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知られる過去



ドアが開きレイさんと目が合うまので数秒間・・・・コマ送りのような時間だった。


人間は本当に驚いた時、体が固まるんだなってこんな時なのに思っていた。


お互い言葉を交わすこと無く黙って見つめあい、数秒してからこの事態に気がつき気持ちが焦ってきた。


(ど、、どうしよう。どうしてここにレイさんがいるんだろう。なんとかして海人がいることを隠さなきゃ!)


慌てながらもつい目が玄関にある海人の靴にいってしまい、その視線をレイさんも追いかけジッ・・・と海人の靴を見てから私の目を見た。


その仕草にもうバレているのだろうと思ったが、何をどう言えば良いのか分からず、頭の中がパニックになっていた。もう少し簡単に嘘をつける人間であればペラペラと適当なことを並べ、この場を軽く切り抜けられるのに・・・・

もう訳が分からなくて軽く頭の中は現実逃避しそうになっていた。


あまりに慌てて玄関の電気を点けるのを忘れていたせいもあり、薄暗い中で会話もしない私とレイさんが妙に滑稽だった。

サッ・・と光が差し目の前のレイさんがハッキリ見えたと思った瞬間、リビングのドアを開け海人が玄関に顔を出した。


(ヤバっ!)


慌ててドアを閉めようとしたが、もう手遅れだった。

そんなに広くもない部屋だもの、見間違いでした~なんて言える訳も無く、後ろから顔を出した海人を見つめるレイさんの視線をヒヤヒヤしながら見ていた。


「レ、、レイさん!違うんです!」


なにが違うのか自分でも意味が分からないけれど、慌てた私の口からそんな言葉が飛び出した。


その言葉と同時にレイさんが駆け足で消えていくのを見て、慌てて追いかけた。

彼女の後ろ姿を見ながら、転んでお腹を打ったらどうしよう・・・とか

またショックで流産したらどうしよう・・・とか、そんなことばかりを考え、捕まえた後の説明なんかまったく頭には浮かばなかった。


外に出たレイさんに追いつき、「待ってください!」と手を握った。


振り返った彼女の顔を見て、やっぱり何も言えなかった。


ハァハァ・・・と息が上がり、私を黙って見つめるレイさんに、何から伝えたら良いのだろうと頭の中を整理しようとしたが、到底こんな状態では無理な話で。ギリギリまでなんとか切り抜けられたらいいな・・なんて思っていた考えは全部吹き飛んだ。


「本当のことを言います!だから聞いてください」


どこから説明すれば良いのだろう・・・。頭の中がグチャグチャだけどキチンと今の状態だけは知って欲しい。

確かに昔の海人との関係を認めるけれど、今は違う。


認めていいの?

瞬時に私の頭の中にその言葉が浮かび、言葉が止まってしまった。

過去を認めるということ。それはきっと折原さんにも知られてしまうということだ。

私が一番恐れていたことが今、現実になろうとしている。


レイさんの手を掴んだままただ黙って目を見つめ、私の頭の中はグルグルと色んなことが回っていた。

こんな土壇場なのに、私はまだ嘘をつこうとしている。目の前の人がこんなに悲しい顔をしているのに・・・まだ自分のことが一番大事だって思っている。



「お前と一緒にいると楽しいよ」


頭の中で笑う折原さんが浮かび、どんどんと胸が苦しくなる。


(これは罰だ・・・・)


言葉が出ないまま立ち尽くしていると横をスッと誰かが通りレイさんの腕を取った。


「帰ろう」


突然海人が後ろからレイさんの腕を取りそのまま歩いていこうとする姿に、どう言えばよいのか分からず二人を黙って見つめていた。


「離して!」


海人の腕を振りほどこうとするレイさんに海人は冷静な態度で彼女を見つめていた。


「説明は帰ってからする。こんな場所で大きな声をだすな」


まるで自分は何一つ悪いことなどしていないかのような態度の海人に違う意味で驚いていた。

そしてその態度に素直に従うレイさんにも・・・


二人が去っていく姿を見ながら、なんだか体の力が抜けその場に座りこみ呆然としていた。

もう隠し通すことなんか無理なんじゃないか・・・

折原さんにバレてしまうのは時間の問題じゃないのか・・・


これからレイさんと海人の間でどんな話になるのだろうと思うだけでソワソワして黙って座っていることができなかった。時計を見るともう11時・・

こんな気分で眠りにつくことなんか絶対できないだろう。

自然と体が震え気がつくとガタガタと小さく自分の体が震えていることに両手で体を覆い家までの道のりをトボトボと歩き出した。


私はこのことを折原さんに素直に言うべきなんだろうか。

それとも今日の出来事を海人が上手い具合にレイさんに誤魔化すのを待っていたほうが良いのだろうか。


「良い訳無いよね・・・」


きっと海人はまた私に何かしら話しを持ちかけてくるかもしれない。いつまでもこんな風にギリギリに切り抜けられることが続く訳が無い。

でも・・・本当のことを言って折原さんが去っていってしまうことが一番怖い。


誰にも相談できないし、解決できるのは自分だけなんだろうと分かっていても行動することができず、いつまでも箱に入ったロールケーキを見つめていた。


ジッ・・としていると悪いことばかりを想像してしまい、居ても立ってもいられなくなりそうで、嫌なモノを洗い流すかのようにお風呂に入った。けど、やっぱり頭の中は不安ばかりでいつまでも心が重くスッキリした気分にはなれなかった。


お風呂から出てため息をつきタオルをかぶったままソファーにドサッと身を落とした。


(今になってこんな風になるなんて・・・)


