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15 それは、美しい場所でした。

 魔王に抱えられて海を進み、途中足だけ海に入れてみたりしながら移動する。

 海しか見えないのでどのくらいの速度で進んでいるのか分からないが、かなり早く移動しているらしい。

 今日中には着くと言われ、まだ見ぬ場所への期待が高まる。


 魔王曰く、海に囲まれた小さな島で、家が一軒あるだけらしい。

 その中に生活に必要な物は全て揃っているし、食料は釣れるし魔王の部下が買いに行ける。

 狭いがそれなりに楽しい場所だろう、と。


 そんな事を聞きながら海を進み、日が大分傾いた頃に魔王が速度を緩めた。

 魔王が指さす先に何かがあるようには見えないが、そこが目的地らしい。


「見えないわ」

「結界の力だろう。一度入れば見えるようになるはずだ」


 これは魔王の張った結界らしい。私がいた塔にも結界が張ってあったようだが、それとは全く違うもののようだ。

 まあ、それもそうだろう。これは外からの侵入を防ぐもので、塔のものは中からの脱走を防ぐものだ。


「入るぞ」


 魔王が言ったすぐ後、周りの空気が変わる気配がして、瞬きの間に目の前に島が現れた。

 魔王は驚いた様子もなく島に着地し、私の頭に手を置いた。


「……びっくり」

「はは、そうか。これで外からでも見えるようになったはずだ」


 そんな事を言っていたら、島の中央にある家から人が出てきた。

 メイド服に、頭の両サイドから生えた下向きの角。

 この人が、ここを管理している魔王の部下だろうか。


「あら、魔王様。お早いお付きでー」

「うむ。管理は怠っていなさそうだな」

「当然ですよ。中央事務なんて真っ平御免ですから」


 ふふん、と胸を張って魔王に言った後、その人は私の方を見た。

 そしてニコニコと私の手を取り、目線を合わせてくる。


「初めまして、ルディア様。私リリアと申します。よろしくお願い致しますね」

「は、初めまして」


 私の手を握ったまま、リリアさんは魔王に向き直る。


「さて、食事の支度はしてありますが、どうなさいますか?」

「ルディア、食欲は?」

「あるわ」

「なら、食事にするか」


 魔王の言葉を聞いて、リリアさんはニコニコと私の手を引いた。

 あまりにも唐突な人の体温に戸惑った私が動かないのを何と思ったのか、リリアさんはまた私と視線を合わせた。


「大丈夫ですよ!これでも人の知識は豊富なので、食べて身体を壊すような食事は作りません!」

「あ、はい」

「そこではないと思うぞ?」

「あら?」


 魔王に言われて首を傾げた彼女が、随分と親しみやすい表情をしていたから、思わずクスリと笑ってしまった。

 その直後にリリアさんがこちらを見たので、気を悪くしたかと思ったのだが、そんなこともなく改めて家の中に案内された。


「魔王様、寝室はどうなさいますか?一応ベッドを2つ置いた部屋と、1つづつの部屋を2部屋用意しておきましたが」

「ふむ。1部屋でいい」

「かしこまりました」


 魔王の荷物を受け取って、綺麗なお辞儀をして。受け取ったはずの荷物がいつの間にか彼女の手から消えた謎について考えている間に、リリアさんは戸棚から何かを取り出した。


「ルディア様は、甘い物はお好きですか?」

「え、ええ」

「なら、これもですねー」


 なんだか楽しそうに食事の準備をしている彼女の、緩やかなカールのかかった長い銀髪を眺める。

 リリアさんの動きに合わせてゆらゆらと動くそれは、見ていて飽きないものだった。

 眺めている間にも、机の上には色々なものが並んでいく。


「魔王様は召し上がられますか?」

「ああ」

「かしこまりました」


 そんな会話も挟みながら食事の支度は進み、あっという間に机の上は食器などで埋まった。

 1つ1つ説明してもらいながら、小皿によそって少しづつ食べる。

 どれも美味しくて、黙々と口を動かす。


 お腹がいっぱいになるまで食事を続けて、満足したら促されて外に出る。

 目の前に広がる海は終わりが見えず、陽の光を反射してキラキラと輝いていた。


「きれい……」

「でしょう?夕日が沈むときも綺麗なので、その時にまた見に出ましょう」


 微笑まれて、笑いかえす。

 頭に手が置かれたので上を見ると、魔王も微笑んでいた。


「何かあれば、我かリリアに声をかけろ。この島は狭いからな、ある程度自由に動いても問題はないだろう」

「分かったわ」

「ただ、海に入る時は1人で行くな」

「ええ」


 狭いと言っても、ずっと塔に居た私からすれば広いくらいなのだ。

 ここを探索しきるのに、1日で足りるだろうか。

 考えていたら、また手を取られた。


「今まで出来なかった事、色々と体験しましょうね!私もお手伝いしますので!」


 私の手を取って、キリッとした顔で口角だけ上げて。

 器用な表情をしながら、リリアさんが言う。

 魔王といい、リリアさんといい、世間の魔族の印象と違い過ぎるのではないだろうか。


 私のイメージが世間一般のそれだとは言わないが、どの本にも魔族とは残虐なものであると書かれていた。

 それなのに、今私の目の前にいる2人は私が関わったどの人間よりも優しく微笑んでいる。


「……釣り、ちゃんと出来るようになりたいわ」

「裏に釣り場がある。行くか?」

「ええ」


 リリアさんの角がなければ、魔人なのだということを忘れてしまいそうである。

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