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燃ゆる真珠湾  作者: 雅夢
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長槍は海より来る

昨日より三話連続しての投稿です。

長槍は海より来る


 同じころ、村田少佐率いる雷撃隊も雷撃コースへ入ろうとしていた。

 雷撃隊はワイピオ半島を過ぎたあたりから一気に高度を下げ始めた、それと同時に真珠湾内で生き残っていた高角砲や対空機銃が一斉に頭を擡げて射撃を始めた。

 雷撃隊にではない、上空に残っていた飛竜やこの先脅威と成るであろう三つ首竜の本体や三本の頭にである。

 こうした射撃は、当然反撃を呼び飛竜の火球や三つ首竜の火炎攻撃で破壊される艦や砲座もあったが米兵たちは怯むことなく射撃を続け、雷撃隊の花道を開けていった。

 しかしながら、多くの米兵たちは九七艦攻隊が雷撃を敢行しようとしているのを見て失敗を覚悟した。

 何故ならば真珠湾はその深さが浅い浅海湾であることが特徴で、それがこの地が太平洋最大の海軍の拠点と成った理由であったからだ。

 真珠湾の水深は平均一二メートル、航空魚雷を投下する際には速度と高度によって色々な数値が出るが、頑張っても五〇メートルは沈降することから、真珠湾では雷撃は不可能とされていた。

 だが帝国海軍がこの真珠湾攻撃に持ち込んだ航空魚雷は唯の魚雷では無かった。

 九一式魚雷、別名九一式航空魚雷と名付けられたこの魚雷には、海軍の『雷撃に依る敵戦艦の確実な撃沈』を目標に、浅海での航空雷撃を可能とする為の開発と改良が行われていた。

 実際には真珠湾攻撃に用いられたのは九一式魚雷改二と呼ばれる、採用後に二度の改良が行われてものであった。

 一度目の改良では脱落式の空中姿勢安定用木製尾翼(「框板」)が開発され、空中での弾道の安定と投下速度の引き上げが行われたが、この改良でも依然として深く沈降することは変わりなく真珠湾での使用に耐えられる物では無かった。

 そこで、更なる改良が行われ改二となった九一式航空魚雷が真珠湾攻撃へ投入される事と成った。

 その最大の特徴は、框板の様に投下時の姿勢を安定させるだけでなく、魚雷本体の左右に空中での姿勢をコントロールする飛行機で言う補助翼のようなパーツをつけジャイロセンサー等で姿勢を検知して積極的に姿勢を正す方式を採用した事に有った。

 これが無い場合、魚雷は一度大きく沈んだ後、浮かび上がりながら気室などの浮力を基に上下の姿勢を正す事に成る、これでは浅海での使用は不可能となる。


「突撃隊形作レ。」

 雷撃隊指揮官の村田少佐の機体より、突撃命令が打電されると小隊各機は横一文字に広がる隊形を作り当初の予定通り、村田少佐が率いる「赤城」と「蒼龍」の部隊はフォード島南の南水路(South Channel)に居る一体へ、北島一良大尉が率いる「加賀」と「飛龍」の部隊はフォード島とパールシティー半島の間に居る一体へ向かって行った。

 二体の三つ首竜とも湾内に居て、半身は海中に有る、動きも極ユックリとしたもので雷撃するのに最適な目標であった。

 村田少佐は、機体を高度を二〇メートルで水平にすると真直ぐ目標とする三つ首竜へ進路を取った。

 雷撃機の照準と魚雷の投下は、同じ九七式艦上攻撃機であっても水平爆撃と違い操縦員が行う。

 従って村田少佐は、操縦席正面の計器盤上部に付けられた雷撃用照準器の中に目標とする三つ首竜を収めてながら高度と速度に注意する(実際には偵察員が数値を読み上げている)と言う難しい操縦を行っていた。

 いや、周囲の対空火器が自分たちに向いていないだけまだ容易と言えた。

 雷撃コースは、本来(真珠湾攻撃の際にと言う意味で)はフォード島へ向かってする形をとっていたが、実際にはフォード島の南北の海岸線に沿う形で行っていた。

 これは当初の予定通りフォード島へ向かって雷撃を行った場合、外れた魚雷がフォード島方面へ向かう危険があり、場合によっては流れ弾で要らぬ損害を出す可能性が有ったからであった。

「平山!

