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それでも、俺のライラックは虹色に咲く。  作者: 蛍石光
第15章 でも、それが正しいですわ
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いつの間にあんなに仲良くなったの?

本番直前の慌ただしい時間です。

 教室に戻ると小道具や衣装なんかを準備してくれている女子たちがワイワイやっていた。

 開演まであと1時間半。今さら準備も何もあったもんじゃないけど茜と最終確認をしておきたい。


「茜は?見かけなかった?」


 そうクラスの女子に声をかける。


「茜?さぁ?さっきまでここにいたと思うけど。」

「あっ、あたし見たよ。玉置さんと話してたみたいだけど、その後教室を出て行ったよ。」


 茜と環菜が?


「ありがとう。それってついさっきのこと?」

「うん、5分も経ってないと思う。竹中くんと入れ違いっていうくらいだよ。」


 茜のことだ。絶対に環菜のことを心配して声をかけたに決まっている。それにしても今の環菜は本当におかしい。茜なら何か知ってるかもしれないって思ってたから、この演劇が終わったら聞いてみようかな。


「そうそう、竹中くん。この衣装なんだけどね・・」

「・・・ありがとう。なんだか、この格好のほうが時代を反映してるって感じでいいね。」


 今までの衣装は浴衣みたいな少し裾の長めな和服って感じだったんだけど、渡された新しい衣装は麻と綿でできた半纏くらいの長さの服に少し太めの麻ひもでできた帯。それに脛あてにふんどしチックなもの。

 これを着ろってか。今ここで?


「着替えてみて?ちゃんとサイズは測った通りにできてると思うけど。」

「ここでか?」

「そうしたいならどうぞ?」


 少し冷たい目でこちらを見てくる。失敗か?いや、ここで引いたら男が廃る。


「そうか。それじゃ遠慮なく・・・」


 そう言ってワザと下から脱ぎ始める。


「って、ちゃんと更衣室かトイレで着替えて来てよっ。」


 何人かの女子がキャーキャーと声をあげ文句を言ってくる。


「ここで着替えていいって言ったくせに。」


 よし、これで俺の目論見通り。


 バシッ


「イテッ。」


 頭に大したことのない衝撃があって何かで叩かれたということを認識する。


「なんだよ。誰だよ?頭叩いたのは?」


 そう言って振りかえると、そこには椎名先輩がいた。椎名ローザ先輩。半年くらい前にいろいろとお世話になった人だ。


「お前はアホか?なんでこんなところで着替えてるんだ?公然猥褻罪だぞ?」


 久しぶりに見る椎名先輩は相変わらず色白で綺麗だ。ただ春先に比べて少し髪が伸びたみたいだ。髪が肩までくらいの長さになっている。そのせいもあって、以前よりも少し大人っぽい印象だ。


「ほぅ・・・椎名先輩が公然猥褻罪なんて言葉を知っているとは。成長したんですね。胸以外は。」


 そう言ってまじまじと椎名先輩の顔を見つめる。


「お前は・・・」


 そう言ってもう一度俺の頭を平手でパシっと叩く。


「痛いですって。」

「お前が悪いんだろうが。」

「ま、そうですね。俺が悪かったですよ。と。それは置いておいて、なんでここにいるんですか?」

「あ?どこにいようとあたしの勝手だろ?」


 なんだかこういうやり取りも久しぶりだ。初めての出会いは最悪で、いきなり教室から呼び出され一方的にビンタされるという謎展開。で、そこから紆余曲折を経て和解というか、まぁ、仲良くなったという感じだ。


「確かに勝手なんですけどね。ここは二年生のクラスなんで先輩が普通にココにいるのはどうかと思いますが、いかがでございましょうかね。」


 わざと卑屈に言ってみる。椎名先輩はこんな口調で話しているから怖い人というイメージをもたれているが、とてもかわいくて優しくて乙女なのだ。と村雨先輩が言っていたし、俺もそう思う。


