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燃ゆる真珠湾  作者: 雅夢
8/17

代償

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代償


 真珠湾攻撃を行うに当り、帝国海軍は攻撃隊を一次と二次の二派に分けて発進させていた。

 これは当時の帝国海軍空母では、艦により多少の違いは有っても一度に発艦可能な機数が三〇機程度と限られていた為で、第二次攻撃隊の発艦は第一次攻撃隊の最後の機体が発艦してから約一時間後に行われていた。

 零式艦戦三六機、九九艦爆八一機、九七艦攻五四機の計一七一機からなる第二次攻撃隊の目的は、第一次攻撃隊が米陸海軍に与えた損害を拡大し追い打ちを掛ける事に有った。

 各攻撃隊の内、全機爆装である艦攻隊は航空基地に対する水平爆撃を行い、艦爆隊は湾内の残存艦艇の内の大型艦船を、艦戦隊は地上と空中の敵戦闘機を攻撃する作戦であった。

 この様に戦果の拡大を目的とした第二次攻撃隊であったが、実際には目的地である真珠湾へ辿り着く前に情勢が大きく変化し、皮肉な事に本来攻撃する筈であった真珠湾の米陸海軍を助けるために「怪竜」軍団と戦う事に成ってしまったのである。

 第一次攻撃隊が帰投して約二〇分後、第二次攻撃隊は真珠湾上空へ到達したが既にこの段階で大型目標は第一次攻撃隊により撃破された後との報告も有り、一度は爆弾を捨てて帰投することも考慮されたが、最終的には残敵の存在も懸念されることからそのまま真珠湾へ向かう事と成ったと言う経緯も有った。

 そして、その懸念は的中した。

 第二次攻撃隊が真珠湾で見たのは再集結していた「怪竜」軍団の姿だった。

 米軍からの情報に依れば、一部は第一次攻撃隊が撃ち漏らした残敵であったが、その多くは第一次攻撃隊が帰投後に攻撃中のハワイ諸島の各島から急ぎ戻った部隊であったらしい。

 飛竜は三〇騎ほど、地竜も五体は居た、そして騎竜は五〇騎ほどが残っていた。

 こうした残敵以外にも、九九艦爆隊はその攻撃の最中に湾口部より地上へ這い上がろうとしていた巨大な烏賊の化け物二体に遭遇しそれを撃破している。

 戦闘は三〇分ほどで終結し残敵掃討を成した第二次攻撃隊は帰路に付いたが、攻撃隊各員にとってこの戦闘は明らかに物足りないものであった。

 故に帰投中に母艦より、敵の新手が出現して第一次攻撃隊が攻撃に向かっている旨の連絡を受け、❝急ぎ帰投して給油と武装の再装備を行って現場へ急行せよ❞との指令に誰も異論を唱えなかったのである。


 飛竜の群れは、黒い渦から吐き出されると真直ぐ、巨大海竜へ向かっていた攻撃隊へ正面から襲い掛かった。

 しかし、彼らの行く手には零式艦戦とF4F、設計思想も戦術も違う日米の戦闘機が立ちふさがる。

 制空隊と比較すれば消耗の少ない直掩隊を中心にした零式艦戦隊とF4Fの混成部隊は総数四十機余り、五十体を超えると見られる敵の飛竜を抑えるのには無理があるのは確かではあったが、しかし、ここで引くわけには行かなかった。

 現在の戦闘海域はカウアイ島キラウェア岬の北方海上であった。

 ハワイ諸島から北の海上で帰還を待つ日米の機動部隊とは指呼の間とも言える距離であった。

 もしここで、巨大海竜を討ち漏らせば、艦隊にどれほどの損害が出るか想像もできない、それが攻撃隊の共通認識であり其れの阻止は最大の命題であったのだ。


 照準器のハーフミラーの向こうに、必死に飛ぶ飛竜の後姿が見えた。

 右に左に或いは上下と素早く切り替えしを繰り返して狙点が定まり難くするのは、零式艦戦も飛竜も同様であった。

 件の飛竜は空戦中に仲間と逸れたのか、勇んで先行しすぎたのか単騎で戦場を彷徨い山本旭一飛曹率いる「加賀」十三小隊に捕捉されていた。

 山本一飛曹は周囲に注意を払いながら、ジックリと敵を僚機と共に追い込んでゆく、別にいたぶっている訳では無い、飛竜に有効な二〇ミリ機銃弾の残数が心許無い事から慎重に手順を踏んでいるだけである。

