決戦(前編)
済みません、長くなったので途中ですが、ここで一度投稿します。
決戦(前編)
巨大海竜から咆哮と共に放たれた一撃は、海を切り裂いて約一五海里(二七km)離れた北方の海上を東進中の日米の機動部隊に達した。
そして日米の艦体の内、米海軍重巡洋艦チェスターはその延長線上に位置していた。
その不運な艦であるチェスターは、同型艦のノーザンプトンとやや小型のソルトレークシティに六隻の駆逐艦を加えた艦艇で空母エンタープライズを中核とした第八任務部隊を構成し、その右翼前方を守る位置を航行中であった。
チェスターを含むノーザンプトン級重巡洋艦は、排水量と主砲の口径(=大きさと攻撃力)が制限された条約型巡洋艦であったが雷装を排して砲撃能力と装甲を含めた防御力を図った巡洋艦として建造されていた。
しかしながら、艦体へ達したそれは条約型巡洋艦としては屈強なチェスター艦体を一撃で❝くの字❞にへし折った。
やがて真っ二つに切断されたチェスターの艦体は左舷側に横転しそのまま暫くは浮いていたが、やがて火薬庫が誘爆して炎の柱を上げて海中へ没していった。
日米の機動部隊に対して一矢報いた巨大海竜であったが、その代償として直後戦場に到着した帝国海軍の第二次攻撃隊の集中攻撃を受ける結果と成った。
零式艦戦二四機(内制空隊の一八機は先行して戦闘中)、九九艦爆六四機、九七艦攻四三機(内雷装十八機)の計一三一機から成る第二次攻撃隊は上空の飛竜を手早く排除すると、巨大海竜上空へ殺到した。
当然であるが巨大海竜も例の火球を大量に打ち出す光の輪で対抗したが、既にその情報を得ていた攻撃隊は、射程圏外である高度四〇〇〇メートルからの九七艦攻の水平爆撃を皮切りに、先の攻撃で障壁を失っていた巨大海竜に対して容赦ない攻撃を加え、最終的に二体を海中へ深くへ葬り去った。
殆ど抵抗らしい抵抗も出来ずに一方的な攻撃で葬られた巨大海竜であったが、それでもそれらは日米機動部隊の戦力分散という点に関しては充分な働きをしていたのだ。
第二次攻撃隊が手負いの巨大海竜へ止めを刺していたのとほぼ同時刻、日米の機動部隊は応戦に追われていた。
最初それに気が付いたのは米重巡洋艦チェスターから発艦したOS2Uキングフィッシャー水上偵察観測機であった。
同機は発艦後に所属母艦を失っていたが、任務である艦隊周辺の哨戒飛行を続行し、先に重巡洋艦「筑摩」搭載機によって消失が確認された黒い渦を発見したのだ。
艦隊よりおよそ南へ八海里(約一五キロ弱)の至近の距離に発生した渦からは、やがて二体の巨大海竜とその護衛らしい飛竜が二〇体程が現れた。
敵は、攻撃を繰り返す間に攻撃隊の発進源である機動部隊の存在位置を探り出し、そこへ戦力を投入して来たのだ。
慌てたのは日米の機動部隊の司令部であった。
空母機動部隊は、本来は敵と距離を置いて対峙して初めて戦力に成る存在である、それが敵による直接攻撃が可能な位置に迫られては存在の価値を失う事態であった。
そして、当然であるが『どうして艦隊の現在位置が解ったのか?』と言う疑問が生まれる。
しかしながら、その問いに対する回答は程なく明らかにされた。
突然、帝国艦隊より南方を航行中の米第八任務部隊の各艦が、艦隊上空へと対空射撃を開始したのだ。
何が起こったのかと、訝し気に帝国海軍将兵が見上げる上空に幾つもの高角砲の爆煙の華が咲きいた。
やがて、雲間から複数の影が対空射撃に燻り出される様に姿を現した。
それは飛竜の一群であった。
推測であるが、おそらく彼らは雲間に身を潜めながら機動部隊の位置を探し出して友軍へ知らせて渦を発生させる場所を誘導する任務を担っていたと見られた。
