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クリスマスプレゼント




「お前のことを好きになってみるよ」





そう言われたということは・・・もう好きなんだろうか?

いまいちそんなこと本人には聞けないし、聞くのも恥ずかしい。

担当もあのままで続行となり、私達の関係もあのまま・・・

甘い言葉も無ければさほど変わったことも無し。


けれど私達の中で変わった事と言えば・・・

折原さんが私のことを真羽と呼ぶようになったことくらい。後は毎度のことながら憎まれ口を叩かれ、毎回バカにされるいつもの毎日だった。

けれど、その状態が私達らしくて普通なんだろうなと感じた。


翌週に控えたクリスマスにプレゼントを買うべきなんだろうと思ったが、何を買うのが一番喜ぶのだろうと最近の悩みはそればかりだった。


部屋の中を見渡してもあるのはきっと私なんかが気軽に買えるような安物じゃなく、どれも高級品。服だって由紀菜さんの店の物ばかりだし、値段は目が飛び出るくらいの金額だし。


(ボーナスが出たとは言え・・・私が買うモノなんか彼は喜ばないんじゃないだろうか)


「はぁ・・・」


ネットで色々折原さんが好きそうなモノを探してみたが、いまいち納得できるようなモノは無かった。


「あの・・」

「なんだ」

「え~と、、今、なにが欲しいな~って思うモノありますか?」

「例えば?」


(だからそれを聞きたいんだっつーの!)


「う~ん。コレといって何か今、「これだ!」ってモノがあるのかな~って」

「そうだなぁ。無い訳じゃない」

「えっ!なんですか?」

「車。オープンカーを一台欲しいなとちょっと思っている」


(普通はちょっとでそんなこと思わないんだ!ばか者め!)


「そうですか。それはそれは・・・」


ガックリと肩を落とし近くにあった週刊誌をパラパラと見ていた。どの本も特集はクリスマスのことばかりで、なんだか自分と彼との差を改めて感じた。


「お前もしかしてクリスマスのこととか考えているのか?」

「え?そんなこと、、、無いですよ」

「そうか。でも、もしそうなら俺はいらないぞ。お返しなんかどうしていいのか分からないからな」


それって・・・一番言ってはいけないことだと思うんですが・・・


「そうですね。分かりました」


甘いクリスマスなんて考えた自分がバカだった。いままで何一つ甘い雰囲気なんかあったことも無いのに、普通の恋人達のようなクリスマスを想像したことが間違いだったんだ。


「けど、一応何か買ってこないとな」


(一応ってなんだ!一応って!)


ちょっとは考えてくれているのかと目をキラキラさせ折原さんを見ると、そんな私の考えを見透かしたのかビシッと目の前に手を出された。


「それは違うぞ」

「何も言ってませんよ!」

「俺達の間のプレゼント交換とかって話じゃない。兄貴達の家に招待されているから、取り合えず何か形的なモノは買わないとなってことだ」

「招待?」


兄貴達=レイさん。

私の頭の中でまたちょっとイラッとした。


「24日に家族で食事をしようって連絡が来てな。まぁ、、俺も実際何をしていいのか分からないし、便乗したほうが楽かと思って」


「便乗って!」


どこかで折原さんはレイさんとクリスマスを楽しみたいと思っているんじゃないかと疑ってしまう。私じゃなくて彼女と。


「仕方無いだろう。来年の今頃には子供が増えている訳だし。せっかく仲直りしたのもあるしな」

「へぇ・・・」


どうせレイさんに誘われたらホイホイとOKするのだろうと思うと、逆に意地悪して二人だけで楽しみたいと言ってやりたくなる。

呆れた顔で書類を見てパーティーの話はそれ以上しなかった。


(何が何でも絶対行くもんか!別に誘われてないけど・・・)


例え今年のクリスマスに一人ぼっちで家にいることになっても、くだらない嫉妬に燃えるよりはマシだ。でも、私じゃなくてレイさんを選んだことにションボリしているのも事実だった。


「お前・・・誤解してないか?」

「なにが誤解ですか?」

「その、、、彼女に誘われた訳じゃない。今回の話は兄貴からだ」

「かい、、、いやっ!お兄さん?」


(危ないぞ!私!)


