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24 それは、不思議な場所でした。

 食事を終えて店を出て、今度はあの円盤には乗らずに歩いて移動する。

 向かう先は遠くないらしい。

 歩き始めてすぐに周りの雰囲気が変化した。


 今までいたところは静かで落ち着いた場所だったが、ここは熱気と騒音に溢れた、少し落ち着かないがなんだかわくわくしてくるような雰囲気だ。

 人ごみの中を進む魔王に手を引かれ、周りを見る余裕もなく進んでいくと人通りの少ない通りに出た。


 そこをさらに進み、魔王が止まったのは小さな看板のかかった扉の前だった。

 何かを確認してからそこの扉を開け、魔王は中に入っていく。

 続いて中に入ると、中は思っていたよりも明るく、色々な光に溢れていた。


「……いらっしゃい」

「杖の制作を頼みたい」

「あんたの?」

「いや。こちらの」


 部屋の中にいたのは一人の青年で、青年は魔王に背を押されて目の前に来た私をじっと見つめてくる。

 どうしたらいいのだろうか、と魔王を見上げると、魔王は何も言わずに微笑んだ。


「……杖を作ったことは?」

「初めてだ」

「魔力は?」

「印紙は扱える」


 青年と魔王は短いやり取りをして、青年の視線は再び私に戻ってきた。

 何をどうすればいいのだろうか、と見つめ返すと、透明な球を渡された。

 差し出されたので受けとったが、これをどうすればいいのだろうか。


「それに魔力を込めろ。印紙を発動させるのと同じ込め方でいい」


 そう言われて、両手で持っている球に目を落とす。

 透明なそれにゆっくりと魔力を蓄えていくように、徐々に周りから球の中への流れを作る。

 視力としての目は使わなくてもいいので目を閉じて魔力を込めていると、しばらくしてから魔王に肩を叩かれた。


 目を開けると、透明だったはずの球がうっすらと赤く染まっていた。

 濃淡のついた赤は、とても綺麗で驚きのあまり落としそうになってしまう。


「……原料の指定は?」

「任せよう。資金はあるのでな」

「そうか。……一月ひとつきだ、一月後にもう一度来い」

「分かった」


 このやり取りだけで、私が使うことになる杖が作られるらしい。

 今の会話で一体何を決定したのかは分からないが、もう店を出るのだろうか。

 ここは色々なものが置いてあるから、出来ればもう少し見ていきたかったのだが。


「……今、時間は?」

「あるぞ」

「そうか。原料を持ってくる、適当に見ていてくれ」

「ああ」


 魔王に告げて、青年が店の奥に去って行った。

 まだ何かやることがあるらしく、店の中を見ていていいらしい。

 触れない、と魔王にそう約束して、店の中のあれこれを見て回る。


 柔らかい光を発する謎の発光体、その光を反射して振りまく様々な色の球、一切光を反射しない物体。

 きらきらと光る木の枝、風もないのに揺れている布、見るたびに形が変わっている不思議な図。


 なぜそんな風になっているのかも、なぜここに置かれているのかも分からないが、とにかく見ていて綺麗なことに違いはないのだ。

 見入っていると、後ろに魔王がやってきた。


「何を見ているのだ?」

「……この空間?」

「そうか」

「これは、何に使うの?」

「すべて魔杖の材料だ。魔力が込められているものがほとんどだな」

「まじょう」

「魔法を扱うための杖、今作っているものだ」

「魔杖っていうのね」

「ああ。ただの杖との呼び分けにな」


 ただの杖、とは足の悪い人が歩くために使っているものなのだろう。

 これらが全て魔杖の材料になるというなら、今私の目の前にある宝石も材料なのだろうか。

 これがどうやって杖になるのか、聞いたら教えて貰えるだろうか。


「……そういえば、さっきの球はどうなるの?」

「あれがルディアの杖の核になる」

「……どうやって?」

「それは職人次第だ」


 つまり、あの青年の好みなのだろうか。

 核というのはつまり中心部なのだろう。

 文字の通り中心なのか、そう呼んでいるだけなのか。


「ベルディの杖の核は何?」


 聞いてみると、魔王は懐から自分の杖を取り出して先が細くなっていない方をつついた。

 そこだけ、少し色が違う。


「これは確か、ライカンスロープの爪だな」

「らいかん……?」

「ライカンスロープ。人狼と呼ばれるものだ」


 知りたいなら後で、と言われて、ひとまず視線を魔王の杖に戻す。

 これは、文字通りの中心部だろうか。

 隙間も何もなく組み込まれているが、一体どうやっているのだろうか。


「また、使いづらいものを組み込んだな」

「これくらいが好みでな」


 物音と共に青年の声がして、振り向くと何か大きな荷物を抱えて戻ってきた青年がいた。

 荷物を台の上に置いて、青年は私を見た。

 それと同時に魔王に背中を押されたので、素直に従って青年のもとに寄る。


「持ってみてくれ」


 そういって渡されたのは、白い木の枝。

 枝と言っても太さは私の腕と同じくらいだ。

 言われた通りに持ってみると、見た目よりもずっと重い。


 慌てて落とさないように抱えなおし、どうしたらいいのだろうかと目線を彷徨わせる。

 青年の手が伸びてきたので枝を返すと、次は別の枝を渡された。

 今度のものは薄っすらと橙がかっている。


 その枝はあまり重くなく、とりあえず両手で抱えておけば落とすことはなさそうだ。

 これも手が伸びてきたので返し、次に渡されたのは黄色の濃淡がついた枝。

 落とさないように受け取ろうとしたら、思っていたよりもずっと軽くて驚いてしまった。


 見た目は全て同じような大きさの枝だっただが、どうしてこんなに重さに違いがあるのだろうか。

 驚きのままに魔王を振り返ると、魔王はとても楽しそうに笑っていた。

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