真珠湾炎上
今回もギリギリに成りましたが、先ずは前編をお送りします。
舞台は書きなれた?太平洋戦争です。
作品中に歴上の人物や実在した方と同姓同名の人物が出てきますが、この作品は勿論フィクションですのでお間違えない様にお願いします。
真珠湾炎上
昭和一六年(一九四一年)十二月八日、前月二六日に択捉島の単冠湾を出港した帝国海軍機動部隊(通称・南雲機動部隊)は、荒天の北太平洋を東進してハワイ近海、ハワイ諸島オアフ島より北方二三〇海里の海域に達していた。
同日(日本時間)午前一時三〇分・ハワイ時間午前七日六時三〇分、機動部隊を構成する第一航空戦隊の「赤城」「加賀」、第二航空戦隊の「蒼龍」「飛龍」、第五航空戦隊の「翔鶴」「瑞鶴」の六隻の空母を第一次空中攻撃隊の一八三機が飛び立った。
その構成は、零式艦戦四三機・九九艦爆五一機・九七艦攻八九機の計一八三機かであった。
当時海上は荒天により時には艦が最大傾斜十五度まで傾く悪条件であったが、攻撃隊各機は訓練時の発艦時間を大幅に短縮するペースで発艦を行い一機の事故も無く発艦を完了させ、飛び立った各機は編隊を組むと艦隊上空を一周旋回してオアフ島の真珠湾へ向かった。
一般的に発艦は傾斜度10度が限界と言われる中、零式艦戦や九九式艦爆だけではなく、一トン近い重量の航空魚雷や水平爆撃用の八〇〇㎏爆弾を装備した九七式艦上攻撃機も何も問題ない様に発艦していった、これは当時の搭乗員の力量が世界的に見ても群を抜いており、また同時に意気込みも相当高かったことを伺わせる事例であった。
その精鋭達が向かう先は米太平洋艦隊の最重要基地であるハワイ諸島オアフ島の真珠湾、攻撃目標とするのはそこに停泊する戦艦を中心とする主力艦艇、そしてそれに付属するフォード島と周辺の陸海軍基地と飛行場、及び軍事施設であった。
その目的は、帝国陸海軍が南方資源地帯の制圧に専念できる環境を作る事であった、当時大日本帝国は中国、特に満州の支配権をめぐって英米など欧米列強と激しく対立し、その結果として原油や鉱物資源などの戦略物資の輸入を制限される経済制裁を受けており、国内経済の困窮的状況を打破する手段として南方資源地帯は必要であったのだ。
しかしながら、現状においてはハワイに根拠地を置く米合衆国太平洋艦隊、特に八隻の戦艦を擁する主力部隊の存在は我が国の南方制圧に於いての最大の脅威であり障害であった。
従って、開戦劈頭での米主力艦隊の排除、或いは制圧は必然と成るわけである。
但し、戦力的に見てその排除は容易ではなく、通常の主力戦力は来たるべき決戦に備えて温存する必要が有るが故に、前例のない空母航空戦力のみに依る敵拠点への攻撃が計画実行された訳である。
第一次攻撃隊に続き、午前二時四五分・ハワイ時間七時四五分、艦戦三六機・艦爆八一機・艦攻五四機の計一七一機から成る第二次空中攻撃隊が発信してオアフ島を目指した。
艦隊を飛び立った第一次攻撃隊は、懸念されていた敵機と遭遇することもなく計画通りに飛行を続け、オアフ島の北端であるカフク岬の北方まで達したが、ここで思わぬ事態が発生した。
これまで軽快なジャズを放送していたホノルル放送が突然番組を中断したのだ。
