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21/55

21 それは、初めての辛さでした。

 昨夜の祭りは、踊りの輪に出たり入ったりを繰り返して夜遅くまで参加していた。

 その後、ある程度踊れるようになった後に祭りから抜けて宿に戻り、そのまま疲れて眠ったのだ。


 今、目が覚めて昨日のことを思い出していたところなのだが、何故か動くと足が痛い。

 どこか怪我でもしたのかと思ったのだが、別に傷もない。


「おはよう。どうした?」

「おはよう……足が痛いの」


 手にカップを持って部屋の奥から現れた魔王は、そっとカップを置いて私を抱え上げた。

 そして、そのままそっと足に触れる。

 そのまま何か考えるように私の頭を撫でた。


「昨日急に動いたからだろうな。放っておけば治るが、気になるようなら今治すか?」

「んー……今日は、いいわ。辛かったら言う」

「そうか。なら、朝食でも食べに行くか?」

「ええ」


 言われて、窓辺でお茶の飲み始めた魔王を横目に、置かれた着替えに手を伸ばす。

 伸ばして、手だけでは足りなかったので身体ごと伸ばそうとして、足が急に痛んだ。


「ひゃあ!?」

「大丈夫か?」

「……何で、こんなに痛いの?」

「筋肉が切れて、今再生されているところだ」

「……分からないわよ……」


 言いながらベッドに落ちると、魔王は笑いながら横に来た。

 そのままそっと足を撫でられ、撫でられた場所から痛みが引いて行く。

 顔を上げると、頬が緩んだままの魔王に頭を撫でられた。


「……治った」

「だろうな」

「どうやるの?」

「扱うなら、魔法の基礎からやらなければいかんな」

「これとは扱いが違うの?」


 前に買い与えられた魔法印紙に手を伸ばしながら聞くと、伸ばした先にあった印紙を取って渡される。

 それを見ながら魔王を見上げると、魔王はもう1枚紙をとって手の中で弄ぶ。


「これは、元々込められている魔法に魔力を込めて、書かれている魔法を発動させるものだ。魔法を扱うなら、ここに書かれているものを自分で組まなければいけない」

「……難しそう」

「ルディアなら、まあ出来るようになるだろう」

「そうなの?」

「ああ」


 魔王がいうなら、そうなのだろう。

 教えてくれるのだろうか、と見上げると、微笑まれて頭を撫でられる。


「人間が魔法を操るには道具が要る。作りに行くか」

「道具」

「町の中で、石のはめ込まれた杖を持っている者たちがいるだろう?あの杖がその道具だ」


 言われてみれば、見た事があるかもしれない。

 というか、街を見渡せば一人くらい目に着くだろう。


「長さはみんな、違うのね」

「ああ。使う者によって得意な長さがあるのだ」

「だから、作るの?」


 買うではなく作ると言ったのが気になって、そんなことを言った。

 魔王は頷いて何かを取り出した。


「杖」

「これは、最も小さい物だ。懐に入る」

「自分の背と同じくらいのモノを抱えた人もいるわよね?」

「ああ。あれが最も大きいものだな」


 魔王の膝の上に乗せられていた頭を動かして、仰向けに寝転がる。

 いつもとは違う位置から見上げてみているが、やはり魔王には見えなかった。


「どうした?」

「……ベルディは、杖なしで魔法を使っているわよね?」

「ああ。我は魔王故な。魔族は、体内に魔法回路が組み込まれている。故に杖は必要ない」

「まほうかいろ」

「この絵柄のようなものだ」


 聞いてもよく分からなかったが、何か難しそうだと感じた。

 それでも魔王は出来ると言った。だから、出来るのだろう。


「……何なら、今から作りに行くか」

「今から?近くで作れるの?」

「いや、少し遠いが夜までには着く」


 どうする?と笑顔で聞かれて、やってみたいと呟けばそれで行き先が決まる。

 着替えて宿を出て、まだまだ賑わっている広場の中で適当に朝食を買う。

 食べながら国を出て、そのまま少し歩いてから魔王に抱えられた。


 進む方向は、多分来た方。つまりは海の方だろう。

 あの島の近くを通るのかと思ったが、そういうわけではないようだ。


「どっちへ行くの?」

「あちらが島、あちらがベーゼル。向かうのは向こうだ」

「逆なのね」

「ああ」


 そんな話をしている間も、魔王は海の上を進んでいる。

 海のほかは何も見えないので分からないが、結構な速度で進んでいる気がする。


「む。そうだ」

「どうしたの?」

「この時期なら、一度目の収穫の前だな」

「何が?」


 聞いても、魔王は教えてくれない。

 見てからのお楽しみだ、なんて言って笑うだけだ。

 教えてくれないのに問うても仕方ないので、目線を下にずらして足元に広がっている海を見渡す。


 すぐに通り過ぎてしまうので分からないが、海には色々なものがいるようだ。

 それに、何か。

 海を見ていて少し違和感がある気がした。


「……海の色、違う?」

「ああ。……降りてみるか?」

「ええ」


 普段見ていた海は、青かったと思うのだが、この海は緑色をしているようだ。

 近くの砂浜に下ろして貰って海に近付くと、光を反射した海面がキラキラと光っている。


「わあ……」

「この辺りの海は、晴れているとこの色になるのだ」

「すごい、綺麗ね」

「そうだな」


 森の緑や花の緑はそれなりに見てきたと思っていたのだが、この透き通るような薄い緑は初めて見た。

 あまりにも綺麗でしばらくそこに留まってしまったが、魔王は何も言わずに海を眺めさせてくれた。

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