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29 それは、とても華やかでした。

 アイディンで過ごし始めて、気付けばひと月が経過していたらしい。

 そろそろ出来ているだろうと魔王が言うので、私の杖を貰いに行くことになった。

 このひと月で円盤での移動にもだいぶ慣れた。今では魔王にしがみつかなくても大丈夫だ。


「どんな杖なのかしら」

「さて。それは見てみないとな」


 話しながら円盤に乗って杖を頼んでいた店に向かう。

 私用にと選ばれたあの材料たちがどう加工されたのかが気になって仕方ないのだ。

 実は、時々気になりすぎて店の前まで来てみたりもしていた。


 私のために作られたもの、というのは初めてだ。

 貰ったものはどれも気に入っているが、特別気になってしまうのも仕方ないと思う。


「さて、どうなっているか」

「ベルディにも分からないのね?」

「ああ。腕のいい職人だとは聞いているが」

「そうなの」


 そういえば、魔王が杖を作る工房を選んだ理由も聞いてみたのだ。

 なんでも、いくつかの候補があったうち、一番繊細な杖を作る店だったのだという。

 繊細な杖は扱いが難しいものも多いが、あの青年は扱いやすく加工も出来るの職人なのだと。


 店の前につくと、魔王はそっと私の背を押した。

 押されるままに扉を開き、店の中に入る。

 相変わらず不思議な光に包まれているその店の中で、青年が座っていた。


 私が店に入ってきたのを確認すると立ち上がって後ろから何かを取り出す。

 魔王に背中を押されているのでそのまま青年の前まで進み、その手に握られているものを見る。


「持ってみてくれ」


 言われて、それを包んでいた白い布が外される。

 出てきたのは、細身の杖。私の腰辺りまでの長さ。


 黄色い濃淡がある持ち手の先に、有色透明な何輪かの花に包まれるようにして球体が輝いている。

 それらを繋ぐようにキラキラと輝く薄緑の蔦のようなものが絡み、よく見ると球体の中に赤い花が咲いているようだった。


 光を反射して輝く杖は、あまりにも綺麗で。

 本当にこれが私のものなのかと不思議になって魔王を見上げると、魔王は微笑んで私を見た。


「基本的には扱いやすいように仕上げた。何か他にやりたくなったら花を増やせばいいだろう」

「なるほど。……ルディア」

「なあに?」

「どうだ?」

「……綺麗。すごく綺麗」

「そうか」


 返事の内容があっているかは分からないが、目下浮かぶ感想はそればかりだ。

 1つ1つが綺麗だったものが、こんなにも1上手くかみ合うものなのだと初めて知った。

 青年を見るとどこか満足げにしているので、返事はあれでよかったのだろうか。


「さて。杖も出来たのだ、魔法の練習でもするか」

「まだなのか」

「ああ。何せ道具がなかったのでな」

「……あんたの杖は扱えないだろうしな」

「ふっ。そうさな」


 私が杖に見惚れている間に魔王と青年は仲良さげに何か話していた。

 そのあと2人が難し気な話をしている間、私は杖を片手に店の中を見て回って。

 それが終わったら店を出て、前と同じように食事をしてから宿に戻る。


 宿に入ってから、魔王は地図を広げて私を呼んだ。

 近付いていくと、地図の上には何か駒のようなものが置いてある。


「次に行く場所を決めよう」

「これは?」

「今いる国、アイディンだ。これがベーゼル、ここがバーゼーナ」

「……これが、あの小島?」

「そうだ」


 色々なところに行ったと思っていたが、こうしてみるとまだ行ったことのない場所の方が多い。

 まだあまり巡れてはいないらしい。


「……前に、言ってた魚の美味しいところは?」

「ベリルアか。あの国は……ここだな」

「遠いのね」

「ああ。行きたいなら、ここにするか」


 距離があるから、どこか別の国に寄りながらになるが。

 と言って魔王は地図をなぞる。

 行く道を決めているのだろうか。


 と言っても、道は進まないのだが。

 空を飛んで移動するので、道は遠めに見えても人に見られないために避けて通るのだ。


「……ねえ、ベルディ」

「なんだ?」

「ベーゼルの兵士は、私を探してるのかしら」

「そうだな……そろそろ末端が動かなくなってはいるだろうが」


 まだ探されているなら、その話を聞くこともあるだろうか。

 この国より、ベルリアの方がベーゼルに近いのだ。


「……ベリルアは島国だ、そう関わることも無い国の捜索に深くは関わらんだろう」

「そうなの?」

「ああ。心配はない。我もいる」

「……そうね」


 そう。何かあっても、私の横には魔王がいるのだ。

 まだ連れまわしてくれるようなので、安心していいのだろう。

 ……私も、自分で捜索の手から逃れられる力がつくのだろうか。


「ねえ、魔法って、難しい?」

「ルディアなら問題なく扱える。……島に寄って、基礎をやってから行くか?」

「ええ。そうしたいわ」


 なら、と魔王はベルさんを呼んだ。

 多分、リリアさんにそちらに向かうという連絡を入れているのだろう。

 前は捜索から逃れるためだったが、今回は魔法の特訓のためだ。


 前よりもずっといい理由で、前と違ってあの島の楽しさを知っている。

 ……また、海に潜れるだろうか。

 やりたいことが増えてきて、どうしたらいいか分からなくなってしまいそうだ。

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