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それでも、俺のライラックは虹色に咲く。  作者: 蛍石光
第15章 でも、それが正しいですわ
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どうしてこうなったんだか。

さて、みなさんお待ちかねのシーンとなりますかどうか。

 俺はもう一つあるシャワースペースに入る。

 隣からはゴソゴソと音が聞こえる。つまり、隣では茜が服を脱いで?

 お、お、お、お、おちつけ。大丈夫。見えるわけじゃない。

 向こうも見えないし、こちらも見えない。大丈夫。落ち着け、俺の息子よ。

 よからぬ想像をしながら自分も衣装をを脱いでいく。


「ねぇ・・・ゴメンね?変な事頼んじゃって。」


 壁越しに茜の声と共にシャワーの音が聞こえてくる。


「いや、閉所恐怖症っていう理由があるなら仕方ないよ。・・・でもさ、それなら他の女子に頼んだらよかったんじゃないか?小町とかにさ。」

「だって、小町ちゃん、松葉杖だし。」


 そうか。今の小町は無理か。


「それにしてもいつからそんな感じなの?」

「ん・・・小学校の頃からかな。」

「ふーん、大変なんだな。」


 全身にお湯をかけて絵具絵を洗い流す。

 うっわ。スゴイな。流れているお湯が真っ赤だ。こりゃ、ちょっとした恐怖映画のワンシーンみたいだぞ。


「うわっ。」

「え?どうしたの夕人くん。」


 いやいやいや。これが動揺しないでいられますか。

 シャワーの個室の仕切りが床まで無い。床上30センチくらいのところで途切れているじゃないですか。なんか、茜の足がチラチラ見えるし。


「あ、真っ赤な水?もしかして、これって夕人くんの絵具?」


 絵具じゃなかったら大参事だろうよ。


「そうだよ。そうに決まってるだろ?絵具じゃなかったら俺、死んじゃうぞ?」


 それよりも、足しか見えないのにこのドキドキ感は一体・・・


「ここ、仕切りが床まで無いんだね。」


 茜の無邪気な声が聞こえる。本当に怖いのか?


「あ、茜は・・・平気なのかよ。」

「うん、話していられるから平気かな。」


 そうじゃなくて。

 仕切りがなくてちょっと見えちゃうのとか、隣に男子がいるとか、もしかして覗かれるんじゃないかとかそういう方だよ。


「そ、そっか。ならいいけど・・・」

「あ~、ひょっとして・・・」

「いやいや、そんなことはないぞ?」

「ふ~ん、何がかなぁ?」

「何がでしょうか?」


 気持ちを悟らせないようにするために頭からシャワーを浴びる。


「ひょっとして、壁越しに想像しちゃってる?」


 そう言いながら、茜の足はクネクネ動いている。


「してねーよ。するわけないだろ?そんなこと。」


 シャワーで全身を流しながら頭をワシワシと洗う。こうすれば見えない。これで・・・ダメだ。余計に気になる。


「してないの?想像とか。」

「してないしてない。」


 してます。想像してます。でも、はっきりとしたイメージが湧きません。


「ふーん。お姉ちゃんは中学生くらいの男の子ってみんなエッチな事ばっかり考えてるって言ってたけど、違うのかなぁ。」

「まぁ、そういうときもあるさ。けど、いつもじゃないぞ?」


 茜のお姉ちゃんめ。なんてことを茜に吹き込んでるんだよ。


「そりゃそっか。」

「そうだよ。」


 そりゃ、想像しましたよ。今もしてますよ。

 ちょっと覗いてみたいっていう衝動もありますよ。

 えぇ、ありますとも。でも、それをやっちゃおしまいだよ。


「私って、魅力ない?」

「はぁ?それはないだろ。断言できる。」

「そう?」


 そりゃそうだ。夏休みに見た水着姿からも容易にナイスなけしからんボディーを持っていることを容易に想像できるもんな。


「そうだよ。」


 よし、赤い水も流れなくなってきたぞ?背中もほうもさっさと流さないとな。体の向きを反対側に向け、スペースの入り口側を向く。


「あっ」


 なんだ?つぶっていた目を開ける。何もない。


「どうした?」

「ううん・・・なんでも・・・ないです・・・」

「ん?まぁいいけど?」


 とりあえず、早いとこ全身の絵具を落としたい。綺麗に落とさないと服も着られないからな。


「あの・・・夕人くん?」

「なに?」

「えっと・・・その・・・首のあたりとか・・まだ絵具ついてると思うな。」


 そうなのか?手を首筋のあたりに当ててみる。うわ、確かに手にはべっとりと赤い絵の具が付いた。


「そっか、このあたりにはかなり塗られたもんな。擦らないと取れないのかな。」

「うん、そうかもね。」

「だとすると、背中なんかどうなってるかわかったもんじゃないな。あとで翔に見てもらうか。」


 しかし、その前に服を着てしまったら意味はないのだが。


「・・・私が・・・流してあげよっか?」

「・・・はぁ?何言ってるんだよ。それはダメっしょ。」

「夕人くんが目をつぶっていてくれるなら・・・」

「いやいや、それはさすがにやめとこう。正直に言うよ。今の俺はドキドキし過ぎていてダメだ。」

「うん、わかるよ。」


 わかるのかよ。なんでだよ。


「じゃ・・・そういうことだから。茜も早く上がれよ?そうしてくれないと俺もいつまでもあがれないからさ。茜が服着てくれないと俺はいつまでもここにいなくちゃいけないんだから。」

