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燃ゆる真珠湾  作者: 雅夢
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反撃の星条旗

更新が遅れました。

反撃の星条旗


 最初、それに気づいたのは伊二〇搭載の広尾艇(広尾彰少尉、片山義雄二曹)であった、真珠湾内への侵入攻撃の任務に当たっていた五隻の甲標的の一隻である彼らは、真珠湾へ入港する補給船の曳く艀に続行する形で湾内への潜入を計ったが、付近を警戒航行中の駆逐艦がそれに気づき、同艇に接近してきたため広尾艇は攻撃を避けるために潜航しやり過ごそうとした。

 しかし、潜望鏡(甲標的の場合は特眼鏡と呼ばれていた。)で接近する米駆逐艦の姿を確認して居た広尾艇長はその視界の中に思いもしないものを見た。

 最初、広尾少尉はそれが意味するものを理解できないでいた、何故ならば突如として現れた巨大な物体に米駆逐艦が叩き折られて海中に引きずり込まれたからだ。

 巨大なその物体は一見すると頭足類の腕の様に見えた、海中から現れたそれは何本も駆逐艦の煙突やマスト、艦体に絡みついて海中へそれを引きずり込んで行った様に見えた。

 そして、その直後激しい衝撃が広尾艇を襲った。

 米駆逐艦を襲った腕が今度は広尾艇を襲ったのだ。

 広尾少尉はその衝撃に甲標的艇内の隔壁に打ち付けられた、その衝撃で意識が朦朧となった彼に目に映ったのは、船殻の裂け目から流れ込む濁流だった。

 そして、謎の生物に依って海中へ沈められたのは広尾艇だけでは無かった、広尾艇沈没から然程時を置かず、広尾艇を搭載して来た伊二〇と伊二二、伊二四の三隻の伊号潜水艦と二隻の甲標的が撃沈されている、特に伊二四は酒巻艇(酒巻和男少尉、稲垣清二曹)を搭載したまま真珠湾口沖に沈んでいる。

 それだけでは無い、前述の駆逐艦(後に艦名はウォードと確認された)を始め、一般消耗品補給艦アンタレスや特設沿岸掃海艇コンドルなど真珠湾外の航行制限区域を航行、或いは警戒中の米海軍艦艇、一〇隻以上が次々と消息を絶っていた。

 それは、帝国海軍機動部隊より発進した第一次攻撃隊が、オアフ島・真珠湾へ到達するのに先立つおよそ一時間前の出来事であった。


 航空母艦「赤城」の艦上を「搭乗員整列!」の号令が走り、搭乗員たちが令達台の前へ整列した、彼らは艦橋横の黒板に記された搭乗割りに名の有った者たちだ。

 一部の隊員の中には先の出撃で乗機を損傷させ、無事帰りついたものの今回の出撃から外された者もいた、勿論負傷者は出撃出来ない。

 艦橋前に置かれた令達台に立つのは飛行長の増田正吾中佐だった、通常は出撃前には司令や艦長などの訓示が行われるが今回は急ぎ出撃と言う事と、第一次攻撃隊の出撃時に訓示が済まされていたので今回は飛行長と飛行隊長の淵田中佐から注意事項の伝達だけと成った。

 その背後、飛行甲板には既に出撃準備が済まされた攻撃隊の各機がエレベーターで格納庫から上げられて、定位置に付くと車止めを噛まされて暖気運転が行われていた。

 もちろんこの様な情景は「赤城」だけで見られるものでは無かった、機動部隊の他の五隻の空母と、やや離れたところを航行中の米第八任務部隊唯一の空母エンタープライズに於いても同様の光景が見られた。

