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燃ゆる真珠湾  作者: 雅夢
2/17

天空からの鉄槌

お待たせしました、第二話です。

今回は戦闘分多めでお送りしています。

天空からの鉄槌


 制空隊の零式艦戦隊は、その後も真珠湾上空で飛竜を空中戦に巻き込み上空へ吊り上げることで、間接的に米軍機の離陸の援護を続けた。

 そして、制空隊が飛竜との空中戦を繰り広げる間に、急降下爆撃隊の九九式艦上爆撃機も行動を開始していた。

 第一次攻撃隊の艦爆隊を率いていたのは、翔鶴航空隊の飛行隊長を兼ねる第一五攻撃隊隊長の高橋赫一少佐だった、彼は真珠湾攻撃に際して「翔鶴」「瑞鶴」の両艦爆隊五一機を第二集団急降下爆撃隊として指揮していた。

 高橋少佐は、第二次攻撃隊の艦爆隊を率いる空母「蒼龍」艦爆隊の第一三攻撃隊隊長の江草隆繁少佐と相並び立つ、帝国海軍航空隊切っての艦爆乗りであり名指揮官であった。

 彼は、江草少佐が寡言実直、沈着冷静でありながら卓越した技量と細やかな心配りで部下の心を掴み隊を纏めていったのとは対照的に、陽気で気さく、漢気にあふれた親分肌で引っ張って行く、そんな人物だった。

 彼は直卒の指揮隊と第三中隊の九機を率いて、制空隊の零式艦戦と敵の飛竜との空戦の間を縫ってフォード島上空へ進入、そこで獲物を見つけた。

 高橋赫一少佐率いる急降下爆撃隊が目標と定めたのは、地上で暴れる竜、暫定的に地竜と呼ばれた四足歩行の竜であった。

 この地竜は、大きさ的には路線バスを凌ぎ、四本の太い足でずんぐりとした巨大な身体を支え固くて弾力性のある皮膚で身を守りながら、踏みつぶしや体当たりと言う質量攻撃を行い破城槌の様に相手側の防衛線を突き崩していた。

 確かに、その巨体故に動きは緩慢な上、頭と尻尾も武器として使うには短い形状で、更に他の竜と違い火炎・火球攻撃の様な離れた相手に打撃を与える攻撃の手段も持っていないと言う欠点は有ったが、ゆっくりと進む地竜の歩みを止める術がないと言う時点で、その巨体は凶器であった。

 さらに敵は、こうした破城槌の様な使い方以外にも、その広い背部に大型の籠型の鞍を置きそこへ兵を配することで火力援護の拠点としても使っていた。

 その籠型の鞍の中には五~十名程の兵が収容する事が出来たので、その兵たちは飛竜の騎手同様に火球を使った攻撃で地竜自身や後続の兵の援護を行うとが出来たのだ。

 つまりこの地竜は破城槌であると同時に火力援護用の移動式トーチカでもあったのである。

 とにかくこの地竜の突破力は強力で、米軍が必死の思いで構築した防御ラインもこの地竜の突入で容易に破孔が開けられ、そこを通る形で後続の兵の騎乗した小型の二足竜に浸透されラインが分断個別撃破されている様子が上空から見えた。

 今もフォード島の北の対岸、パールシティー側の東入江の海岸沿いのハイウェー上に築かれた防御陣地の突破を目的に三体の地竜が迫っていた。

 この三体はこれまでフォード島で暴れて居たがそこで破壊する物が無くなったと判断されたのか海を渡って対岸へ向かっていたのだ。

 対する米陸軍はトラックと土嚢などを並べた即席のバリケードを作り、そこへM2と思われる大口径機銃と速射砲を多数配置しこの先への敵の進軍を阻止すべく守りを固めていた。

 帝国陸海軍の工兵の水準から見るなら、流石に機械力をふんだんに使える米軍工兵の陣地構築能力はずば抜けたものが有ったが、惜しむらくは彼らが兵として生き残るには余りにも経験が乏しかった。

 せっかく設置した多数の機銃や速射砲も、敵射線からの隠ぺいが不十分だった、特に速射砲のM3 37㎜対戦車砲は相手も脅威と判断したらしく攻撃優先目標とされて二~三発撃ったところで殆どが火球を撃ち込まれて操作要員ともども爆砕されていた。