 それでも素早い動きに無駄弾を撃たされて、結局飛竜を撃ち落としたのは小隊三番機の中上喬一飛兵であった。

「やっと落とせたか。」

 山本一飛曹は機体を水平飛行に戻すと安堵の声をあげた、がそれは戦場では軽率な行為であった。

「・・隊長、後ろ・・飛・・。」

 雑音で聞き取り難い無線電話から、二番機の羽田透二飛曹の焦るような声が聞こえて来た。

 その刹那、突き付けられた殺気に彼は反射的に操縦桿を左に倒し、同時に左のフットバーを蹴って機体を左に捻り込むと、そのまま機体を背面降下に入れた。

 次の瞬間、今し方迄自機が飛んでいた空間を数条の火球が通り過ぎてい行く、それはそのまま飛んでいたら確実に喰われていた事を意味していた。

 しかし、咄嗟の回避運動で身を躱した山本機に対して一瞬回避運動が遅れた後続の羽田機は二体目の飛竜と騎士が放った火球を避けきれず炎に包まれた。

「くっ!」

 旋回中の苦しい姿勢ではあったが、山本一飛曹は後方を振り返る。

 そこには素早い旋回で零式艦戦に肉薄しようとする、二体の飛竜の姿と燃え落ちて行く羽田機が見えた。

「羽田!」

 その飛竜は山本隊の零式艦戦の頭を押さえる形で上方に占位し、決定的な攻撃の瞬間を狙っているようであった。

 しかし、山本一飛曹達も昨日今日戦闘機に乗った訳では無い、何れも零式艦戦以前の旧式機を駆って中国大陸での戦闘を幾多も経験した猛者であった。

 それでも今回の戦闘は分が悪かった、敵は生物らしい柔軟な動きで急旋回や急停止を空中で行いこちらの間合いを外してくる、お陰で唯でさえ少ない二〇ミリ機銃弾を無駄に消費する結果と成っていた。

 そして今、飛竜は零式艦戦を上回る旋回性能と火力に物言わせて追い込んで来ていた。

 ついにその間合いに入ったらしく飛竜が口を開けその中に火球とみられる光が見えて来た。

「やられる。」

 山本一飛曹はそう叫んだが、次の瞬間、二体の飛竜を太い火線が相次いで貫いた。

 その飛竜の障壁を一撃で撃ち破り飛竜と騎乗する騎手を引き裂いたのは、見慣れた二〇ミリ機銃弾であった。

 そして、その火線を追うように三機の零式艦戦が急降下して通り過ぎていく。

 山本一飛曹はその時初めて、周囲に友軍機が増えていることに気が付いた。

「第二次攻撃隊か!」

 彼の言葉に呼応するように、新たに戦場へ現れた友軍機たちはその行く手に立ち塞がる「怪竜」軍団へと立ち向かって行った。


 進藤三郎大尉が戦場へ到着した時、既に飛竜と日米の戦闘機は乱戦状態と成っていた。

 彼は再出撃した第二次攻撃隊より、制空隊の零式艦戦十八機を率いて先行する形で来援していた。

 手数と馬力に物言わせて上下への激しいを動きを得意とするF4F、強力な一撃と軽快な機動が特徴の零式艦戦と双方とも持ち味を生かした空中戦を繰り広げていたが、未知の敵である飛竜相手に苦戦する様子が明確に見て取れた。

 故に戦場は何方が有利とも言えない奇妙な均衡状態にあった。

 しかしながら、ここで無傷の零式艦戦十八機の参入はそのバランスを崩すのに充分の力を有していた。

 総隊長の淵田機より再び全機突撃を意味するト連送が発信され、第二次攻撃隊の零式艦戦を中心とした戦闘機隊が切り開いた巨大海竜の上空に、攻撃隊が殺到した。

 初手は爆装の九七式艦上攻撃機であった、九七艦攻隊は高度三〇〇〇で巨大海竜上空へ進入すると、水平爆撃で二五番通常爆弾と九九式六番通常爆弾の対艦用爆弾を投下した。

 投下されたのは、四一発の二五番通常爆弾と六六発の九九式六番通常爆弾だった、これらの爆弾は先の対潜爆弾とうは違い、水圧感応式ではなく一般的な遅延信管で海面に達した所で起動して海中で起爆していた。

