今日はやることいっぱいだもんね。
開演まであとどのくらいなんでしょう。
屋上から誰かが降りてくる。そんなに走って大丈夫なのか?って、茜か?
「お、おい、茜。どうした?そんなに走って。」
茜の目には涙が浮かんでいる。何があったんだよ、屋上で。
「なんでも・・・ないよ。」
「何でもなかったのに泣いてるのか?」
きっと環菜と何かあったんだろう。でも、そのことを俺が聞いていいのか?
「大丈夫だよ。」
「そうなの・・か?」
「うん。」
茜が言わないのなら俺から聞くべきではないような気がする。
「そっか。茜がそう言うならそういうことなんだろうな。なら、俺の方から二つお願いがあるんだ。」
「お願い?二つもあるの?」
そう言って茜は夕人の顔を見つめる。
「うん。二つ。まず一つはさ。もうすぐ本番だから最終の確認をしたいなってこと。」
「うん、そうだよね。ゴメン。これから体育館のとこでしよっか。」
「そうしよう。」
そう言って二人で体育館に向かって歩き出す。本番開始までは50分。あと20分くらいは打ち合わせなんかもできるだろう。
「もう一つのお願いは?」
体育館に向かって歩いている途中に茜が聞いてくる。
「あ、そうだったね。もう一つは環菜のことだよ。きっと茜が何かをしてくれてたんだろうって思って。」
「うん・・・さっき屋上で話してた。」
だろうな。そうだとは思ったけどさ。
「そうだろうと思ったんだ。さっき教室で女子から二人で出て行ったって聞いたから。」
「そっか。」
「俺にもできることあるかな?いや、俺だけじゃない。みんなで、俺たちみんなでできることないかな。翔や実花ちゃん。小町も居たらきっと何かできると思うんだ。」
「そうかも知れないね。でも、そうじゃないかもしれない。」
なんで?どうしてそんな言い方するんだ?茜らしくないんじゃないか?
「ダメなのか?俺達じゃ。」
「ううん、そうじゃないの。みんなで環菜ちゃんに詰め寄ったら、ますます環菜ちゃんは身構えちゃんと思うの。だから、もう少し、私が環菜ちゃんと話してみる。」
「けど、茜だけにそんな思いをしてほしくない。環菜は俺たちの友達だろ?」
「そうだよっ。私たちの大切な友達だよっ。だけどね、環菜ちゃんは私と会っていた時にあんな感じになっちゃったの。きっと私が原因なんだよ。私が環菜ちゃんに何かをしちゃったんだ。何が原因なのかはわからないけど、きっとそうなのっ。」
そう言って泣き崩れる。
「茜・・・」
俺はどうしたらいいんだろう?何かできることはないんだろうか。茜に対しても、環菜に対しても。何もできないのは歯がゆい。でも、何ができるのかわからない。こんなに悔しい気持ちは初めてかも知れない。
「それにね?環菜ちゃんは女の子なの。優しくて繊細な女の子なの。だからね、まだ、男の子の出る場面じゃないと思うの。」
泣きながらではあったが、はっきりと言ったそこの言葉を夕人はしっかりと聞き取った。
「そっか。わかった。でも、助けが必要な時はいつでも言ってくれよ。茜は俺たちの大切な仲間なんだから。」
「ありがとう。その時はきっとお願いする。だからもう少し時間を頂戴。」
茜にはきっと何か考えがあるんだろう。
「わかった。俺の方こそよろしく頼むよ。」
そう言って茜に手を伸ばし、その場から立たせて続ける。
「それにしても・・・本番前にそんなに泣いたらダメだろ?これからいっぱい演技しないといけないんだから。」
少しだけ無理して明るい声を出してみる。茜の気分が少しでも晴れるように願って。
「そうだね。今日はやることいっぱいだもんね。」
「そうだよ。いっぺんに解決なんてはいかないからさ。目の前のことを一つずつ片付けて行こうよ。」
茜に言っているというよりも自分に言い聞かせているような、そんな感じがした。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
茜はいい子です。
夕人もそれをよくわかっています。
だからこそ、助けてあげたい。そう思うわけです。
でも、環菜のことも助けてあげたい。
環菜だっていい子だと思っているから。
ただ、そう思っているのは夕人や茜だけではないはずです。