海人と一緒にいた時間は今になれば後悔だけかもしれない。

でも、あの時の私にはそれがすべてで誰に恨まれても平気なくらいの気持ちだった。


思い返せば私は幸せでは無かったはずなのに、それでも海人のことを信じていた・・・

目を瞑り深いため息をつきながら時間が過ぎていった。



翌日。ほとんど寝ていない状態のまま出社をし頭がガンガンしている中、午後の外出の時間になった。

どんな顔をして折原さんに会えば良いのだろう。

インターホンを押すことができないまま立ち尽くし、ドキドキとした心臓を押さえながらその場に立っていた。


どうれくらい立っていただろう・・・

後ろから歩いてきた人の足音に我に返りインターホンを押した。


「風間です」


私の声にいつも通りに返事も無くスーと開くドアを通りエレベーターに乗り込んだ。

こんなにも心臓が痛くなるほど鼓動していることが後ろめたい証拠だ。


部屋に入りパソコンに向かう後ろ姿を見ながら言葉が出なかった。


「ほらよ」


クルッと振り返りポ~ンとCDを投げる折原さんに慌ててキャッチした。


「あ、、ありがとうございます」

「今の俺は正也よりも良い先生だろう。キチンと締め切りも守るし、今週もなかなか良いデキだ」


ニコッと笑う顔を見て、グッ・・・と涙が溢れてきた。


その笑顔にもう嘘を突き通すことが苦しくポロポロと目から涙が零れていった。


「どうしたんだよ・・・お前」


突然泣き出す私を見て折原さんはちょっと驚き、目を合わせることもできず下を向く私の側に来た。


「どうして泣いている」

「・・・・・・」


理由を言えばきっと終わってしまう。

それが怖くてずっと隠していたけれど、今の私は正面からこの人に向き合っていないのだろう。


「ごめんな、、さい、、」

「あ“?」

「私、、折原さんにお話しなきゃい、、けない、、ことがあって、、、」


私の言葉に折原さんは肩を押し、ソファーに座らせてから口を開いた。


「いったい何だよ。いきなり」


答えたいけれど涙で言葉が詰まり唇を噛み締めながら折原さんを見つめていた。


「泣くほど辛いことなら言わなくてもいい」

「で、、も、、、」

「俺がいいと言っているんだ。俺の前で簡単に涙を見せるな」


そんな風に言われても簡単に「分かりました」と流せる話じゃない。いつか知られてしまうのならば、今このチャンスに自分の口から伝えたほうがきっと良い。


「私、、、」

「お前は本当に人の話を聞かない奴だなぁ・・・。もういいって言ってるだ、、、」

「誰かの口から伝わるのが嫌なんです!自分の否は自分で認めないと!」


話を途中で止め折原さんに向き合い大きく深呼吸をしてから目を見つめた。



ジッと見つめられる目に次の言葉でこの幸せが壊れるんだと思うと胸が苦しくなった。

そう思うだけで次の言葉がなかなか出ず、体の奥から涙が溢れてくるような気持ちになった。


一度は言おうと決めたのに、どうしても言うことができずなかなか口が開かない。

手をギュッと堅く握り折原さんを見つめながら、胸がいっぱいになっていた。


「真羽・・・」


折原さんの言葉にもう一度目を見つめ、自分に(今度こそ!)と気合を入れつつ口を開こうとすると先に言葉を止められた。


「すべてを知っていることが正しい訳じゃない。知らないことがあって当然だ」


それが普通のことなら私だってこんなに悩まない。けれど、きっとそれほど時間が空かないうちにレイさんからなんらかの話が折原さんに伝わってしまうかもしれない。

そして事実が曲げられている可能性だってある。


「でも、、、」

「お前が言いたくなってからでいい。言えないということは時期が今じゃないんだ」

「そうじゃなくて、、、」


目を真っ赤にしながら折原さんを見つめていると、いつもよりも倍の力で頭を鷲摑みし、


「そんな顔するな!大丈夫だ。お前が思っているよりも俺は何を聞いてもきっと平気だ」


そう笑ってガシガシと大げさに髪をグチャグチャにして悪戯をした。


結局、、、私が臆病なせいでこんな告白のチャンスを逃してしまい、言えないまま折原さんの家を後にすることになってしまった。


帰り道をトボトボと歩きながら「はぁ・・・」とため息をつき、頭の中は色んなことでイッパイになっていた。

あの後の海人とレイさんの話はどうなったのだろう・・・

本当に折原さんは私と海人の過去を聞いても平気だと言ってくれるだろうか・・・


考えるだけじゃ何も解決しないのに、今の私には何も行動できない。

一番大切だと思える折原さんが自分の元から去ってしまうのでは・・・という不安に本当のことが言えないでいる。これは彼と向き合っているとは言えないんじゃないだろうか。


このまま何事も無く時間が過ぎて平和に過ごせるとも思えない。

けれど私の不安をよそにあれ以来、海人からの連絡もレイさんからの連絡もプッツリと途絶え、何も無かったかのように平穏な日々が続いていた。


折原さんもあの日以来、私の話に触れてこない。どこかでこのままでいられたら・・・なんてズルイことを考えてしまう。


(あの後、海人とレイさんの間で仲直りしたのかも・・・)


自分の都合の良いようにそんなことを思いながら毎日が過ぎていった。


折原さんとの間も順調で仕事も問題ない。毎日が充実し、一時の不安が嘘のように毎日が忙しく過ぎていた。けれど、心のどこかでレイさんのことが引っかかっていた。


(レイさん・・・・大丈夫なのかな)


そう思っても自分から進んで連絡を取れる立場でも無く、ただ漠然と心配をすることしかできなかった。

その心配が本当にレイさんのことなのか。それとも自分に降りかかって来ないことを願うのか、

自分でもハッキリと分からなかった。


このまますべてが夢だったらいいのに・・・・


















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