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14 それは、突然の事でした。

 朝。ベッドから降りたくなくて、布団を頭の上まで引き上げた。

 横に何かが座る気配がしたので顔を半分出すと、魔王が優しい目をして私を見ていた。


「……おはよう」

「おはよう、ルディア」


 頭を撫でられて、ベッドの上で座る。

 窓辺の机の上にカップが置いてあるので、魔王はまた何か飲んでいたらしい。


「……ねえ」

「何だ?」

「魔王に、食事は必要なの?」


 ふと疑問に思って、思ったことをそのまま聞いてしまった。

 聞いてから、聞いていい事だっただろうか、と不安になってしまう。


「ふむ。人のような食事は必要ではないな」

「人の食事?」

「ああ。あれは、栄養を取るための行為だろう?魔族は、魔力を摂取していれば生きていられるからな」

「魔力の摂取、ってどうやるの?」

「個々、種族によって異なる」


 魔王に手を取られ、膝の上に乗せられる。

 それでも視線は魔王の方が少し高い。


「他種族の血から魔力を摂取する者、岩などを食らってその魔力を取り込む者、あとは、人の夢から魔力を得る種もある」

「……ベルディは?」

「我は魔王故な、そこに存在していれば、その空間の魔力を摂取できるのだ」

「……すごいわね」


 魔王にとって、食事は旅を楽しむ手段の1つらしい。

 味覚は人間と同じように持っているので、全ての食事は嗜好品と同じだと。


「魔神、なのよね?」

「そうだ」


 魔王だと。魔神だと。そう言われても、実感はない。

 だって私の前に居るのは、旅好きで物知りで、美味しいものをたくさん知っているベルディなのだ。

 私が居た塔の魔法を気付かれることなく破ったのだから、魔法に長けているのは間違いないだろうか魔王と言われると、なんだか違う気がしてしまう。


 魔王とは、もっと禍々しいものだと思っていた。

 数少ない与えられた本には、そう書かれていた。


「さて。目は覚めたか?」

「ええ」

「なら、着替えるといい。朝食を買いに行くぞ」


 そう言って私を膝の上から降ろした魔王は、本当に魔王とは思えない。

 だって、魔王が、こんなに優しい表情をするとは本には書かれていなかったのだ。


 何となくそのことばかり考えてしまう。

 まあ、ベルディが魔王であろうがなかろうが、私としてはどちらでもいいのだ。


「何を食べに行くの?」

「さて、何にするかな」


 まだ決まっていないらしい。

 この国では、食べるものに気を付けると言っていたし、適当に買って済ませるわけにはいかないのだろう。


 魔王が窓の外を眺めて何か考えている間に着替えを終え、その背中に声をかけようと思ったのだが、私の横にいつの間にか人が立っていて、それに驚いて動きが止まる。

 その人は、魔王の部下だという角の生えた女性だった。


「魔王様」

「ん?どうした」


 女性が魔王に声をかけて、何かを耳打ちして1歩下がった。

 魔王はそれを聞いて、何か考えてから私を手招きする。


「どうしたの?」

「近くにベーゼルの兵がいるらしい」


 それは、つまり、私を探しているのだろう。

 この国にも、来るのだろうか。


「どう、するの?」

「見つかっても面倒だ。しばし、人の居ぬ場所に行くか」

「人の、居ない場所」

「ああ」


 魔王は女性に視線を移して、ゆっくりと言った。


「結界は動いているな?」

「はい。リリアが現地にて管理を行っております」

「行くと伝えておけ」

「承知いたしました」


 女性がその姿を消して、それを見送ってから魔王が私に向き直った。

 その瞳は、私を安心させる優しい色をしている。


「どこに行くの?」

「我が時折使う小島があってな。結界を張っている故、人間はたどり着けん」

「リリアって?」

「我の部下だ。島の管理と結界の維持を任せている。しっかり任務を果たしているらしいな」


 つまり、人が来ることのない、言ってしまえば安全地帯。

 それならば、安心だ。


「でも、ずっといるわけにはいかないわよね?」

「まあ、しばらくそこに居てベーゼルの兵士が粗方の場所を捜索し終えるのを待つのがいいだろうな」

「捜索が終わるのを待つの?」

「ああ。一度手を伸ばした場所にもう一度行くのは、時間が経ってからだ。それに痕跡すら見つけられない状態が続くと、人のやる気は失せていくからな」

「そうなの」

「末端の兵がまともな捜索をしなくなれば、旅は平常通り続けられる」


 魔王がそういうと、そうなるのだろうと思えるから不思議だ。

 しばらく待てば旅は続けられる。それなら、待つのがいいのだろう。

 私の頭を撫でて、魔王は微笑んだ。


「よし。行くか」

「ええ」


 いつの間にか纏めされていた荷物を持って、魔王は立ち上がる。

 私の荷物は身に着けている物だけなので、部屋を出る魔王にそのままついて行く。

 宿のカウンターには来たときと同じように女性が座っていた。


「あらぁ、もうおかえりですかぁ?」

「ああ。用事が出来たのでな」

「そうですかぁ。またいらしてくださいねぇ」


 代金を払って、そんな話をして宿を出た。

 国から出て少し進んだら、魔王に抱えられて空を進む。

 島、と言っていたし、周りは海なのだろう。


「ねえ、ベルディ」

「何だ?」

「釣り、出来るかしら」

「ああ。時間もある。教える故、大物を釣るか」


 そんな話をしている間に、視界に入るものは海だけになっていた。

れっつのんびり釣りライフ

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