終焉
お待たせ?しました。
終焉
第一水雷戦隊の各艦から発射された二七発の九三式魚雷は、最初は圧縮空気を使用した冷走から始まって燃料が燃焼を始める熱走の初期段階で燃焼に使用する空気を純粋な酸素へ切り替えて行く。
酸素による熱走へ切り替わるころには、発射管から海面へ射出された勢いで一旦深く沈んだ魚雷も横舵の働きによって深度を上げ指定された深度と進路を駛走(しそう・海軍用語で安定した航走をさす。)し始める。
今回の攻撃では最大速度の五二ノットで海面下五メートルを駛走するように設定されていた。
そして約四分後、九三式魚雷は駛走した先の彼方にあった巨大な壁に激突した。
それは、九三式魚雷が開発の際に想定された撃ち破るべき戦艦等の舷側の様な硬度は無く弾力性を有していたが、その激突に伴う衝撃の強さは慣性式起爆装置を起動させるには充分なものが有った。
二七発の九三式魚雷の内、その慣性式起爆装置を起動させたものは六発、一瞬で弾頭に搭載されていた四九〇kgの九七式爆薬がTNT火薬五八八kgに相当するエネルギーを解放した。
この炸薬の量は「長門」型戦艦の四一センチ砲弾に使用されていた量に匹敵していた。
その破滅的な一撃を六発、叩き付けられたのは巨大海竜の左舷側の側面だった。
その威力はどれ程のものであったか?
明白な答えは見つからなかったが、巨大海竜が魚雷の炸裂と同時に悲鳴にも聞こえる咆哮を上げ、のた打ち回ったことからその効果を窺い知る事が出来る。
帝国海軍の九三式魚雷が巨大海竜甲目標の左脇腹を抉り取っていたころ、乙目標に向かっていた米第八任務部隊の水雷戦隊も、目標を雷撃想定距離である四〇〇〇メートルに収めていた。
ここに至るまでに、第八任務部隊は少なくない損害を受けていた。
既に駆逐艦のエレットとバルチの二隻が脱落しており、残存の各艦も水球弾を多数を被弾していて満身創痍の状態であった。
しかし、一時は魚雷の射程内への接近は不可能、と見なされた状態は一発の砲弾がひっくり返した。
それはまさに起死回生の一発であった。
DD-397ベンハムはベンハム級の一番艦として建造された米海軍の駆逐艦だった、ベンハムは二隻の巡洋艦に続航する形で巨大海竜へ接近していたが、そこに至るまでに僚艦と自身の後部3番4番砲塔に加えて右舷後部魚雷発射管を失っていた。
艦後部へ水球弾の着弾が集中した結果であったが、被弾個所は艦の至るところにあり、機関部が奇跡的に被弾を免れていたことで命脈を繋いでいた状況であった。
しかしながら、その様な窮地に置かれながらベンハムは闘う事を諦めなかった。
そして、二番砲塔が放った一発の砲弾が巨大海竜へ着弾した。
それはそれまで続いていた砲撃の一発と同じ一撃であったが、その結果は大きく違っていた。
それは偶然出会ったが、巨大海竜の体表へ浮かび上がった水球弾を発射する青い光の輪の只中に着弾したのだ。
青い光の輪は、五インチ砲弾の炸裂と同時に形が歪み、やがて弾けてその直後のその周囲を巻き込んだ爆発が発生した。
それはこれまで日米の各艦が行った砲撃の内、戦艦の物を除けば最大級の爆発であった。
この一撃は確かに偶然の産物であった、しかし、一部始終を目撃していた着弾観測中の砲術下士官からの報告はベンハム艦長を通じて各艦に伝えられ、各艦は展開中の輪に向かって砲撃を集中させたのだ。
こうした射撃は、対空砲も兼ねるMk21五インチ両用砲は得意とするものであった。