 大小の爆弾、一〇〇発を超える爆弾の爆発の威力がどれ程のもので有ったかは、対象である巨大海竜でない限り実感することは出来ないが、その爆発に耐えきれず二体の巨大海竜が海中より姿を現した事からそれは推し量る事が出来るであろう。

「よーし、今度は俺たちの番んだ。

 行くぞ!」

 攻撃後の海面の様子を見守っていた急降下爆撃隊長の高橋赫一少佐は、巨大海竜が海上へ姿を現すと、機体を大きくバンクして後続へ攻撃開始の合図を送ると、自身が先頭と成って巨大海竜上空へ向かった。

 途中、村田隊の九七艦攻が同じ様に雷撃行動に入っているのを視認した高橋少佐は凄みの有る笑みを浮かべ舌なめずりをした。

 海面すれすれを這うように飛ぶ村田重治少佐率いる九七艦攻は、全機九一式航空魚雷改一を搭載して、四群に分かれると二体の巨大海竜を左右から挟み込むように雷撃行動を取っていた。

 左右より同時に迫る魚雷、上空には急降下して来る爆撃機、回避運動を封じて確実に敵を葬る雷爆同時攻撃は、帝国海軍が敵主力艦を葬る為に磨き上げた必殺の戦法であった。

「精さん、一五から読み上げを頼む。」

 高橋少佐は決定的一撃を加える機会を得て、上機嫌な口調で後席の偵察員(艦爆は二人乗りの為に偵察員と電信員を兼ねていた)の小泉精三中尉に高度一五〇〇メートルから高度の読み上げを頼むと、雷撃隊の投下タイミングを読んで発動機の出力を絞ると操縦桿を前に押し込んだ。

 高橋少佐は指揮下の九九艦爆隊に、今回は小隊ごとに単横陣を組んで一斉に攻撃するよう指示を出していた。

 この様に横並びで攻撃する方法は、縦に一列に攻撃する場合に比べると搭乗員が個々に照準と投下を行う必要が有る為、それぞれの持つ技量に左右される欠点があったが、何より一斉に爆撃できることから敵の回避運動を妨げ、対空攻撃に対しても目標を分散させる効果も有った、そして今回の対巨大海竜に関しては目標が巨大であり点よりも面を攻撃する必要性からこの爆撃方法が選択される理由ともなったのである。

 高橋少佐は、九九艦爆の操縦席の風防の前に突き出た望遠鏡型の九五式射爆照準器を覗きながら、機体の進路を微調整して爆弾投下の狙点を巨大海竜の頭部へ定めて行く。

 途中、降下速度が上がり過ぎない様に抵抗板を起こして速度を二六五ノット・四九〇㎞/hにまで減速しながら、投下高度の五〇〇メートルまで駆け下るのは何時も通りであった。

 同じく、雷撃装備の九七艦攻も手順通りに巨大海竜の左右の超低空を投下位置に向かっていた。

「何だ?」

 その時、巨大海竜に異変が起きた。

 正しくは、その巨大な身体の周囲にと言うべきか。

 突如として、海竜の巨大な身体に赤く輝く光の輪が浮かび上がったのだ。

 大きさは二メートル程度だったが、それは瞬く間に巨大海竜の体表の内、海面から出ている部分に広がって行った。

 やがてそれは、その中心部に向かって収束して光の点となった。

 高橋少佐はその存在に一瞬胸騒ぎを覚えたが、既に高度は二〇〇〇を切る所までになっていた。

 急降下爆撃機が、急降下の爆撃途中に行動を中止には爆弾を投棄する以外に方法は無かった、そして、今の現状では爆弾の投棄は手段としては選択できなかった。

「えーい、儘よ!」

 彼は一瞬の逡巡を断ち切って、攻撃に集中した。

 そして・・・、その刹那。

 光の点が弾けた!