「かい?」

「いえっ、、、昨日虫に刺されて腕が痒いな~って。まぁ、それはいいとして、お兄さんがどうして?」

「こんな時期に虫?お前の家ダニでもいるんじゃないのか?」

「いませんよ!失礼な!」


「それは良いとして。突然お前と二人でクリスマスと言われても俺は何をしていいのか分からない。だから便乗だ!」


そんなに偉そうに胸を張って言い切る事とは思えないけれど・・・

あまりに多い罵詈な態度に何も言い返すことができなかった。

けれど、海人から言い出したという事実に少しだけ嫌な予感がした。


「それって、、、私も一緒にって言ってたんですか?」

「あぁ。二人で来てくれと言っていた。俺の気が利かないことくらい分かっているからじゃないのか?あれでも兄貴だから」


本当にそれだけなんだろうか。まったく疑いもしない折原さんに嫌だとは言えず、当日は海人の家に行くことになってしまった。


「何を買っていけばいいですか?」

「そうなんだよなぁ・・・。これから見に行ってみるか」

「そうですね。ギリギリまで放置していたら缶コーヒーとか持っていきそうですもんね。折原さんなら」

「バカにするな!俺だってプレゼントの一つや二つ考えられるぞ」


後ろでギャーギャー文句を言う折原さんを無視して外出の用意をして外に出た。

なんだか行くとあまり良いことが起こらないような気がして本当は乗り気じゃなかったけれど、断る理由を考えるほうが難しいと感じた。


「こんなのはどうだ?」


大きな熊のヌイグルミを「どうだ!」と言わんばかりの顔で差し出す折原さんを黙ってみていた。


「それは・・誰にどんなプレゼントですか?」

「いや、、なんとなくクリスマスのリボンつけているし、それっぽいかと思って」

「折原さん・・・クリスマスプレゼントって買ったことあります?」

「お前は俺のことを最高にバカにしているだろう」


店の中で静かに口喧嘩をしながら時間が過ぎた。

でも、こんなことが本当はとっても楽しかった。

人の幸せなんかそれぞれだと自分が分かっていればいい。甘い言葉を沢山言ってくれる人が最高の人だとも思わない。

自分でこの人だと思えた人とちょっとの時間でも一緒に笑いあえることが幸せだと感じられたなら。


「じゃあこれにするか」

「そうですね。無難と言えば無難だと思います」

「この生意気な口をどうにかしろ」


人の頬をグイ~ンと抓りオルゴールの小物入れをレジに持っていく折原さんを見ながら舌を出していた。

ふと横のガラスケースを見ると安物だけど可愛いクリスタルのネックレスが置いてあるのが見えた。


「あ・・・ちょっと可愛いかも」


手に取り首につけてみると思った通りに自分好みだった。


「おぃ。行くぞ」

「はいっ!」


慌ててそのネックレスを戻そうとしたが、急ぎすぎて逆になかなか取れずバタバタしていた。


「万引きしても俺は引き取り役にはならんぞ」

「しませんよ!この歳で!」


首についていた値札を見て小さく「プッ」と笑い留め金を外してくれた。


「どうせ万引きするならもっと高い物にしろ」

「だから万引きなんかしませんよ!ただつけただけです」

「鎖が絡まっている。どんなつけ方したんだよ」

「えー!ただ普通に、、、つけただけなんだけどなぁ」

「もう面倒くさい」


それだけ言ってスタスタと歩き出す姿に「待ってくださいよ!」と慌てながらなんとかネックレスを取ろうとしたが、まったく取れず鏡を見ながら悪戦苦闘していた。


「行くぞ」

「だってまだ」

「もぅいい。買った」

「買った?」

「俺からのクリスマスのプレゼントだ。選ぶ手間が省けた」

「でも、、、」

「お返しなんか考えなくていい。ましてや俺は留め金が外れないなんてバカみたいなことはしないけどな。ほら行くぞ」


(一言多いんだよ)


車の中でも散々バカにされ、おまけに「値札取ってくださいよ!」と頼む私にニヤッとしながら折原さんは無視をした。

マフラーで値札を隠し、首の所がチクチクするのを我慢して買い物を終えた。


「本当にお前は面白いよな。なにか持ってると俺は思う」

「何を持っているんですか!」

「笑いの神がついているんじゃないかと」


クスクスといつまでも笑う折原さんにムカッとしながら洗面台で必死にネックレスを外そうと頑張っていた。


「やったー!取れた!」

「な~んだ。つまらん」

「つまらんて!」

「いつまでその値札をつけて歩くのかと楽しみにしていたんだがな」


1500円の値札を外し改めてネックレスを見ると、やっぱり可愛くてつい顔がほころんだ。


「あの、、、ありがとうございます」

「あ?」

「アクシデントがあったにしろ、これ気に入ったんで嬉しいです」


ニコニコと笑う私を見て折原さんは「ふ~ん」という顔をして値札を手にとった。


「どうせならゼロがもう一つくらい多いので失敗すればいいのに・・・」

「値段じゃないですよ。これがいいと思ったの。どんな形にせよ自分のモノになったのは嬉しいです。バカにされたけど超~嬉しい」


「変な奴~」

呆れた顔をしてパソコンに座る折原さんにニコニコしてコーヒーを入れ差し出した。

それを受け取り黙って人の顔を見ていた。


「な、、んですか?」

「いいや・・・別に」

「またバカにしてるんでしょ~!アレはたまたま・・」


突然グイッと手を引かれストンと折原さんの膝の上に座らされた。


「え?」


「最近、毎日が楽しいなって思うよ」

「は?」

「俺は一人が慣れていたし、それが自分にとって一番良いと思っていた。誰かの顔色を伺いながら時間を使うよりも好き勝手にするのが自分に合っていると思っていた」


今度はキチンとつけたネックレスを軽く手に取り微笑みながら私を見ていた。


「でも、誰かと一緒にいることも悪くないなって最近は思う」


折原さんと私の間には見えないくらい高い壁があるって感じていたけれど、ほんの少しづつでもその高さが変わってきているのかなって思えた。


「本当・・・お前は笑えるよな」


もっと甘い言葉を並べてくれるのかと思ったのに、やっぱり最後の最後にバカにするようなことを言うのがこの人だなと感じながらも、それがこの人なりの愛情表現だとポジティブに考えた。