 やがて、エンタープライズからの『我、発艦ヲ開始ス!』の信号を合図に機動部隊の六隻でも攻撃隊の発艦が始まった。

「発艦始め。」

 青木艦長の号令に、素早く甲板員が反応して両手の手旗を大きく左右に振った。

 それを合図に、整備員が零式艦戦隊の一番機の車止めを外した。

 既に「赤城」は進路を風上に向け全速で航行中であった、一番機の板谷少佐は車止めが外されたのを確認してスロットルを一番奥まで押し込んだ。

 「栄」発動機は轟音と共に出力は最大に上げ、合成風を加えた風を捉えて水平尾翼が尾部が持ち上げると、機体は艦上を滑る様に進み始めた。

 板谷機は直ぐに速度に乗り上空へ舞い上がり、後続機がそれに続く、最初は真新しい増槽タンクを付けた零式艦戦隊だった。

 零式艦戦の発艦が終わるとそれに続くのは、今回も対艦用の二五番通常爆弾を一発抱いた九九艦爆隊だった。

 その後に九七艦攻隊が続く。

 今回、九七艦攻隊はは多様な装備を搭載していた。

 爆装した機体では前回真珠湾で猛威を振るった九九式八〇番五号爆弾を装備した機体は一〇機のみ、後は九九艦爆と同じ二五番通常爆弾を二発か二五番一発と六番六発の組み合わせとしていた。

 爆装機の後に続くのは、雷装の機体で、今回は前回とは違い九一式航空魚雷改一(前回は浅海雷撃用の改二を使用)を搭載していた。

 これとは別に九七艦攻の中には、六番爆弾のみ六発搭載の機体が九機準備された。

 この六番爆弾は、九九式六番二号爆弾と呼ばれる潜水艦攻撃用の爆弾で、大きさの割に炸薬量が多く、投下着水後沈降に従って水圧感応信管で炸裂するようになっていた。

 これは潜航中の潜水艦を攻撃する手段が通常の爆発に伴う破片や爆風でなく水中での爆発による衝撃波と圧力で有る為で、弾体の外殻を薄くして内部容積を広げて炸薬量を増し(水中を進む衝撃波はその爆発の大きさに単純に比例する為)、起爆も沈降深度を水圧で感知し起爆する工夫が為されていた。

 この対戦用爆弾を装備した九七艦攻が用意されたのは、進撃中の「怪魔」軍団に張り付いていた「利根」の零式水偵機四号機からもたらされた情報より、敵の一部が海中を進撃して来ると見られることからそれに対する対応策として準備されたものである。


 発艦が順次終わり、艦隊上空を旋回しながら編隊を組み、他の空母の攻撃隊と歩調を合わせる。

 しかし・・・、

「ほお、米軍は集合せずに進撃するのか。」

 淵田中佐はこの機会にと、エンタープライズより発艦する攻撃隊に注視していた。

 その内訳は、戦闘機隊のF4Fワイルドキャット、急降下爆撃隊のSBDドーントレス、雷撃隊のTBD-1デバステイターで総数は約四〇機であったが、米軍機は発艦して小隊が揃うと、すぐさま進撃に移っていた。

 帝国海軍の様に上空で集合せずに各個に進撃してゆくらしい。

「なんか、戦力の分散に成りませんか?

 動きも素人っぽいですし。」

 同じくその様子を観察していた電信員の水木一飛曹が正直な感想を述べた。

「確かに危なっかしいですな。」

 操縦員の松崎大尉もそれに同調した。 

「兵は拙速を尊ぶ、だな。」

「何ですか、それ?」

 それは「孫子」の兵法の一文であった、「充分に準備が整うのを待って機を失うよりも、不十分でも素早く行動することで機を制するべきだ。」と言う意味で『チャンスは積極的に掴むべきだ。』と言う解釈もできる。

 米軍はそれを実践している様に淵田中佐には見えた。

 それが正しいのか誤りなのかはまだ判らない、何しろ空母から艦載機を発進させて航空攻撃を行うと言う軍事活動自体が端緒に付いたばかりだからだ。

「いや、正しい誤りでなく、どちらが適しているかと考えるべきかな?」

「総隊長、何か言われましたか?」

 その運用に関して深く考える淵田中佐の呟きを聞いて水木一飛曹が聞き返した。

「何でもない、さてそれでは我々

も行くか。」

 その間に空中集合を終えた各隊を確認して、彼は進撃命令を出した。

 今回の攻撃に投入された戦力は零式艦戦が制空隊として二一機直掩として一二機、九九艦爆が四二機、九七艦攻爆装で三二機(対潜装備を含む)、雷装え三四機と成っていた、この中には補用機(予備として分解されて搭載されていた。)を組み立てた物も含まれていた。

 総機数一四一機、第一次攻撃隊が一八三機であったから二割強、四二機の損失が有った事に成るが、実際には各艦合計で約三〇機の補用機が使われていたから損害の実数はもっと多い事に成る。