ここまで攻撃隊はこのホノルル放送の電波を辿る形でオアフ島の真珠湾へのコースを進んできていた、既にここまで来ればオアフ島は視認できており、その後は各部隊ごとに割り当てられた目標へ向かい攻撃を開始する手順と成っていて、それに関しては特に問題は無かった。
ただ淵田中佐としては。全攻撃隊を預かった総指揮官と言う立場から、ここで放送が途切れた意味を考ざるを得なかった。
思い至るのは日本軍の攻撃が察知された為ではないかと言う疑念であったが、もし攻撃が察知されたのであるなら放送を止めるよりも、警報を発する方が理に適っているのではないかとの想いも脳裏に浮かぶのだ。
更に電信員の水木徳信一飛曹より、放送が中断したのではなく電波そのものが止まっている旨の報告を受けた淵田中佐はこのまま計画通りに真珠湾へ向かうべきか悩んだが次に齎された報告は予想外のものであった。
報告は操縦士の松崎三男大尉からであった。
「隊長、進行方向に黒煙が見えます。」
彼の報告は機内で会話に使う伝声管によって淵田中佐の耳元へ届けられた。
その報告を基にすぐさま中佐は双眼鏡を黒煙の方向へ向けた。
「何が起きているのだ?」
幾筋も立ち昇る黒煙に思わず淵田中佐はそんな言葉を口にした。
まるでそれは敵の来襲を告げる狼煙の様にも見えた。
「事故・・・では無いな。」
淵田中佐は自分で口にしながらその可能性を否定した。
事故の可能性は皆無では無いだろうが、数が多すぎる。米軍はそこまで練度の低い軍隊ではないはずだ。
「誰かが攻撃を始めたのでしょうか?」
松崎大尉の問いに淵田中佐は首を横に振った、勿論、松崎大尉もそれは承知していた。何しろ自分たちが攻撃の先鋒なのだから、先に攻撃する存在は無い筈であった。
唯一の可能性は特殊潜航艇の甲標的五隻の攻撃の可能性で有ったが、それにしては数が多すぎる、何しろ甲標的の攻撃手段は二本の魚雷だけなのだから。
しかも、黒煙は内陸部からも上がっているのが見えた、それは魚雷では絶対に不可能であろう。
「隊長、米軍の軍用電波を拾いました。
『Air Raid Pearl Harbor This Is No Drill !!!』平文です。」
「❝真珠湾空襲さる、これは演習にあらず!!!❞だと、
いったい誰だ真珠湾を攻撃しているのは?」
淵田中佐は思い掛けない事態に困惑気味に言葉を口にすると、黒煙の方へ双眼鏡を向けた。
しかし、何者だ?我々に先駆けて真珠湾を攻撃をしたのは?
可能性があるのは、枢軸陣営として英米と対立している大日本帝国、ドイツ第三帝国、イタリア王国の三ヵ国、当然我が国は現在進行中であるので考慮の対象外だ、ドイツもイタリアも我が国の様な空母機動部隊は持っていないから意図は有っても実現不可能だろう。
それ以外の国はどうか?現在、航空母艦を運用しているのは日米英の三ヵ国、アメリカが自軍の太平洋で最も重要な基地を攻撃するのは有り得ない話だ、英国はアメリカの同盟国であり軍事援助を受けている最大の援助国だ、同じくそう考えれば水面下では何を企んでいるかは解らないがソビエトや中華勢力も援助元を失う事をするとは考え難い。
であるなら誰が攻撃しているのだ?
