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それでも、俺のライラックは虹色に咲く。  作者: 蛍石光
第14章 バッカじゃないの?
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多数決の結果

死ぬほど演技の才能を感じさせない夕人がどうして主役なのか。

それがわかることになるのでしょうか。

 さて、小学校低学年の頃に村人その一みたいな役しかやったことのない俺が、どうして学校祭のクラス発表の劇で主役なんて演じることになったのだろう。

 あれは学校祭のクラス発表が劇に決まって、何を演じようかという話になった時だった。


「劇ならさ、西部劇とかがいな。銃で撃つヤツ。」

「そんなのより時代劇のほうが楽しいだろ。殺陣をやってみたいわ。」

「男子って馬鹿なの?そんなの誰が面白いのさ。やっぱりロミオとジュリエットでしょ。」


 みんなが思い思いにやってみたいものを話し出す。


「はぁ?そんなの知らないわ。っていうか呂身男って誰さ。」

「足草、あんたロミオとジュリエット、知らないの?」

「知らねーべ。なんだそれ?」

「はぁー、やっぱ足草ってダメだわ。」

「えぇーと、みんなが一斉に話すと収拾が付かなくなるので手を挙げて行ってくれると助かるんですけど?」


 まったく、うちのクラスはテンションが上がってくるとどうしていつもこうなるんだ。結構しんどいんだよなぁ。しかも、手を挙げてって言ったら黙り込むし・・・どうしたもんかね。環菜にでも聞いてみるか。何かいい考え持ってそうだから。


「なぁ、環菜。何かいい考えとかない?」


 環菜は最近誰かと話をしているようには見えないけど、さすがに学級会の時くらいは話してくれるだろう。


「ない。そのうち誰かが何か言うと思う。」


 無表情、かつ抑揚のない声で返事を返してくる。


「・・・そ、そうだね。ははは・・・」


 本当にどうしたんだ?環菜のヤツ。本当におかしいぞ?何があったんだろう。まぁ、仕事をしてくれていないわけでもないんだけど、かなりおかしな様子なんだよな、二学期が始まってから。

 翔んちで遊んでた時は割と元気だったんだけどなぁ。


「じゃ、俺から一つ提案あるんだけど、いいかな?」


 よくぞ手を挙げたっ、翔。


「どうぞ、杉田くん。」

「あのさ、火の鳥って知ってる?手塚治虫の漫画なんだけど。その中に短編があってさ。」

「あぁ~、それ知ってるよ。羽衣編のことじゃない?」

「・・・そうです。それです・・・」


 前置きが長いから美味しいところをいっつも持って行かれるんだよ。学習しないヤツめ。


「火の鳥の羽衣編ね。えっと、ごめん、俺は内容を知らないんだけどどういう話なの?簡単に説明してくれない?」


 ま、多少は知ってるんだけど、よく覚えてないからな。聞いといて損はないだろう。

 環菜は相変わらず無言で黒板に板書をしている。ちゃんと今まで上がった案も書いているところはさすがというところか。


「じゃ、私からねー、羽衣編は平安時代くらいの話で、モデルになってるのは天女の羽衣伝説って言われてる漫画だよ。漫画でも演劇のように描かれてるから劇でやりやすいかも。」

「その通りです・・・」


 翔、完全にお株を奪われてるな。


「なるほど、わかりやすい話っぽいですね。他にはありませんか?」

「えーと、ロミオとジュリエットは・・・長くて難しいかなぁ。」

「どうでしょうね。短い話に編集?というかそういうのにできれば・・・ですかね。」


 そうは言ってもあれは映画にもなるくらい長い話だろう?端折っちゃうととわからなくなるから難しいだろう?劇の時間は10分弱なんだから。


「そうなると、長い話って難しいんじゃないか?」


 また誰かが勝手に話し出す。


「でも、短い話ってどんなのがあるのさ。」

「そんなの俺が知るかよ。誰かなんか知らねーのかよ?」

「私は分からないって。映画とかのじゃないと中身とかわからないじゃない。」


 こうなってくるともう、どうにもならないなぁ。環菜よ・・・助けてくれ。

 そう思ってチラッと目線を送る。環菜は相変わらず無表情でクラス全体を見ている。いや、無表情っていうよりは、我、関せずといった感じだ。今まで環菜がこんな表情をしているのは見たことがない。

 俺と環菜の付き合いはそう深いわけじゃないけど、短いわけじゃない。中学に入学してからは結構一緒に居ることが多かったと思ってる。

 俺の思い過ごしか?こんな感じだったか?

 いや、絶対に違う。夏休みまでの環菜だったら、『どうしたものかしらね。』くらいのことを笑顔で言ってくれたはずなんだ。


「じゃ、もうさ。桃太郎とか浦島太郎で良いんでねぇべか。」


 足草が小学校の学芸会いや、幼稚園のお遊戯会レベルの提案をする。


「それはヤバいだろ。」

「お前は黙ってろや。大したネタもないんだから。」

「バカなんじゃないの?」


 様々な怒号が足草に向けられるが、アイツは涼しい顔をして受け流している。あいつのこういう打たれ強さってのは特筆もんだよな。


「まぁまぁ、ちょっと整理してみようか。今まで候補としてみんなが挙げてくれたものを。玉置さん、お願いできる?」

「火の鳥・羽衣編、ロミオとジュリエット、泣いた赤鬼、桃太郎、オリジナル脚本での演目。」

「・・・っと、こんな感じですかね。」


 環菜の今までと違う感じにクラスのみんなが気が付いたか?いや、みんなハイテンションだからそんなこともないか。


「ねぇ、夕人。オリジナルってさ。誰が書くの?」


 小町の質問に俺が答えられるわけないだろ?提案したの俺じゃないしさ。


「それはやっぱり提案した人に書いてもらうんじゃないかな。」

「それ提案したの足草だったんじゃ・・・」

「おう、俺だ。桃太郎もな。浦島太郎が抜けてるけど。」


 クラスの雰囲気が一気に変わる。あいつに脚本が書けるわけがない。っていうかおかしなことになる。それなら・・・


「火の鳥でいいんじゃないかなぁ。」


 ある男子が言う。


「そうそう。元々そんなに長い話じゃなさそうだし、いいんじゃない?」


 女子も乗ってきてくれた。


「杉田が提案したんだから良い内容だと思うしさ。」


 どんどん後付けの理由が出てきそうだ。よし、今ならまとめられる。


「じゃ、この中から多数決で決めていきましょうか。」


 そして、多数決の結果、無事に火の鳥を演じることに決まったのだった。

ここまで読んでくださってありがとうございます。


夕人が主役を演じるきっかけはまだわかりませんでしたね。

それにしても、桃太郎はないでしょう・・・

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