 皆付いて来とるか?」

 村田少佐は、伝声管で最後尾の電信員席に座る平山清志一飛曹へ声を掛けた。

 彼は、敵襲に備えて旋回機銃である九二式七.七機銃を構えて後方を向いていた。

「全機、付いてきています。」

 平山一飛曹がそう答えた、その直後に空中を光が走り爆発音が響いた。

「五中隊二番機被弾!

 「蒼龍」隊でも一機やられました!」

「了解。」

 平山一飛曹の報告に村田少佐は感情を殺した口調でそう答えた。

 低空より進撃して来る雷撃隊に気が付いた三つ首竜が、対飛竜用と思われる小火球で攻撃してきたのだ。

 先ほどまではフォード島へ向いていた筈だが流石にこちらに気が付いたらしい。

 ふと村田少佐は『こいつら、雷撃の意味を知っているのか?』などと思ったが、彼は再び戦闘へ意識を集中すると更に操縦桿を押し込んだ。

「高度を落とすぞ!」

 三つ首竜の攻撃を避けるために村田少佐は更に高度を落とすように命じた。

「どうだ?平山。

 皆無事か?」

 当初の高度が三〇メートル、雷撃時には二〇メートルまで下げる予定であったが、村田少佐は三つ首竜の火球攻撃を避けるために距離二〇〇〇メートルで一〇メートルまで降下するよう命じていた。

「大丈夫ですよ、

 訓練の時よりは高いですから。」

「確か、ペラが波を叩くまで下りましたからね。」

 電信員の平山一飛曹も偵察員の星野要二飛曹長も努めて軽く返してくる、操縦と照準に加えて雷撃隊の指揮を執る村田少佐の重責を慮っての言葉だった。

「すまん。」

 村田少佐はそう一言言葉にすると操縦と照準に専念した。


 現在、目標との距離は約一八〇〇メートル、魚雷の投下は一〇〇〇メートルで行うから、現在の速度は一八〇ノット(三三三㎞/h)で飛べば三分弱の時間である。

 しかし、高度を下げても敵の火球攻撃は終わらない、瞬く間に三機が撃ち落とされ、更に一機が撃墜された機体を避けようとしてバランスを崩して海面に接触して失われた。

 それでも彼らは超低空での雷撃を止めなった。

 三〇〇㎞/h超の速度で低空のまま彼らは南水路を三つ首竜に向かって行った。

 それまで対空火器で雷撃隊を援護してきた米兵たちも自分たちより低い高度を飛ぶ九七艦攻に舌を巻き、歓声を上げた。

「ヨーイ。」

 低空を飛ぶため激しく揺れる中で、村田少佐は雷撃用照準器を覗きながら操縦席左のコンソールに有る三本のレバーの内の中央、魚雷投下用のレバーへ手を置き。

「ティ!」

 の掛け声とともにそれを引いた。

 レバーが引かれると、ケーブルを介して魚雷を吊っていた固定索の投下フックが外され、九一式航空魚雷は空中へ躍り出た。


 魚雷は機体から離れると同時に安全の為に挿し込まれていた安全ボルトが抜けて縦舵操舵用と安定器用のジャイロが起動を開始する。

 これにより魚雷は左右方向の安定と、長軸方向の回転を抑えて空中姿勢を制御しながら海中へ突入する。

 この時、木製の尾部の空中尾翼安定板「框板」と左右の安定板が衝撃に依って飛び散り水中航走形態へとなる。

 更に尾部の横舵は目一杯上げ舵と成っているので、水中に入ると同時に魚雷の頭部を海面方向へ向かわせる力が働く。

 同時に二重反転スクリューのロックが外され、先ず圧縮空気により機関とスクリューのアイドリング(冷走)が行われ、続いて機関燃焼室で燃料の燃焼が始り発生した燃焼ガスと水の混合ガスが機関のピストンエンジンを駆動して魚雷は実質的な航走(熱走)へ入る。