 今回は、日本軍の攻撃隊も最初から二つに分かれて目標へ向かっていた、前回と同じく「赤城」「蒼龍」と「加賀」「飛龍」の組み合わせであった。

 これは攻撃すべき目標が三つで、そのうち一つは米軍のエンタープライズ隊が担当するので、残りの二つを割り振った結果であった。

 但し第一次攻撃に於いて各艦で損失のバラツキがあったので、実際には小隊単位で割り振りは行われていた。

 攻撃隊が南の空へ飛び去ると、艦隊は第二次攻撃隊の収容準備に掛かった、間も無く帰着の時間であり、先に発進した攻撃隊の状況次第では第二次攻撃隊の再出撃も予定されていたため格納庫内では燃料の補給と装備の再搭載の準備が行われていた。


 暫く南への飛行を続けると、前方の戦闘機隊が増槽タンクを落とすのが見えた。

 それは、日米の攻撃隊が敵の飛竜を視認できる距離まで近づいている事を意味していた。

 零式艦戦、F4Fワイルドキャットの各隊は、増槽を切り離して身軽になると加速して行く、直掩隊の各機はまだその位置を動かず、増槽もそのままであった、これは先行して敵の脅威を排除する制空任務と攻撃隊近傍に待機して敵の攻撃を打ち払う直掩任務の違いによるものであった。

 制空隊は上空の飛竜を排除するのが目的であるために、各艦、日米で分散する事無く正に一丸と成って敵飛竜へ向かって行った。

 F4Fは二機で一つの編隊を組み、互いに援護しつつ戦う方法を取り、飛竜に対して上空から降下して接近すると直進性の良い一二.七ミリのブローニング機関銃を叩き込みそのまま脇目も振らずに急降下して離脱していった。

 先の真珠湾上空の空戦と同様、米軍のブローニング機銃弾では敵の障壁は撃ち抜くことは不可能であった、しかし、それが判っているが故に日米の戦闘機はそれぞれの役割を明確にしていた。

 集中的に一二.七ミリ弾を撃ち込まれた飛竜は確かに障壁により損傷を受けることは無かったが、一時に着弾する弾丸の数の多さから相当の衝撃を受ける事に成る。

 それは戦闘成り飛行成りの態勢を崩すに十分な力であり、その竜を駆る者たちにとってはそうした事実は容認しがたい事らしく、降下して去って行く敵機を無理をしても追ってゆく傾向が有った。

 それは、F4Fの背後に有って時を待つ零式艦戦隊にとっては、又と無い好機であった。

 零式艦戦各機はF4Fに追随するように飛竜へ迫った、高速の一撃離脱戦法を駆使するF4Fは相互支援をしやすい二機で編隊を組むが、旋回戦闘が主の零式艦戦隊は旧来の三機で一つの編隊を組んでいた、今回はF4Fに比べて零式艦戦の機数が多いので問題には成らなかったが、後に帝国海軍も機体の高速化に伴い二機編隊を採用するが、それにはこの時の戦闘が大きく影響したとされている。

