暇人達の週末
もしも魔法が使えたら・・・
私はどんな使い道でその魔法を使うだろう。
過去に戻り、深い傷を負うような恋愛をしている自分を止めようか。
それとも、その力を使って見えない運命の赤い糸を本当の赤にして
それを辿ってその人の元に行こうか。
それとも、いっそ恋愛なんかいつかは飽きてしまうのならば
その力で見たことも無いくらいのお金を出して遊んで暮らそうか。
そんな夢みたいなことを、ボケ〜と考えながら空を見ていた。
来週の木曜。あたしは30歳になる。
ここしばらく、なんとなく恋愛というものに対しての熱というか
意気込みというか・・・そんなものを失いかけていた。
また1から相手のことを知り、覚え、気を使い、気を使わせ、
家までの道のりを覚え、好きな音楽、好きな食べ物を覚え、
相手のペースで抱かれ、それに体が馴染むまではどれくらい
かかるのだろう・・・
なんだかすべてが面倒くさい。
「あ〜ぁ。あたし何やってんだろ・・・」
録画して溜まりに溜まったHDDの残量を気にしながら
次々と録画番組を確認し虚ろな顔をした。
鏡に映った自分の顔に「ヤル気なさそ〜」と呟いた。
知らない間に独り言が増えたような気がする。
週休2日の金曜の夜。
どんどん周りの友達は結婚をし、なんとなく残っている者としては
気軽に遊びに誘うのも悪いような気がしてきた。
同じような毎日を過ごしている友人もいる。
高校からの友人の和江と真紀。
なんとなく週末になると決まって3人で集まっているけれど、今週は
誰からも連絡が来なかった。
ほんの少しだけ不安になったりもした・・・
「みんなこっそり彼氏とかデキてたりしてぇ・・・」
友人の幸せを心から喜べない自分が惨めでもあり、嫌な人間にも思えた。
(みんなどこで出会ってるんだろ・・・)
この2年、さっぱり彼氏という存在が自分の近くにはいない。
もっと昔ならそんなこと気にしていないうちに、いろんな出会いがあって
いつも彼氏がいて、それが普通だったのにな〜。
ふとどこからか小さく音楽が聞えた。
バックの中の携帯を見ると、和江からの電話だった。
ちょっとだけ(ホッ・・・)とする自分がいた。
「もしもし?」
「あ。真羽?なにしてたぁ〜」
「うん?暇だから溜まったドラマでも消化しようかな〜ってさ」
「あんた暇だねぇ・・・」
「あんたもでしょ」
暇人同士でしばらく談笑をしていた。
仕事の愚痴、会社のお局さまに意地悪をされた話、明日どこか行く?
そんなことを話ながらも、(一人じゃなかった)という小さい恐怖から
抜け出せた自分がいた。
「じゃ、明日真紀と三人で買い物でも行こうか?残りモノ集まって〜」
「うん。そうだね。じゃあ真紀にメールしておくよ。じゃね〜」
携帯を閉じようとした時、メールを受信しているのが見えた。
メールの送信主は真紀だった。
きっとどちらかに電話したけれど、話中だったからメールでもしたのかもしれない。
中を見ると・・・
<明日暇?ちょっと面白いパーティーあるんだよね。和江も誘って行かない?>
面白いパーティー?なんだろそれ・・・
<なにそれ?どんなパーティー?>と返信を打った。
すぐさまメールが返ってきた。
<お見合いパーティーって知ってる?オミパ!>
(お見合いパーティーって・・・・)
ちょっと絶句に近い気持ちになった。
とうとうそんな物に頼らないと男も見つけられないのか・・・
そんな気分になりながらも、再度返信をした。
<なにそれ?変なキモいのしか来ないんじゃないの?ならパス>
自分がそれほど美人でもないことは知っている。
けれど、だからといってそんな必死なパーティーに参加しなきゃならない
ほど見てくれが悪いとも思っていない。
まぁ、、歳を言われればギリギリだとは思うけれど。
けど、どうしてもあまり良い印象が無かった。
それこそいままで男や女と付合ったことも無いような、男でいえばヲタク
女で言えば最悪な人達が必死で相手を探す場なんじゃないかと頭の中で想像した。
何度か断りのメールをした頃、イライラしたのか真紀から直接電話がきた。
「ちょっと!今はもっとフランクなんだよ?真羽が変に思っているだけだってー」
「そうなのぉ?でもあたしは遠慮しとく〜。なんだかノリ気じゃないし」
「何言ってんのよ!もう10月なんだよ?クリスマスを一人で、、、もしくは
またこのメンバーで過ごしていいの?誰か一人が上手くいけば、
そこからお付き合いの輪が広がるじゃない!下手な鉄砲も数打ちゃ当たるの!
