多いのかもしれない。
今度種類を聞いてみよう、と思いつつ靴を脱いで足を海に浸ける。
ぱちゃぱちゃと音を立てて水面を揺らしているのを、魔王は後ろから眺めているようだった。
私が魔力を寄せようとするときに、一番動くのは赤色、炎の魔力。
次に寄ってこようとするのが青色、水の魔力だ。
引き寄せられる速度や動き方で自分の使いやすい魔力が分かるらしい。
つまり、私は水もそれなりに扱える、ということなのだろう。
海の水は、冷たくて心地いい。
炎を扱おうとしていると、どうしても体温が上がってしまうらしい。
どのくらい水音を楽しんでいたのか、急に後ろから魔王に持ち上げられた。
そのまま海から回収されてしまう。
「ベルディ?」
「日が落ちると一気に温度が下がるからな、体調を崩すぞ」
「そうなの?」
「ああ」
抱えられたまま家の中に入ると、リリアさんが夕食の支度を終えたところだった。
椅子に降ろされて、温かい飲み物を渡される。
大人しくそれを飲んでいると向かいにリリアさんが腰を下ろした。
「それで、ルディア様!魔法の特訓はどんなご様子で!?」
「まだ始めたばかりだ、急かすな」
「でも、でもだってルディア様ですよ?もう何かしら出来るようになっていたりとか……」
「ベル」
「はい。回収します」
何やら捲し立てていたリリアさんが颯爽と現れたベルさんに回収されていった。
リリアさんは魔法を扱う人間が好きだと言っていたが、それは相当らしい。