彼らにとって不運だったのは、例え雲の彼方に身を隠していてもその存在を知る術を持っていたことだった。
我が軍ではない。
米海軍がである。
既にこの時点で米海軍の主要艦のマスト頂部には餅網を思わせるアンテナが載せられていた。
これはCXAMと呼ばれるメートル波対空捜索レーダーで、戦闘機サイズでも三〇〇〇メートルまで感知する能力を持っていたので、飛竜サイズであれば充分索敵可能な性能を持っていた。
艦隊上空に張り付いていた飛竜は全部で四体、それらは見つかったと知ると一転攻勢に出た。
四体の内の二体は既に損傷を受けていた様に見られたが、無傷な二体の壁になって攻撃を援護して四散していった。
残る二体の内、一体は対空砲火により軌道をずらされて海面へ落下したが、残る一体は対空砲を受けながら行き成り翼を閉じ、あたかも水鳥が海面へ突入するような体勢と成って「赤城」の飛行甲板の中央、第二エレベーターの後方へ突入したのである。
しかし、木製の飛行甲板を貫き二層に成っていた格納庫を突破した飛竜はそこで壁にぶち当たった。
それは七九ミリの厚さを持つNVNC鋼で造られた文字通りの壁であった。
本来、航空母艦「赤城」は八八艦隊によって建造される「天城」型巡洋戦艦の一隻(二番艦)となる予定の艦であった。
それがワシントン軍縮条約により空母と成って就役した過去を持っていた。
それ故に「赤城」には二層の格納庫の下には厚さ七九ミリのNVNC鋼製の装甲が張られていた、ここは本来巡洋戦艦として就役した際には上甲板となる筈の場所であった。
NVNC鋼はこれまでの硬度一辺倒の装甲から、粘り気のある装甲で敵弾を弾き返す発想の転換で当時のポストユトランド世代の戦艦の上甲板用の装甲として使われていた。
当時帝国海軍最強であった戦艦「長門」型を凌駕する攻撃力と防御力を備えながら速力で「金剛」型に匹敵する三〇ノットの最高速度が求められた「天城」型巡洋戦艦は、当時萌芽しつつあった高速戦艦と分類されるべき新形態の先駆けとも言える存在であった、実際に空母として改装される際に、上部構造物の軽量化の為に巡洋戦艦として設計された際には九五ミリ有った上部甲板の厚みが七九ミリまで減らされていたが、そう簡単に貫通されないだけの強度を有していた、因みに前身が同じ巡洋戦艦である「金剛」型の上甲板の厚みが七〇ミリであったから、その数値の意味を理解できると思う。
故に木製の飛行甲板から突入した飛竜は、二層の格納庫は貫通したものの格納庫下の装甲で弾き返され艦の心臓部には重大な損害を与える事は出来なかったのである。
それでも、断末魔の火球攻撃で格納庫内の損傷機が炎上爆発し飛行甲板の中央に巨大な破孔を開けられたため、「赤城」は空母としての機能を一時的に喪失する結果と成った、それが飛竜の戦果であったと言えなくもなかった。
帝国海軍にとって幸いだったのは、攻撃隊が全て出払っていた為に可燃物が前述の損傷機等に限定されていたこと、既に爆弾や魚雷が弾薬庫へ片付けられた後の事であったので誘爆を免れた事であった。
しかしながら、旗艦「赤城」の被弾は、二つの点で問題と成った。
一つは、旗艦が被弾し火災が起きている事実である、そしてもう一つは、その被弾により司令部を支える通信機能がアンテナ等の破損で麻痺した事であった。
特に、「赤城」の火災はハッキリと目に見えるだけ艦隊に少なからぬ動揺と混乱を生む結果と成った。
確かに、火災が消火され被害が軽微と判れば比較的簡単にこの混乱は解消されるであろうが、敵が目前のこの時点では一刻も早い解消が求められた。
結局、混乱と動揺を治めたのは歴戦の下士官たちの叱咤であった。
彼らは、長く海軍に奉職し実戦経験も豊富であり、中国大陸での戦闘を経験している彼らにとっては動揺は一瞬であった。
