「ひどいな。」「ひどいね。」「ダメダメだね。」
新しい章に入って二学期が始まります。
今回の舞台はいつの時期なのでしょうか。
日之出ヶ丘中学校は学校祭ムード一色になっている。
楽しかった夏休みが終わって早々に行われる二学期中間試験が終わった。そして、あと一週間で学校祭なんだから、その抑圧された欲求のすべてが学校祭に向かっていくのも当然と言えば当然なのだろう。
そんな雰囲気の中、いつもの六人組が問題に直面しているらしい。何が起こったのだろうか?
いつも通りに屋上に集まっているので少しのぞいてみたいと思う。
「翔~、学校祭ってさ、クラスごとに出し物とかやるんだよね。」
大げさなジャスチャーと声で話している女の子は栗林実花。
六人組の中では情報通ということで認識が一致している。最近は身長が160センチを超えてしまいそうで悩んでいるが、スタイルが良くなったとも考えており、自分の部屋にある姿鏡に映る自分の姿を見て日々葛藤する日々が続いている。また、明るい性格で六人の中ではムードメーカー的な存在。学力レベルは中の上。最近少しずつ成績を伸ばしてきている。本人曰く、『あたしはもともと優秀なのっ。』だそうだが、その本当の実力が発揮されるのはいるのことになるのだろうか。ちなみに一組の美化委員をしている。
「そりゃ、そうだろ。一年生の時もそうだったじゃないか?」
そっけなく答えるイケメンは杉田翔。
クラスの風紀委員で、日之出ヶ丘中学開校以来の天才と言われ、五教科では向かうところ敵なしという状態。さらに性格も良く、最近は後輩たちにファンクラブを創設されたという情報がある。しかし、本人がそういったことに興味がないために完全に非公認。ちゃんと彼女がいるのだが、隠しているわけではないのに認知している人が少ないという不思議な状態。その理由は、『あの二人が付き合ってるとはにわかに信じがたい』というものであるらしく、彼女が抗議活動を行っている。しかし、この行動のせいで二人の関係が認知されない最大の原因になっていることを気が付いていない。ちなみに彼女というのは実花のことだ。一見すると完璧な男に見えるのだが、実は運動神経がプッツリと切れている。平たく言えば運動音痴なのだ。
「そうなるとさぁ、あたしは一組じゃん?で、翔は六組じゃん。どうするのさ?」
何がどうなって、誰がどうするのだろうか。さっぱり言いたいことがわからないだろうから翻訳しておこう。つまり彼女が言いたいのは『一緒のクラスじゃないから学校祭の準備とかを一緒にできないよ、どうしよう。』ということだ。
「それは仕方ないって。そういうもんなんだから。」
冷静に翔が実花に対して言葉を返す。
「だけどさぁ。他のみんなは同じクラスだからいつも一緒じゃない。それってズルくない?」
実花は納得がいかないみたいだが、誰が聞いても『仕方ないだろう』としか言いようがない。
「別に、同じクラスじゃなくても会えばいいじゃない。」
興奮気味の実花に対して冷静に対処するのは玉置環菜。才色兼備で先の中間試験では学年4位の成績。さらに六組の副会長。最近、話し方に少し冷たさを感じる。以前はもう少し感情が見える話し方をしていたのだが、二学期が始まったころから笑顔が少なくなった。そのせいでいつも不機嫌だと思われているが実際のところは誰にもわからない。原因はいろいろと噂されているが本人が話さないため憶測が憶測を呼び、どうしようもない噂話だけが独り歩きしているが、それにも関心がないようだ。だが、多くの生徒たちが共通して『せっかくの美人が台無しだ』と思っている。
「そうそう。こうやって話してるのも楽しいじゃない?」
環菜の発言に相槌を打ちながら話しているのは六組の体育委員、青葉小町。学年一の低身長の体操少女。その身長は伸びることを知らず、入学時から1センチくらいしか伸びていないのだそうだ。その身長と共にちっぱいであることもコンプレックスであり、大きな胸を持つ同級生に敵意を持つ時期もあった。環菜に負けず劣らぬ才色兼備なのだが、その小ささゆえに『綺麗』というより『かわいい』という表現が正確に彼女を表しているだろう。少し子供っぽく見えるところがあるが、とても元気で芯が強い女の子だ。ちなみに中間試験では学年10位と順位を着実に上げてきている。
「でもさ、小町ちゃんはクラスの劇の主役さんでしょ?ここにいて大丈夫?」
そう言って小町の顔を笑顔で覗き込んでいるのは六組の文化委員を務める小暮茜。とても優しい性格で、六人組の中ではお姉さん的な存在である。今すぐにでもモデルデビューができそうなスタイルと美貌の持ち主で、憧れている男子も多いのだが、あまりにも高嶺の花のように見えるせいで実際に話しかけてくる男子生徒はおろか女子生徒もほとんどいない。また、身長は170センチに届きそうな勢いで、男子たちが声をかけにくい原因の一翼を担っている。成長が著しい胸と身長とが相まってとても中学生には見えない外見ではあるが、顔にはまだあどけない少女の面影を残している。二学期中間試験で突然成績を伸ばして周囲を驚かせた。とは言っても未だ中の下といったところだ。