当初の予定では、カフク岬に達した時点で各部隊は制空隊、急降下爆撃隊、水平爆撃隊、雷撃隊の各部隊ごとに行動を開始する事に成っていた。
その合図は、総隊長機からの信号弾で、一発の時は奇襲、二発の時は強襲と定められていて、各隊の攻撃順番も決められていたが、淵田中佐は攻撃開始を発令する展開下命の地点を過ぎても合図の信号弾を発射する事無く各隊各機に南下を指示した。
途中、各攻撃隊の指揮官からは、『攻撃ヲ下命サレタシ。』の通信(無線封止中の為にオルヂス灯を用いたモールス信号による)が幾度か入ったが、淵田中佐は『進軍ヲ続行サレタシ。』と返して南下を続けた。
結果として彼は、各隊を分散しないままオアフ島西部をバーバース岬に向けて南下することした。
これは予期していなかった事態を前に、攻撃を断念して撤退も視野に入れての判断で有った。
飛行ルートを南に向け暫く飛行すると左手にホイラー(ウィーラー)飛行場が見えてきた、ここはオアフ島の中央に位置し陸軍の戦闘機部隊が多数配備されていて、真珠湾攻撃の際には真っ先に瑞鶴の艦爆隊二五機が攻撃する手筈と成っていた。
しかし、それが今、迎撃に上がって来る機体も無く、焼けただれた瓦礫の山に覆われて眼下に現れた。
よく見れば滑走路とその周辺の航空機や施設だけではなく、その周りに点在していた民家も同様に燃えていた。
いや燃えていたのは施設や家屋だけでは無かった、民家の近くで燻っていた松明の燃えかすの様なそれはどう見ても人の形をしていたのだ。
淵田中佐はそれが意味することを理解して思わず目を逸らせた。
自分が軍人で有り、戦闘の状況によってはそう言った事態、人を焼き殺す結果が生まれることは理解していたが、武人として一般市民を巻き込むこむことに抵抗はあった、これは当時の帝国陸海軍将兵の共通した思想であった。
現在、この島を攻撃している連中は、軍人と民間人を区別する意図はない様に見られた。
さてどうするか?淵田中佐は決断を迫られた、既に本来の目的である真珠湾の米陸海軍の撃滅は、何者かは判らないが済ませておいてくれた。
従って目的は達成されたとも言える、此方は一機の損耗も無いままでだ。
部下たちは不満を口にすると思うが、ここはこのまま帰還するのが得策だろう。
この先続く戦争を考えるのなら一機でも多く連れて帰るのも大事なことだ。
これまでに見たやり方は容認できないが、敵の敵は味方と言う言葉もある・・。
「隊長、十一時方向、真珠湾上空に機影が見えます。」
操縦士の松崎大尉の声で、淵田中佐は現実へ引き戻された。
「居たか!
国籍標識が見えるか?」
彼はそう問いながら自身も双眼鏡を向けた。
その時である、上空から火球が攻撃隊に降り注いだ。
「加賀攻撃隊一番機被弾!
落ちます‼」
双眼鏡を向ける必要もなく、加賀攻撃隊の指揮官機である橋口喬少佐の乗機が火に包まれて行くのが見えた。
火に包まれた九七式艦攻は、急激に速度と高度を落としやがて燃料タンクに火が入って真っ赤な火球と成って散華した。
更に二機の九九艦爆が同じように火球に撃ち抜かれて燃えながら墜落していった。
「隊長!直上に機影六。」
水木一飛の報告に上空を見上げると、攻撃隊上空の雲間に見慣れない機影が有った。
「くそっ、被られる!」
敵機が上空に占位しているのに攻撃されてから気が付く失態に、呪詛の言葉を吐くと板谷茂少佐は、増槽タンクを切り離しプロペラピッチを巡行用の高ピッチから加速の良い戦闘用の低ピッチへ切り替え更なる敵の襲撃に備えた。
しかし、敵は仕掛けては来なかった。
仕掛けておいて怖気づくことも無いだろうとは思ったが、板谷少佐は指揮下の赤城第二中隊の八機を率いて高度を上げ敵の後方へ回り込んだ。
板谷少佐は、操縦席の風防越しに敵機の姿を捉えながら次第に違和感を強くしていった。
敵機と思われるその機体は、細長い機首に左右に長く戦端が尖った主翼、尾翼は長く後方へ延びていた。
印象として酷く細くて華奢な機体に見えたが、先程三機の友軍機を一撃で爆砕するほどの攻撃力を持っている筈で大口径機銃を搭載していると思われた。
板谷少佐はそこまで敵の様子を確認して違和感の理由を理解した、それは・・・。
敵機の姿は欧州機に多い液冷発動機を搭載した機体に似てはいたが、その機首には推進器、つまりプロペラらしいものが見当たらなかったのだ。
後に燃焼噴射式と呼ばれる新世代の発動機が出てきてプロペラは姿を消すが、この時点では燃焼噴射式発動機、所謂ジェットエンジンはまだ開発途上で有って戦場には存在しなかった。
であるならこの機体はどうやって飛んでいるのであろうか?