一分間に一五発と言う最高速度で釣瓶撃ちされた砲弾に、さしもの巨大海竜も手と足を止められ、その隙に乗じる形で第八任務部隊の残存各艦は目標としていた四〇〇〇メートルにまで接近することが出来たのである。
各艦は、射点につくと順次Mk15魚雷を右舷の彼方の目標へ向けて発射して行った。
米海軍の水雷戦隊が射出したMk15魚雷の数は、先頭のノーザンプトンとソルトレークシティの二隻の重巡洋艦は各艦三発づつの計六発、その後方に続く駆逐艦はタイプが違っても片舷八発の投射能力を有していたが、射点につくまでに多くの艦が被弾しており一部の艦は発射管を破壊されたため最終的に発射されたのは四隻で一九発、合計25発であった。
発射後の各艦は左に舵を切り、巨大海竜との距離を取って行ったが、彼らが大仕事を終えてホッとした時、艦橋内に見張り員の叫ぶような声が響いた。
「前方、巨大海竜A目標に水柱多数!」
「何?」
スプルーアンス少将や艦長など、艦や司令部の主だった面々は、見張り員の声に急ぎ前方のA目標に視線を向けた。
帝国海軍が攻撃を加えていた甲目標(米名称A target・A目標)と米軍が担当する乙目標(B target・B目標)との間には約五〇〇〇メートルの距離が有ったが、その巨大さ故にノーザンプトンのブリッジからも彼方を進むそれは容易に視認することが出来た。
そして今、そのA目標(日本では甲目標と呼称)の巨大海竜の左側面へ巨大な水柱が爆焔と共に噴き上がっていた。
それも一つではない、見張り員の報告では最低でも五つの水柱が僅かな間隔を開けて噴き上がっていた。
「何だあれは?」
ノーザンプトンの艦橋で、艦長のジョージ・アダムス大佐は双眼鏡を片手に疑問の声を上げた?
「日本艦隊の攻撃以外に考えられませんが・・。」
「あれは砲撃の着弾ではありません、おそらく魚雷かと。」
「先程の離脱の前に魚雷を発射していた、とでも言うのか?」
砲術長と水雷長は目前の事象をそう推測したが、艦長はその事実が理解できず、が問い詰める様に疑問を叩き付けた。
「あの時の距離は六〇〇〇メートルは有りました、加えて到達時間を考えると日本軍の魚雷は五〇ノットを超える速度で航走していた事に成ります。」
「六〇〇〇メートル以上の射程距離を持つ、速度五〇ノットの魚雷だと?
日本軍が?
何の冗談だ。」
事実から冷静に推測する水雷長の答えを、艦長は頭から否定した。
「艦長、今は目の前の敵の集中しよう。
未だ我々の魚雷はあいつを葬った訳では無いからな。」
そのやり取りを聞いていたスプルーアンス少将はそう言って、不毛な憶測を断ち切り目前の敵に集中するように促した。
「そうでしたな。
水雷長、此方の魚雷は?」
「間も無く着弾です。」
その直後、目標としていた巨大海竜の左側面に魚雷の蝕雷を示す爆焔と水柱が噴き上がった。
しかし、その数は二本。
それは巨大海竜を仕留めるのは明らかに数が足らなかった。
「艦長、面舵だ!
本艦を奴の鼻先に進めてくれ。」
苦労して行った雷撃の意外な結果に茫然自失とした、艦長らよりも一足早く現実へ戻ったスプルーアンス少将は重苦しい艦橋の空気を引き飛ばすように快活にそう言い切った。
「後続各艦にも、続航するように伝達を頼む。」
「面舵ですか?
どうするおつもりで?」
「決まっているだろ?
奴を仕留めるのさ。」
少将の指示の意図が読めない艦長の問いに対して、何を判り切ったことを聞く、と言った表情で少将はそう答えた。
「ならば反転して左舷側の魚雷を・・・。」
「いや、このまま奴の鼻先に行ってくれれば良い。」
「本艦を、巨大海竜の鼻先にですか?