 光の点は、火球と成って巨大海竜の身体から周囲へ無数の火球弾と成って放たれ、急降下途中の九九艦爆が、雷撃途中の九七艦攻がその火球に次々と絡め捕られて行く。

「小隊三番機被弾!」

「小泉少尉、高度計から目を離すな!」

 高橋少佐は、追い詰められた状態で周囲の状況を知るよりも攻撃を続行する事を選択し、今の指示はそれを意味していた。

 が、次の瞬間に高橋少佐の乗機が激しい衝撃を受け、周囲が真っ赤になった。

 それは血の赤ではない、機首に載せられた発動機に火球を受けて機体が燃え上がっていたのだ。

「精さん、今いくつだ?」

「六〇(六〇〇メートル)です!」

「ならば、行ける!」

 急降下する機体の風圧も有って機首で燃え上がった炎は瞬く間に操縦席周辺まで燃え広がり自身の身体もそれに呑み込まれようとしていた、しかし、その中にあっても高橋少佐は燃え上がる機首越しに照準を合わせると、渾身の力で操縦桿に付けられた爆弾の投下レバーを引いた。

 投下レバーが引かれ、爆弾を機体に固定していた拘束バンドのロックが解除されると、二五番通常爆弾は爆弾投下誘導枠によって前方で回るプロペラの圏外へ押し出されて落下していった。

 燃え盛る機体の機首越しに落下して行く二五番通常爆弾を確認して、高橋赫一は自分が為すべきことを果たしたことを確信した、そしてその直後、燃料タンクにまで火が回った搭乗機はそこで四散し高橋・小泉両名の意識は天空に散って行った。


 思い掛けない敵の反撃の中で、投弾が出来たのは九九艦爆が二九機、九七艦攻は二四機であった。

 この数字は攻撃開始時の約六割であることを意味していたが、高橋少佐と同様に帰艦が期待できない状況下に於いても投弾を行った機体が複数あり、最終的に母艦へと帰艦できた数字は出撃数の約半数以下と成っていた。

 搭乗員たちが命を賭して敵に放った一撃は、やがて巨大海竜へ達しその巨体の左右から九一式航空魚雷が、そしてそれに前後して頭上から二五番通常爆弾が着弾して、二体の巨大海竜周辺に無数の水柱と火柱が吹き上がった。

 二五番通常爆弾二九発と九一式航空魚雷改一二四発と言う数字は、当初に比べると大幅に数を減らしていたが、それでも二隻の戦艦に対して有効な打撃を与える事が出来るものであった。

 相次ぐ爆弾と魚雷の炸裂は、まるでそこに二つの海底火山が現れた様な情景を作り出したが、それもやがて治まって行った。

 今回の攻撃では少なくない喪失が有った、ならば少なくともそれに釣り合う戦果を期待するのは当然であった。

 爆発が収まり海上の様子が確認できるようになると、淵田中佐は急いで二体の巨大海竜へ双眼鏡を向けた。

「何だと!」

 しかし、戦果を確認するために双眼鏡を向けた淵田総隊長の口から出たのは、怒りと失望の感情が綯い交ぜとなった言葉だった。

「あれで損傷なしなのか?

 信じられん!」

 悲痛と言う言葉を体現するような口調で淵田総隊長が語ったように、二体の巨大海竜は悠然とした泳ぎで北進を続けていた。

 しかし、その様子を見ながら淵田中佐の頭の中で冷静さが呼び戻されてゆく、やがてこれまで何度も日米軍の攻撃を弾き返してきた障壁の存在に行き当たった。

「なるほど、奴にも障壁が有ったのか。」


 オアフ島沖に現れた新たな「海竜」軍団の攻撃に出撃する米海軍の攻撃隊へ、帝国海軍の攻撃隊が同行することを決めた南雲忠一長官の決定に対して参謀長の草鹿龍之介大佐は、軍令部の帰還命令を盾に反対した。

「草鹿参謀長、事は合衆国一国の問題ではないのでは無いのかね?

 それに、彼らに我が軍の精鋭の力を見せ付けるのも悪い話では無かろう。」

 南雲中将はいつもの温厚な笑みを浮かべたままそう言った。

 しかし、実際には精鋭の力を見せ付けるどころか、米軍は寡兵ながら素早い用兵で敵の隙を突くように一撃を与えて巨大海竜を葬る事に成功した。

 一方の我が精鋭は、強烈な一撃を与える手順に拘りすぎて攻撃の時を失ってしまったのかも知れなかった。

 であるなら、何処で、何が問題であったか・・?

