そうと決まったら早速作戦会議だ。
ついに選挙前日。
国会議員の選挙ならば、街頭演説ができるのは前日の20時まで。
ですがこれは生徒会役員の選挙。
立候補者の最終演説は投票直前に行われます。
生徒会総選挙前日。
今日は応援演説が給食時間に校内にテレビ放送された。自分の応援演説をされる経験なんて今までの人生であるわけがない。当然、演説をしている人間よりも演説をされている人間のほうが恥ずかしい気持ちになるものだ。
「いやぁ。なかなか恥ずかしいもんだな。」
そう翔に話しかける。こいつならわかってもらえると思ったんだけど・・・
「そっかぁ?結構嬉しいもんじゃないか?あぁ、こんなにも俺のことを見てくれてたんだなってさ。」
なるほど。そういう考え方もあるか。でもなぁ。なんだか持ち上げられてるみたいな気がずっとするんだよなぁ。やっぱり俺は恥ずかしい。
「コラッ、バカ夕人。恥ずかしいっていうのはどういうことだよ。そんなに私の演説が気に入らなかったのか?」
そういってツカツカ歩いてきて俺の向う脛を蹴り上げる。
「いってぇなぁ。そういうことじゃないよ。本当にありがたいと思ってるさ。でもさぁ、『竹中夕人くんは本当にいい人です。他人の気持ちが理解できる優しい人間です。』なんて放送で言われたら、そりゃ、全身がくすぐったいって。」
小町が演説してくれたのは嬉しかった。これは偽らざる本心だ。
でも、なぜか俺以外の立候補者の後見人はみんな同性だったんだよ。俺だけが異性の後見人。考えすぎなのはわかってるけど、放送終了後にクラスの男子の何人かから冷やかされたことは事実だ。もちろん、そんなことを気にしているわけじゃないんだけど・・・いや、ちょっとだけ気にしてるかな。
「だってさ。ほら、こういう言い方すると夕人に悪いんだけどさ。勉強に関していったら杉田のほうが上じゃない?運動だってさ、スペシャルってわけじゃないじゃない。だけど、人間性はさ。アピールできるとこだと思ったんだよ。」
そういいながら小町がどんどん小さくなっていくように見えた。
「良かったよぉ、小町ちゃんの応援演説。なんだか、二人の『らしさ』が出てたように思ったもん。夕人くんの良いとことかと小町ちゃんの真っすぐなとことか。」
茜は笑いながら言うが本当に褒めてるのかよ。
「そうだぞ、夕人。小町の演説はよかったよ。なんだか他のとは違ってほんわかした空気流れてたしな。好感度がうなぎ登りだって。」
それはあるかもしれない。小町の話し方も優しかったし、他の演説者とは違って原稿を見ないで話してた。さらに、時折笑顔なんかもあったからなぁ。小町の凄さも感じたよ。
「そうだね。ありがとう、小町。」
そう言って小町の頭を軽く撫でる。
「「あ・・・」」
茜と小町が口を揃えて顔を見合わせる。
「ん?」
思わず小町の頭から手を離し、翔の顔を見るが『俺にもわからんよ。』という表情でいる。
「「なんでもないよ。」」
さらに二人で声を揃えて何もないことを強調する。
「お、おう。」
ここまで何もないことを強調されると、何かあると言っているようなものだ。けど、それを『聞かないで。』と言っていることもわかる。
「さて、じゃ、私はちょっと用事あるんだ。じゃ、またね。」
そういって茜がどこかに歩いていく。そりゃ、茜にも都合があるのはわかるけど、なんだか中途半端に話が終わってしまった感が否めない。
「じゃ、夕人は俺と明日の打ち合わせでもするか。もちろん小町もな。んで、稚内くんも呼ばなきゃな。対足草作戦が必要だからな。」
そうだった。明日は選挙本番。自分自身の演説があるんだった。しかも全校生徒の前で。もう、原稿は完成しているけど練習はしておきたい。翔の申し出は本当にありがたいと思う。
「えー、私も付き合わなきゃダメなの?」
そう言いながらも満更でもないみたいだ。
「頼むよ、小町。もう明日のことだけど準備だけはしておきたいからさ。」
「仕方がないなぁ。バカ夕人の頼みだから聞いてやるよ。」
そう言って、最近少し大きくなってきた胸を張る。
「よし、そうと決まったら早速作戦会議だ。」
そう翔が宣言し、稚内くんに声をかける。彼も何か思うところがあるらしく、ノートをもってこちらにやってきた。
さしずめ『作戦参謀現る』といった具合だ。なんだか頼もしいなぁ。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
小町と夕人の関係というのはある意味で男女の友情が見られるものです。
小町は夕人を信じているし、夕人も小町を信じている。
後見人にもっともぴったりな人選だったわけです。
もし、環菜が壊れていなかったら。
後見人は環菜がやっていたのでしょうか。
いえ、やっぱり小町がもっとも適していると思うんです。




