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それでも、俺のライラックは虹色に咲く。  作者: 蛍石光
第14章 バッカじゃないの?
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赤ちゃんも欲しいな

演劇の練習は少しずつ進んで行きます。

 で、至る現在。


「夕人よー、俺の立場もあるから何とかしてくれや。」

「そだよー。そんなのと一緒に主役とか恥ずかしいじゃん。」

「演出のしようもないしねぇ。」


 うぅ・・・言いたい放題だな、お前ら。

 けど、しゃーないか。俺もここまでひどいとは思わなかったもんなぁ。


「とりあえずさぁ。暗記して来いよ、お前は。」

「暗記?全部か?」


 俺は暗記が一番苦手なんだよ。今までまともに暗記できたことないんだよなぁ。


「そうだよ。暗記だよ。夕人さ、頭いいんだからすぐイケるって。」

「いや・・・俺さ。今まで暗記したことないから・・・」

「え?それって英単語とかも?」


 茜が驚きの表情で詰め寄ってくる。あんまり寄ってくるなって。


「そうだよ。簡単なのはすぐ覚えられるし。興味さえあれば・・・」

「・・・つまり・・・この劇には興味がないと?」


 しまった。一言余計だったか?小町さんが怒ってらっしゃる・・・


「そ、そういうことじゃなくてさ。人には向き不向きというか。」

「夕人くん、逃げてるね?」


 え?俺が逃げてる?


「私に言ったこと、覚えてないの?」


 俺が言ったこと?なんだろう・・・なんか変なこと言ったっけ?あ、夏休みの俺んちでの出来事のことか?そっか、あの時のことか・・・


***********************


 茜がいつも以上に緊張している。そんなに緊張しなくても大丈夫なのになぁ。


「ダメ・・・夕人くん。できないって・・・」

「そんなことないって・・・とりあえずしてみようよ。」

「だって・・・コレを・・・ココに入れるなんて・・・」

「大丈夫だって・・・ほら・・・いい?」

「うん・・・でも・・・」

「慣れたら簡単にできるから。」

「でも、これって・・・まだ私には早いんじゃ・・・」

「そうじゃなくって。移項するんだよ。」


 うーん。いつもならこんなに手こずらないんだけどなぁ。俺の教え方が悪いのかな。


「でも、移項っていうのがよくわかんない。」


 なるほど。そういうことね。俺が順序を飛ばしてしまっていたということか。


「わかった。今のは俺が悪いね。もうちょっと遡ってやってみようか。」

「うん、ゴメンね。私って本当にダメみたい。」

「そんなことないって。なんでも決めつけて逃げたらダメだよ。茜はさ。きっとできるようになる。」

「そっかなぁ・・・全然そんな気がしないんですけど。」


 確かに。今のところはできるような気がしない。でも、まだ始めてから20分位だ。こんな事で根を上げててどうする?


「そうだねぁ、じゃ、気分変えてみよう。数学にこだわることないもんな。」

「あ、じゃね。小夜ちゃんとお話でもして来ようかなぁ。」


 そう言って部屋から出て行こうとする茜。


「おいっ、それは違うだろ?」


 そう言って部屋を出て行こうとした茜の襟をつかむ。


「うわっ。」


 俺が襟をつかんだことでバランスを崩した茜が後ろに倒れそうになる。


「危ないっ。」


 慌てた俺は茜を助けようとして手を伸ばした・・・


**************************


 確実にこれのことだよな。


「あー、はい。『決めつけずに逃げないで』やってみますよ。」


 笑顔で茜に『答え』を返す。


「そうそう。私もそれで結果出たんだからね。」


 茜も笑顔で頷いた。


「ちょっとぉ。二人で何の話してるの?全然意味が分からないんですけど。」


 小町が腕を組みながら睨みつけてくる。


「ま、とりあえず。今日はここまでだな。アホ夕人が明日までにセリフを覚えてくるだろうから、続きはまた明日ってことで。」

「明日まで?それはシンドイな。」


 明日って言ったら、もう、ほら、明日だぞ?時間無いじゃん。


「はぁ?本番まであと五日しかないんだよ?それでセリフ覚えてないとか、ありえないでしょ?」


 小町の言うことはもっともだ。やっぱり覚えなくちゃいけないかなぁ・・・



 そして次の日の朝。


「ちゃんと覚えてきた?夕人。」

「おうよ、ばっちりだな。」

「さすが。じゃ、試しにやってみる?」


 朝から練習するのか?しかも教室で?みんなの見てる前で?