 三機で編隊を組んだ零式艦戦はF4Fの攻撃で体勢を崩した飛竜へ迫り二〇ミリ弾を撃ち込んで飛竜を一体づつ仕留めていった。

 予想よりもスムーズに上空の飛竜が排除されてゆくのに安堵しつつ、淵田中佐は海面を注視しながら進撃を続けた。

 そして、それは居た。

「隊長。三時方向の海中に影です!」

 水木一飛曹の声が伝声管を伝わって耳朶を打つ。

 その声に淵田中佐は素早く双眼鏡を向けたが、そこで思わずその姿を注視した。

「デカイな。」

 相当離れた位置であったが、海中に有ってもそれは南方の強い日差し受けて黒々とした影を纏って海中を進んでいた。

「鯨の比では有りませんね。」

「シロナガスクジラが三〇メートルと聞くが、その倍から三倍はあるな。」

 その大きさを把握して唸る水木一飛曹に淵田中佐はそう応えて同意した。

 高度四〇〇〇メートルを飛行する九七艦攻からでもハッキリと見えるその影の大きさは確かに巨大であった。

 その巨大な影が三つ、一キロほどの距離を開けて水面下を進んでいた。

 深度は二〇メートルほどか?南方の強い日差しを受けてその深度でもハッキリとその輪郭捉えることが出来た。

 それは水木一飛曹が言うように明らかに鯨とは違っていた。

 それは鯨の様に滑らかな紡錘形ではなく、随分太い体形をしていた、しかしそれでも三〇ノットに近い速度で水中を進めるのだ。

 淵田中佐はかなり手を焼く結果が見えて辟易すると同時に、これを艦隊に近づけては我々の負けである事を悟った。

「隊長、米軍が仕掛けます!」

 操縦員の松崎大尉の声に双眼鏡を進路方向へ向けると、SBDドーントレスが翼を翻して急降下に移るのが見えた。

 この米海軍が誇る急降下爆撃機は、その頑丈さと取り回しの良さでこの後も常に戦場に有ったが実質この時がデビュー戦であった。

 急降下角七〇度は帝国海軍の基準から見れば突っ込みすぎと言える水準であったが急降下時の命中精度や被弾率を考えると米軍としては妥当なのかもしれない。

 そしてその機体が抱えていたのは1000lb(一〇〇〇ポンド)爆弾、キロ重量に換算すると四五〇㎏となる大型爆弾だった。

 九九艦爆の搭載する二五〇キロ爆弾の倍近い重量の爆弾を抱いたSBDは主翼エアブレーキを上下に広げ、独特の風切り音を上げながら海中の影に向かって突進していった。

 九九艦爆やJu87(スツーカ)の様に翼下にぶら下げる様に取り付けられたエアブレーキと違い、SBDではフラップを上下に二分割して展開してエアブレーキとしていた。

 この形式は降下時の安定性と通常飛行時の抵抗に成らないと言う点で大きな利点があったが構造が複雑と成る問題点も有った、またSBDは両主翼に折り畳み機構を持たないことで急激な引き起こしにも耐える頑丈な機体と成っていた。

 降下を続け、間も無く投下高度である高度五〇〇メートルと言うところで、編隊を火線が襲った、上空からではない、海面上からだ。

 先頭を行く二機が回避できずにそれに食われて火達磨と成り海面へ落下していった、しかし、後続機はそれに怯えず(実際には爆弾を投下しないと引きおこしが出来ないことも有った)そのまま突入して一〇〇〇ポンド爆弾を投下して離脱していった。

 投下された爆弾は、水中へ飛び込むと信管が作動して爆焔が混じった水柱を吹き上げた。

効果の程はどうか?残念ながらそれは確認できなかった。

 何本もの水柱が吹き上がったが攻撃対象が海中に居る為に直接それを確認しようが無かったのだが、それに加えて海面より多数の火線が攻撃隊を襲い始めたのだ。

 降下体勢に入ろうとした九九艦爆が慌てて高度を取る、火線自体は然程高い高度までは届かないが海面から無数に打ち上げられる火球は、その海面に向かって降下する急降下爆撃機にとっては脅威であった。

「何だあれは?」

 この時に成って、淵田中佐は火球の出現元を認識した。

「イルカですか?ありゃ。」

 水木一飛曹もそれに続いてその姿を視認した。

「イルカよりもでかいな、

 あれも竜の一種か?」

 イルカとして一般的なバンドウイルカが成体で四メートル程であるが海上のそれは背に乗る人の大きさから見てその倍ほどある様だった、因みにイルカ類としては大きなシャチが同サイズの八メートル(成体)だが海上のそれはシャチと比べると細い紡錘形をしており別種であることが一目でわかった。

 そしてそれは飛竜や騎竜と同様に背部に鞍を乗せそして騎手を乗せていた、攻撃はその騎手が持つ杖から放たれていた。

 後に海騎竜との種別されるそれは、海中の巨大な影の護衛らしく海中の影の共に北上していた。

 彼らは火球を放つことで急降下爆撃より海中の主と自身を護っていた、しかし、彼らは自分たちにとって脅威と成る者の存在を認識していなかった。

 最初それの有効性に気が付いたのはF4Fのパイロット達であった、彼らは艦隊へ近づく巨大な影を阻止する筈のSBDの攻撃が封じられたのに危機意識を持ち、せめて牽制をと考えて攻撃を行ったのだ。