「でもっ!ちゃんとお返しはします。貰ってばかりじゃ悪いし、これでもプレゼント選びは自信があるんですから」

「ほぅ・・・俺を満足させられるモノを選べるんだ」

「できますよ!もぅ~涙流して「ありがとう」って言わせるもの選んでやるから!」

「ほぅほぅ・・・」


片目を軽く吊り上げニヤッと笑う顔に「できるんだから!」と食ってかかった。


「はいはい。期待してますよ。けどな、バカみたいに金はかけるな。そうだな、、、同じ金額にしよう。値段じゃないんだろう?」

「そ、、そりゃそうですよ!分かりました」



その日。家に帰ってから遅い時間までネットでいろんな物を検索してみたが、やはり1500円の上限じゃ選ぶ物は高が知れていた。


「子供じゃないんだから1500円って~」


それでも自分の胸に光っているネックレスを見るとプレゼントは値段じゃないんだなって思えた。


「何が好きなんだろう」


アレコレと考えたがやっぱり答えは出ず気がつけば24日の当日になっていた。

翌日は会社のパーティーがあり、それに折原さんも出席をすることになっていたのでなんとか24日までに決めようと思っていたのに、結局何も決まらないままその日を迎えてしまった。


外出ついでにデパートに行き色々と物色したが、やっぱりコレといったモノは見つからずトボトボと原稿を取りに折原さんの家に向かって歩いてるとすれ違った人のマフラーが目に入った。


その足で由紀菜さんのお店に行きマフラーを物色していると後ろから声をかけられた。


「真羽ちゃんマフラー探してるの?」

「あ、、いいえ。私のじゃなくて、、、」

「あぁ。和馬の?」

「まぁ、、そんな所です」


サラ~と棚を見て「こんなのは?」と手渡されたのはなかなか折原さんに似合いそうな色のマフラーだった。

そしてチラッと見た値段に(ダメだ・・・)と棚に戻した。


「真羽ちゃんには安くしてあげるからさ」

「でも、、、ゼロを一つ減らすほど安くはできないですよねぇ」

「アンタ!15000円を1500円ってどんだけよ!」

「ですよねぇ~」


弱々しく笑い事の成り行きを説明すると由紀菜さんはゲラゲラと笑っていた。


「ブーツのお菓子でも買ってあげたら?新鮮でそれも嬉しいかもよ」

「また馬鹿にして・・・」

「けど和馬なりの配慮よ。真羽ちゃんは普通のOLだから財布のことも心配してあげたんじゃないのかな。いままでそんなことしたことないし、お金には無頓着な人だからね」

「配慮かぁ・・・」


自分と彼の差をこんな所で感じてしまう。ポンッと高い物を気軽に交換できる相手では無いことに変に気を使わせているんじゃないかと心配してしまう。


結局、散々悩み言われた金額の範囲で買えたモノは新しいコーヒーカップしか無かった。


「こんなもの・・・誰が涙流して喜ぶんだって」


自分で自分に突っ込みをいれながら折原さんの家に行き、スゴスゴと袋を目の前に差し出した。


「あの、、ごめんなさい。結局こんなモノしか買えなくて。その、、もう少し値段に幅があれば、、、良いモノも選べたんだけど、、」


散々言い訳をしている私を無視して袋の中からカップを出した折原さんは黙ってそれを見つめていた。


「ありがとう」

「あ、、いえ。その、、、ごめんなさい」

「どうして謝る?」

「だって、、そんな安物しか選べなくて」


俯く私を見て胸にしていたネックレスを持ち上げ笑った。


「お前はこれが嫌か?」

「え?いいえ!とっても気に入ってます」

「嬉しかったか?」

「はい!けど、、」

「そういうことだ」


ポンッと頭に手をやり微笑みながら顔を覗き込む折原さんにオドオドしていた。


「高い物だけが良い物じゃない。俺は何を貰っても嬉しいぞ。お前が必死で考えてくれたんだろ?」

「それは、、そうですけど」

「何を選べば俺が喜ぶのかなって考えたんだろう?」

「はい・・・」


「それだけでいいんだよ。俺のこと考えながら選んでくれたことが嬉しい。だから金額なんてどうでもいいんだ。大事に使うよ」


彼は私を一人の人として扱ってくれているのに、私はまだ地位とか名誉とかお金があるとか無いとか・・・

そんなことばかりに頭でっかちになり、素直にこの人の言葉を体にしみこませることができない状態だった。


嬉しいはずの彼の言葉もどこか自分が惨めで、気を使わせているんじゃないかってそればかり気になっていた。


相手の人が大事だと想えば想うほど・・・

どんどん見えない鎧を着て背伸びをしてしまう自分がいた。






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