カップル成立?
30分ほどして場内が暗くなり、しなくても良いようなスポットライトの中
タキシードを着た係の人がなにやら紙を見ながら話始めた。
「ただいまより第一印象同士の特別フリータイムに入りますので、
番号を呼ばれた方はこちらの特設スペースに移動ください」
さっきよりもガヤガヤと場内が活気に満ちていた。
「なにこれ?さっきの3人書き出したのがヒットしたら・・・ってこと?」
たぶん私達に内緒でいつも参加してそうな真紀に聞いた。
「そうそう!ここでジックリと話をして意思の疎通をしておけば、
後から本物のカップル成立に繋がるのよ〜」
「ふ〜ん」
内心、慌てていたとしても、あの軽そうな内田さんの番号を書いてしまった
ことをほんの少しだけ後悔した。
思ったよりも、お互いヒットする人が少ないのか、
あまり多くのカップルは読み上げられなかった。
「女性7番と男性2番。あと7番の女性は男性17番ともお話ください」
自分の胸についている番号を見ると7番・・・・
3人書いたうちの2人とヒットなんて、確率高いじゃん!
そう思いながら和江と真紀に「んじゃ、行ってくるか〜」と声をかけ
特設というわりにはお粗末なそのスペースに歩いていった。
やはり内田という人がニコニコして手を振っていた。
と・・・その後ろに実はなんとなく気になった彼の友達の折原さんの
名前にも○をつけていた。
「あ、どーも」軽く二人に頭を下げた。
「つーかよぉ。なんでお前が彼女のこと書いている訳ぇ?」
「別にぃ?だって誰書いていいか分からなかったし、それなりに彼女と
会話が弾んだって気がしたからさ」
それは・・・確かにそうかもしれない。
でも、彼は私のプロフィールなんか全然見ていなかったのに・・・
いや、、、私も見てないけど。
「ま、仕方ねぇから先にどーぞ。大御所は後からジックリいくから」
内田さんは折原さんにそう言ってロビーに煙草を吸いに歩いていった。
「じゃ。取り合えず行こうか」
折原さんの声に、訳が分からないまま着いていった。
適当な感じにセットされた椅子にお互い向かい合って座り、
いまさらながらこの変な間に微妙に緊張した。
「まさか俺の番号書いてくれるとはね」
「いやっ、、、私、、初めてで。どうしていいか分からなくて!あの紙って
適当に印象を書きとめておく物だと思って悪戯書きしていて、、
その、、、えーと、、、」
悪戯書きと折原さんを選んだことは全然関係無いのに、
急に恥ずかしくなってアワアワと無駄に話だした。
「何書いてたんだ?」
「えっ?そうそう!それがね・・・。結構失礼な人が多くて、
「ばーか」とか「無理!」とか散々書いていたら、回収って言われてビックリしちゃった」
「悪い奴だな〜」
私の話にクスクスと目を細めて笑う彼の顔を見て一瞬ボ〜としてしまった。
あ・・・この人笑うと感じが随分違うんだな・・・
凄く優しそう。
「やっぱ内田狙いな訳?」
「えっ?ううん。全然そんなんじゃないけど」
「でも、、番号書いただろ?」
「それは、、、そのぉ・・・」
ディナーが目当てと言っていいのかな。
「アイツ結構モテるからなぁ」
「違う!ただ・・・カップル成立したら、、、食事って言うから」
「まさか・・・それだけ?」
「う、、、うん」
目の前の折原さんはその事実に大爆笑をしていた。
「だってー!ここって高そうだし、美味しいかもなって・・・」
「おもしろい!お前いいわ!元気がこの事実知ったら死ぬと思うけど」
「だって言ったのはアッチだもん!」
真面目な顔に戻そうとしても、思い出すのか終始折原さんは
口元をニヤつかせて笑っていた。
「で・・・。俺は?」
「え?」
「俺はどうして選んでくれたの?」
「いや、、、別に。ただ、、、あまり緊張しないで話せるかな〜って」
「ふ〜ん」
「「ふ〜ん」って!じゃ、、じゃあ!そっちだってどうして選んだのよ」
「俺は、気に入ったから」
え・・・
えぇ・・・?
えぇぇー!
「ま、、また〜。嘘ばっかり。折原さん達って口上手いんだから〜」
顔をヒクヒクさせながらも、、、動揺しているのがバレないように軽く笑顔で答え、
そんな言葉に舞い上がりそうな自分を必死で押さた。
「今日話をした中で俺も一番緊張しないで話せたから。他の人達は真剣すぎて若干引き気味って感じだからな」
「あ・・・そう、、なんだ」
ということは・・・私は真剣に考えてないと見ているんだ?
