表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/41

読めない男



会場が真っ暗になりド派手はジャケットを着た男の人が嘘くさい笑顔で

最終的なカップルの発表を始めた。


それほど多くのカップルは誕生しなかったと付け加え、それを聞いた時

一瞬、自分だけが彼の番号を書いて実はあっちは書いてないという

見事な滑りっぷりならどうしよう・・・と違う意味でドキドキが高まっていた。


一番最初に呼ばれたのは和江と内田さんのカップルだった。

周囲の大袈裟なピーピーという口笛の中、腕を組んでスポットライトに照らされ

ニコニコと微笑みあっていた。


「ちょ、、真紀!アンタも吉沢さんの番号書いたの?」

「え?当たり前でしょ」

「でも、、二人ともカップルになって私だけ一人で帰るってなったら・・・

 どうしたらいいの?」


「はぁ?アンタは一番最初に折原さんとって話になってたじゃない」

「けど、、、もしかしたら違うかもしれないし〜」

「大丈夫でしょ。なに心配してんのよ。あ、、次は私じゃない?」


もう決まっているかのように真紀はステージの近くに歩きだし、

アイコンタクトで吉沢さんと軽く手を振っていた。


(ヤバい・・・。どうしよう)


案の定、次のカップルは真紀達で嬉しそうに腕を組んで番号を読み上げられていた。


そんな姿を見ながらドキドキしてステージを見ていると後ろからドンッ!と背中を押された。


「うわっ!」

「なにキョロキョロしてんだよ」


振り返ると折原さんが後ろにいた。


「えっ、、、いや。その、、、私一人で帰るってなったらどうしようかなって・・・」

「は?」


突然、グイッと頭を鷲掴みにされ自分の顔をグッと寄せ

「お前・・・俺の番号書いたんだよな?」と真面目な顔で言われた。


「あ、、、はい」

「ならいい」


ニコッと微笑む顔と、そんな男前な仕草に頭の中でドカーン!という音がしたような気がした。


(ちょ、、、そんなことしないでよ!口から内臓でちゃうじゃない!)


瞬間的にブワッと汗をかき慌てて目をそらした。

が・・・気がつくとガッチリと手を繋がれていて心拍数が振り切った。


「手!な、、なに!」

「お前はガキみたいにウロウロするから捕まえておかないとな」


(ダメだ!この手の男に異常なくらい弱い・・・)


バクバクする心臓を押さえることもできないまま繋がった手を見て、また汗が出た。


「カッパ・・・」

「えっ?」

「お前の手。カッパみたいになってるぞ」


クスッと笑いながら繋がった手をもう一度力を入れキュッと握った。


「カッパって!アンタ、カッパの手を握ったことあって言ってんでしょうね!突然手なんか繋ぐからビックリしただけよ!」

「へぇ〜。もしかして手を繋ぐの久しぶりだったりするのか」

「そ、、そんなこと無いわよ!」

「ふ〜ん」


クスクスと笑う顔に恥ずかしくて下を向いた。


「そんなに緊張するなよ。お互いノリ気じゃない者同士、美味い飯食って帰るだけだろ?」

「あ・・・まぁ」


やっぱりノリ気じゃないってことは・・・この場だけってことなんだろうな。

私ってば何を期待していたんだろ。バカらしい。


「最後のカップルは男性2番と女性7番の方です。どうぞステージに〜」


アナウンスに顔をあげると会場が妙に沸いて大騒ぎになっていた。

その大騒ぎの意味が分からず折原さんに手を引かれるままにステージにあがっていった。


「おめでとうございます。こちらのカップルは第一印象同士のカップルで〜す」


ビカー!と光るスポットライトが強すぎて目を開けていても真っ白な光しか見えずに目を細めて前を向いた。


「では。携帯の交換をどーぞ」


「えっ?なにが?」


いきなり渡された紙に折原さんを見ると、もうサラサラと自分の番号を書き込んでいた。


「ほら。お前も書け」

「あ、、、うん」


慌てて自分の番号を書き折原さんに渡した。


「これ、嘘じゃないよな」

「うん・・・」

「よし」


またさっきように頭に手を乗せ、ワシワシと撫でニッコリと微笑んだ。


(ノリ気じゃないなら、そんな期待させる笑顔でこっち向くな!これだから男って信用できないんだよな〜)