 それでも米兵たちは必至の応戦をしていた、機銃座のM2だけでなく迫撃砲や携帯火器までも動員して地竜の上に乗った兵や後方から接近する騎竜に対して猛攻を加えていたが、地竜の上の兵士たちは飛竜の騎手と同様に何か障壁の様なもので守られているらしくM2の一二.七ミリ弾でも効果が無く、逆に発射位置を特定されて打ち減らされる結果と成っていた。

状況は危機的であった。

 あそこを突破されれば東に隣接するアイエア湾の海岸線で防戦している部隊の後方に回り込まれて決定的に防衛線が崩壊する、高橋少佐はそう判断してその三体の地竜を攻撃の目標に選んだ。

 現在の飛行高度は四〇〇〇メートル、高橋少佐は素早く周囲を確認する。

 九九艦爆は他の日本機同様に被弾に弱い。それは欧米水準と比較して低い出力の発動機で軽快な運動性を確保するために操縦席や燃料タンク周辺の防御を犠牲とした結果であった。

 故に九九艦爆と九七艦攻の運用は制空権が確保された状況下で行われることが理想だった。

 今のところは、幸いな事に敵の飛竜は制空隊の零式艦戦との空中戦に忙殺されていた。

 ならばと、少佐はエンジンの出力を絞ると目標を定め降下を始めた。

 目標にしたのは三体の内、後方へ下がっている一体だった。

 この一体のみが他の二体よりも装飾が多く、指揮官用に思えたのだ。

 同様に彼の指揮下にある翔鶴爆撃隊の他の五機も二機づつ組んで定めた標的目掛けて降下を始めた。

 彼は、降下しながら爆撃用照準器の中に標的の地竜を収める様に機体を操縦した、降下角度は六〇度、帝国海軍の標準的降下角度だ。

「精さん、一五(一五〇〇メートル)から頼む。」

「一五、ヨーソロ」

 高橋少佐の指示に後席の小泉精三中尉が短く答える。速度は秒速一四〇㎞と成っていた。

 高橋少佐が覗き込む九五式射爆照準器は操縦席の前部風防から前へ筒が伸びた伸びた所謂望遠鏡型照準器と言われる形式だった、陸軍の一式戦二式戦に採用された八九式固定機銃用照準眼鏡と同様に旧式の装備だったが故障が少なく彼らの力量であれば任務遂行に何の問題も無い代物だった。

「一五・・・・・、一四・・・・・、一三・・・・・。」

 高橋少佐から指示された高度の達したところで、小泉中尉は一〇〇メートルごとに高度を読み上げて行く。

 帝国海軍に於いては爆撃機とは急降下爆撃機を意味する、従って雷撃・水平爆撃や緩降下爆撃は攻撃機や戦闘機の仕事となる。

 九九式艦上爆撃機は急降下爆撃が専任の機体で、二人の搭乗員の内、前席の搭乗員は操縦、急降下爆撃時の爆撃照準と投下を担当する機長であり、後席は偵察・航法・見張り・旋回機銃手・急降下中に操縦員に高度を報告するなど任務を受け持っていた。

「十一・・・・・、一〇・・・・、〇九・・・・・。」

 急降下を続ける九九艦爆だが、降下速度は速すぎてもいけない、速度が上がり過ぎれば空中分解の危険性や引き起こしが出来なく成る可能性が高まるのだ、従って九九艦爆では両主翼の固定式主脚の外側の前縁下面に抵抗板ダイブブレーキ取り付けられており油圧で開いて降下速度を落とす仕組みと成っていた、これにより速度は五〇㎞/h減速が可能で爆弾投下時の速度を二六五ノット・四九〇㎞/hにまで減速することが出来た。