反転して左舷の魚雷を叩き込むのではなく、ですか?」
我に返った艦長の問いに乗じる様に水雷長が更なる雷撃を問うたがスプルーアンス少将は首を縦に振った。
「残念だが、再度雷撃を行っても結果はそう変わる事は無いだろう。」
スプルーアンス少将は、先の魚雷の命中率の低さに魚雷攻撃と言う選択肢を切って捨てていたのだが、実はこの当時のMk15魚雷には構造的欠陥があり不発が頻発していたのだ。
しかし、実戦で使用される機会が無かったこの魚雷の欠陥に関しては、一部の技術関係者以外に、それを知る者は皆無であったがスプルーアンス少将のより確実な手段としての雷撃を排除したがそれが先の雷撃と同じ轍を踏む選択を回避したのだ。
「どうなさるのですか?」
雷撃以外の攻撃手段を見いだせないアダムス艦長の問いに対してスプルーアンス少将は、何か悪だくみをした子供の様な表情で艦長の耳の元に何か言葉を返した。
「正気ですか?」
その答えを聞いたアダムス艦長は半ば呆れたようにそう返す以外に言葉が無かった。
「仕方があるまい、この手以外に効果のある手は思いつかないからね。」
「なるほど、了解しました。」
艦長は納得できたわけでは無いが、彼に司令が語る以上の手が無いのも事実であった。
「航海長、面舵だ敵の鼻先を突っ切れ!」
「アイ、艦長!」
艦長から航海長へ、そして操舵手へと伝えられた命令に従い艦は大きく右へ舵を切った。
「ソルトレークシティ続航します!」
「さらにその後方、駆逐艦隊も続きます!」
左舷側に傾く艦橋の中で身体を支えていたスプルーアンス少将の耳に、艦橋の側面張り出しで周囲を監視していた見張り員達の報告が入ってきた。
先頭に重巡洋艦のノーザンプトン、それに続いて同じく重巡洋艦のソルトレークシティが単縦陣で続き、やや離れて駆逐艦隊の四隻が同じく単縦陣で続いた。
彼らはそのままの隊形で巨大海竜の目前を横切るコースを駆け抜けようとしたが、当然これらの動きを察知した巨大海竜は阻止に動いた。
巨大海竜の体表に幾つもの青く光る輪が頭部側面に浮かび上がる、水球弾の発射予兆である。
しかし、次の瞬間その輪と周辺には次々と砲弾が米艦隊より撃ち込まれた。
巨大海竜の頭部側面に着弾した砲弾は、その爆発で輪を吹き飛ばし誘爆により新たな爆発を生み出してゆく。
それは巨大海竜、或いはそれを操る者にとって予想していなかった事態であったのかも知れなかった、いや、少なくともその者達を充分に苛立たせるものであったようだ。
故に巨大海竜、或いはそれを操る者たちは、自身にとって不遜とも言える抵抗を繰り返す米海軍第八任務部隊を一気に殲滅する行為に出ようとした。
鼻先を悠々と横切ろうとする米艦隊に対して巨大海竜はその巨大な咢を開いた。
それは先刻、僚艦であったチェスターを切り裂いた咆哮の再来を意味していた。
そして、恐怖以外の何物でもなかったそれをスプルーアンス少将は待っていた。
大きく開かれた口は巨大な身体の三分の一程も有り、一度で第八任務部隊が呑み込まれそうなサイズであった。
その口の周囲には駆逐艦ならそれ一本で充分噛み砕けそうな牙が並んでいて、その奥である口内の突き当り、つまり喉元には黄色い光を放つ輪が浮かんでいた。
それはこれまでに見たどの輪よりも巨大であった、そして巨大さ故に逆に細部まで見る事が可能であった。
この時になって人々は、光る輪に見えたそれが判読不能な文字の羅列である事を理解した。そして、喉元に浮かぶそれはその文字で形作られた輪が幾重にも重なる構造と成っていた。
「艦長、今だ!」
いつまでもその輪を眺めている訳には行かなかった、次にはそこから放たれた咆哮が米艦隊を切り裂くのだから。
「Aye sir!