その答えは、敵機がその動きで示してくれた。
狙いを定める為に捉えていた光学照準器のハーフミラーの中で、敵機が長大な翼を大きく上下に羽ばたいて見せたのだ。
「あいつは鳥か?」
だが、鳥であるなら、その大きさは常識を超えていた。
自分が乗り込んでいる零式艦上戦闘機の全幅(翼長)は十二メートル、目前のそれはその零式艦戦と遜色ない大きさに見えた。
それはもう❝鳥❞では無い、❝怪鳥❞だろう。
一瞬、彼は射撃の為に握り込もうとした発射把柄に掛けていた指への力を緩めた。
次の瞬間、それが取り返しのつかない失態であったと気づかされた。
前方を飛ぶ敵機が飛行姿勢もそのまま、機首をこちらに巡らせて来たのだ。
「来る!」
板谷少佐は、そう直感的に判断して機体を横転させて射線から逃れた、しかしながらそれでも尚、機銃の発射把柄を握り込んで七.七ミリ機銃を発射したが練達の武人と言えども流石に命中弾を与える事は出来なかった。
刹那、敵機?が口から放った火球が零式艦戦隊を襲った。
それは先ほど、友軍を粉砕した火球に間違いなかった、敵は攻撃出来ないのではなくこちらが罠にかかるのを待っていただけだったのだ。
それをまんまと自分たちは罠に掛かりに来てしまった。
第二射の火球は、避けそこなった一機の零式艦戦を捉え爆砕した。
他の八機はその攻撃から立ち直ると、素早く反撃に出た。
当然反撃の先陣は板谷少佐だ、彼は敵の戦闘を飛ぶ機体に狙いを定め、上方から突入した。
次第に敵の姿が光学照準器中で大きくなる、そして彼は先ほど❝鳥❞と認識した事が誤りであることに気づいた、それには羽毛の様な羽根は見当たらず爬虫類を思わせる鱗が見えたのだ。
その姿は有る伝説上の生き物を想像させた。
「竜?
飛竜か?」
彼が口にした竜は、所謂西洋の伝説の生き物である竜=ドラゴンであった。馴染みの東洋の伝説の龍が蛇の様な細長い身体を持つ対して、四つ足と翼を持つ竜は目前の敵機に極めてよく似ていると思えた。
そして、彼はその竜が飛翔能力を持っていたことから飛竜と呼んだ。
しかし、それよりも重要な事実に彼は気が付いた。
それは、接近しつつある竜の背中には鞍の様な物が取り付けられていて、人間が乗って居たのだ。
つまり、あれは人が御している生き物、もしかしたら兵器なのかもしれない。
竜は上方より接近して来る零戦隊に気が付き素早く身を翻そうとしたが、零式艦戦の機動は彼らの予想を上回っていたらしく、瞬く間に射程内に捉えれて行った。
機首に発砲炎が煌めく、機首の七.七ミリ機銃の銃撃だ。
曳光弾をが引く光は下へ逃げようとする竜の上面から降り注いだ。
狙いは竜の背部、そこには竜を操っている騎手が居るのだ。
その銃撃は狙いを誤らずに命中した。
しかし、銃弾は騎手の手前で何かに弾かれる様に軌道を変えていった。
防護障壁だ、板谷少佐は瞬時にそれを悟った、なぜなら時速三〇〇キロ超え高度五千メートルを飛ぼうとするなら生身の人間にはそのままでは不可能だからである。
何か身を守るものは有るだろう、なまじ剥き出しの騎手の姿からそれを予期した板谷少佐は先ずは七.七ミリ機銃でで様子を見たのだ。
彼はその事実を確認すると、スロットレバーに付けられた切り替えレバーを二〇ミリと七.七ミリ機銃の同時発射に切り替えて再度攻撃行動へ移った。
当然敵は黙って撃たれるつもりはない。騎手は振り返ると何か棒切れを振り上げた、と棒の先に炎が灯りそしてそれは迫りくる零戦隊へ向かって放たれた。