「劇の練習は俺と小町がいれば何とかなるから大丈夫。それよりみんなのほうが大丈夫なの?こんなことに集まっててさ。」
笑顔でみんなに言ったのは竹中夕人。この物語の主人公的な存在で六組の会長。入学直後にやらかした行為のおかげで良くも悪くも学校全体にその名を知らしめた有名人。彼を知らないのは一年生の一部と噂話に興味のない生徒くらいだ。成績優秀で中間試験では学年二位。圧倒的天才の翔がいなければ彼の天下だったのかもしれない。しかし、翔と異なる点は運動もかなりできるというところ。本人は運動に対して苦手意識を持っているようだが、他人から見ると普通以上の出来。ただ単に『自分の中では得意ではない』だけの羨ましい能力の持ち主。以前は自分を表現することが苦手で誤解を生むような言動が多かったが、徐々に解消されてきた。優しい性格で、妹がいるせいか特に女の子に対して優しい。そのため一部の男子から大顰蹙を買っているが、当の本人が意識して行っていることではないのでまったく自覚がない点が大問題。
「あたしは・・・もう戻らないとダメかも。作業を途中で放り出してきたし。」
「それは戻らないといけないねぇ。」
茜がほんわかと実花に言う。
「・・戻りたくないなぁ。めんどくさいし。」
「そんなこと言ってないで、早く戻らないと。私たちもいろいろやらなきゃいけないことあるし。」
環菜が実に冷静に実花ちゃんに事実を突きつけ、『私は先に戻るわ。』と言って屋上から去って言った。そんな環菜を心配そうに見つめる茜。
「なぁ、環菜ってホントにどうしちゃったんだろうな。」
翔が夕人の耳元に囁く。
「さぁ。俺もわからない。あの合宿の時は結構元気だったような気がしてたんだけどな。」
合宿というのは七月末に翔の家に六人で泊まった時のことを言っているのだろう。
「だよなぁ。俺もそうだと思ってたんだけどさ。だから、あの変わり方には正直驚いたよ。」
「それは俺もだって。女子たちは何か知ってるのかね?」
「さぁ、実花にもわからないみたいだよ。」
翔がお手上げだ、と言わんばかりに肩をすくめる。
「そうなると、誰も知らないかもしれないな。それこそ、神のみぞ知るってやつかも。」
「神の味噌汁?なんだか旨そうだなっ。」
「んなわけないだろう?『神のみぞ知る』だって。」
「わかってるって、ボケたんだよ。」
学年一位と二位がこんなくだらないやり取りをしているなんて夢にも思わないだろう。それにしても環菜の変わりようは何が原因なのだろうか。
「じゃ、あたしもクラスに戻るね。」
「あぁ、またな。」
そんな会話をして実花もまた、屋上から去っていった。
「さて、監督の俺と、演出の茜が見ててやるからさ。主役のお二人さん、ちょっと練習してみよっか。」
翔が立ち上がって主役のお二人さんに笑顔を向ける。この笑顔で勝手に落とされる後輩が何人かいたという話だ。
「そうそう。小町ちゃんは良い感じになってきたけど、夕人くんは全然ダメだよ?もっと感情込めてセリフを言わないと。」
「・・わかりましたよ。けど、まだ完全に覚えきれたわけじゃないからさ、見ながらでもいいか?」
「え?夕人、まだ覚えてないの?私は全部覚えたよ?」
「ウソだぁ?結構セリフ、長いぞ?ホントに覚えたの?」
夕人が驚いたように小町の顔を見る。小町は一瞬戸惑ったような表情を浮かべたが、すぐにニヤッと笑い自信満々に夕人の顔を見る。
「主演女優だもん。覚えて当たり前じゃん。」
「その通りだぞ夕人。お前は主演男優なんだから覚えられなくてどうするよ。」
やっとこの四人の学校祭での役割が見えてきた。六組の学校祭での出し物は劇であり、主役は小町と夕人。監督は翔で演出を担当するのは茜ということだ。それにしてもどんな内容の劇なのだろう。
「じゃ、セリフだけ言ってみよっか。演技はしなくていいからさ。セリフに感情込めて話してみてくれよ。」
翔の一言は、休憩が終了して練習に戻ることを示していた。
「えっとね。私からは夕人くんにセリフを言うときの注文を。」
「なに?茜。」
そう言って夕人は茜のもとに寄っていき茜の持っている台本を覗き込む。しかし、その台本はどう見ても漫画だ。もしかして、漫画の実写版をやろうとしているのだろうか。
「ね?ここ。最初のところ。もう一回言ってくれる?自分がこれを見つけたらどうやっていうのかなぁって考えながら言ってみて?」
「今?」
「うん、今。」
覚悟を決めたように大きく一回息をして目を閉じた。
「わかった・・・おお、まつのねっこにかげろうがたってるとみえたのに・・・」
「はい、もういい。」
はぁ~と溜息をもらす三人。
「ひどいな。」
「ひどいね。」
「ダメダメだね。」
確かに棒読みだし、ただ音を出しているようにしか聞こえない。
「覚えてないから・・・どうしてもさ。」
そう言って鼻の頭を掻いているが、もう少し感情をこめて言えないのだろうか。これは相当の練習をしなければいけなそうだ。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
どうやら舞台は学校祭のようです。
学校祭といえば、中学生活のメインイベントの一つです。
きっと、楽しいことが起こるはずです。