Fire!(撃て!)」
ノーザンプトンの二基六門の二〇.三センチ砲が発射炎を閃かせた。
いや、それだけではないコンマ数秒の遅れで後続のソルトレークシティと駆逐艦も次々と備砲の砲弾を巨大海竜のその巨大な口目掛けて撃ち込んだ。
ノーザンプトンとソルトレークシティの二隻の重巡洋艦の二〇.三センチ砲弾十一発に加えて二十発を超える駆逐艦の五インチ砲弾、その内の半数が目標とした口内へ達した。
それらは巨大海竜の喉元に浮かぶ巨大な輪の背景と周辺へ達し、そこで遅延信管を作動させた。
その爆発で発生した熱と衝撃波、飛び散った砲弾の弾体であった鋼鉄の破片、そういった諸々の存在は一転して凶器と化すと口内の比較的柔らかな粘膜を焼き切り、強靭であった骨格を砕いてその奥の臓器を引き裂き、そして口内に浮かんでいた輪を歪め破壊した。
巨大海竜は慌てて口を閉じたが後の祭りであった、既に記した様に水球弾を発生させる青の輪が破壊されただけでも巨大海竜の体表にはその強靭な皮膚を抉るような爆発を生んでいた。
そして、その水球弾を形成する輪は成人男性の背丈ほどのサイズであった、それと比較して口内の喉元へ浮かんだ黄色い輪は駆逐艦ほどのサイズが有った。
それが口内で炸裂するのだ、何も無い訳がなかった。
砲弾が炸裂した直後、巨大海竜はその巨体を幾度も捻り捩った後、海中へ潜ろうとした。
逃亡を図ったのか、それとも反撃に出ようとしたのか、その意図はうかがい知る事は出来なかったか。
海中へと活路を求めようとした巨大海竜、しかし、その巨大な身体が海中へ没しきる前に、巨大海竜の下方で爆発が起きた。
それは、九〇〇〇トンを超える重巡洋艦のノーザンプトンですら、小舟の様に激しく揺り動かす程の激しさで第八任務部隊を襲った。
やがて、その爆発の余波が過ぎ去ると巨大海竜は腹を上にして浮き上がったが、先に海面へ姿を現したその腹部は半ばが四散し大きく裂けていた。
以前にも記したが、生物は外部からの圧力に比較して内部からの圧力の変化には強くはない。
従って二〇発近い大小の砲弾の炸裂と、巨大な光の輪が崩壊する事で起きるエネルギーの暴発は、巨大海竜の巨大な肉体を内部から切り裂くのに充分な力を持っていた言う事が出来るのだ。
砲撃後、巨大海竜の反撃から逃れる為に一気にその目前を駆け抜けた第八任務部隊の各艦であったが、巨大海竜が活動を止めたのを確認すると、艦内はやっと掴み取った勝利に沸き立ち歓喜に包まれた。
「何とか仕留めれましたな。
しかし、無茶な攻撃でしたよ、あれは。」
「私もそう思う、
だが、あれ以外に手は無かった。」
難敵を倒してホッとしたのかアダムス艦長は呆れた口調で非難めいた言葉を口にしたが、スプルーアンス少将もそれを肯定した。
「任務部隊の指揮権を渡される時に、ハルゼー提督から幾つか巨大海竜との交戦事例を伝授された。」
「ブルの親爺さんがですか?」
「主に航空隊の交戦事例だが、
エンタープライズの雷撃隊が、口内に魚雷を投下して最初の巨大海竜を葬っている。
その例を参考にして咄嗟に思いついたのだ。」
艦長の言葉に、スプルーアンス少将も苦笑気味に答えた。
「自分でも無茶な戦いをしたとは思うが・・。」
自嘲気味にそう言ったスプルーアンス少将は、もう一度視線を前方の彼方へ向けた。
「後は、あの一体だけだ。
日本艦隊の手並みを拝見と行こうか。」
スプルーアンス少将は、勝利の熱狂に包まれる艦橋の空気とは別にあくまでも冷静に戦闘の推移を見ようとしていた。
「上手くやってくれますかね?」
「彼らは、あのトーゴーの愛弟子だよ。」
艦長の問いにそう答えるスプルーアンス少将は、尊敬する東郷平八郎元帥の薫陶厚い日本軍の戦い方に興味津々と言った表情で双眼鏡を前方のA目標へ向けた。
彼は、日本艦隊がまだ余力の有る戦艦の主砲を使うか、恐ろしいまでに練度の高い空母航空隊を使って止めを刺すと考えていた。
しかし、その考えはそんの直後に艦橋に響いた見張り員の報告が否定した。
「日本艦隊、反転!
A目標へ向かいます。」
「反転?
