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一歩前に・・・



散々泣きはらした顔はとても人には見せられる状態では無かった。

目は腫れ顔は浮腫み・・・


「最低・・・」


鏡の中の自分に呟きベットに戻った。


「今日は休みで良かった・・・」


一言ボソッと呟き目を閉じて睡眠という現実逃避に旅立った。

眠ってしまえば嫌なことを考えなくても良い。

昨日の辛かったことも、、、、思い出すことは、、、、


そこまで思い出してまた涙がポロッと出てきた。

こんなになるほど折原さんのことを好きだったなんて自分でもちょっと驚いていた。

どこかでいつか失う人だと分かっていたはずなのに、それがあまりに早く実現してしまい受け止めることができなかった。


「また・・・私は男の人を避けるようになっちゃうのかなぁ」


<好きな人ができたら前の男なんか忘れるさ>


そういって笑ってくれた折原さんの顔が浮かぶ。こんな風に辛い気持ちになるから、もう恋なんかしたくないって思っていたのに。

いつの間にか気になって、いつの間にか好きになっていた。


だからと言って柚木先生でこの空間は埋まるのかと聞かれれば無理だと思った。

確かに優しい人だし、凄い人だと思っている。

けど、恋をするには何かが違うような感じがした。


今の私が必要としているのは折原さん以外いなかった。


散々忘れようと頑張ったけれど、結局その日はちょっとのことで折原さんを思い出してはポロポロと泣き、目の腫れが引くことは無かった。


翌日。一日その腫れぼったい顔を見慣れてしまったせいか、さほど驚くことも無く。

もうなんでもいいや~的な感じで出勤をした。


すれ違う人達は(うわ!)という顔をしていたが、もうなんだっていい。

平気な顔をしてデスクに座り淡々と午前中の仕事をこなしていった。


午後からは柚木先生と折原さんの所に行かなければいけない。あまりに残酷すぎるスケジュールだが、そんなことでキャンセルをしたり他の人に頼むなんてことは絶対したくない。


黒板に外出予定を書き込み柚木先生の家に顔を出した。


ドアを開けるなりちょっと引いた顔をした柚木先生に微笑んだ。


「ま、、、真羽ちゃんどうしたの?」

「どうかしましたか?」

「目・・・一重」

「逆整形です」


笑えないギャグを言って中に入り原稿をチェックした。


「それって・・・泣いたんだよね」

「いーえ」

「いやいや。顔もパンパンだし・・・」

「いーえ」


それ以上話さずに黙々と仕事をする私を見て柚木先生は探るような顔をしていた。


「あのね・・・昨日和馬から電話がきてさ」


ビクッとして顔をあげた。


「その、、、たぶんその顔の原因だろうって話をしたんだ。その、、、もう俺とは関係無いというか、、」


わざわざ他人にそう告げるということは折原さんは本気なのだろう。

どこかでいつものジョークだったりしてなんて淡い期待をしていたのに、柚木先生の話に更に落ちこんだ。


「もし良かったら俺から雅さんに頼んで担当を変えてもらおうか?」

「担当?」

「和馬の担当を続けるのは嫌なんじゃない?」


確かに担当でいることは辛いかもしれない。けれど、どこかでもう会えなくなってしまうことのほうが辛いかもという気持ちもあった。振られたからといってすぐに気持ちが消えてしまうことは絶対無い。いつになるか分からないけれど時間が必要なんだろう。