まぁ、、そりゃこんなパーティーに本気じゃないけど、でも、、それとこれは違うような。
「なら・・・お互い緊張しなかった同士でカップルになってみるか!」
「えっ!」
(な、、なにそれ!これって冗談ぽいけど実は本気だったりしてー!)
「でも、、内田さん、、、どうするの?」
「やっぱ内田狙いなんだ?」
「いやっ!そんなことは無い!」
「じゃあいいだろ。俺は7番って書くよ。お前は?」
「わ、、私は、、、」
(やっぱりこれ本気だって!回りくどい言い方してるけど選んでって言ってるじゃん!)
折原さんの胸についている2番の番号を見てオドオドしながら顔を見た。
「じゃあ、、、2番って書けばいいんでしょ?」
「それはアンタ次第でいいけど」
「なによ、、それ」
(なに?この持ち上げておいて突き放す感じ!駆け引きなの?そうなの?)
「元気がいいと思うならアイツの番号書けば?俺は7番って書くって言っただけ」
「分かった・・・」
「で、どっち?」
余裕のあるニヤッとした顔に自分の顔が赤くなっていた。
「じゃ、後からな。どっちって書くか楽しみにしてるよ」
スッと席を立ち、まだ時間でも無いのに折原さんは隔離スペースを出て行ってしまった。一人取り残された私は顔の赤みを取ろうと必死で手でパタパタと顔を扇いでいた。
2年のブランクは結構大きい。突然あんな風に言い寄られるような感じにこんなに慌ててテンパッテいる自分がいた。
そして・・・あんな風に言われると余計気になってしまう。
「ども!お邪魔しま〜す」
ニコニコした顔で入ってきた内田さんの顔を見て慌てて頭を下げた。
「俺の番号書いてくれてありがとうね。またアイツ余計なこと言ってなかった?」
「えっ、、、別に」
「そう。ならいいんだけど。ったく、、、暇そうだから誘ったのに邪魔しようとしやがって」
ペラペラと話をする内田さんの口元を見ながらも、私の頭の中はさっきの折原さんの言葉でいっぱいになっていた。
「そろそろお時間ですけど」
係りの人の声に我に返り「はいっ!」と返事をするまでの間、目の前の内田さんの話を何一つまともに聞いていなかった。
「・・・・てゆうことなんだ。じゃ、そろそろ行こうか」
「あ、、うん」
(なにが「てゆうこと」なんだろう?ヤバい・・・全然聞いていなかった・・・)
浮かれた感じの内田さんの背中を見ながら、まだドキドキして動揺している自分がまるで純粋な中学生くらいの気持ちだった。
「じゃ、後から頼むよ」
「え?」
「俺のこと選んでくれるんでしょ?」
「あ、、でも、、他にいなかったの?」
「他もなにも〜。俺は真羽ちゃん一本狙いだから。よろしくね」
ウインクをして折原さん達のほうに歩いていく内田さんを見ていた。
よくよく考えれば、きっと内田さんのほうがドキッとする台詞を沢山言っているはずなのに、私はそれには全然反応していない。
(私・・・もしかして折原さんのこと超意識してんじゃない?)
一瞬だけ折原さんと目が合いニコッと微笑みながら軽く手をあげる仕草にまた顔が赤くなりながら、慌てて真紀と和江の所に駆けて行った。
「どうだった?どっちが良かったの」
「そうそう!」
顔を覗きこむ二人を見て、また顔を真っ赤にしながらアレコレ弁解をしていた。
「いやっ!その、、、どうせならお互い緊張しないモノ同士のほうがいいかな〜とか思ってるんだけど、けど最初に言ってくれたのは内田さんであって・・・。でも、、私としてはあんまり本気じゃない方が相手には失礼じゃないかなとか〜。もしも内田さんが本気で相手を探しているなら悪いじゃない?だから〜」
必死になって話す私を見て目の前の二人はジト〜とした目つきをしていた。
「え?なに・・・どうしたの?」
「真羽・・・言い訳してるけどもう決まってんでしょ」
「な、、なにが!」
「だって鼻から内田さんアウトって感じだもの。真羽、好きそうだもんね折原さんて」
「なによ!その、、好きそうって」
「アンタは昔からちょっと冷たい感じの男好きだもの。彼ピッタリじゃない」
ニヤニヤとする二人に更に慌てながら弁解をしたが、アッサリと聞き流された。
「んじゃ真紀、ちょっと助言してこようか〜」
「そうね。先に手を打ったモン勝ちだもんね〜」
二人でニヤニヤしながら向かった先は内田さん達の所だった。
なんだか恥ずかしくて私は側には行けず、チビチビと他の人のフリータイムが終わるまで一人でジュースを飲んでいた。
「お前腹減ってる?」
突然後ろからした声に振り返ると折原さんが立っていた。