奴らは魚雷を打ち切っているのではないのか?」
日本艦隊の動きに、艦橋内を動揺が走った。
アダムス艦長や任務部隊司令部は先ほどの戦果から推測して、日本の水雷戦隊が魚雷を全て使い切ったと考えていた、ならばその状態で敵に肉薄するのは自殺行為以外の何ものでは無い。
それが第八任務部隊の共通した認識だった。
「ほお、さすがアメリカさんやる事が派手だな。」
第一水雷戦隊の戦隊旗艦として先頭を進む軽巡洋艦「阿武隈」の艦橋で、戦隊司令の大森少将は双眼鏡越しに見えた第八任務部隊の戦果に賞賛の声を上げていた。
「提督、間も無く距離六〇〇〇(六〇〇〇メートル)です。」
艦長の村山清六大佐の報告に、大森少将は頷くと目標とする巨大海竜甲目標への止めと成る一撃を命じた。
「魚雷発射始め。」
「魚雷発射始め!」
「魚雷 発射始めます!」
戦隊司令から艦長へ、そして水雷長へ命令が伝達されて阿武隈の後方、左舷の四連装発射管より四発の九三式魚雷が海面へ躍り出た。
戦隊旗艦の魚雷発射を受けて、後続する戦隊の四隻の駆逐艦各艦も順に魚雷を投射していった。
「日本艦隊、魚雷を発射しました。」
ノーザンプトンの艦橋に見張り員の声が響いた。
「どういうことだ?
日本の水雷戦隊は既に魚雷を発射したのではないのか?」
見張り員の報告が理解出来ないアダムス艦長は、そう疑問を言葉にして出したが、それに対する答えは無かった。
アダムス艦長の疑問は当然の事であった。
何故ならば通常は一旦魚雷を発射すれば次に補給を受けない限り艦上には魚雷は存在しないのだから。
例えば米海軍でもベンハム級の様に発射管が左右に分けられて搭載されていれば左右で二回の発射が可能である、しかしながら日本海軍の駆逐艦は艦中央に発射管が搭載されていた。これでは左右を狙うことは出来るが一回の発射で終わってしまう筈であった。
彼らの考えは半分当たりで半分外れであった。
確かに、旗艦を務める軽巡の「阿武隈」を除くと、第一水雷戦隊の駆逐艦は艦中央の前後二カ所に四連装発射管を一基づつ二基搭載していた。
通常であれば、先の雷撃で全て撃ち尽くしている筈であったが、帝国海軍の駆逐艦は大正十五年(一九二六年)建造の「睦月」以降全ての艦が予備魚雷を搭載していた。特に甲型以降は装填が機械化された次発装填装置が装備され実際に戦場において戦闘中に可能なレベルにまで進化していた。
第一水雷戦隊を構成する駆逐艦は全艦「陽炎」型であった、この型では前部の第一発射管では左右に二連装の格納庫一基づつが設けられ、後部の第二発射管では四連装の格納庫が装備されていて、その双方とも次発装填装置が内蔵されていた。
これらの格納庫の魚雷を装填するのに要する時間は、五分と言と言われていましたが実際には十から十五分を要したとされていてこれらには練度も大きく関わっていたと言われている。
つまりそうした仕組みであった。
第一水雷戦隊が魚雷を発射して約四分後、巨大海竜甲目標の左舷側に三本の巨大な水柱が爆焔と共に噴き上がった。
そして、その爆発の痛みに悲鳴を上げる様な咆哮が止む前に次々と水柱が上がった、その数七本、先の三本と合わせて一〇本となった。
それは、第一水雷戦隊が発射した九三式魚雷が命中した事を示す証であった。
巨大海竜甲目標の左舷側面ね噴き上がった水柱はやがて、重力に抗しきれずに崩れて行った。これが通常の艦船であれば燃料や搭載火器の弾薬などに延焼或いは誘爆を誘って轟沈と成るのだが、相手が生き物ではこれ以上の進展は無かった。
しかし、水柱が崩れ落ちた後に存在していたのは嘗て巨大海竜が居たことを示す身体の一部だけであった。
先の六発を含めて十六発の九三式魚雷の直撃を受けたのだ当然の結果と言っても良いだろう。
「二一発中十発命中ですか・・・、
殆ど静止している目標に対しては良いとは言えませんな。」
「阿武隈」艦長の村山大佐は不満げにそう評した。