「隊長、二番機が。」

 松崎大尉の言葉に淵田中佐は思索の世界から現実世界へと呼び戻された。

 松崎大尉の言葉に、右舷方向に視線を向けると水平爆撃の際に嚮導照準を担当する二番機が並進していて、機長で偵察員の橋口喬少佐がこちらに何か言いたげな表情でこちらを向ていた。

 その表情から淵田中佐は、彼の胸中の想いを読み取った。

『隊長、今度は我々の出番です。

 この八〇番を食らわせてやりましょう!』

 彼は、確かにそう語っていた。

「戦艦の装甲をも貫通する、九九式八〇番五号爆弾なら障壁ごと海竜をぶち抜けると言う訳か。」

 なるほど、確かにそれなら勝算はある、その八〇番が一〇発だけというのが懸念材料だが今この時をおいて有効に使える場面はないであろう。

 今は、少しでも損害を与えて敵の足を止めるのが先決だ、何しろ機動部隊はもう目と鼻の先なのだから。

 淵田中佐は、己の中で結論へ辿り着くと、二番機の阿曽少佐を見て頷いた。

 阿曽少佐は軽く敬礼をして了解の意志を示すと正面を向いて自分のすべき作業に移った。

 一〇機の九九式八〇番五号爆弾を搭載した九七艦攻は、五機づつの二隊に分かれると三二の組み合わせ逆三角形(正確位には逆の台形と言うべきか)の嚮導爆撃隊形と組んで巨大海竜の上空を目指した。

 高度は三〇〇〇メートル、前回の三つ首竜への爆撃の際には四〇〇〇メートルで行ったことを考えるとやや低いが、基本性能として高度二五〇〇~三〇〇〇メートルで投下して一五〇ミリ装甲板を貫通する能力を有していたのだ充分な高度と言えるだろう。

 今回は全部で一〇発である事から威力と命中精度を天秤に掛けた結果の投下高度と言う訳である。

 当然であるが、敵も黙ってやられる訳はない。

 敵は爆撃隊の動きを察知すると、次々と飛竜が飛来して爆撃隊阻止に動いて来る。

 日米の護衛戦闘機隊も、それを黙って通すことは無いので、爆撃隊周辺の彼方此方の空域で熾烈な空中戦が繰り広げられる事となる。

「五番機被弾、墜ちます!」

 やがて、二体の飛竜が満身創痍の身体に鞭打って爆撃隊へ突っ込んで来た。

 二体の飛竜の内、一体は左後方の位置に居た五番機を血祭りにあげると、嚮導機である阿曽機へその矛先を向けた、しかし、それは無理な機動の結果であったので行き足が鈍り後ろから追い縋った零式艦戦の二〇ミリ機銃弾の連射を受けて、右翼を根元から断ち切られて錐もみしながら海面へ向けて落下していった。

 しかし、残る一体は同じく追い縋った零式艦戦の二〇ミリ機銃をもろともせず、真直ぐ総隊長機へ向かって行った。

 水平爆撃の過程に入った爆撃機は照準の為に大きな飛行姿勢の変更は出来ない、故に淵田機は後方から迫って来る飛竜に対しては電信員の水木一飛曹が撃つ九二式七.七ミリ旋回機銃一丁のみが対抗する手段であった。

 しかしながら、米軍の一二.七ミリ弾ですら貫通出来ない飛竜の障壁に対して七.七ミリ弾は余りに非力であった。

 七.七ミリ機銃弾をもろともせず、至近まで迫った飛竜と騎手はそれぞれ火球を淵田機に向けて放った。

 この絶体絶命の危機に淵田中佐は死を覚悟した、が・・・・。

「え?」

 一瞬、何が起こったのか理解できない淵田中佐たちペアは唖然とその様子に見入ってしまった。

 飛竜と騎手が放った火球は、真直ぐ淵田機に向かって飛翔したが、その行く手を一つの影が遮った。

 大きな発動機を機首に収めたアブの様な丸々とした機体、両端を大胆に切り落とした主翼、お世辞でも流麗とは言えない外形だがその頑丈さと使い勝手の良さを体現しているような戦闘機だった。

