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それでも、俺のライラックは虹色に咲く。  作者: 蛍石光
第15章 でも、それが正しいですわ
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なんだか、すごくいいな。

とうとう学校祭当日になりました。


小町の怪我の具合はどうだったのでしょう。

 今日はついに学校祭当日。天気も良いし、暖かい。クラスの出し物の準備も完璧とはいかないまでも、かなりしっかりとしたものに出来上がったと思う。

 そして、これから最終リハーサルを教室で行うところだ。最終というくらいだから、衣装なんかも準備されている。それぞれが衣装に袖を通し、台本の内容確認に余念がない。

 何せ、演出が茜で監督が翔だ。妥協を許さない二人組の容赦無い檄が飛んでいたんだ。そう四日前までは。


「ねぇ、小町・・・本当にいいの?」

「いまさら何言ってるの?私の足ってば折れちゃってるのよ?さすがに舞台は無理だって。」


 小町が椅子に座りながら松葉杖をクルクルと回している。


「でも・・・やっぱり、やりたかったんじゃない?」

「そりゃそうだけどね。仕方ないよ。だから、一番信用できる茜にやってもらいたいの。」


 少し離れたところで話をしているのは茜と小町。俺のところまでは話している内容は聞こえてはこないけど、最終確認みたいなことをしているんだろう。


「さぁさぁ、そろそろ最終リハーサル始めてみようか?本当は影絵の部分をキッチリとやりたいんだけどね。そのあたりは広さと明るさの違いがあるからある意味ぶっつけ本番?とは言っても昨日の舞台でのリハーサルはいい感じだったから大丈夫だと思うけど・・・二人におまかせといったところかな?」


 翔監督のありがたい話が始まった。


「監督が話し出すと長いからね。演出を担当することになった私から一つだけお願い。」


 そう言って小町が松葉杖を使いながらこっちにやってきて、俺たち役者たちを見回す。


「お願いって?小町ちゃん。」

「うん、あのね?こうやって外から演技を見てるとわかるんだけど、やっぱり少し大げさなくらいがすごくいいんだよね。身振り手振りが。だから、今までよりもほんの少しでいいからそれを意識してみて。」

「わかったよ。やってみるね。」


 そう言って茜が両手を握りしめる。茜は小町の代役として三日前から役者として参加したわけだから、一番練習が不足していると思われても仕方がない。けど、俺が見た限りでは茜には天性の素質があるように思える。だって・・・なぁ?


「あ、特に三人の地侍役には期待してるよ。これでもかと言うくらいに夕人を痛めつけてください。その方がリアリティが出るからね。」


 小町のヤツ。笑顔でなんてこと言うんだよ。あいつ等はホウキを改造した槍とおもちゃとは言え刀も持っているんだぞ?本気で来られたらケガしちゃうだろうよ。


「よしっ、竹中を痛めつけるのは任せてくれよっ。」


 三人組の一人がニヤッと笑いながら俺のほうを見る。俺たちに任せておけば安心だと言わんばかりに。けど、ほどほどにしてくれよ?


「よし、じゃ、始めてみようかっ。」


 翔の一言でリハーサルが始まった。



 うん、順調だった、きっと大丈夫。茜は小町よりもずっと背が高いから、多少演じるときに違いは出るけど、それはそれ。こう言ったら悪いかもしれないけど、小町と演じるよりやりやすい気がする。

 それに地侍三人組の俺への攻撃もいい感じに雰囲気が出てたし、いい感じに本番を迎えられそうな気がする。


「夕人~、お前の演技、良くなったよなぁ。棒読みじゃなくなったしさ。」


 翔に褒められて嬉しくないわけがない。


「かなり頑張ったからなぁ。セリフもしっかりと暗記したし。」

「だよなぁ。きっと演出の小町も喜んでると思うぞ?」


 それはどうだろう。小町はおとき役を演じるのにすごく一生懸命に練習していた。ある意味それが原因でケガをしてしまって、本番目前で役を降りることになった。きっとすごく悔しいんだと思う。

 でも、そんな気持ちを微塵も見せずにいる小町を見ると切ない気持ちになる。茜だって小町から引き継いだ役を完璧に演じようと必死だった。

 そんな二人を見ていて、手抜きができるような俺じゃない。クラスのみんなにも『小町のためにも絶対に成功させよう』といった空気が広がっている。・・・約一名を除いて。この期に及んでも環菜は非協力的だ。リハーサルにも顔を出さなかった。いったい何をやっているんだろう。


「かな?喜んでいるといいんだけどな。」

「たぶんな。小町は良い奴だから大丈夫だって。」


 いいヤツなのは分かってるさ。だからこそ、辛いんだと思う。


「私はね。茜ならやってくれると思ってるから平気だよ。」


 そう言って微笑む小町の顔からは負の感情は見られない。


「私、頑張るから。みんなよろしくね。」

「あぁ、もちろんだよ、茜。俺の方こそよろしくな。」

「俺たちも頑張って夕人をボコボコにするからな。」


 そう言って右手を差し出して握手を求める。茜も右手を伸ばしてきて俺の手を握る。そこに翔も小町も手を重ねてきた。さらに地侍役の三人。そして、それを見ていた他の何にかのクラスメートも手を重ねてきた。

 なんだか、すごくいいな。こういうのって。教室全体がすごく盛り上がってきた。


「もう、監督の俺ができることはないからな。観客として楽しませてもらうよ。」

「そだね。私もそうかな。二人の演技を楽しませてもらうね。」

「おうっ、任せておけって。」


 そう言って一度教室から出る。教室の中はさっきのリハの余韻で暑かったせいか、廊下がとても涼しく感じる。

 ふぅ・・・泣いても笑っても二時間後には本番だ。

 今の俺にやれることをやるしかない。まず、さしあたってはトイレに行っておこうか。

ここまで読んでくださってありがとうございます。


小町、重傷。骨折で全治ひと月。

まさかの主役交代。茜の出番です。


ただ、クラスの結束は強くなったみたいです。

小町の人気っぷりも良くわかる話になっています。


一年生の頃と違って、しっかりとクラスの一員になれているみたいですね。みんな。

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