 F4Fの数機が緩降下で海騎竜に接近すると両翼計六門の一二.七ミリブローニング機銃による機銃掃射を行ったのだ。

 最初彼らは前述の様にそれを急降下爆撃隊の為の牽制と考えて行ったのだが、その機銃掃射を受けた海騎竜が騎手共々撃破されてゆくのを見て他の機体も機銃掃射を行い始めたのだ。

 こうなると、海騎竜たちは急降下爆撃を阻止するどころか自身を守るために逃げ回る結果と成り、最終的に彼らはその逃げ場所を海中に求める事と成った。

 海上から海騎竜達の姿が消えると、淵田中佐は切り札の投入を決意した。

 彼の指示で対戦装備の九七艦攻が該当海域上空へ進入した、勿論周囲を護衛の零式艦戦に守られながらである。

 三機づつ三つの編隊へ分かれた対潜装備の九七艦攻は三つの影に緩降下で近づき、高度四五〇で上空へ向かうと水平爆撃の要領で六番の対潜爆弾を投下した。


 水中に隠れた海騎竜の騎手たちは、水深約五メートルの海中で反撃の機会を窺っていた、数は少ないが作戦途中に飛竜から攻撃を受ける事はこれまでも有った。

 故に、彼らは海中へ没すれば敵の攻撃を避け得ることは知っていた。

 敵の飛竜(F4Fや零式艦戦のこと)の攻撃により半数近くを失ったが、未だ海騎竜隊は五〇騎以上が残っていた、次はこちらの番だ。

 とは言え、決して時間に余裕が有るわけでは無かった、何より騎手も海竜も肺呼吸をする為、浮上して呼吸をする必要が有ったのだ。

 騎手の周りの障壁の内部には空気は有ったが浮力を付けすぎると潜水出来なく成る為、必要最小限のサイズに成っていた、空気を補充する道具も有ったがそれでもそれほど多くの時間は持たなかった。

 であるから、皆がそろそろ仕掛けるべきと考えた時、海面を破って数個の物が落ちて来た。


 九九式六番二号爆弾の水圧感応信管は事前に深度を設定する必要が有った、今回、信管は一〇メートルにセットされていて、海中へ突入した爆弾は沈降する過程で設置された深度まで来るとその信管を起動させ三八kgの九八式爆薬を起爆させた。

