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それでも、俺のライラックは虹色に咲く。  作者: 蛍石光
第15章 でも、それが正しいですわ
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私は舞台の外からちゃんと見てるよ。

本番直前。

どうしてか本番の前にはいろいろなことが起こるものです。


不思議です。

 トイレからの帰り道、とは言っても廊下なんだが・・・向こうから歩いてくる人影がある。その人影はどうやら環菜みたいだ。環菜は昔のように声をかけてくることもないし、俺からも少し声をかけにくい雰囲気を醸し出してくる。いったい何があったんだろう。本番まであまり時間はないけど、気になったままじゃ演技に支障が出かねない。せめて話くらいはしておこうか。


「なぁ、環菜。お前どうしちゃったんだよ?」


 すれ違う直前に声をかける。しかし環菜の耳に俺の声は届いていないのだろうか。何事もなかったかのように俺の横を通り抜けていく。しかも、無言で、だ。


「おいっ。なんだよ。無視することはないだろう?」


 そう言って環菜の右腕をつかんで引き留めると、無表情のまま俺の顔を見つめてくる。絶対こんなのは環菜じゃない。何があってこんなことになってるんだよ。


「なぁ、こんなの環菜らしくないって。どうしちゃったんだよ?あんなにみんなで楽しくやってたじゃないか。急にこんな風になるなんてちょっとおかしいんじゃないか?」


 俺が言うことなんてまるで意に介さないようにただこちらをじっと見ている。


「痛いから、手を離してくれる?」


 その瞬間俺の背筋に冷たいものが流れたような気がした。体調が悪いから不愛想になっているとか、正論を歯に衣着せる物言いでいうといった感じではない。感情というものが感じられないんだ。


「・・・あぁ、ごめん。けど、そうなったのはなんでだよ。何があったんだよ?」


 俺は少し感情的になってしまって、環菜の両肩に手をのせて話し続ける。


「いつからそうなった?あんなにいろいろ話してくれた環菜はどこに行ったんだよ?俺は心配だよ。それにみんなも驚いてる。俺に話せないようなことなら、茜か小町に相談してみろよ。」


 しかし、環菜の表情は一向に変わらない。


「もう、いい?私は用事があるの。」


 そう言って俺を振り払って去っていく。なんだろう。全然わからない。何があってこうなったんだろう。一年生の時のあんな事件があった後でさえ笑顔でいた環菜だったのに。思わず深いため息がでた。


「あ、バカ夕人。どうしたの?こんなところで。」

「ん?小町か。あ・・・いや・・・今、環菜がいたんだけどさ・・・」


 そこまで話しただけで小町の表情が沈んでいくのがわかる。やっぱり小町も気にしてたんだよな。


「どうしちゃったんだろうね。何だか生気を感じないよね。」

「そうだね。なんか感情が失われてるみたいに見えたよ。」

「うん、それは私も思った。」


 そう言いながら松葉杖を上手に使って俺の横にすり寄ってくる。二人で壁にもたれ掛かりながら話を続ける。


「小町は何か知らないのか?あんな風になった原因とか。」


 ただ無言で顔を横に振る小町。知らないってことか。そして、こう続ける。


「私はわからないけど・・・茜なら何か知ってるかもしれない。」

「茜が?」


 そう言ってまた黙り込む小町。


「それよりもさ・・・ごめんね。あんなにいっぱい練習に付き合ってもらったのに。骨折しちゃったから・・・」

「いや、俺なんかよりも小町のほうがツライだろう。」

「うん。悔しいよ。頑張ってきたのにっていうのもあるし、それに・・・夕人と一緒にしたかったなぁ。」


 そう言って俺に体を預けてくる。小町、本当にやりたかったんだなこの劇。


「だよなぁ。やりたかったよなぁ。」

「うん。」

「足の調子はどう?痛みはなくなってきた?」

「うん。良くなってきたよ。すぐに病院に連れて行ってくれたおかげだよ。」

「まさか、折れてるとは思わなかったから焦ったけどね。」

「だね。夕人、病院ですっごく焦ってたもんね。うちのお母さんよりも心配してくれてたし。」


 そう言って喉の奥でクックッと笑う。


「そりゃ、驚くだろ?なんであれで折れるんだよ・・・」

「・・・ごめん。」

「いや、そういうことじゃなくってさ。というか、折れてるのに歩こうとしたり、あまり痛がらないなんて根性あるなと思ってさ。」


 骨折はしたことがないからどのくらい痛いのは分からないけど、松葉杖を使ってるしなぁ。ギプスもしているみたいだから、痛くないわけがないだろう。


「根性っていうか、足の怪我は割と慣れてたからね。折れてるとは思わなかったけど。」


 そうだった。小町は体操をやってたんだっけな。部活とかじゃなくってどこかのジムみたいなところでやってる。俺なんかいろいろあって半年で部活やめちゃったのに・・・やっぱ運動には根性が必要だよなぁ。


「あんまり無理するなよ?」


 そう言って頭を軽く撫でる。


「うん。そうする。」


 今日の小町はやけに素直だな。


「さて、そろそろ時間だよねっ。私は舞台の外からちゃんと見てるよ。」


 そう言って体育館に向かって歩いていこうとする。


「わかった。頑張ってくるよ。」


 俺も準備しないとな。最後に茜と打ち合わせもしておきたいし、教室に居るかな?

ここまで読んでくださってありがとうございます。


壊れた環菜と夕人の会話がありました。

いや、会話にもなってはいませんでしたが。

小町も心配しているようです。


とはいえ、そろそろ本番です。

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