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13 それは、恐ろしいものでした。

 牧場を後にして、昼食を食べるために街を散策する。

 今回は軽食をいくつか摘まむらしい。


「何か目的のものがあるの?」

「ああ。ルディアでも食べられるものをいくつか知っている」


 魔王に手を引かれて市場を進む。

 人の多い市場だからか、獣のような姿をした人も多い。

 見た事のない獣の姿を見て、視線を釣られながら魔王について行く。


 あまり見過ぎるな、と言われていたので、一点を長く見つめることはせずに視線を彷徨わせる。

 しばらくそうしていると魔王が立ち止まった。

 背中から顔だけ出して前を見ると、湯気の立つ屋台がある。


「あそこ?」

「ああ」


 人の通りが途切れた時を狙って屋台に近付き、魔王が会計をしているのを横目に屋台の中にある鍋の中を覗く。

 中には黄色い液体が入っていて、その中に複数の茶色いものが浮いている。


「ルディア」

「なあに?」

「移動しよう。向こうに座れる所があるらしい」

「分かったわ」


 魔王の手には小さな袋が2つ握られている。

 これが買った物なのだろう。


「ほれ。気を付けろ、熱いぞ」


 机と椅子が大量に置かれた一角にたどり着き、席に座ると魔王が持っていた袋を1つ渡してきた。

 袋の中には鍋の中で浮いていた茶色いものが入っていた。

 一口齧ると、口の中に予想以上の熱量と旨味が一気に広がる。


 あまりに熱くて涙までにじんできた。

 私がどうにか口の中を冷まそうとしているのを、魔王は笑いを堪えながら眺めている。


「だ、だから、熱いと言っただろう……」


 半分笑いながら言う魔王に恨みの籠った目を向けながら、口の中を冷まして齧った分を呑み込む。

 魔王は楽しそうに笑って、どうだ?と聞いてきた。


「こんなに熱いとは思わなかったのよ」

「そうか。だが、美味いだろう?」

「……ええ」


 何となく悔しいが、これはとても美味しかった。

 あんなに痛い目を見たのに、食べるのをやめようとは思わない。

 冷ましながら横目で魔王を見ると、魔王は平気な顔をしてそのまま齧っている。


「何だ?」

「熱くないの?」

「魔王故な」

「そうなの……」


 魔王という言葉を便利なものとして扱っている気がする。

 だがまあ、そう言われてしまうと納得するので、それが大体の理由なのだろう。

 冷ましながら小さく齧って、口の中をこれ以上傷めないように食べ進める。


 最初の一口で口の中を痛めてしまったようで、何だかとてもヒリヒリするがこれはいつまで続くのだろうか。ずっとこのままだと、流石に辛い。

 私は冷ましながら食べているが、魔王は冷ます必要がないので食べ終わるのはとても速かった。


 私が食べ終わるのを待ちながらどこかを見ている魔王の目線を追うと、列の出来ている屋台がある。

 これ1つではお腹は満たされないし、次はあれだろうか。


「ねえ」

「何だ?」

「これ、どうやって作るの?」


 最後の一口を口に放り込みながら尋ねると、魔王は袋を回収しながら腰に下げている袋を漁る。

 漁りながら答えてくれた。


「肉を刻んで油で揚げている」

「あぶら」

「ああ。植物の種や動物の肉などからとれるものだな。ほれ」


 魔王は言いながら、小さな容器に入った白いものを見せてくれた。

 これがあぶらなのだろうか。


「……白いの?」

「固まっていると白いな。熱すると溶けて黄色になる」

「とけ、るの」

「ああ。あの屋台の鍋の中の液体はこれだ」


 不思議なものがあるものだ、と思ったが、これは一般的なものなのだろう。

 私が知らなすぎるだけだ。


「これは食用ではないが、食用を買って一度何か揚げてみるか」

「簡単に出来るものなの?」

「ああ。火傷にさえ気を付ければいい」

「やけど」

「火などの熱いものに触れた時に出来る傷だ」

「口の中が痛いのはそれ?」

「そうだな。……どれ、見せてみろ」


 言われて、魔王に向かって大きく口を開く。

 見て分かるものなのだろうか。

 魔王は口の中を軽く確認して、筒を差し出してきた。


「これは?」

「中に水に溶いた薬が入っている。飲んでおくといい」

「分かったわ」


 栓を抜いて中身を飲む。

 薬というから苦いのかと思っていたが、味はしなかった。


「この後はどうするの?」

「そうだな……市に戻ってもいいが、まだ空腹だろう?」

「そうね」

「なら、何か買って来よう」


 立ち上がった魔王について行くと、向かったのは先ほど見ていた屋台だった。

 今も人が並んでいる。なんなら、さっきよりも列が長くなったかもしれない。


「これは何の列?」

「たこ焼きだ」

「たこやき」

「ああ。小麦粉の生地にタコを入れて焼いたものだ」

「たこ」

「見た事が無いか?」

「ええ」

「なら、今度釣りに行こう」

「釣れるの?魚?」

「魚ではないな」


 そんな話をしている間に列は短くなっていく。

 屋台の中が見える位置に来たので、そっと目を向けると丸い窪みに色のついた液体が流し込まれていた。

 その横には茶色い丸いものがたくさん出来上がっている。あれがたこ焼きだろうか。


「美味しいの?」

「ああ。時々食べたくなる」


 魔王がそういうのだから美味しいのだろう。

 そう思って期待を膨らませていた私は、たこ焼きに2度目の火傷をさせられた。

 なぜこの国の食べ物は、こんなに恐ろしいほど熱いのだろうか。

食べたものはコロッケとたこ焼き。

お腹すきました。

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