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31/55

31 それは、初めて吐かれた嘘でした。

 リボウリーは朝から市場が賑わっていて、それを眺めて回りながら売られている焼き魚を食べて朝ごはんにする。

 途中果実なんかも買ってそのまま齧り、歩き回っていると海に出た。


「凄い、どうして水に浮いているの?」

「船の中は空洞だからな。沈む力より浮く力の方が強いのだ」


 もっと小さいものもあるらしい。

 船の上でも釣りをすることがあるらしく、そのうちやってみるかと言われた。

 船の上は、揺れるものだと聞いていたがそのうえで釣りをして落ちたりはしないのだろうか。


「……家が全部この色なのはなぜ?」

「このあたりで取れる染料で、この色が唯一塩に強いのだ。海から来る風は塩を纏っているからな、それによる腐食を防ぐための色だ」

「へえ……ねえ、海って、塩水なのよね?」

「そうだな」

「その塩はどこから来ているの?」


 川の水は、塩水ではなかった。

 ならどこで塩が混ざるのだろうかと、実はずっと気になっていたのだ。

 魔王は何かを考えるようなそぶりを見せた後に、私の頭に手を置く。


「海の底に、巨大な塩の塊が沈んでいる。それが溶けだしているのだ」

「そうなの?」


 それは、見れるものなのだろうか。

 見れるものなら見てみたい、と頭に置かれた手をどかして魔王を見上げる。

 見上げると、魔王は手で口元を抑えて笑いを堪えるように目線を逸らしていた。


「……あ、ベルディ!今嘘を教えたでしょう!?」

「いや、ふふ……」


 真面目な顔をして何か言葉を続けようとしたらしい魔王は、結局何も言えずに口元を抑えて笑う。

 こういう時に嘘を言われるのは初めてだ。

 なぜ急にそんなことを、とも思ったが、魔王がやけに楽しそうなので問いただす気も失せてしまった。


「で、本当はなんでなの?」

「さてな……大方、海の神の気まぐれだ」

「気まぐれ?」

「ああ。やつは気まぐれで行動を起こすからな。数百年後には真水になっておるかもしれん」

「そうなの……」


 海にも、神がいるらしい。

 ……いや、海にいるとは限らないのだろうけど。

 知り合いのように話すのは、魔王が魔の神だからなのだろうか。


 気まぐれで塩水にしたのは、なぜなのだろうか。

 もし別の気まぐれを起こしていたら、もしかしたら海の水は甘かったかもしれない。

 そんなことを話しながら海の方に向かうと、大量の魚が打ち上げられているところだった。


「わあ……!」

「漁船が帰ってきたのか」

「ぎょせん?」

「魚を捕るための船だ。沖まで出て、そこで魚を取って戻ってくる」


 魔王が指さした先には、大きな船があった。

 人が大勢行き来していて、妙に忙しそうだ。


「またすぐに出るのかもしれないな」

「そんなに沢山魚を捕るの?」

「この時期は海が凪いでいるが、もう少しすると荒れ始める。その前に捕りためてその時期を越す」


 海が荒れる、というのは、見たことがないのでどういうものか分からないが船が出られなくなるらしい。

 その間食べるものがないのは大変だから、今のうちに大量に、と。

 保存をするための加工はリリアさんがやっていたので何となくわかる。


「さて、行くか?」

「ええ」


 一通り街を見て回って、向かう先は魔王の孤島だ。

 国を出て少し進んでから魔王に抱えられて空を飛び、海を越えて島を目指す。

 到着したのはお昼ごろで、リリアさんが昼食を作っていてくれた。


 前と同じくニコニコと笑って用意をしてくれたリリアさんは、私が抱えた魔杖を見て笑みを深くする。

 行く、とは言ったが、何のために行くかは言っていなかったらしい。


「あら、あらあら!ルディア様が魔法を始められるんですね!」

「ああ。……無駄な手出しはするな」

「もちろんです!承知しておりますとも!ふふふ!」


 妙に楽しそうなリリアさんは、魔王に睨まれても気にした様子はない。

 そのまま楽しそうに支度を済ませて、食事を置いて別のことをしに去って行った。

 その後姿を見送った魔王がため息を吐いたが、その意味は分からない。


「さて……食べたら始めるか?」

「ええ!……リリアさんは、なぜあんなに楽しそうなの?」

「あれは昔から魔法を操る人間を好むからな……何もさせんから安心しろ」

「そうなの」


 好む、とは、いいことではないらしい。

 面倒そうにもう一度ため息を吐いた魔王は、そのまま置かれていた飲み物に口をつけている。

 昼食を食べつつ話していると、なぜかベルさんがリリアさんの首根っこを掴んで連れてきた。


「なにかお騒がせしたようで、申し訳ございません」

「構わん。リリアはお主に任せる」

「承知いたしました」

「あー。酷いですよぅ」


 リリアさんの文句には二人とも耳を貸さず、そのままもと来た道を戻っていく。

 別の部屋に入って行った二人を見送って魔王の方を見ると、魔王は先ほどより楽しそうにこちらを見ていた。


「……ベルさんと、リリアさんは仲が良いのね?」

「まあ、やつらは付き合いが長いからな」

「……どのくらい?」

「以前の魔王の代からだ。……数百年、か?」


 魔族とは、人より寿命が長いとは聞いていたが、それでも驚いてしまう。

 数百年前から一緒にいるということは、それ以上の年数を生きているということで。

 ……一体、幾つなのだろうか。魔王も含めいつか聞いてみよう。

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