「えっとさ、できれば屋上とかでやりたいんだけど。」


 やっぱり、覚えたてだと辛いからさ。もう少し自信が持てるようになってからみんなの前でやりたいよ。


「そう?じゃ、今日から午後は学校祭準備で授業とかないから、昼から屋上で練習ね。で、今は台本の読み合わせをしようよ。」

「ここで?」

「ここで。」


 小町の目が本気だ。この入れ込みようったらスゴイな。何が小町をここまで駆り立てるんだろうな。


「わかったよ・・・」


 小町と台本の読み合わせをする。といっても大声でやるわけにもいかない。二人で教室の隅に移動して小声で行うことにした。


「じゃ、始めよっか。最初からでいい?」

「いいよ。始めよう。って俺からか。」

「うんっ。」

「じゃ・・・おおっ、松の根っこに陽炎が立ってると見えたのに・・・なんとっ、これは・・薄衣じゃねぇかっ。」

「あ、スゴイッ。ホントに覚えたんだ?しかも、ちゃんと感情もこもってるね。」

「あぁ、昨日はかなり本気で練習したからな。」


 ウソじゃない。家に帰ってから何度この台本を読んだことか。


「続けるよ?・・シケ続きで、もう銭もねぇ。食い物もねぇ。悪いが・・・コレを市へ持って行き売り飛ばせば・・・」

「もし・・・そこのかた・・・もし・・・その着物は私のです。それがなければ船へ戻れません・・・」


 こんな感じで朝練を続けていった。それにしても、小町は上手いなぁ。俺の演技はちょっと過剰なような気もする。舞台だとどのくらいで演じたらいいのかな?


「どうだろう?」

「うん、すごく良くなったよ、夕人。これで、演技の方もちゃんとやればいい劇になるよ。」


 そう言って俺の手を取り飛び跳ねる。


「そうだよなぁ。これに演技も加わるんだよな。これって漫画だからイメージはつかみやすいんだけどさ。」

「そうだね。」


 そう話しながら二人で手近にある椅子に腰を掛ける。


「何個か問題があるんだよなぁ。」

「問題?」

「そう。お前さ、全裸のシーンあるぞ?」


 そう言って小町の顔をニヤけながら見る。


「そうなんだよねぇ。さすがにそれはイヤだし、なんかいい方法ないのかな。」

「ふーむ、きっと翔と茜が考えてると思うけど、いい考えはあるんだ。」

「どんな考えなの?」


 小町が目を丸くしながら聞いてくる。小町は何も考えてなかったのか?


「それはさ、スクリーン透過だよ。」

「なにそれ。わかりやすく言ってよ。」

「それはさ。小町と観客の間にスクリーンを置いて、小町を後ろからライトアップするんだよ。そうすると影が映るからさ。まぁ、影絵みたいなもんだ。」


 自信満々の表情で小町に説明する。いわゆるドヤ顔ってやつだったかもしれない。


「最初からそう言ってよ。話し方がだんだん杉田っぽくなってきた。」

「そうか?」

「そうだよ。なんか前置き長い。」


 むむ、そうか。似てきてしまったのか。まぁ、朱に交われば赤くなるっていうしな。仕方ないかもしれないな。


「わかったよ。ちょっと気を付けてみる。」

「いや、私はいいんだけどね。夕人にもそういうところあったし。」

「そうなのかっ?それは知らなかった。本気で気を付けるわ。」


 翔のことを言ってる場合じゃないなぁ。


「うん、でもそんなことよりね?」

「おう。」

「赤ちゃんも欲しいな。」

「はぁ?」

「ほら、劇中では・・・その・・私たちの間に赤ちゃんができるから・・・」

「あぁ・・・そういう・・・」


 小町が何を言い出したのかと思ったよ。


「それ以外にないじゃんっ。何考えてるのっ?バカ夕人っ。」


 顔を真っ赤にして怒りだす。その声を聞いたクラスの奴らが口々に『どうした?』と言ってこちらを見てくる。


「あ、いや、ごめん。その想像してた。」

「・・・バッカじゃないのっ?」


 そう言って真っ赤な顔をして離れていく小町。


「あ、おい小町・・・」


 そう手を伸ばすが遅かった。想像したって言っても、小町が赤ちゃんを抱っこしているところだったんだけどなぁ。なんなんだよ。

ここまで読んでくださってありがとうございます。


しっかり一晩で暗記をしてきました。

やる気になればできるものみたいですね。

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