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それでも、俺のライラックは虹色に咲く。  作者: 蛍石光
第14章 バッカじゃないの?
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ゴメンね、よろしく。

練習に熱が入ってきているようです。

 あれからどのくらい練習したんだろう。2時間くらいはやったんだろうか。

 ぶっ続けでやってるとさすがの俺も疲れてくる。小町なんて少しふらついているくらいだ。俺達はちょっとだけ床より高さのある場所を舞台のようにして演技の練習をしていた。だから、その段差に気を付けないといけない。とは言ってもせいぜい10センチ位。普通にしてれば問題はない高さだ。


「大丈夫か?小町。だいぶ疲れてるんじゃないか?休憩しようよ。」

「そうだね。さすがに、息が上がってきたかも。」


 そう言った小町は上気したような顔でこちらを見て言う。


「おいっ、小町、ちょっと休めよ。ホントにマズいって。」

「うん、そうする。」


 そう言った途端っ。


「あっ」


 小町が段差に足を取られてバランスを崩す。

 いつもの小町なら抜群の運動神経を生かして転ぶわけがないんだが、今の体力では難しいかもしれない。俺も必死に手を伸ばして小町を支えようとする。しかし、俺も体力を消耗していたせいで完全には支えきれなかった。二人そろって倒れ込んでいく。

 俺はとっさに頭を打たないように小町の体を抱きかかえた。


 ドサッ


 いってぇ・・・肩を打ったぞ・・・それより、小町は大丈夫か?仰向けになって倒れ込むと俺の胸元には小町の顔が見える。


「小町っ、大丈夫か?」

「苦しい・・・」


 しまった。強く抱きしめすぎたか。


「あ、悪い・・・ゴメンな。」

「ううん、ありがとう。」


 俺の上に乗ったまま小町がお礼を言ってくる。まぁ、無事ならいいんだよ。あのまま倒れてたら大変なことになりかねない。


「どこもぶつけてないか?」

「大丈夫。夕人が助けてくれたから。」

「そっか、それならよかったけど・・・」

「あ、今よけるね。」


 そう言って立ち上がろうとする。


「いてっ・・・」

「どうした?どこが痛む?」


 なんてことだ。間に合わなかったのか?やっぱりどこかぶつけたのか?


「足が・・・ひねったかも。」

「足か・・・見せてみろよ。」


 そう言って、小町の足首に手を当てる。


「右?左?」

「右の方。」

「こっちか。」


 右足首に手を当てて触診のようなことをしてみる。まだ腫れはないみたいだが、触ると痛そうに顔をしかめる。


「これは良くないな・・・たぶん。立てるか?」

「なんとか・・・」


 そう言ってよろよろと立ち上がる。しかし、足に力が入らないのか再び崩れ落ちそうになる。


「無理するな。他には痛いところないか?」

「うん、大丈夫。夕人のおかげだね。」

「ケガしてたら意味ないわ。それより保健室に行くぞ。」

「うん。」


 そう言って自力で立ち上がろうとする。


「ダメだ。足をひねったんだから立てるわけないだろう?おぶっていくから乗れよ。」


 小町の前で屈み込む。


「え?大丈夫だよ。ゆっくりなら歩けるから。」

「ダメだっ。もし、ひねっただけじゃなくて折れてたらどうする?大変なことになるんだぞ?」


 思わず大声で小町を怒鳴りつける。


「・・・わかった・・・お願い。」


 小町が俺の背中に乗ってくる。よし。


「じゃ、行くぞ?ちゃんと掴まってろよ?」


 屋上から一気に一階の保健室に向かって走り出す。けれど、小町を背負っているんだ。転んだら元も子もない。細心の注意を払いながら全速力で保健室に向かう。


「ゴメンね。迷惑かけちゃって。」


 いつもでは考えられないくらい弱気な小町。


「気にするな。もっと早く休憩をしなかった俺にも責任がある。」

「そんなことない。」

「いいから黙ってろ。」


 自慢じゃないが持久走に自信があるほうじゃない。話してると息が上がってしまう。小町を背負いながら階段を下りていく途中、知らない誰かが冷やかしてきた。けれど、今はそんなアホにかまってる場合じゃない。軽く睨みだけ効かせて無視を決め込む。


「よし、もうすぐ保健室だからな。」

「うん。そんなに焦らなくても大丈夫だよ。」

「そんなの、分からないじゃないか。」


 よし着いたぞ。保健室のドアをノックする。しかし返事がない。なんだよ。大事な時にっ。返事はないが待ってる暇はない。ドアを開けようとする。


 ガンッ


「は?カギ?なんで?」

「夕人、ほら、そこ見て?」


 そう言って小町が指をさした先は養護教諭の居所表だ。なに・・・出張中?


「バカなんじゃねーの?」


 思わず悪態をつく。


「大丈夫。こういうケガは慣れてるから。」

「そういうわけにはいかないんだよ。足のケガは放っておくと大変なことになるかもしれないんだから。」

「ホントに大丈夫だって。」


 そう言って小町が俺の背中から降りようとする。


「本当に大丈夫なのか?」

「うん、わかんないけど・・・」


 そう言って気丈に立とうとはするが足を地面に着くことはできないみたいだ。


「ダメじゃん。よし、病院にいくぞ。」

「そだね。じゃ、一回荷物取りに教室に戻らないと。」


 そういう小町の顔には汗が浮かんでいる。


「痛むのか?」

「うん、なんか少しずつ痛くなってきた。」

「やっぱり立ってたらダメだ。もう一回俺の背中に乗ってっ。教室に戻るぞ。」

「うん。」


 小町にしては珍しく素直に従う。


「よし、行くぞ?」


 そうして教室に戻り、翔に状況を伝えて小町と一緒に病院に行くことを伝える。翔からは一番近くにある病院の場所を教えてもらった。


「歩いていっても15分くらいのところだからまだ間に合う。行って来い。」

「小町ちゃん歩けないんでしょ?」


 茜が心配そうに小町に話しかける。


「うん・・・」

「俺が背負っていくから大丈夫だ。行くぞ?小町。」


 そう言って再び小町に背中に乗るように促す。


「でも・・・悪いから・・・」


 ふぅっと息を吐いて小町の頭を撫でる。


「いいか?困った時はお互いさまっていう言葉。知ってるよな?」

「・・・うん。」

「じゃ、行くぞ。さっさと乗れ。」


 有無を言わせないように小町の腕をそのまま掴む。


「じゃ、私は小町ちゃんの家に電話しておくね。病院で待ち合わせできるように。」

「頼む、茜。」

「俺はあとで茜と一緒に二人の荷物を病院に持って行く。だから安心して行って来い。」

「助かる、翔。」

「ゴメンね、よろしく。」


 そう言って小町が再び俺の背に乗ってきた。

ここまで読んでくださってありがとうございます。


小町、負傷。

重傷でないことを切に祈ります。

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