「大丈夫です。仕事とプライベートは別ですから」

「でも、和馬は違うかもよ?」


折原さんは私が担当でいることを望まないのだろうか。もう会えなくなってしまうんじゃないかと思うとどうしていいのか分からなくなった。

折原さんが会社に来ることだって当然これからもあるだろうが、担当でなければ顔を合わせることはまず無い。

現に何年も私の会社から本を出しているのに、あのパーティーで折原さんだと分からなかったくらいだもの。


何も言わない私に柚木先生は目の前で電話をかけ始めた。

雅チーフにしばらく次の作品のことで相談があるから柚木先生にかかりっきりにはなれないかという申し出にチーフが断る訳は無い。


「大丈夫だって。取り合えずしばらくは俺の担当だけってことで」

「でもっ!今日は行ってきます」


やっぱりもう会えないなんて嫌だ。例え好きになってくれなくてもいいから・・・

側にいられるだけでいいから・・・

慌てて立ち上がり玄関に向かおうとする私の腕を柚木先生は掴んだ。


「人は簡単に変われないって言ったよね」

「ごめんなさい」


真剣な顔つきの柚木先生の腕を振りほどいて家を飛び出した。


折原さんのマンションに着きインターホンを押そうとした時、携帯が鳴った。

会社からで相手はチーフだった。


「風間か?いまどこだ」

「これから立花先生の所です」

「そうか。じゃあそのまま戻ってくれ」

「どうしてですか?」

「担当は前の柴田にした。これから向かうからお前は戻ってくれ」


「ちょっと待ってください!柚木先生の件はなんとかします。立花先生も続行で構いません」

「でも、柚木先生からの申し出だし、立花先生もOKしてくれたんだが」


折原さんがOKした・・・

一瞬呆然としたが、電話の向こうのチーフの声に我に返った。


「風間~聞いてるか~。お~い」

「は、はい!でも次の作品の話し合いもあるし、ここまで来たので今日は行きます!」


チーフの返答を聞かずに電話をそのまま切り勢いでインターホンを押した。


「はい」


いつもの無愛想な冷たい声が聞こえた。なんだか急に緊張してゴクッと唾を飲み込んだ。


「あの、、、風間です」

「どうした?」

「原稿を取りに来ました」

「さっき雅から電話がきて担当が変わるといわれたが」

「今日は私が来ました!」


ウィ~ンと開くドアに急いでエレベーターに乗り込み部屋に入っていった。


目が合いちょっと気まずかったけれど、平気な顔をして原稿のチェックを始めた。

スルスルと椅子を私の前に転がし黙って人の顔を見ている折原さんに顔をあげた。


「お前・・・目が無いぞ」

「・・・・」

「スッピンか?」

「・・・・」

「その顔で街を歩くと捕まるぞ」


いつも通りの憎まれ口にさすがにイラッときて書類でテーブルを叩いた。


グイッと顔を掴み自分の顔に引き寄せる折原さんにドキッとしながら顔を見た。


「こんなになるまで泣くな」


そんなことを言われたらせっかく忘れていた涙がまた出てしまう。ジワッとした目をギュッと瞑り涙を見せないようにした。

ノドがヒクッとしてしまう。泣いちゃダメだと我慢すればするほど閉じている目から涙が流れてくる。



「どうして正也に行かない」

「そんなの、、私の、、、ゥッ、、、勝手で、、す!」

「俺なんかを好きになってもずっと苦しい思いをするだけだ」


もう私の気持ちをこの人は分かっている。隠すこともしていないのだから、分かって当然だろうけれど、面等向かってダメだと言われても人の気持ちはすぐには変わらない。


「どうしてそう決めつけるんですか、、勝手に苦しいって思っているだけかもしれないじゃないですか!」

「お前を見ているとそう感じたからだ。実際そうだろう」


どんなに隠してもバレているのかもしれない。どうしてもっと大人になれないんだろう。

感情を表に出さないことなんかもう慣れているはずなのに。


「全然辛く無いです。そう感じたのなら折原さんの誤解です。私は全然苦しくなんか、、」

「我慢するな。そんな顔じゃ説得力なんか微塵も無いぞ」


パッと目元を隠し「これは違います!」と頑張った。


「ありがとうな。俺が心配だったんだろ?俺は一人に慣れているし、誰かと一緒にいれば気がつかないうちに相手を傷つける。だから俺はいつも通りに一人でいるのが一番良いんだ」


心配とかじゃない。

ただ・・・この人と一緒にいたいと思ったからなのに。このままじゃ本当に終わってしまう。私はそれでいいの?