「艦長、そう無理を言わんでやってくれ。」
戦隊司令の大森少将は、苦笑気味に部下に厳しい評価を下す艦長を窘めた。
「射界が制限された中での雷撃だ、
難しい雷撃を上手にやった、と部下を褒めてやるべきだ。」
今回、二度目の雷撃の際問題となったのは、雷撃の射線その延長線上に乙目標の直前を横切る形で攻撃をした入る危険があったことだった。
この為、同士討ちを避けるために第一水雷戦隊はかなり射界を制限して無理な条件で雷撃を行っていた。
それは、1万メートルを超える射程距離を持つ九三式魚雷故の、ある意味贅沢な危険性でもあった。
先刻の雷撃の評価を交わす二人の耳に、後方より雷鳴の様な轟音が響いてきた。
「始まったな。」
「ですな。」
呟くように語った大森少将の言葉に、村山大佐は静かに答えた。
それは、支援砲撃隊の旗艦である戦艦「比叡」の搭載する毘式三五、六センチ砲連装四基八門の放つ咆哮であった。
四五口径三五、六センチ砲から打ち出された八発の九一式徹甲弾の行く先は、第一水雷戦隊や米第八任務部隊が巨大海竜と戦った海域より更に南の海上であった。
その砲弾が向かう先に在ったのは、例の黒い渦であった。
不気味に蠢く其れは、これまで多数の怪竜軍団をハワイ近海に送り込んでいた。
おそらく其れは、我々の世界と見知らぬ世界を繋ぐ通路の出入り口であろう、と考えた機動部隊司令部と米第八任務部隊司令部は早急な破壊が必要との結論に至り、巨大海竜撃破後に実行に移されたのである。
当初は空母艦載機による攻撃も検討されたが、既に近傍に接近していて余力のあった戦艦の主砲を使用する方法が採用された。
その結果はある意味呆気無いものであった。
規範に反して初射より一斉撃ち方で始まった砲撃は、上空の観測機からの観測情報を基に諸元が修正されて早くも三射目で渦を捉えた。
しかし、渦を貫いた砲弾はそこで炸裂すること無く渦の中に消えた。
次の瞬間、小さな爆発が起きて・・。
「渦が消えた?」
戦艦「比叡」の艦橋でその報告を聞いた三川軍一中将は、思わずそう聞き返した。
「観測機からの報告によりますと、
渦は消えた、いえ霧散した、とのことです。」
「そうか。」
三川中将は「比叡」艦長の西田正雄大佐より、着弾観測をしていた零式観測機からの報告を受け渦が消えた事を確認すると、その厳つい顔に笑顔を浮かべてたがその後に表情を改めて命令を発した。
「艦長、砲撃終了。
溺者救出が完了したら集結して本隊に合流する。」
「砲撃終了、了解しました。」
西田大佐は、敬礼するとそう復唱して部下に命令を伝達する為にその場を離れようとしたが三川中将が呼び止めた。
「すまんが、敵兵も可能な限り救出するように徹底してくれ。」
「敵兵をですか?」
「そうだ、正体不明の敵だ、少しでも情報が欲しい、
と本隊の司令部が言って来た。」
「了解です。」
少々納得いき難いが命令である、と言外に言う三川中将の表情に苦笑を浮かべて再び敬礼すると各部署に命令を伝達した。
既に艦は停止しており、周辺の各艦からも短艇が降ろされて沈没あるいは撃墜された乗員や操縦士を探して海面を走り回っていた。
勿論それには敵軍である怪竜軍団の騎手たちも含まれていた。
「やっと、これで帰れるな。」
三川軍一中将は周囲の様子を見渡してそう呟いたが、それは日米艦隊双方の乗組員に共通した思いであった言えた。
実質最終話なのでかなり手こずりました。おまけに1万近い文字数><
読むのが大変ですが勘弁して下さい。
あと一話エピローグを書いてこの話は終わりにする予定です。
長々とお付き合い頂いた方々感謝します。
最終段階に来て風邪を引いたのも更新が遅くなった理由ですが、そこは自己管理不足と言う事で理由にはなりませんね。
さて、何時ものように誤字脱字が有りましたらご一報ください、感想や意見、リクエストも嬉しいのでお願いします。