 そして、この抵抗板はその展開時に独特の風切り音を発生させ急降下爆撃が行われていることを周囲に知らせていた。

 故に、高橋少佐に狙われた地竜、その背中の籠に乗って居た兵たちもそれに気が付き上空を見上げた。

 自分たちが見たことも無い兵器に狙われている事を認識した彼らは、驚愕と恐怖の表情を浮かべて手にした棒を振り上げ応戦しようとした。

 しかし、それは遅すぎた。

「〇八・・・。」

「ヨーイ。」

「〇七・・・・・、〇六!」

「撃て(テイッ)!」

 高度六〇〇メートルの聞いて高橋少佐は操縦桿に付けられた爆弾の投下レバーを引いた。

 投下レバーが引かれ、爆弾を機体に固定していた拘束バンドのロックが解除されると、機体は急激に軽くなる。

 二五〇㎏もある二五番爆弾が機体から切り離されるのだから当然だ。

 爆弾は拘束バンドから解放され機体を離れて落下過程に入る、しかしながら、九九艦爆ではそのまま爆弾が落下する訳では無い。

 何故か?良く考えて欲しい。

 爆弾投下時には九九艦爆は降下角六〇度の角度で降下している、もしここで爆弾はそのまま放たれたら真直ぐ機体に沿って進んで行くことになる。

 そして、その行く先に有るのは機体の先端で高速で回っているプロペラである。

 爆弾のプロペラへの直撃コースを進んだ結果どの様な悲惨を生むであろうことは想像は容易である。

 そこで使用されるのが爆弾投下誘導枠である。

 これはブランコの要領で揺動することによりでプロペラの回転圏外へ爆弾を押し出す仕組みだった。

 これは単発の急降下爆撃機には必需品と成っている装備で、九九艦爆以外にもJu97スツーカやSBDドーントレスにも形状は違っても使用されている必須の装備である。

 機体に固定するための拘束バンドが解かれ、爆弾投下誘導枠の押し出されるように機体を離れた二五〇キロ爆弾は緩やかな弾道軌道を描いて落下していった。

 向かう先は三体目の地竜の背中、そのど真ん中であった。


 九九艦爆がここまで抱いてきた爆弾は、二五番・二五〇㎏の通常爆弾だった、ここで言う通常爆弾とは、通常の艦船攻撃用の意味で鋼鉄製の弾体を持ち急降下爆撃によって五〇㎜の鋼板を貫通する目的で開発されていた、これに対して非通常と成るのが陸用爆弾で弾体の構造は弾頭を鋳鋼として本体は鋼管とする事で厚みを薄くして炸薬量を増すなど爆発の威力を求めた設計と成っていた。

 従って、目標とされた地竜がどれ程の防御力を持つかは判らなかったが、貫通力に不足は無い筈であった。

 しかも、本来は高速で対空射撃を行いながら回避運動をする巡洋艦や駆逐艦に命中弾を与える為に腕を磨いてきた、九九艦爆の操縦士にとって動きも無く対空射撃も疎らな地竜へ命中弾を与えることは特に難しい事では無かったのだ。

 高橋少佐は、爆弾投下のレバーを引くとスロットルレバーを目一杯押し込んで降下速度を抑える為にこれまで絞ってあった発動機の出力を最大にした、その上で操縦桿を思い切り引いて機首を引き起こした。

 これまで降下姿勢だった機体が一転、機首を引き起こし水平飛行に一気に移る、急激に姿勢が変わることで高橋少佐たち搭乗員には強力な荷重が掛かる、急激に身体中の血液が足に下がって行く感触がして目の前が暗くなる、荷重で血液が足元へ集まって頭が貧血状態に成っているのだ、これは慣れないと意識を失う場合もある危険な状態だが、高橋少佐らは激しい訓練によりこれに耐える身体を作っていた。

 但し、爆弾投下直後に引き起こしても慣性により三〇〇メートルは沈降する為これでもギリギリのタイミングであった。 

 当然この時、抵抗板は通常の飛行位置へ戻されている。

「命中しました。」

 何か呆気ない物言いで小泉中尉は爆弾の命中を報告してきた。

 この呆気なく素っ気ない物言いが、自分たちが訓練通りに爆撃をして訓練通りに命中弾を与えたと言う、当たり前な事、言い換えれば艦爆乗りとしての日常が戻ってきた気がした、相手が尋常でない存在だからホッとした気がした。

「よしっ!」

 だから高橋少佐もいつも通りの声を上げた。

 荷重が抜けて血流が元に戻ると、高橋少佐は高度を上げ左に旋回して爆撃地点へ引き返した、戦火の確認の意味もあったが、爆撃を米軍の陣地への誤爆を避けるために陣地側から海に向かって行った為、進行方向に在るフォード島周辺の敵に捕捉される危険も考慮しての行動だった。

 爆撃地点には、地竜だった残骸が三つとそれ以外にも多数の騎竜や兵が、正しくはその破片が散らばっていた。

 高橋少佐の機体から投下された二五番通常爆弾は、地面より六〇〇メートル上空から緩やかな弾道軌道を描きながら落下、目標とした三体目の地竜、その背中の中央に着弾した。

 さしもの強靭な肉体を持つ地竜も、二五〇㎏の重量に加えて六〇〇メート上空から初速約五〇〇㎞/hで突入してきた二五番通常爆弾に対して抗する術を持っていなかったらしく、爆弾はその肉体を貫きほとんどが貫通後に地表に達していた。