(和馬に体当たりしてみな)


柚木先生の言葉が頭に浮かんだと同時に、やっぱりこのままで終わらせたくないって気持ちでいっぱいになった。


「私が、、、レイさんみたいに女らしくないからですか?大人の女じゃないから?何から直せばいいですか?どうすれば、、、何をすれば、、、あの人に勝てるんですか、、、」

「風間、、、」


格好悪くてもいい。どうせダメなら言いたいことを全部言おう。

海人の時のように不完全燃焼な気持ちのまま不安な日々を過ごしたく無い。

何がダメでどうしてなのか辛いけど聞いてしまおう。


「分かってます!どんなに頑張ってもあの人に勝てる訳が無いってことくらい。でも、、でも、、私は貴方を悲しませることはしません!」

「おぃ、、落ち着けよ」


ボロボロと涙を零しもう折原さんの言葉も耳には入っていなかった。


「レイさんには甘えられて私には甘えられませんか?私はバカだし、すぐカッとなるし、わがままだし、、、あんな風に優雅な大人で綺麗でも無いです」

「だから彼女のことは、、、」


「どうしたら振り向いてくれますか?どうしたら、、、何をすれば、、、私は貴方に近づけるんですか、、、」


折原さんのシャツを掴み力無くペタンと床に座りこむ私を見て、「はぁ・・」とため息をついて頭に手を乗せた。


「お前はお前でいいんだよ。誰にもならなくていいし、勝たなくてもいい」

折原さんの言葉に顔をあげ涙で歪んだまま顔を見た。


あの寂しい顔じゃなくニッコリと微笑み優しい笑顔だった。


「ありがとうな。俺の為に泣いてくれて。そんな奴は初めてだ」


もう涙なんだか鼻水なんだか分からないくらい濡れた顔をグイグイとティッシュで力任せに拭く折原さんを見ていたがもう涙が止まることは無くボロボロと次々に目から零れていった。


「ったく、、汚い顔だな。もっと色っぽく泣けないのかよ・・・」

「本気で泣く時はこんなもんです!」

「しばらく泣いたことなんか無いからわからん。けど、、そんなものかもしれないな。お前といると飽きないよ・・・ほんと」


またバカにしたように笑いグシグシと髪の毛を撫で私の顔を覗き込んだ。


「お前のことを好きになってみるよ」

「へ・・・?」


気の抜けた返事をして折原さんを見ていた。


「これ以上泣いて目が腫れたら相撲取りに間違われる。それはもう犯罪に近い顔だ」

「ちょっ、、、」

「やっぱりお前は面白いな。瞬間湯沸かし器みたいで」


「湯沸かし器って、、、、」


クスクスと笑いパソコンに戻りいつものように仕事を始めた。


(え?なにこれ・・・。好きになってみようと思う?なにその展開)


意味が分からずその場で座り込んでいる私を感じたのか椅子を回してこっちを見た。


「なんだか嬉しかったよ。前の男との別れには2年も溜め込んで我慢した涙を俺にはすぐに流してくれた。言えなかった文句も山のように言ってくれた。お前にとって俺はその男よりも大切だって言われた気がした。まぁ・・・俺の解釈だけどな」


散々言ってしまってから冷静に思えば・・・

折原さんの言うことは正しかった。


「よろしくな真羽」


初めて呼ばれた名前にまた涙が溢れた。


「もうビービー泣くな!」


グッと涙を堪え唇を噛み締めて鼻水をすすったが、やっぱりボロボロと大粒の涙が零れていた。


「はぁ・・・仕方無いな。そんなに嬉しいなら今日だけは許してやるか。今日だけだぞ。いいな?」

「そんな、、こと言われたら、、、映画も見れ、、、ウグッ、、ない」

「アホかっ!本気泣きのことだ!」

「は、、い、、、ウッ、、、」


(そんなに嬉しいのか)と上から目線で言われた言葉にちょっと冷静になったこともあり段々と涙腺が平常に戻ってきた。


やっと泣き止みそうになった私を見て折原さんはニコニコしていた。

その顔を見てやっとあの悲しい表情が一切無くなったことに違う嬉しさがこみ上げた。







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