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25/55

25 それは、とても好みのものでした。

 持っていた枝を返し、ほかの枝を不思議そうに見ていると、青年は別のものを用意し始めた。

 用意しながら、先ほど抱えた枝たちを指さす。


「それは全て魔杖の材料になるものだ。持った人間の魔力との相性によって感じる重さが変わる」

「……相性がいいと、軽く感じる?」

「そうだ。お前の杖の大半はその枝になる」

「そう、そうなのね……これが……」


 不思議な黄色の濃淡は、なんだか誇らしげに色味を変えた気がした。

 ただの気のせいだろうか。

 それとも、魔法的な何かがあるのだろうか。


「さ、次だ」

「これは?」

「補佐になる。お前の魔力と、空気中の魔力とを繋ぐ部分になる」

「……えっと……?」

「まあ、詳しくは後で、な」

「分かったわ」


 説明は後に回されて、渡されたのは多種多様なものたち。

 貝殻や布、皮、宝石……何の統一性もなく、一体何になるのかも分からない。

 先ほどのように重さが変わることもなく、私は一体なぜこれを持たされているのだろうか、と思いながら言われるがまま色々なものを持ってみる。


 その中で、一つ。

 宝石のようなもので出来た花に触れた時だけ、妙な温かさを感じた。

 その花を返したところで青年は物の撤退を始めたので、あれが材料になるらしい。


「後はこちらで作る。何か問題は?」

「無いな。任せた」

「了解した」


 魔王と青年は慣れたように言葉を交わす。

 知り合い、なのだろうか。

 それとも、何か決まったやり取りだったりするのだろうか。


 魔王に手を引かれて店から出て、どこに向かうのかと思ったらすぐに別の店に入った。

 いつも行くような食事場に似ているが、それより静かで席の感覚が広い。

 入ってすぐに魔王は何かを頼んでいたが食事は先ほど済ませたし、何を頼んだのかあまり予想が出来ない。


「さて……何から聞きたい?」

「えっと、ベルディの杖の核?」

「ライカンスロープか。人狼のことは?」

「知らないわ」


 返事をしたところで、店員が何かを運んできた。

 お茶が二つと、何か愛らしい四角いもの。

 それは一つしかなく、私の前だけに置かれた。


「……これは?」

「焼き菓子だ。他の国では高級なことが多いが、この国では生産の基盤が整っているからな」

「やきがし……」


 美味しそうな香りに釣られて、とりあえず口に放り込んでみる。

 すると口の中に甘い香りと味が広がり、そのあとにふんわりと果実の酸味が広がった。

 驚きのまま魔王を見ると、魔王は楽しそうに笑ってお茶を飲んでいる。


「どうだ?」

「美味しいわ!」

「そうか」


 この国でしか食べられないのなら、しっかり味わわないといけないだろうか。

 そう思って少しずつ食べていると、魔王は私を眺めながら口を開いた。


「人狼は、普段は人間の姿をしており満月の夜に狼に姿を転ずる者を指す」

「人間なの?」

「いや、人狼という種だ」

「……人間とは、違うのね」

「もとは獣人との混血だというがな。人間は満月で変死はしないし、獣人は元より獣の要素を持っている」


 何となく、分かったような分からないような。

 だがまあ、違う、ということだ。

 頭の中を整理するために焼き菓子を頬張り、お茶を飲んでから魔王に向き直る。


「じゃあ、ライカンスロープは?」

「もとは同じ意味だ。人狼の別の呼び名だったものが、最近ではとりわけ魔力の強い個体を差すようになったな」

「……魔力の強い個体」

「ああ。人狼は基本、ただの人間より力が強いが、魔力はそう変わらない。だが時々魔力の強い個体が現れるのだ」

「力も強いの?」

「ああ」


 それなら、単純に強いのだろう。

 その爪を使って杖を作ったのだという。

 ……魔杖の核になるほどなのだから、人間の爪とは違うのだろう。


 自分の爪を眺めてみたが、これが魔杖の核になれるとは思えない。

 ベルディが笑っているので、何を考えているかはバレているらしい。


「……使いずらいって言ってなかった?」

「扱いずらい、だな。強い魔力を持つ素材は、強力だがその分望む方に魔力を向けるのに癖があるのだ」

「それくらいが、好み?」

「ああ。素直な杖は飽きが来ていてな」


 魔王だから、杖がなくても魔法は使えると言っていた気がする。

 それでも杖を持ち歩いているのは、何もなしに使える魔法に飽きたから、なのだろうか。

 私の杖はきっとその「素直な」杖なのだろう。


「……むーん……」

「まあ、好みの杖は後々な。今は扱いやすい方が良い」

「ええ……それに文句はないわよ」


 ただ少し、魔王が使っている杖は、一体何本目なのだろうかとそんなことが気になってしまっただけだ。

 私が使うことになるのであろう杖も、買い替えの時が来るのだろうか。

 まだ見てもいないのにそんなことを考えて、そもそも杖の買い替えはいつするのかと不思議になった。


 剣や道具は、擦り減ったり壊れてしまったら買い替えなのだろう。

 杖も壊れることはあるのだろうか。

 ……あったとしてもまだ考えるべきことではない気がする。


 なので今は焼き菓子を口に放りながら次は何を聞こうかと思考を巡らせた。

 そういえば魔法の基礎も知らないので、そのあたりから聞くのがいいだろうか。

明けましておめでとうございます。

今年中に完結できればいいな、なんて思っていたりします。

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