「そ、そ、それはな・・・お前に用があったんだよ・・・なんか文句あるのかよ?」

「ございません。それで、その用事っていうのはなんです?」

「あ・・・ほら・・・お前が劇の主役をやるっていうからさ・・・その・・冷やかしに来たんだよっ。」


 何をモジモジしながら言ってるんだよ。


「そうなんですか?わざわざありがとうございます。楽しんでいただけると嬉しいんですけど。」

「緊張してるかと思ったんだけど、平気みたいだな。」

「そうですね。まぁ、緊張してないと言ったらウソになるんですけど、もうすぐ開演って感じですからね。なるようになれってな具合ですわ。」


 口から出まかせだ。実は結構緊張してきているんだけど、それを悟られたくないだけだ。


「そっか。わかった。楽しみにしてるよ。それよりさ、その口調なんとかならないのか?もっと普通に話してくれても・・・いいんだゾ?」


 笑顔でそう言いながら、右手人差し指で俺の額を小突いてくる。あれ?学校でもこういうことしちゃうわけ?


「う・・・そうですか?良いんですか?」


 小突かれた額を押さえながら椎名先輩に問い返す。


「いいっ。もっと気楽にいこうよ、な?」


 そう言って今度は背中をバシバシ叩いてくる。なんでこんなにテンション高いんだよ。


「痛いって言ってるじゃん。やめてくださいよ。俺もやり返しますよ?」

「・・・いつでも受けて立ってやるっ。」


 そう言って腕まくりをして笑っているが、傍目から見ると不思議な光景をなんだろうな。何せ、前にはビンタ事件とかあったんだからな、みんなの前で。それに椎名先輩は少しだけガラが悪い奴らといることが多いから、後輩たちの中では避けている奴らもいる。彼女自身のことを知ってしまえば、全然悪い人じゃないんだけどなぁ。


「じゃ、本当にどっかでやっちゃいますよ?」

「あぁ、楽しみにしてるよ。」


 ニヤッとして『じゃ、頑張ってくれっ』と言って去っていく椎名先輩。相変わらず突然現れて風のように去っていく人だ。


「ねぇ、竹中くん。今の人って椎名先輩だよね?」


 クラスの女子が恐る恐る聞いてくる。


「ん?そうだよ?」

「いつの間にあんなに仲良くなったの?」


 アレが仲良く見えるのか?いや、見えるだろうな。どう控えめに見てもじゃれ合っているようにしか見えないだろう。


「まぁ、いろいろあったんだよね。向こうがこっちを誤解していたっていうかさ。そんな感じ。」

「ふ~ん。なんか椎名先輩って怖い人だって聞いてたんだけど、そうでもないのかもね。」


 そうなんだよ。やっぱり、噂はあてにならないってこともあるからな。椎名先輩もいつもこんな感じで接してくれたら・・・とは思う。そうしたら誤解も無くなるだろうに。


「そうだね。そんなに悪い人ではないと思うよ。たぶんだけどね。」

「そうかもね。あ、それじゃ、もうすぐ本番だから準備しなきゃだよね。私たちも体育館に行ってるね。」

「うん、ありがとう。いろいろ準備してくれて。本当に助かったよ。」

「ううん、私も見てて楽しかったよ。じゃ、頑張ってね。」


 そう言って手を振りながら女子たちはクラスから出て行った。


「さて、もうあんまり時間がないかな。」


 教室の壁についている時計を見て残り練習や打ち合わせができる時間を考える。

 20分くらい前にはスタンバイしてなければいけないから、どうやらあと40分くらいしか余裕はなさそうだ。けれど、茜と環菜がどこに行ったのか気になる。探してみよう。この時間だと行けて1か所だな。

 思い当たる場所はある。いつもみんなで集まっている屋上だ。きっとそこに違いない。どうして確信が持てるかはわからないけど、そんな気がした。

ここまで読んでくださってありがとうございます。


椎名先輩の久しぶりの登場でした。

それにしても、なんの脈絡もなく登場しましたね。

ただ、なんとなく可愛らしさを感じる行動でした。


そして、珍しいわけでもないですが、登場人物は夕人以外女の子でした。

気がつきましたか?

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