 対潜戦闘における水中爆発には一つの特徴が有った、それはそのエネルギーが上方へ、つまり爆発した深度より浅い場所へ向かってゆく性質を持っている事だ。

 それは、深度五メートルに居た海騎竜たちにとって悲劇を予告するものであった。

 水深一〇メートルで起爆した九九式六番二号爆弾のエネルギーは海騎竜と騎手たちを直撃した。

 激しい爆発の衝撃波に多くの海騎竜は行動不能と成り、その背の絶命した騎手共々海面へ浮かび上がって行った。


「影が浮かんできます。」

 対潜爆弾が爆発した後、人事不省と成った海騎竜や騎手の姿を確認して居た、水木一飛曹がそう叫んで報告した。

 淵田中佐も背後の影が急速に色を濃くしているのを確認した。

 やがて、巨大な身体が海面を割って姿を現した、鯨で例えるならシロナガスクジラと言うよりもマッコウクジラを肥大化させた様な姿であった。

 頭から前半は太く大きく、胸鰭や背鰭を過ぎたあたりから急速に絞られた様な形状で、その上部には既にお馴染みと成った、ゴンドラの様な物が取り付けられていた。

 上空からその細部を窺うことは出来ないが、おそらく防水耐圧構造に成っているだろうと思わせる物であった、ちょうど潜水艦が括り付けられている様に見えた。

 巨大な海竜が姿を現すとすかさず、SBDが攻撃に入った。

 編隊長機を先頭に線を引くように列を連ねて降下してゆくその姿は、彼らが帝国海軍の練度に劣らぬ力量を持っていることを示していた。

 主翼のエアブレーキを上下に展開して降下角七五度で降下していったSBDは約四〇〇で1000lb爆弾を投下した。

 九九艦爆と同様に機体中央に搭載された爆弾は、投下アームに依ってプロペラの回転圏外に押し出され、その後重力に引かれて目標へと落下していった。

 投下に成功した機体は十四機、つまり十四発の1000lb爆弾が巨大海竜へ降り注いだ事に成る。

 海面に達した爆弾は、対艦用の遅延信管を起動させて炸裂した。

 連続して起きる爆発の爆煙の向こうに海竜の身体の一部と思われる物体が飛散するのが見えた。

 やがて爆煙が晴れて、巨大海竜の姿が見えて来るとその効果はハッキリとしたもの成った。

 巨大海竜は、直撃により身体の彼方此方が抉られ、痛みと怒りに海面をのたうっていた。人の乗って居たであろうゴンドラも引き飛んでいた。

 しかし、それでもそれは生きていた。

 止めとばかりに、肉薄して雷撃しようとしたTBD-1デバステイターであったが、そのパイロットたちは目の前で海竜がその口を開けて自分たちを呑み込もうとすることは予想していなかった。

 雷撃の為に低空から接近したTBD-1に対して、巨大海竜は一瞬海中に姿を消し、次の瞬間彼らの前に躍り出た、身体の半分も有りそうな巨大サイズの口を開けてだ。

 その攻撃に、TBDは四機が喰われる結果と成った、しかし、その前に全機が魚雷を投下していた。

 魚雷は、大きく開けた口の中に投下した雷撃機や海水と一緒に呑み込まれて行った。

 基本的に、周囲からの圧力に耐える構造物は、外部からの圧力に対しては強いが内部からの圧力には弱い構造と成っている、巨大海竜も御多分に漏れず、海中に居る関係で水圧の様に外部からの圧力にはそれなりの耐久力を持っていたが、内部からの圧力には抵抗できない構造と成っていた。

 その為に、巨大海竜の腹部で炸裂したMk.13魚雷の二七〇㎏の炸薬に依るエネルギーは容易にその消化器官から周囲の臓器や筋肉を断絶、切断して海中へと伝わって行った。

 一瞬巨大海竜が痙攣したように見え、やがて海竜は動きを止めた。上空から巨大海竜が同様な状態に成っているのかを確認することは出来なかったが、巨大海竜の周辺の海水が赤黒い色に染まり、動きを止めてやがて海中へ没していったことから相当な深手を与えたのは明白だった。

「おおっ、米軍さんやりよった!」

 その一部始終を見ていた淵田中佐はそう嬉しそうに言った。

「よし、今度は我々の番だ、

 皆、米軍さんの前で見苦しい姿を見せるなよ。」

 淵田中佐は、そう激励して電信員の水木一飛曹にト連送を送信するように命じた。

 帝国海軍が、攻撃を開始すれば早晩敵は片付く、そう考えた彼の耳元に松崎大尉の悲鳴のような声が響いた。

「前方、黒い渦の様な物が見えます!」

「何?」

「数多数、中より飛竜が出現、

 多数です!」

 その声に、前方に向けた双眼鏡の視野の中で空中に黒い渦の様な物が多数現れ、その中から、と言うよりもそこを潜り抜ける様に多数の飛竜が現れて攻撃隊の行く手を塞いだ。

 その数はおよそ五〇騎、対しる零式艦戦隊は直掩と制空を合わせても三〇機を割っていた、加えて飛竜と海騎竜相手に二〇ミリ機銃弾を消費していて、各機とも残弾数は残り少なかった。

 どうする?淵田中佐が悩む間にも敵味方の距離は縮まり、やがて零式艦戦とF4Fが飛竜との交戦に入った。

 客観的に見て日米の戦闘機隊は善戦はしていたが、弾薬不足と連戦の疲労の色が濃く押され気味と成っていた、米軍は投弾の済んだSBDまで対飛竜との空中戦に投入して数的劣勢を補おうとしたがそれが可能なのは一時のことだった。

 戦闘機隊の壁が食い破られ、攻撃隊へ飛竜が殺到するのは時間の問題と思われた時、淵田中佐はそれに気が付いた。


ついに米軍が反撃に出ました。

寡兵ですがハルゼーの親爺だったらやるでしょう。って感じの戦いにしてみましたがどうでしょ?


ここまでほぼ一週間で更新してきましたが、仕事が忙しくなってきたのと、体調が今一つ・・肩こり痛などがひどくて執筆速度が低下しています、何とか完結までもって行きますので応援よろしくお願いします。


何時も通ですが誤字脱字が有りましたら一報ください。

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