「わっ!え?あ〜、、、まぁ」
「そっか。ならちょうど良かったな」
「なにが?」
「ん?だって俺を選ぶって友達が言いに来たから」
「べ、、別にそんなこと言ってない!」
「そう?だってアンタの友達、内田と吉沢に掛け合ってカップルになって食事しようって
もう話はついたみたいだよ?」
「嘘っ!」
「嘘言ってどうするんだよ。だから飯食いたいなら2番って書くことだな。
じゃ、後でな〜」
片手を軽くあげスタスタと去っていく後姿を見ながらドキドキしていた。
それとすれ違いに和江と真紀が戻ってきた。
「ちょっと!アンタ達何言ったのよ!」
「何ってアンタだけカップルになって食事なんて悔しいからあっちの友達に掛け合っただけよ。私は吉沢さんにお願いしたんだ〜」
「私は内田さん〜。えへへ・・・実は案外タイプだったんだ〜」
二人はキャイキャイと提出する紙に各自の番号を書き、これから行く食事のことで話は盛り上がっていた。
(こんな感じなの・・・?オミパって)
「私、、ちょっとトイレ行ってくる・・・」
二人が盛り上がっている中、なんだかどうしていいのか分からずロビーに出て
一服をしに行った。
このままいけば、きっとこの後に折原さんと食事になるのだろうけれど。
何を話せばいいんだろう。そのことを考えるだけで緊張して頭が白くなりそうで
取り合えず気持ちを落ち着けようと煙草に火をつけた。
「ふぅ・・・。なんか緊張しちゃうなぁ。しばらく男の人と二人でガチで食事なんか
ここ最近無かったもんなぁ・・・。けど、きっとこの場だけなんだろうな〜」
それが寂しいような、、でも所詮彼はここで彼女を探そうとかそんな気もなさそうだし。
「隣いい?」
難しい顔で下を向きながら座っていると隣に見知らぬ人が腰を降ろした。
「あ、、はい。どーぞ」
「もう誰を選ぶが決まった?」
「えっ、、、あ。まぁ・・・」
「そうなの?残念〜俺さ、さっきから君と話をしたいなって思ってたんだけど、
なかなかチャンスが無くてさ」
ニッコリと微笑む顔に少しだけ話をしたような、、、でもあまり印象が無いような。
「あ、、、そうなんですか〜」
「一発逆転は無いかな」
「は?」
意味が分からず黙って顔を見ていると、彼はニコニコしたまま自分の番号を指した。
「この番号書いてみない?」
「え・・・。あ〜、、、でも〜」
「俺ならちゃんと君の番号書くよ。カップルになってみない?」
(なんだ・・・このモテ具合は!こんなこと人生にそう無いぞ!)
オドオドしてなんて答えようか考えているとスッと隣に誰かが座る気配がした。
「悪いね。コイツはもう俺とって決まってるんだ」
突然頭にガシッと手が乗り自分のほうに引き寄せる人を驚いて見ると折原さんが
ニヤッと笑いながら座っていた。
「あ。そうなんだ。じゃあ仕方無いね」
アッサリと引き下がったその人が去って行くのを黙って見ていた。
「行くぞ」
グッと手を握られ会場に入っていく折原さんに驚きながらも、実はこんな俺様的な行動をする男に滅法弱い自分がいた。
「いまさら心変わりすんなよ」
「いや、、そんなつもりじゃ・・・」
次々と言われる言葉に心臓がドキドキして、また顔が真っ赤になっていた。
「お前は黙って俺の番号を書けばいいんだ。あっちこっち歩き回ってまた声かけられると困るから、時間まで隣にいろ」
(なにそれ!ちょっと、、カッコイイじゃん!って、、私のバカ!)
広い会場の片隅にある椅子に二人で並んで座り遠くて楽しそうに笑っている和江と真紀を見ていた。
スッカリ内田さんと吉沢さんと打ち解けているみたいだった。
「アイツ等、案外この後も上手くいったりしてな〜」
4人を見ながらニコヤカに言う折原さんに、もしかして自分達も?なんて期待が高まった。
「そ、、そうかもね」
「ま、元気も吉沢も彼女欲しいって言ってたし。それはそれで良かったかもな」
(それって・・・自分もってこと?)
聞きたいけれど、ガッツついているように見られそうで聞けない。
もしも「はぁ?」なんて言われたら・・・軽く死ねる。
けど、、ちょっとくらい、触りくらい聞いてもいいよね・・
「あの、、、折原さんはぁ、、、」
「あ。もう時間みたいだな。じゃ、後からな」
私の言葉は最終のアナウンスにかき消され折原さんは内田さんと吉沢さんの所に歩いていってしまった。
ドキドキしたまま、またはぐらかされスッカリとペースを持っていかれつつ・・・
係の人に最終的な紙を手渡し、隣で楽しそうに盛り上がる友人達を見ながら
久しぶりのドキドキに心が潰れそうになっていた。