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それでも、俺のライラックは虹色に咲く。  作者: 蛍石光
第13章 いつもみたいにできるはず
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もう・・・帰ろう

環菜と茜。

この話の中心的な存在である二人です。

いい意味で対照的な二人です。

「環菜?大丈夫?具合とか悪いの?」


 そうだった。今は茜とご飯食べてたんだっけ。どのくらい考えてたんだろう。

 頼んだチャーハンが冷たくなってる。茜が私の顔を見つめている。

 あ、茜のご飯も減ってない。もしかして、ずっと私のこと心配して待っててくれたの?


「ゴメン、茜。私・・・考え事してた。」

「そうみたいだね。そんなにじっくり考えちゃうようなことだったの?」

「うん。今までずっと考えていたことなの。」

「そっか。私もね、考えることあるよ。昔のこと。今の私になる前の私のこと。」


 意外だった。茜にもそんなことを考えるんだ。それに今の私になる前の私って?


「そうなんだ・・・」

「そう。みんなそんなもんだよ。」

「そういうものかな。」

「ホントにどうしちゃったの?いつもの環菜ちゃんじゃないみたい。」


 『いつもの環菜ちゃんじゃないみたい。』って。また言われた。そう言われても・・・いつもの私・・・本当の私。一体どんなのが皆の知っている私なの?


「本当の私って、どんな私だろう。」


 茜に聞いても分かるわけがないのに。でも、聞いてみたい。


「え?そうだなぁ。本当のって聞かれてもわからないけど。・・・そうだなぁ。私の想像だから違ってたらごめんね。」

「ううん、いいよ。お願い。」


 聞いてみたい。もしかしたら茜の言葉がヒントになるかもしれないから。


「えっとね。」


 そう言って軽く咳払いをする。


「うん。」

「怒らないでね?私の印象はね、強気に見えるけど本当はとっても繊細。本音が言えない女の子。そんな感じかな。」


 笑顔で見つめてくる。そっか。茜はそう思うんだ。

 なら、きっと私はそういう子なんだろう。もう、本当の自分なんてよくわからないけど。

 それなら、せめて演技するのはやめよう。

 今までの私を演じるのはもうやめよう。

 本音が言えない?その通りだと思う。

 本音を言って嫌われるのは嫌だ。

 いじめられるのも嫌だ。


 そうなるくらいなら友達なんかいないほうがいい。


「あれ?怖い顔してどうしたの?もしかして、怒っちゃった?」


 そんな顔してたの?


「怒ってないよ。ただ、そうなんだって思ったの。」

「うん、なんとなくだけどね。」


 そう言って舌を出して笑う。やっぱり茜ってすごく可愛い。私なんかがかなう子じゃない。


「そっか。わかった。」


 それなら、いっそ今までの関係を全部断ち切ってしまえば・・・やっぱりイヤだ。あんなに楽しかったものを全部無かったことにするなんて。そんなのイヤだ。


「本当に大丈夫?やっぱり私の言ったことが原因かなぁ?」


 心配そうな表情で見つめてくる。


「うん。」


 本当は大丈夫じゃない。そっか。全部を断ち切らなくてもいいんだ。少しずつ距離を取っていくように離れて行けばいいんだ。昔みたいに・・・


「やっぱり大丈夫そうには見えないよっ。」


 どうしたんだろう。

 すべての感情が消えていくみたい。


 周りから色が消えていく。


 そうだ。思い出した。

 私は昔からこうやって自分を守ってきた。

 だったらこれからもそうしていけばいい。


 簡単なことだ。


「大丈夫。私は。」

「え・・・環菜・・ちゃん?」


 驚いたような表情で私を見ている。どうしてそんなに驚く必要があるの。これが私なのに。


「ご飯、冷めちゃったね。」


 そう言って、冷めたチャーハンを一口食べてみる。

 美味しくない。味なんて感じない。

 でも、もう私は傷つかないで済む。ただ黙々とチャーハンを口に運ぶ。


「・・・ねぇ、環菜ちゃん・・・だよね?」

「そうよ。もちろん。」

「違うよ。そんなのは環菜ちゃんじゃない。どうしちゃったのっ。」

「どうしてそんなに慌てているの?」


 慌てることなんてないのに。これが本当の私なの。


「だって・・・だってっ。」

「・・・大きな声を出すと、周りの人たちが驚くわよ。」

「・・・・環菜ちゃん・・・壊れちゃったの?」


 壊れた。どうしてそう思うのだろう。私は私なのに。演じるのをやめただけ。


「そんなことないけど。食べないのかしら。」

「あ・・・、うん。食べよっか・・・」


 そう言って茜も食べ始める。今になって気が付いたけど、親子丼を食べようとしていたんだ。


「冷めちゃったね・・・本当に。」

「そうね・・・でも、食べちゃえば一緒だよ。」


 茜が一口か二口食べたところで箸をおいた。


「こんなの・・・環菜ちゃんじゃないっ。」


 そう言って席を立つ茜。もしかして帰るのだろうか。


「帰るの?」

「うん。今日の環菜ちゃんは絶対に変。」

「そう。わかった。ごめんなさいね。呼び出したのは私なのにね。」

「・・・環菜ちゃん。ちゃんと戻ってきてね。」


 そう言って、茜は帰っていった。


「戻る?どこに。」


 私はちゃんと戻ってきた。本当の私に。

 なのにどうして?どうして・・・目の前の景色がボヤけていくの?


 もう・・・帰ろう。

 茜がいないならここで食べても仕方がない。

ここまで読んでくださってありがとうございます。


環菜が壊れました。

壊れたというよりは心を閉ざした。

そう言った方が正しいのかもしれません。


茜はどう思ったのでしょう。

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