「では恒例の行事になりますが、第一印象同士のカップルにはここで

 キスをしてもらいま〜す」


突然入ったアナウンスに驚いて折原さんの顔を見た。


「さっき元気に言われたんだ。そうらしいな」

「ちょっ!そんなの困る!」

「別にキスの経験無い訳じゃあるまいし・・・。しないとステージから降りられないぞ」


ステージ下を見るとみんなワクワクした顔をしてこっちを見ていた。

視界に入った真紀や和江ですら手を上にあげて冷やかしの真っ最中だった。


「大丈夫だ。舌は入れない」

「当たり前よ!」


グッと顔を近づける折原さんにギュッ・・と目を瞑ると

フワッと額に何かが当たった感じがした。


「すいません。これで勘弁してください」


アナウンサーに笑顔で言う折原さんに会場はブーイングなのか歓声なのか分からないくらい大騒ぎだったけれど、なんとかこんな沢山の好奇の目の前での見世物がやっと終わった。


「口のほうが良かったか?」


ステージを降りる時に笑いながら言う折原さんに「まさか!」と怒った顔をして答えた。

そのまま会場が盛り上がる中、カップルになった3組だけ違うドアから送り出され

タキシードを着た人に案内されるがまま最上階のレストランに続くエレベーターの

前に通された。


「では、ここでエレベーターをお待ちください。本日はおめでとうございました」


スマートな笑顔でタキシードは今来た通路を引き返し、去って行った。


まだボ〜としたまま黙っていると目の前では真紀も和江もしっかりと腕を組み

私と折原さんだけがポツン・・と立っていた。


開いたエレベーターには他にも人が乗っていて、私と折原さんは遠慮して

次のエレベーターを待つことにした。

パチンと閉まったエレベーターのドアに映った自分の顔が真っ赤で慌てて

顔をパタパタと冷やした。



「なんだか大騒ぎだな」

「えっ、、、うん」


突然二人きりになり、会話に困りながらあたりをキョロキョロと見ながら

何を話せばいいのか動揺していた。


「さっきの携帯、本当に本物?」

「え、、、そうだけど、、、。普通は違うの書くの?」

「さぁ?俺も初めてだから分からないけど元気が前に渡されたのは違ったって言ってたから、嘘もアリなのかと思ってな」


「私が貰ったのは、、、嘘?」

「お前は?」

「私は、、、本当だけど・・・」

「俺も本物だ。別に嘘をつく必要も無いだろ」

「ま、、まぁね」


ということは・・・今後もこの人から連絡が来るのかな?

そのうちもっと親密になったりするのかな?


隣で澄まして立っている折原さんの顔をチラチラ見ながらそんなことを考えた。


「お前、彼氏とかいないのか?」

「えっ?」


(なに?いないっていったら、、、もしかして立候補とかすんの?ちょっと!どうしよう。

 そりゃ、、、最初からかなりタイプだけど・・・)


「い、、いたら、、こんな所になんか来ないわよ」

「結構いるらしいぞ。彼氏がいても」

「え?そうなの」

「恋愛と結婚は別ってことだろ。やっぱり安定した生活とかってのが良いんだろうな。

 女って奴は」

「ふ〜ん・・・」


(なーんだ。ただの話の繋ぎか・・・)


「お前さ・・・。よく俺のプロフィール見て選んだな」

「は?」

「あの年収や職歴でよく俺を選んだなって話」

「あぁ・・・。まぁ、、、」


本当の所は彼のプロフィールなんて全然見ていなくて、仕事も何をしている人なのか

年収だっていくらなのか見ていなかった。

いまさらそんなことを言ってもいいのかな・・・


「何番目かの女なんか年収見た瞬間に人の目も見ないで適当に話を合わせていた奴もいたし、仕事の話もバカにした言い方した奴が多かったな。やっぱ世の中金なんだろうな〜」


「あの・・・」

「ん?」

「折原さんって、、、なんの仕事?」

「は?お前、、、見てなかったのか?」


「ごめん、、、その、、、私はあんまり相手の仕事とか年収とか、、、興味が無くて。その、、仕事なんかさ本人がやって楽しいなって思う仕事が一番なんじゃないかって思うんだ。そりゃ給料だって高いに越したこと無いけど、嫌な仕事して毎日ギスギスするくらいなら、安くても楽しいのが一番じゃない!私だってそんなに沢山のお金なんか貰ってないけど、毎日楽しいしやりがいもあるし、これでいいかな〜って思ってるもの」