絶対3人のうち1人はカップルになるからね!」
思っていた以上に真紀は、もう行く気になっていた。
「取りあえず、明日の夕方5時からだからね。昼からみんなでご飯でも
食べて時間潰そうよ。いろいろ作戦もたてなきゃね!じゃ和江に連絡
するから。明日11時にいつもの<ワイズ>に来てね〜」
軽快に真紀は電話を切った。
しばらく携帯を見つめながら、(やれやれ・・)という気持ちになっていた。
オミパかぁ、、、なんでも略すりゃいいかと思いやがって・・・
また独り言を呟きながら冷蔵庫から缶ビールを出して開けた。
一口飲みリモコンで再生ボタンを押し、月曜日の分の消化にかかった。
ドラマの内容はなんとも甘い恋愛ドラマだった。
好きだなんだと騒いで泣いたり走ったり・・・・
「だから好きなら好きって言えっつーの・・・」
見なくても分かるような所を倍速で飛ばし、その後に撮ったバラエティを
これまた早送りをしながら消化をした。
時計を見るとAM1:00になろうとしていた。
「まぁ・・・あの勢いなら断ることは出来ないんだろうなぁ・・・
仕方無いからちょっと覗いてくるか〜。何着て行こうかな〜」
クローゼットを開けて、そこそこ見栄えが良く見える服を数着ベットの上に
ポ〜ンと投げた。
「これは・・・あまりにも気合入りすぎだな・・・。けどこれはちょっと歳に見えるし、
う〜ん・・・じゃあこっちとこっちで・・・」
あれだけノリ気じゃないと言った割には、その日2時過ぎまで服を選んでいた。
やはり行くことになるのであれば、それなりの戦闘服は用意しないと。
まだ頭の中ではきっと来るのは残り物のみ!という考えが捨てきれては
いなかったが、その中でもそんな風には見られてなるまい!と思う自分がいた。
そこそこのブランドの服を気合が入り過ぎない程度に合わせ、
それでいてちょっとは歳より若く見えるように・・・・
くだらない見栄を張りつつも明日の服を用意し、朝の支度を考えながら
目覚ましを9時に合わせてベットに入った。
翌日。文句を言っていたくせにキッチリと化粧をし、ビシッと服をきめ
勝負下着こそつけてはいないが、一番お気に入りの香水を
嫌味じゃない程度につけて部屋を後にした。
どーせ「所詮残りものしか来なかったじゃ〜ん」という話になった時、
いつものようにどこかで食事と多少のアルコールを飲み、
そのままうちになだれ込んで日曜を迎えるのだろうと予測して
タクシーで待ち合わせの場所に向かった。
いつものカフェのドアを開けるともう和江がいた。
「おはよ〜」普通の顔で向かえの席に座り、いつものバイトの子に
「あ、あたしアイスミルクティーね〜」と注文をし、やれやれという顔をして
和江を見た。
「真羽・・・ちょっと化粧濃くない?」
「えっ・・・マジで?押さえてきたんだけど・・・」
「私、大丈夫?」
「うーん。そんなアナタも結構キテるよ・・・」
和江に対して真紀がどれほどの期待をさせたのかは知らないが、
普段パンツ以外履かない彼女をスカートにさせるほどの上手いことを
言ったんだろうなぁ・・・と服装を見て思った。
「どんな人がいるのかな?」
期待した顔の和江が隣に聞えない程度の声で聞いてきた。
「さぁね?あんまり期待しないほうが良いと思うよ〜」
「そうなの?だって真紀がさ、「うちの会社の人結構彼氏見つけてる」って
言うからさー。やっぱ期待しちゃうじゃないー」
「そうなの?ハゲたおじさんとか、リュックにプラモとか入れてるチェックのシャツ着た
髪もこ〜んな感じの色の白い人とかかもよ〜。あたし苦手・・・」
「それは私だって苦手だよ!」
そんな話をして笑っていると、隣の席にこっちをチラチラと見ている
3人組の男の人達がいた。
なんとなくその視線に気がついてはいたが、そのまま和江と話を続けていた。
あまりに何度もこっちを見ている視線にチラッとそっちを見た。
どこかで見たことがあるような気がした人がその中にいたが、それがいったい
どこで会ったのか、どこまでの知り合いなのかすら思い浮かばなかった。
(誰だっけな?でもそんなに近い間柄じゃないだろうな〜。だって結構格好いいもの。
それを覚えてないってことは・・・やっぱ知らないな)
頭の中で思い浮かべようと何度も考えていたが、結局断念した。
あまりに感じる視線に内心、
(もしかして、、、気になってる?)
