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それでも、俺のライラックは虹色に咲く。  作者: 蛍石光
第15章 でも、それが正しいですわ
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今日はやることいっぱいだもんね。

開演まであとどのくらいなんでしょう。

 屋上から誰かが降りてくる。そんなに走って大丈夫なのか?って、茜か?


「お、おい、茜。どうした?そんなに走って。」


 茜の目には涙が浮かんでいる。何があったんだよ、屋上で。


「なんでも・・・ないよ。」

「何でもなかったのに泣いてるのか?」


 きっと環菜と何かあったんだろう。でも、そのことを俺が聞いていいのか?


「大丈夫だよ。」

「そうなの・・か?」

「うん。」


 茜が言わないのなら俺から聞くべきではないような気がする。


「そっか。茜がそう言うならそういうことなんだろうな。なら、俺の方から二つお願いがあるんだ。」

「お願い?二つもあるの?」


 そう言って茜は夕人の顔を見つめる。


「うん。二つ。まず一つはさ。もうすぐ本番だから最終の確認をしたいなってこと。」

「うん、そうだよね。ゴメン。これから体育館のとこでしよっか。」

「そうしよう。」


 そう言って二人で体育館に向かって歩き出す。本番開始までは50分。あと20分くらいは打ち合わせなんかもできるだろう。


「もう一つのお願いは?」


 体育館に向かって歩いている途中に茜が聞いてくる。


「あ、そうだったね。もう一つは環菜のことだよ。きっと茜が何かをしてくれてたんだろうって思って。」

「うん・・・さっき屋上で話してた。」


 だろうな。そうだとは思ったけどさ。


「そうだろうと思ったんだ。さっき教室で女子から二人で出て行ったって聞いたから。」

「そっか。」

「俺にもできることあるかな?いや、俺だけじゃない。みんなで、俺たちみんなでできることないかな。翔や実花ちゃん。小町も居たらきっと何かできると思うんだ。」

「そうかも知れないね。でも、そうじゃないかもしれない。」


 なんで?どうしてそんな言い方するんだ?茜らしくないんじゃないか?


「ダメなのか?俺達じゃ。」

「ううん、そうじゃないの。みんなで環菜ちゃんに詰め寄ったら、ますます環菜ちゃんは身構えちゃんと思うの。だから、もう少し、私が環菜ちゃんと話してみる。」

「けど、茜だけにそんな思いをしてほしくない。環菜は俺たちの友達だろ?」

「そうだよっ。私たちの大切な友達だよっ。だけどね、環菜ちゃんは私と会っていた時にあんな感じになっちゃったの。きっと私が原因なんだよ。私が環菜ちゃんに何かをしちゃったんだ。何が原因なのかはわからないけど、きっとそうなのっ。」


 そう言って泣き崩れる。


「茜・・・」


 俺はどうしたらいいんだろう?何かできることはないんだろうか。茜に対しても、環菜に対しても。何もできないのは歯がゆい。でも、何ができるのかわからない。こんなに悔しい気持ちは初めてかも知れない。


「それにね?環菜ちゃんは女の子なの。優しくて繊細な女の子なの。だからね、まだ、男の子の出る場面じゃないと思うの。」


 泣きながらではあったが、はっきりと言ったそこの言葉を夕人はしっかりと聞き取った。


「そっか。わかった。でも、助けが必要な時はいつでも言ってくれよ。茜は俺たちの大切な仲間なんだから。」

「ありがとう。その時はきっとお願いする。だからもう少し時間を頂戴。」


 茜にはきっと何か考えがあるんだろう。


「わかった。俺の方こそよろしく頼むよ。」


 そう言って茜に手を伸ばし、その場から立たせて続ける。


「それにしても・・・本番前にそんなに泣いたらダメだろ?これからいっぱい演技しないといけないんだから。」


 少しだけ無理して明るい声を出してみる。茜の気分が少しでも晴れるように願って。


「そうだね。今日はやることいっぱいだもんね。」

「そうだよ。いっぺんに解決なんてはいかないからさ。目の前のことを一つずつ片付けて行こうよ。」


 茜に言っているというよりも自分に言い聞かせているような、そんな感じがした。

ここまで読んでくださってありがとうございます。


茜はいい子です。

夕人もそれをよくわかっています。

だからこそ、助けてあげたい。そう思うわけです。


でも、環菜のことも助けてあげたい。

環菜だっていい子だと思っているから。

ただ、そう思っているのは夕人や茜だけではないはずです。

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