彼らのドスの利いた怒声に多くの兵たちは我に返った、いや、兵だけではない彼らの上官である士官もまた彼らの叱咤を耳にして我に返ったと後に語っている。
もう一つの問題である通信機能の喪失はより深刻であったが、既に戦闘は砲雷撃戦と言う段階に入っていた、と成れば空母はお役御免と言う事が出来た。
南雲中将自体は、水雷戦の大家であり直接指揮を執る事も可能であったが、空母が居て良い戦場ではない、従って退避の必要を考えれば指揮を継続する事は不可能と言えた。
そこで、司令部は以後の砲雷撃戦の指揮を、次席指揮官である三川軍一中将に委ねる事を決め実行に移した。
米第八任務部隊は、旗艦のエンタープライズの護衛を一時的に帝国海軍に任せ、全戦力である、重巡洋艦二隻と駆逐艦六隻を巨大海竜の攻撃に向けた、一方の帝国海軍も空母群と輸送艦隊の護衛を第一七駆逐隊に任せてそれ以外の全艦をへの攻撃に振り向けた。
自殺攻撃、帝国陸海軍風に言えば挺身攻撃によって帝国機動部隊の旗艦「赤城」の戦力を奪った「怪竜」軍団であったが、その間にも日米艦隊は巨大海竜への攻撃準備を確実に整えていったのである。
二体の巨大海竜は渦から現れると、およそ一〇〇〇メートルの間隔を開けた単縦陣で日米の機動部隊へ向ってきた。
これに対して、巨大海竜へ向かう日米の艦列は三つであった。
一つは米第八任務部隊の艦艇で構成されていた、先頭には陣頭指揮にあたるレイモンド・スプルーアンス少将が座乗する重巡洋艦ノーザンプトンが立ち、その後方にソルトレークシティと六隻の駆逐艦が単縦陣を組んで続行していた。
それに続くのが、大森仙太郎少将が指揮を執る帝国海軍第一水雷戦隊の旗艦である軽巡洋艦「阿武隈」を先頭に、第一八駆逐隊の四隻の駆逐艦「陽炎」「不知火」「霞」「霰」で構成された単縦陣だった。
もう一隊は先の二隊の水雷戦隊より距離を置いて布陣していた。
第三戦隊の戦艦「比叡」「霧島」と第八戦隊の重巡洋艦「利根」「筑摩」の四隻で構成された戦隊は、便宜的に支援砲撃隊と呼称され巨砲のアドバンテージを活かす為に距離を置いての交戦を目論んでの位置取りであった。
また、この時点で前述の通り米空母のエンタープライズを含む空母群と輸送艦隊は北方の海域へ離脱を開始しており、これには帝国海軍の第一七駆逐隊の四隻の駆逐艦が護衛に随伴していた。
「敵目標二、方位二一〇、距離一六(一六〇〇〇メートル)。
敵は単縦陣で接近中!」
見張り員の声が、戦艦「比叡」の第一艦橋に響いた。
その報告に、三川軍一中将は頷き一度周囲を見渡した。
三川中将の指揮する支援砲撃隊は、旗艦の「比叡」を先頭に「霧島」「利根」「筑摩」が単縦陣で続いていた。
支援砲撃隊は水雷戦隊と分かれてちょうど巨大海竜の行く手を遮る様に、前方進路を横切る位置にいた。
これに対して二群の水雷戦隊は、巨大海竜の左舷側を反航する形で肉薄しつつあった。
支援砲撃隊の役目は、その巨砲を用いた支援と脆弱な駆逐艦に対する攻撃を一時的に誘引してその矛先を逸らすことにあった。
支援砲撃隊の各艦は既に各砲に砲弾を装填し、着弾観測を行う観測機も巨大海竜の上空に待機していた。
三川中将はそうした状況を確認すると、もう一度満足そうに頷いて静かに、そして力むこともなく一言命じた。
「撃ち方はじめ。」
本来はこれで完結させる予定でしたが相変わらず色々と盛り込んで長く成ってしまったのでここで一度投稿することにしました。
後編は一週間ほどで書き上げる予定です、・・・何も無いと良いな~。
と言う事でいつもの言葉ですが、誤字脱字、意味不明な内容(笑)、意見や批判をお待ちしていますので感想の方へ書いて下さい、お願いします。
ではもう少しお付き合いお願いします。