なんて都合の良いことを思ううちに、こっちまで気になりだして
話の節目、節目になると私の視線は自然と彼に向かっていた。
見る度に合う視線に、パッ・・と違う方を見た。
(超見てる・・・。やっぱ知り合い?いや、、あんな超タイプに知り合いはいない。
いたら、オミパなんか行ってない!)
しばらくして真紀が店に入ってきた。
いつもと違う服装に思わず和江と二人で吹き出した。
「あんた・・・気合入れすぎじゃない?」
「えっ・・そう?できるだけ自然にしたんだけど」
「不自然!不自然!だってそのマツゲ怖いもん」
そのまま軽くお茶をしてから、昼ちょっと過ぎた頃店を後にした。
そんなギリギリの時まで、隣の席の人達はこっちを見ていた。
店の外に出てから・・・
「ねぇ。隣の席の人達、こっちの話聞いてたよね・・・」
「そうなの?全然知らなかった。相変わらず真羽は見てるよね」
「そうじゃないよ!だってジ〜って見てるからさ」
「良いのいた?」
「う〜ん・・・まぁ悪くは無かったかな?」
「やっぱ見てんじゃん!」
そのまま街に出て、軽く買い物をしながら食事をし、
時間になるまで街をフラフラしていた。
あたし達の週末はだいたいこんなものだ。別に目的は無いけれど、
なにかしら世間に触れていないと、取り残されたような見えない不安に
落ちこんでしまうが、こうして多くの人の中にまぎれていれば
自分が取り残されているような気分にはならない。
あたしの勝手な思いこみかもしれないが、休みに黙って家にいて、
相変わらずのビデオ消化ばかりをしていると、淋しい女になっていくようで
ちょっと怖かった。
時計を見ると、時間は4時を少し過ぎていた。
「じゃ、そろそろ会場に行こうか!」
真紀が浮かれた顔をして先頭を切って歩き出した。
「会場ってどこ?」
「グランドホテル!会費は女は1500円なんだよ。安くない?」
「高いか安いか分からないな・・・行ったこと無いし」
「男は4000円なんだよ?それに比べたら安い!安い!」
相場がわからないけれど・・・・
ヲタク見学には1円だって払いたくないなぁ・・・
そんなことを思いながら黙って真紀の後ろを歩いていた。
歩いて15分もすると、ホテルに着きロビーには参加者なのか
年齢層が同じくらいの人達がいるような気がした。
全員がそうとは思わないけれど、結婚式ほど気合を入れていなく、
それでいて、そこそこの格好をした人達がいた。
けして思っていたようにハゲもリュックもいなかった。
「ふ〜ん・・・・普通だ・・・・」
「だから言ったじゃない!今はオミパは普通なんだってばー」
ほら見たことか!という顔で真紀が私と和江に向かって
澄ました顔をしていた。
(そんなもんなのかな・・・)
時間が4時30分を過ぎた頃、ラウンジでお茶を飲んでいた人達が
ワラワラと動き出した。
やっぱりみんなそうなんだぁ・・・・そんなことを思いながらその流れに
乗り、エレベーターに乗りこんだ。
結構な混みようのエレベータの中、あたしだけがみんなと離れて
奥に押しこまれてしまった。
ぎゅーぎゅーと押されるように奥に追い込まれ、
「ちょ、、うわ・・・」と小声で慌てながらもなんとか転ばないように
姿勢を正した。
目の前にピッタリとスーツ姿の人がいたが、近すぎて顔を見えないほどの