「私はもう上がるよ?でも、夕人くんはもっと時間かけて絵具を流したほうがいいと思う。全然取れてないよ。」


 そう言われて自分の体をよく見てみる。確かに。肩のあたりや足には、まだ絵具が残っている。って・・・なんで茜が知ってるんだ?


「・・・なぁ・・・ひとつ聞いてもいいかなぁ。」

「な、なにかな?」


 この動揺の仕方はやっぱり。


「覗いたな?」

「覗いてません。」

「じゃ、なんで絵具の残り具合とかもわかるんだ?」


 そう言えばさっきは首のあたりとかに残ってるって言ってたしな。もしかして?


「なんとなくだよ。ほら?さっき絵具まみれの姿を見てたから~。」

「覗いただろ。」

「・・・はい。覗きました。」

「お前なぁ・・・変態か?せめてごまかせよっ。」


 素直なヤツだ。ってか女の子ってこんな感じなのか?それとも茜がアホなのか?


「ごめんなさい。ちょっと興味が勝ってしまったもので。」

「興味って・・・おばさんみたいなこと言うなよ。俺が振り向いたらどうするつもりだったんだよ。俺も見ちゃってたかもしれないんだぞ?」

「だって・・・」

「だってじゃない。まったくさぁ。茜ってそういうキャラだっけ?」


 もう一度体を反転させ壁の方を向く。もう絵具を落とし切るのは無理かもしれない。背中も見えないし、諦めるか。


「ねぇ、夕人くん。壁のほう向いててね。」

「あ?着替えるのか?俺はまだもうちょっとかかるから。」

「入口の方、向いちゃダメだよ?」

「わかったって・・・」


 そうブツブツ言いながら壁側に体を向ける。


「ちゃんと、壁の方向いた?」


 茜からしつこいくらいの確認の声。


「あぁ、大丈夫。ちゃんと壁の方向いてるよ。」


 背中にタオルの感触がある。

 おいおいおいおいおいおいおい。マジですか????


「あかね?」


 ビックリし過ぎて平仮名になっちゃったぞ。ちょっと勘弁してくれよ。俺の今の状態、見られたらヤバいって。

 振り向きそうになるところを茜に止められる。


「前向いててっ。まだ、絵具残ってるから。でも、こっちは見ちゃダメ。」


 いや、よく考えると振り向けません。そんな状態じゃないですから。


「いや、ほら、その、な?わかるだろ?な?ダメだって。茜も、その、な?あれなんだろ?」

「・・・うん。」


『うん。』じゃねーーーーーだろ。


「あー、その、なんだ。えっと、ほら、もういいから。な?適当に流して終わりにするから。お前もあっちに戻れって。そして、着替えてくれ。・・・頼む。このままじゃ、俺・・・ここから出られない・・・」


 いい感じに、いや、ヤバいぐらいに俺の下半身が筋トレ中だ。


「もうちょっとだけ・・・」


 そう言って茜がタオルで体を擦ってくる。正直、マズい。


「なぁ・・・あのさ・・・」

「・・・・・」


 目の前にタオルが現れる。そのタオルを持っているのは茜の右手だ。

 左手も目の前に現れ、両手が俺に絡みついてくる。

 背中に感じるのは茜の体温。


 頭から浴びてるシャワーの温度なんて感じない。

 振り返って抱きしめたい。


「茜・・・俺さ・・・」


 今聞こえてるのは俺の心臓の音なのか?それとも茜の?

 ドキドキする。それは当たり前だ。

 俺の後ろには全裸の茜がいる。不意に夏の水着姿が思い出される。

 あの時は見えなかった全てが今、すぐ近くにあるんだ・・・


「・・・うん・・・」


 俺は今何しようかと思っているんだろう。それに、何を言おうと思っているんだろう。


「あ、あのさ。」

「何・・・かな。」


 相変わらず俺に密着している茜の体がピクッと震える。


「どうして?」

「なんのこと?」

「俺にどうして欲しいんだ?」

「・・・わからない。」

「俺も・・・わからなくなるよ。」

「・・・いいよ。夕人くんがそうしたいなら。」


 左の首筋に新たな感触が加わって茜の髪が俺の肩にかかる。


「それで、いいの?」

「・・・わかんない。」


 わかんない、か。俺もわからない。でも、なんでここまでするんだよ。


「もう・・・ダメだって・・・」


 そういって目線をちょっとだけ左に向ける。

 そこには茜の頭が見える。


「私も・・・もう、ダメ。」


 その言葉を聞いてから右手で茜の頭を軽く撫でる。

 俺だって・・・我慢してる。もう、やめよう。


「俺さ、今は・・・」

「・・・わかってる・・・」


 何をわかってくれたんだろう。俺は何も言っていないのに。


「ねぇ、聞いて。夕人くん。」

「なに?」

「私・・・いいよ。覚悟してるから。」


 全然通じてなかった!