 これは地竜の肉体が爆弾の勢いを吸収しきれなかった事と遅延信管が敵艦の装甲を穿つように調整されていた故であった。

 爆弾は地竜の身体を貫いたところで信管が作動し、弾体内の約一〇〇㎏の下関火薬がその熱エネルギーを解放した。

 地表で炸裂した事から、一部爆発の燃焼ガスが逃げ威力が低下したがそれでも地竜は一発で身体の大半を失い、残っているのが四本の足だけと成っていた。

 しかも、逃げた燃焼ガスは一部が後続の騎竜隊を襲いその大半の命を刈り取っていた。

 敵の騎竜と兵の中には奇跡的に生き残った者もいたが、彼らを攻守が入れ替わった形の陣地の米軍が掃討を開始したことで彼らも終焉を迎える事に成った。


 暫く空から米軍の様子を見ていたが、高橋らの艦爆隊に気が付いた兵が歓喜の声を上げて手を振り始めた。

「けったいなもんだな、予定通り攻撃が始まっていたらこいつの爆弾で死ぬのはあいつ等だったかも知れないのにな。」

「でも、良いですねあの陽気さは。」

 高橋少佐の言葉に、凡そ知る限りは陽気さとは無縁の小泉中尉はそう答えた。

「そうだな・・。

 だが、これだけ苦戦していても陽気さを忘れないとは大した奴らだな。」

 彼は最初は笑いを堪えてそう答え、更に感心したようにそう続けたが、眼下に、米軍の陣地の中で騒ぐ兵士たちの中にポツンと直立して敬礼している士官の姿に高橋少佐は気が付いた。

 彼は機体を旋回させて高度を下げると、風防を開けて操縦席で姿勢を正すと素早く敬礼をした。

 気が付くと後続の僚機も同じように高度を下げていた、彼らが低空で陣地上空を航過すると、件の士官以外の兵たちも士官が敬礼しているのに気が付き、慌てて騒ぐの止め厳粛な表情で敬礼をしてきた。

 機上で敬礼する高橋少佐以下の帝国海軍搭乗員と泥まみれで死闘を続ける米陸軍の将兵は、互いにもし状況が違っていたら刃を交える相手だったとの認識をしつつも、敬意と感謝の敬礼を交わし続けた。

 やがて高橋少佐は愛機を上昇させると次の命令を発した。

「さあ、帰ろうか。

 精さん、皆にも伝えてくれ。」

「ヨーソロ!」

 彼はもう一度、愛機の翼を振ると風防を閉め更に速度と高度を上げた。


 艦爆隊の集合を意味する「アツマレ、アツマレ。」の電文に応えて散開していた麾下の各機が三々五々集まってきた。

 隊列を組むと欠けた部分が有る、多くは無いが少なくない喪失は有ったのだ。

 報告によれば、艦爆隊はパールシティーで戦った指揮隊と第三中隊以外に第一中隊の十九機が、ヒッカム飛行場の対岸にある海兵隊のエヴァ飛行場の地竜と騎竜を攻撃した他、「翔鶴」航空隊の第十六攻撃隊が当初攻撃予定だったオアフ島東部カネオヘの海軍航空基地に向かったが、此方にまでは地竜は来ておらず、引き返してホノルル付近へ迫っていた地竜と騎竜の攻撃に当たったとのことだった。

 この戦闘の中で、一部の艦爆隊がヒッカム飛行場やフォード島の三つ首竜や地竜を狙ったが三つ首竜の攻撃などで大半を失ったとの報告もあった。

 戦闘には相手が居る、理由は何であれ一方的に勝利を得られえる保証は無い、まして今回はこれまで経験原則が通用しない存在が相手だ、今一つ慎重さを持って戦って欲しかったと言うのが彼ら若い搭乗員をここまで育ててきた教官としての高橋少佐の想いだった。

 それでも高橋少佐は、気を取り直すと生き残った艦爆隊を率いて二〇〇海里彼方の艦隊へ進路を向けた。

いつもの事ですが、書いている内に話が際限なく広がって行きます。

嬉しい反面、読みやすい様に纏めるのに苦労しています。


「燃ゆる真珠湾」第一話は、とても沢山の方に読んでいて大変うれしく思う反面、次の第二話でこけない様に恐る恐る書いた次第です。

ついでですが、サブタイトルは第一話も変更しています。


出来れば五話で終わらせたいですがどうでしょうか?


と言う訳で、今回も感想意見、そして誤字脱字が有りましたら一方ください。

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