ちょっとだけ驚いた顔をしてから折原さんはクスクスと笑いだし、開いたエレベーターのドアを押さえながらエスコートしてくれた。

最上階のレストランに到着する間、折原さんは小さく笑いながら前を向いていた。



「俺の年収は250万以下。家の家賃5万のアパートでワンルーム。車もガタガタのポンコツ車だ」

「へぇ・・・。苦労してるんだね」

「それでも俺とカップルになって良かったと思ってるか?」

「まぁ・・・。別に関係無いかな。私だって似たようなモノだもの」


それに・・・今日だけの偽カップルだしね。


開いたエレベータを先にスタスタと出ていき、先にレストランに入っていく折原さんの背中を見ながら、慌てて後を追った。


「お前やっぱり面白いな」

「へ?そうかな」

「あぁ。こんな最悪な経歴聞いても平気なんだな」

「そんなに最低でもないじゃない。ちゃんと仕事があって住む所があって、車もあるなら問題無いでしょ。そんなに卑下しなくていいんじゃない?」


また私の言葉にクスクスと笑いながら折原さんは先に歩いて行った。





高級感のあるレストランに入ると遠くの席には、もう真紀や和江が澄ました顔をしてグラスを合わせているのが見えた。

私と折原さんは夜景が見える少し離れた席に案内された。


シャンパンに豪華な食事・・・

会費が安かったわりには得をしたような料理に大満足な顔をして口を動かしていた。


「色気ゼロって感じだな・・・」


その声に顔をあげるとこっちを見てクスクス笑っている折原さんがいた。


「な、、なによ。別に私達は興味が無い者同士の偽カップルなんだから、ご褒美の食事くらい真剣に食べてもいいじゃない」

「そりゃそうだ」


少しくらい・・・期待していたけれど、どう見ても私に興味があるようには見えない。


「そういえば。お前って仕事は何してるんだ?」

「モゴッ、、、出版社、、ングッ、、、勤務」


口いっぱいに肉を詰め込みながら答えた。


「へぇ〜。どこの」

「カスタネット文庫」

「マジで?」


驚いた顔をする折原さんに肉を飲み込みながら頷いた。


「それがどうしたの?」

「いや、、別に」

「なによ。フリーターとでも思った?これでも有名作家の担当してるんだから!」

「例えば?」


「えーとね。私の担当の中で一番売れっ子は〜・・・柚木正也先生かな。

 少しは名前が知れているとは思うんだけど。知らない?」

「あぁ・・知ってる。ふ〜ん柚木の担当なんだ」


(なぜに呼び捨て・・・)


「仕事に没頭しすぎて婚期を逃しそうってやつか」

「違うわよ!失礼ね。私は自分の意思でしないだけよ!」

「へぇ〜。まぁ、、そう言うほうが聞こえはいいよな」


(なにこいつ!ムカつくんだけど)


顔だけ見ていれば格好いいと思っていたけれど、いちいち噛み付いてくる所はムカつく。そして、、なにげにちょっと当たっているのが痛い。



私は2年前まで本当に心から好きだった人がいた。


みんなに堂々と紹介できなかったけれど、きちんと清算して晴れて世間の目を気にしなくなったら、真紀や和江にも彼に会って欲しかった。


堂々とできなかった理由は彼に奥さんがいたから・・・

でも、悲観的に不幸な女を気取るとか、そんなんじゃなくて本気で彼の言葉を信じて

彼とこれからの人生を歩むことを信じて疑わなかった。


でも、紙一枚のことだと思っていたのに、その紙は私が想像していたよりも

遥かに重く大きなことだった。

イロイロなことがあり、それでも二人の気持ちは変わることが無いと思っていたのに、

彼が最後に選んだのは私では無く、散々悪口を言っていた家族という名の括りに入る奥さんだった。



「・・・・なのか?」

「えっ?」

「聞いてなかったのか?」

「あ、、ごめんなさい。なに?」


嫌なことを思い出して記憶が飛んでいた。


「明日、予定あるかって聞いたんだ」

「明日?別に・・・無いけど」

「元気からメールで明日みんなで遊びに行こうって。どうする?」

「あ、、うん。大丈夫だけど」


折原さんは短い文章で少し離れた席の内田さんにOKのメールを入れて

またこっちを見た。


「トリプルデート・・・ってことらしい」

「ふ〜ん。あっちは盛り上がっているみたいだね」

「お前って、、、なんか冷めてるな」

「そう?普通じゃない」


きっとこんな出会いも、数回遊んでなんとなく連絡を取らなくなって終わりになるんだろうし、別に真剣に考えることも無い。

ドキドキした分だけ後から損をした気持ちになるくらいなら、最初から期待なんかしないほうがいい。


「前の男に手痛く振られたって所か?」

「はぁぁ?どうでもいいでしょ!」

「ハイハイハイハイ・・・」


(やっぱりムカつく。つーかドストライクで更にムカつく)


もうすぐ30歳。いまさらトリプルデートにあまり心が踊らない週末が過ぎていった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