至近距離に「すいません」と小さく謝り早くエレベーターが目的の階に
ついてくれることだけを考えていた。
「今日はよく逢いますね」
(は?)そう思い、顔を上げると目の前のスーツはこっちを見ていた。
それがいったいどこで、そんなに逢ったのかは瞬時には思い出せなかった。
「あの、どこかで逢いました?」
そう言ってその人の顔を見ると、その人の隣の人は背中を向けたまま
クスクスと笑いながら
「だろ。お前の勘違いだって」と笑っていた。
「あ・・・そ、、そうですか」その人は小さい声でそう言うと
恥ずかしそうな顔で俯いた。
それ以上の会話をすること無く、妙にくっ付いたままで
エレベーターは目的の5Fに止まった。
「真羽―!どこー!こっちー!」と大きな和江の声を聞きつけ
「ここー!」と手をあげ急いでみんなの側に走って行った。
「ちょっと最後に化粧直してこようよ!」
「えぇ〜。いいよ。あたし大丈夫だから待ってる。タバコ吸ってる〜」
「じゃ、真紀行こう!」
二人はウキウキしながら化粧室に入って行った。
近くの椅子に座り、バックから煙草を出した。
(はぁ・・・また中はお決まりの禁煙なんだろうなぁ・・・最近は肩身が狭いな)
そんなことを思いながらボックスから一本煙草を出し、火をつけた。
フーと煙を吐き、なんとなく視線を感じてそっちを見ると、
またさっきのエレベーターの人と目が合った。
隣の席で同じように煙草を吸っていた。
「あ・・・。アナタも?」そう言って指で会場を指した。
「あ。うん・・・友達に無理やりね。アナタも?」
「うん。あたしも同じ。友達にね」
「そうなんだー。俺、こんなとこ苦手でさ。なんか凄いのしか来ないイメージあったし」
「わかるー!私もそう思ってたー」
やっぱりこんな所に来るのは、焦っているイメージに思われるのだと感じながら
その人とそんな会話をしていた。
スルスル・・・と隣の席に移動してきて小声で話しかけ始めた。
「で。思ったより普通の人多いよね」
「うん。さっきラウンジでそう思った。けど、みんな本気でお見合いって感じなのかな?」
「どうだろ?俺は付合いだけどね」
「まぁ、、あたしもだけどね」
「じゃあさ、最後お互いを選ばない?」
言っている意味が良くわからず、いろいろ聞いてみると、
最終的に気に入った人を選ぶということをするらしい・・・・
「それってなんか意味あるの?」
不思議そうに聞くと、(えっ!)という顔をした後に、
「カップルになるとここの夕食ディナーがプレゼントなんだよね。
だから飯食って帰らない?」
「へぇ・・・詳しいね。来たことあるんだ?」
「えっ、、、あ、、まぁ、、その付合いでね」
「ふ〜ん・・・ まぁ、その時の雰囲気で・・・」
「それって雰囲気では選んでくれないってこと?」
そこまで言われて、内心・・・
(う〜ん。まぁ、悪くは無いけど・・ けどもしもタイプがいたらな〜)と
ほんの少しそんな気持ちにもなった。
「あ、いや。そうじゃないけど。あたし初めてだから良く分からないしさ。
まぁ、中でまた話そうよ。あ、友達が来た!じゃ、またねー」
「あの、名前教えてくれない?俺、内田元気」
「あ、風間真羽。じゃねー」
タイプじゃない訳でも無かったけれど・・・
ほんの少しだけ欲張りな気持ちが出た。
そのまま3人で会場に入って行った。