30 それは、空と海の色でした。
久しぶりにアイディンを出て、魔王に抱えられて空を進む。
朝食は済ませてきたので、今は眼下の景色に歓声を上げる。
「このまま島まで行くの?」
「いや、一度別の国に泊ってからにしよう」
「ソリア?」
「今回は、リボウリーという国だ」
魔王が笑って、気に入るだろうと呟いた。
そんなにいいところなのだろうかと気になりはしたが、今は空の上。
それよりも気になるものが多いので後回しだ。
「あ、ねえ!あれは何?」
「あれは森だな。木の密集した地域だ」
「……あんな色をしていた?」
「あの辺りは、特別緑が濃いのだ。そのうち行ってみるか」
目線の先には、とても深い緑色をした地域が広がっている。
森、とはもっといろいろな生き物の気配がする場所だと思っていた。
あんなに、全てを飲み込むような色をした森もあるものなのか。
そのうち、がいつになるかは分からないが、連れて行ってくれるらしいので詳しい話はその時に聞くことにする。
森が遠くなっていくと眼下には海が広がりだして落ちないように見下ろしていると魔王が海面に近づいてくれた。
「わあ……」
「ルディアは海が好きか」
「ええ!とってもきれい」
手を伸ばして海面に触れながらそんなことを言って、目の前に大きな魚がいることに気が付いた。
魔王が何もしないということは害はないのだろう。
「これは、なあに?」
「海藻を食らう種類の魚だ。ここまで大きくなるのは珍しいな」
「そうなの?」
魚は、そのまま泳いで行ってしまった。
その姿を見送って、また海面すれすれを進む。
楽しい移動に時間も忘れて夢中になっていたが、気付けば日が傾いていた。
魔王が海から離れて陸の方へ向かうので、今日はそちらに泊るのだろう。
リボウリー、と言っていたか。
それがどんな国なのかは分からないが、気に入るだろうと言っていたその国を見るのは楽しみだ。
「さて、そろそろ歩くか」
「ええ」
いつも通り、国から少し離れたところで空から降りてきて歩き始める。
こうして少しづつ歩いていたからか、最初のころのは比べ物にならないくらい体力がついた。
アイディンの中を散策していたからそれもあるのだろう、と魔王が言っていたけど。
「まずは、宿?」
「ああ。この時間だと安宿は埋まっていそうだな。……少し上に上がるか」
「分かったわ」
今日の宿は、いつもより高い場所になりそうだ。
魔王の好みは安くてベッドの質がいい宿らしい。
高いところは、しっかりしすぎていてつまらないのだと。
私がいても別にそのあたりの判断が変わることはないようだ。
私くらい、守り切れるからと言っていた。
……魔法が使えるようになったら、私も自分の身を守ったり出来るのだろうか。
「この国、気に入るって言ってたけど……」
「明日の朝になったら、だな。今日はもう日が沈んだ」
「そうね。明日また見てみる」
やはり、国の中は明るい時に見るのが一番だ。
アイディンでは日が落ちた後も探索してみたりしたが、何か不気味であまり楽しめなかった。
私が辺りを見渡している間に、魔王は宿を決めたらしい。
手を引かれて歩き出した魔王についていくと、いつもとは作りの違う宿に入った。
……なるほど、いつもより高い宿、なのだろう。
入り口の周りを眺めていると、鍵を受け取った魔王がやってきたのでついていく。
部屋の中はふわふわのベッドが二つ、机と椅子。それから、湯浴みが出来るらしい部屋が別で付いているようだ。
「……豪華な部屋ね」
「ああ。気に入ったか?」
「少し、落ち着かないわ」
魔王と一緒なら、まあどこでもいいのだが。
とりあえずベッドがふわふわなので、上で少し跳ねてみる。
勢いをつけて座るだけで随分と跳ねた。……楽しい。
「ほどほどにな」
「ええ」
窘められてしまったので跳ねるのはやめて、手招きされたので窓辺にいる魔王に歩み寄る。
近付いていくと窓の外を示された。
その先には、見えずらいが大きな船が浮いているようだ。
「わあ……」
「ここは港町だからな。ああして巨大な船も停泊する」
「凄い、大きい……」
「明日、傍まで行ってみるか」
「ええ!」
魔王が気に入ると言っていたのは、このことだったのだろうか。
そうであっても違っていても、明日になれば分かることだ。
今日はひとまず休むことにして、湯浴みをしてからベッドに入る。
私が寝るとき、魔王はまだ眠らない。
私が起きる前に起きているから、いつ眠っているのかは分からない。
何度か魔王が寝るまで起きていようとしたことがあったのだが、魔王に子守唄を歌われるとすぐに寝入ってしまうのだ。
今日も、昼に散々はしゃいだので眠気に勝てず意識はすぐに落ちた。
次に気が付いて目を開けると、すでに窓の外は明るくなっている。
そして、窓辺で魔王がお茶を飲んでいた。
「おはよう、ルディア」
「おはようベルディ……」
眠い目を擦って傍により、目が覚めたら着替えて街に出る。
宿を出て坂の下の街を見下ろすと、そこには綺麗な青色が広がっていた。
「わあ……!」
「どうだ?」
「すごい、空の色ね!」
空と海の境界線のような、深い青と浅い青。
そんな色でこの町は彩られていた。
驚いていると、魔王は笑って私の手を引く。
詳しいことは、朝食を食べながら。朝食を食べてから船を見に行って、そのあとで島に向かうらしい。
見上げてみると、泊まった宿の壁も綺麗な空色をしていた。
……やっぱり、町を見るのは明るい時がいいのだ。