敵は竜が口から吐く火炎弾と騎手の棒から打ち出される小さな火炎弾と二つの攻撃手段を持っていたのだ。
板谷少佐はOPL(光学照準器)のリングの中へ騎手の姿を捉えると発射把柄を握り込んだ。
今度は先ほどの七.七ミリ機銃の比ではない振動と発射音がして騎手の細い火線とは別に二本の太い火線が両翼より山成りに伸び、先程七.七ミリ機銃弾を弾き飛ばした障壁にぶち当たった。
その直後、板谷少佐は竜から人らしいものが落ちて行くのを見た。
いや、正しくは人の上半身だ、次の攻撃の為に上昇しながら改めて見ると竜の背中の鞍には騎手の下半身が残っていた、しかし、それも既に二〇ミリ弾で背中から撃ち抜かれていた竜と共にハワイ沖の海上へ落下していった。
板谷少佐の制空隊が上空の敵の竜を排除する間に、に攻撃隊は真珠湾の目前に来ていた。
淵田中佐は改めて、真珠湾とフォード島周辺の敵の姿を確認しようと地上へ視線を向けた。
「何と言う事だ!」
双眼鏡の中に映り込む情景に淵田中佐は思わず声を上げた。
だが地上を見ればそう言いたくなるような情景が展開していたのだ。
真珠湾上空には無数とも言える竜が乱舞し、地上の米軍の戦闘機、爆撃機や対空火器などを次々と襲っては焼き尽くしていた。
米兵も必死に対空砲や小火器まで持ち出して応戦していたが明らかに劣勢であった。
湾内も同様で、既に戦艦が一隻横倒しと成り赤い艦底部を晒していた。
視線を転じると真珠湾の向こう、海岸線に近い街並みも彼方此方で火の手が上がっているのが見えた。
あれはホノルルの市街地の筈だった、帝国海軍の攻撃隊は一般市民に被害を与えぬように厳重に注意を受けていた、我らの戦う相手は米陸海軍、米国市民では無いと。
これは無差別の殺戮だ、敵の敵は味方と言うがこれは有り得ない。
「隊長、地上にも何かいます。」
惨状に唖然としながら地上の様子を見る彼の耳元に、今度は水木一飛からの報告が届いた。
「地上?どこだ?」
「フォード島です!」
その報告に淵田中佐は双眼鏡を改めてフォード島へ向けた。
「何だあれは?」
冷静沈着な淵田中佐の口から思わずそんな言葉が飛び出した。
しかし、双眼鏡の視界内に捉えられたそれは、確かにそう表現する以外に無い存在だった。
巻きあがる炎と黒煙を透かして見えたのは象も大きくバスほどもある巨大なモノだった。黒に近い灰色に見えるそれは四本の足で易々と抵抗して銃撃を加える機銃座を踏みつぶし格納庫を薙ぎ倒してゆく、それだけではない背中には兵士を載せてい有るらしく時折銃撃を加えて逃げまどう米兵を松明にしていった。
それだけではない、そこより離れた地点には先程のモノよりも遥かに巨大なモノが居た。
それを見たとき、一瞬戦艦が陸に上がったのかと思うぐらいにそれは大きかった、しかし、特筆すべきは巨大な体から生えた三本の首だろう。
そいつは巨大な体に不釣り合いな短い四本の足で歩きながら三本の首の先に有る口から火炎を吐きながら周辺を破壊尽くしていた。
「三つ首の竜?」
その巨大な三つ首竜は全部で四体居た、フォード島と対岸のヒッカム飛行場に一体ずつ、もう一体は湾内にいた、そして最後の一体はホノルルの街中に居た。
淵田総隊長は迷っていた、ここで自分は何をするべきなのか。
既に戦端は開けれた、しかし、現状では双方が少数の損害を出した程度で済んでいる、全面的な戦闘に入る攻撃は避けるべきか?