 グラマンF4Fワイルドキャット、山猫の愛称を持つその機体が飛竜の射線上に立ち塞がりその攻撃をその身に受けて淵田中佐の九七艦攻を護ったのだ。

 F4Fに攻撃を阻まれた飛竜は、再び淵田機に襲い掛かろうとしたが既にそれは零式艦戦の狩る獲物であり、間も無く二〇ミリ機銃弾に切り裂かれて落下していった。

 飛竜の火球を受けたF4Fは暫く淵田機の近くを飛んでいた、淵田中佐が見守る中でF4Fの操縦席のパイロット目が合った。

 そのパイロットは、予想に反して未だ年若い飛行兵に見えた。

 不安げなそのパイロットの表情には未だ幼さが残っていた。

 彼は、ニコリと笑うと、やがてF4Fは横倒しに成り背面飛行と成った。

 どうした?と不安げに見守る淵田機のペアの前で天蓋が投棄されてパイロットが飛び出し、やがて後方に落下傘が開くのを見て彼が無事脱出したのを確認することが出来た。


 巨大海竜の上空へ達した二隊の嚮導機は、ほぼ同時に九九式八〇番五号爆弾を投下した。

 それに倣い列機も次々と爆弾を投下して行く。 

 高度三〇〇〇メートルから投下された九九式八〇番五号爆弾は、大気を切り裂きながら落下すると巨大海竜の周辺にその巨体を隠すほどの水柱を吹き上げた。

 今度は効果が有ったか?

 不安げな表情でその様子を見守る搭乗員達の目前で水柱が崩れ、やがてその姿が現れた。

 二体の巨大海竜も今回は無傷とは行かなかった、特に淵田中佐らが攻撃した一体は背部に二カ所、大きく抉られた着弾痕が有り、著しく動きが鈍くなっており、もう一体も、程度の違いは有ったがその歩みは遅くなっていた。

 淵田中佐は巨大海竜の足を止める事に成功したことに安堵した、動きが鈍くなった巨大海竜が間も無くこの上空へ現れる第二次攻撃隊に依って討ち取ることも可能となったからである。

「これで、やっと終わるか・・。」

 そっと息を吐くと、淵田中佐はそう呟いた。

「隊長、『筑摩』二号機から入電です。」

「読んでくれ。」

 それは、先に巨大な黒い渦を発見した「利根」の四号機に代わってその渦の様子を監視していた重巡洋艦「筑摩」搭載の零式三座水偵の二号機から報告だった。

「オアフ島沖の巨大な渦が消えたそうです。」

「渦がか?

 これで本当に終わりなのかもしれんな。」

 既に、大きく数を減らした第一次攻撃隊の各機は、制空隊として巨大海竜上空へ残る一部の零式艦戦を除き帰路につきつつあった。

 彼らも第二次攻撃隊の本隊が到着し次第帰投の予定であった。


「隊長、巨大海竜に動きがあります。」

「何?」

 淵田中佐はその頑丈さに些か呆れつつ巨大海竜に双眼鏡を向けた。

 双眼鏡の中には、先ほどの攻撃で深手を負った一体が海中へ没しようとする姿が見えた、断末魔の姿か?とも思ったが様子が違う。

 やがて巨大海竜は一度海中に没したが、直ぐ一体が頭を擡げた。

 いや、口を開けたのだ。

 その直後に、巨大な咆哮が響き渡った。

 空中に居た攻撃隊各機は大地震に遭った如く激しく揺す振られ、そして、海面が裂けた。

 それはその方向と共に何かが放たれたことを意味していた。

 巨大海竜の顎から放たれたそれは、海面を切り裂きながら進み北の水平線の彼方へ消えた。

 やがて爆発光が光り、時間をおいて爆発音が響いた。

今回は遅くなりました。

申し訳ないです。

一度書き上げたのですが、内容が気に入らなくて書き直したので普段の倍近い時間が掛かってしまいました。

ついでにお祭りやら何やら地域の行事で駆り出されたり、職場で怪我人が出てその穴埋めでやたらと忙しくなったりと散々でした><


ですが、本編もあと一話で完結の予定です。ですので後少しお付き合い下さい。


それからいつも通りですが、誤字脱字が有りましたら一報ください。

また、意見や感想も頂けたら嬉しいのでお願いします。

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