 俺が思ったのは『今はダメだ。』っていうことなのに。むしろ俺、なんか覚悟させちゃった?っていうかむしろ俺が覚悟決めなきゃいけないって感じか?

 ナニがどうして、どうなってんだ?


「でも・・・私のこ・・きなら。」


 よく聞こえなかった。シャワーのせいだ。思ったよりもお湯が床を叩く音が大きいんだ。


「え?」

「・・・なんでもない。ごめん。」


 そう言って茜が俺から離れていった。



 その後、お互い無言の時がしばらく続いた。そして茜の声が聞こえてきた。


「もう服着たよ。大丈夫。夕人くんの着替えはそこに置いといたから。私、見えないところっていうか見ないように目をつぶってるから。」


 茜は何事もなかったかのように話している。


「わかった。今出るわ。」


 シャワーを止めて、ゆっくりと息を吐く。


「俺、何やってんだろう。」


 下半身はいつのまにか筋トレをやめている。

 タオルを手に取り体を拭くのもそこそこにしてテキパキと着替える。

 茜の方に目をやると両手で顔を覆って待っている。そこまでするなら、こちらに背を向けていればいいのに。


「なっ。」


 よく見ると、いや見なくてもいいんだけど、シャツが透けてる。


「なに?もういいの?」

「いや、ダメだ。まだちょっと待ってくれ。そして、茜。」

「なに?」

「透けてる。ちゃんと体拭けよ。バカ。」


 茜が顔から両手を離す。なんだか茜の顔が赤い。


「バカッ、俺はまだ・・・」

「・・・ごちそうさまでした・・・」


 そう言って茜が真顔でお辞儀をした。


*********************


 茜はTシャツにジャージという姿だ。そのシャツは俺のシャツなんだが・・・黒いから透けないけどさ。おかげで俺は着るはずだったシャツがなくなってしまった。素肌にジャージとか、ちょっと気持ち悪いな。


「バカなの?」


 開口一番切り出した。


「なんでそんなこというかな。」


 茜が不服そうに口を尖らせる。さっきまでのやり取りが嘘のようだ。

 ここはシャワールームの出入り口付近。大きな鏡が設置されている。男用のシャワールームでもこんな感じなんだな。

 茜と俺は髪を乾かしながら俺と話をしている。


「茜ってさ・・・なんか、凄いのな。」

「え?どういうこと?」

「まぁ、どうでもいいけどさ、このことは絶対に誰かにばれたらヤバいぞ?」

「そだね。でも、夕人くんが言わなきゃ誰も知るはずがないから。」

「そうだけど・・・」

「二人の秘密が、また増えたね。」


 笑顔でそんなこと言うな。


「言えるわけないだろ・・・」

「だよねっ。だって、ここ女性用のシャワールームだからね。」


 茜が満面の笑みを浮かべて勝ち誇ったかのように言った。


「マジ?」

「うん、マジ。」


 これじゃ、俺が犯罪者だ。どうりで馬鹿でかい鏡があるわけだ。


「クッソ、俺の裸を見たことも内緒だからな。」

「うん・・・さっきも夕人くんのを見ちゃったことも内緒にする。」

「もうさ・・・そういう問題じゃないと思うんだけど・・・」


 はぁ。どうしてこうなったんだか。頭を抱えて俯く。


「・・・ごめん。」

「・・・俺もごめん・・・」

「夕人くんも私を見たかった?」


 上目づかいでこっちを見るなよ。しかも声が妙に弾んでるぞっ。


「そりゃ・・・まぁ・・・ね。」


 目を逸らしながら生返事をする。答えられるかそんなことっ。


「いいよ。夕人くんなら。」

「おい。」

「でも、彼氏にしか見せないけどね。」


 なんだよ、それ。


「あーそーですか、そーですか。でも、それが正しいですわ。」


 再び、ハァと溜息をつきながら答える。


「あはは、ゴメンね。変なことしちゃって。」

「もう、この話はやめようよ。なんか俺の方が恥ずかしいわ。」

「イイもの見せてもらいました。」


 そう言いながら俺の方に手を合わせて拝むようなポーズをする。


「バカッ、いいからもう行くぞっ。」


 茜のことを軽く叩く真似をして、シャワールームから出ることに決めた。


「ごめ~ん。もう言わないから~。」


 茜も俺の後をついて出てくる。

 閉所恐怖症は平気なのか?まったく・・・

ここまで読んでくださってありがとうございます。


いやぁ、すごいことになりました。

ひどいですね。

やれやれ。

書いていた私もちょっと困りものでした。


茜ってすごいなぁと。私、驚きました。

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