 この時には上げ舵で固定されていた横舵も解除されて調整震度へと向かい、航走に依って安全装置も解除され九一式航空魚雷は最も強力な槍と成って敵に突き進む。

 この時、安定器により魚雷のロールを押さえ上下の位置が変わらないで水中へ突入するのが重要だった。

 魚雷の上部が海中突入時も上を向いているので、横舵を上げ舵にすることで着水後即座に海面方向へ向きを変えることが出来るのだ。

 この安定器とそれに連動する左右の安定板こそが沈降深度僅か一〇メートルを可能にした極秘アイテムであった。

 八〇〇kg超の魚雷が投下されると、九七艦攻は一気にその反動で飛び上がろうとするが村田少佐は同時に下げ舵を打って機体の上昇を防ぐ。

 これは高度が上がって対空砲火の中へ飛び込むのを防ぐ操作だった。

 そのまま低空で旋回して各機ともパールシティー方向へ離脱しながら次第に高度を上げて行く、気が付くと生き残った艦艇や湾内の各所で攻撃の一部始終を見ていたアメリカ兵たちが大声で何かを叫びながら手を振っていた。

 村田少佐はそれに愛機の翼を振る事で応えて旋回を続けた。

「機長、命中です!」

 平山一飛曹の弾む声に振り向くと、四つの水柱が見えた。

 三つ首竜は咆哮を上げると身をよじったが、それで魚雷から逃れえるはずもなく、後続の雷撃隊の投下した魚雷がその身に達するたびに水柱が上がり海水と肉体の一部を撒き散らしながらのた打ち回った。

 フォード島の外縁を左へ旋回し、パールシティーへ機体を向けた時、フォード島の北の海上で巨大な爆発が起こった。

 一瞬、火山でも噴火したのかと思える巨大な爆発だった、驚く村田少佐は立ち昇る水蒸気の影から次々と北島隊の雷撃機が姿を現すのを確認した。

 この爆発は、三つ首竜の爆発であったが、それは偶然の重なりで発生した。

 パールシティー半島側の一体も、南水路の三つ首竜と同様に接近して来る北島大尉の率いる雷撃隊に気が付き、火炎弾による攻撃を行ってきた。

 これに対して更に高度を下げ雷撃を行ったのは機体をも同様であった。

 この判断のお陰もあって、撃墜は一機に止まったのだが、逆に三つ首竜は火球攻撃から火炎流攻撃へ切り替えて攻撃を行ってきた。

 一撃目で六機が葬られ、更に次の火炎流攻撃と言うところで魚雷が命中し始めた。

 この着弾した魚雷の中に、腹部へ命中した物が数発あった。

 この時三つ首竜は、火炎流発射の為に火炎瘤を腹に集めていた、魚雷の炸裂は三つ首竜の丈夫な外皮を引き裂き、そこから海水が腹部へ流れ込み火炎瘤に達したのだ。

 その先は、水蒸気爆発の発生であった。

 これにより三つ首竜の下半身は弾け飛び絶命したのである。

 結果的に三つ首竜は仕留める事には成功したが、火炎攻撃と水蒸気爆発に巻き込まれる形で一四機の九七艦攻が失われていた。


 雷撃が完了した雷撃隊が高度を上げ終結を始めると、ホノルル方面の三つ首竜へ水平爆撃に向かっていた橋口隊も攻撃を終えて戻ってくるのが見えた。

 こちらも損害は少なくない、やはり一〇機程度の損耗は有ったようだが彼方に立ち昇る爆煙からこちらも撃退は成功したようだった。

 淵田総隊長は、全機に引き上げを命じると自身は静かにフォード島へ向かって敬礼した。

 それは危機を救てくれたアリゾナと同じく戦ってくれた陸海の米軍将兵に対する礼であった。

 気が付くと、周囲の攻撃隊各機も同じように敬礼をしているのが見えた。

「ありがとう、戦友。」

 彼は一言、状況が違っていたら自分たちが爆撃していた筈の戦艦に対して感謝の言葉を送った。

 


今回のこれで第一次攻撃隊の話はお終いです。


何とか雷撃まで漕ぎつけましたが九一式魚雷の説明がややこしくなかったですか?

自分で書いても構造がよく解らないって、書くのが難しいですね。


さて書き溜めはこれで無くなったので、次は一週間後だと思います。

少し待って下さいね。


さて例の如くの一言です、誤字脱字が有りましたら一報ください、そして感想も頂けると嬉しいし励みに成りますのでよろしくお願いします。

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