それとも、民間人まで平然と蹂躙する輩を放置するのか?
今も目の前で、米軍のP-40と板谷少佐の言う飛竜が空中戦を行っていた。
いや、違うな一方的な虐殺に近かった。
P-40は飛竜の襲撃の合間を縫って離陸したものの、頭を押さえられた速度も高度も上げられず追いまわされている様子だった。
上空に位置した飛竜は時折、口から火球を吐き出し攻撃していた、P-40は地の利を生かして地表すれすれを懸命に回避していたが追い詰められた状況であることは明白であった。
さてどうしたら良いか?
すっと、総隊長機の左翼側に一機の零式艦戦が近づいてきたマークから飛竜航空隊の第四制空隊隊長の岡崎清熊大尉の乗機である事が判った。
岡崎大尉は、前方を指さすとグッと拳骨を握って見せた。
『私に任せて下さい。』と言っているのだ。
彼は生粋に防人だった、常に武人、特に戦闘機乗りは弱き者を守り盾と成るのが誉とまで言っていた、そんな益荒男であった。
淵田中佐が頷くと岡崎大尉は素早く敬礼して機体を翻した。
ふと、淵田中佐は笑みを浮かべた。
何を悩む必要が有るか。
「水木一飛、無線封止解除。
ト連送発信!」
そう命じて、自身は操縦席の風防を開けると信号弾を上方に向けて打ち上げた。
数は三つ、これは事前の一発が奇襲、二発が強襲に無い数だが迎撃に向かった板谷機や岡崎機の機動から何を意味するかは理解できるだろう。
そしてト連送、単純なトの連続発信の意味は、『全機突撃せよ!』を意味していた。
それは、『打ち祓!』と言う意味でも有った。
これまで様子を見守っていた攻撃隊各機は、獲物を前に引き綱を放たれた猟犬の様に飛び出していった。
真っ先に敵機に迫ったのはやはり岡崎大尉の第四制空隊の六機であった。彼らは高度を上げれずに逃げ惑うP-40をいたぶる様に追い回していた飛竜の背後に襲い掛かり瞬く間にそれを撃墜した。
行き成り現れた仮想敵である帝国海軍の戦闘機に一瞬P-40が応戦の構えを見せるが岡崎大尉は乗機の翼を上下に大きく振り敵意が無い事を示すと、素早く他の飛竜に向かって高度を上げていった。
暫く彼らは飛行場上空に滞空して、米軍機の離陸を狙って攻撃しようとする飛竜への攻撃を続けて米軍機の離陸を援護した。
その様子を見て確信した淵田中佐は電信員に電文の発信を命じた。
「水木一飛、機動艦隊司令部宛発信、
『真珠湾ハ既ニ壊滅セリ、ナレド我、米軍トトモニ交戦中成リ』
以上だ。」
相変わらずギリギリの投稿に成ってしまいましたが、作品のアイディア自体は早くから有り、山口氏の企画に合わせた形になりますが、取り合えず新作の架空戦記をお送りしました。
この作品は架空戦記創作大会2017夏の
お題1「現実の第二次大戦期の軍隊がファンタジーと戦う架空戦記」です。
同時にキーワードに記した様に、ある作品のパロディーの側面もあります。
何の作品だと思います?
判った方いらっしゃいましたら感想へ是非書き込んでみて下さい。
またいつもの事ですが、誤字脱字が有りましたら感想で構いませんので一報ください。
もちろん意見や感想も大歓迎です。
今回は最大二話か三話で完結させる予定ですので少しお付き合いください。