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22 それは、光り輝いていました。

 海に立ち寄った後、再び魔王に抱えられて空を進んだ。

 魔王がもう一箇所寄り道をするというので、何か聞いてみたがやはり見てからのお楽しみだと言われてしまう。

 陸地の中に進んでいき、日が少し色を変えた時に魔王が声を上げた。


「見えたぞ」

「え?……わぁ……」


 魔王が目を向けている先に視線を向けると、大地が金色に染まっていた。

 陽の光を反射しているのか、自ら輝いているのか。

 それはとても綺麗で、咄嗟に言葉は出てこなかった。


 地面に下ろされて、目の前の金色に圧倒されながらどうにか言葉を探す。

 少し振り返って魔王を見ると、彼は楽しそうに笑っていた。


「これは……これは、なに?」

「麦だ。収穫の直前だからな、こうして一面が金色に染まる」

「すごく、きれい」

「だろう?」


 風が吹くと、金色は一斉に揺れる。

 まるで海のようだ。この中に入ったら、溺れてしまうかもしれない。


「……どうした?」


 魔王を見上げていたら、魔王は気付いてこちらを見た。

 その頬に手を当てる。背が高いから、このままだとよく見えないのだ。

 私の背伸びに気付いたのか、魔王は私を抱えあげた。


「どうした?」

「……同じ色」

「ん?」

「ベルディの目と、同じ色」


 目の前の金色は濃い色で、ベルディの目はもっと薄い色なのだが、同じ色なのだという謎の自信があった。

 魔王は目を見開いて、私の顔から一面の金色に目線を移した。


「……同じ、か?」

「ええ。同じ」

「そうか」


 魔王はそのまま、何か考えるように風に揺れる麦を見ていたが、少ししてから私を抱えなおした。

 もうそろそろ移動しないといけない時間のようだ。


 移動中は、麦を使った料理や飲み物の話をしていた。

 お酒、というものがあるらしい。

 それは、魔王が時折立ち入る賑やかな料理屋で、特に賑やかな人達が飲んでいることが多いものらしい。


 飲むと賑やかになるのかと聞いたら、全員が全員そうなるわけではないと言う。

 よく分からないが、一定の量を過ぎると毒になるということだけ覚えておく事にした。


「私でも飲めるもの?」

「飲んでみなければ分からないが……まだ早いな」

「はやい」

「ある程度歳をとってからでないと身体を壊す」

「そうなの」


 なら、とりあえず今は飲まない方がいいのだろう。

 それを飲めるようになる歳は幾つなのか聞いてみたら、大方は成人で飲む許可が降りるようだ。ただ、魔王は20になるまで待てと言っていた。


 つまりはあと3年。3年後に、魔王と共にいるのかはまだ分からないが、飲むなら魔王と共にがいいと思った。

 今のところ、ほぼ全ての体験の横には魔王がいるのだ。


 私はきっと、それに安心している。

 何かあっても大丈夫だという安心感と、何も起こらないという安心感と。

 それに甘えて色々としてきたので、人によっては飲むと暴れるらしいそれを飲む時は魔王と共にがいいだろう。


「ベルディは、飲まないの?」

「飲んでいるぞ」

「……いつ」

「宿で時折」

「暴れも騒ぎもしないわ」

「酔わん質でな」

「……それも、人によるのね」


 誰にでも影響がある訳ではないらしい。

 ベルディが陽気に踊り出したりするのなら、少し見てみたい気持ちもあったのだが。


 そんな事を話していたら、いつの間にか目的の国に近付いていたらしい。

 徐々に地面が近付いてきて、魔王が足を付けてからそっと降ろされた。

 今は夕方になりかけている時間帯だ。


 これから歩いて夜に間に合うとなると、ここからそう遠くない場所のようだ。

 手を引かれて歩いている間、魔王はいつもより楽しげに笑っていた。


「これから行くのは、なんて国?」

「アイディン。魔法の国故な、他とは違って色々なものが宙を動くぞ」

「……物が、飛ぶの?」

「ああ。見ているのは中々愉快だ」


 それに、と上機嫌な声で魔王は続ける。


「かの国は、我の一部が眠っておる。多少の愛着はあろうて」

「ベルディの、一部?」

「うむ。魔の神の欠片をもって作られたこの土地は、大地の魔力が他の地より高い。故の魔法の国だ」

「一部って、手や足?」


 見た限り、魔王の体にそんな欠けはないのだが。

 それとも、見えない何かがないのだろうか。

 心臓を持たないことは知っているが、そんな大事なものがその国にあるなら、その国にずっといるような気がする。


「いや、欠片を埋めた時、我は人の形をとっていなかったからな。分かりやすい欠落はない。強いて言うなら、肉の一欠けらを落としただけだ」


 人でない姿を、持っているらしい。

 ベルディが本当に魔王で魔の神なのか、何となく親しみやすすぎて分からなくなっていたりしたのだが、話を聞く限り本当に魔の神であるのだろう。


 その、神の欠片が埋まった土地。

 そこに出来た国。

 彼自身が気に入っているらしいその国が、目に見える位置に来た。


 真っ白な壁に、金色の模様が入っている。

 門も白く、そこに敷かれた道も、よく見ると模様が入っているようだ。

 魔王が入国の手続きをしている間、門の中に施された模様に見入っていたら背を押されてしまった。


「それなりの日数ここにいるのだ、見惚れるのは明日にしよう」

「そう、そうね……」


 背を押されて国の中を進みながら、あちこちに目移りしてしまう。

 どのくらい留まるのかは分からないが、ここを立つ前に見慣れるだろうか。

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